ナチュラル(1984年アメリカ)

The Natural

天才的な能力を持った“オールド・ルーキー”のロイ・ホッブスの活躍を描いた野球映画。

若くして才能を高く評価されスカウトに、まるで“隠し玉”のように扱われて、
メジャーリーガーとしての第一歩を歩もうとしていたものの、移動途中にロイに近づいて来たハリエットと名乗る
女性によって訳も分からないままに銃撃され、危うく選手生命を絶たれるところだったロイはメジャーの道を絶たれ、
約16年間に渡って、人知れず投手から野手へ転向して野球を続け、メジャーリーガーとしての道を模索していた。

そこでニューヨークの弱小チームに入団することになるものの、ロイは既に30代半ばと年をとり過ぎており、
チームの監督からも全く試合で起用されず、まともに練習すらさせてもらえない中、やっとつかんだチャンスで
ロイは周囲も信じられないくらい高いレヴェルのパフォーマンスを披露し、一気に注目の選手となります。

まぁ・・・“二刀流”と言うには、少々言い過ぎかもしれませんが、
若い頃は投手としての能力を高く評価されて、その潜在能力の高さからも無名のルーキーながら、
スカウトが自慢したくて仕方がなかったほどの人材であり、ロイは周囲から促されて当時のスター打者と対決して、
スカウトが宣言した通りに三球三振に斬ってとる。この投球に目を付けられたかのようにハリエットと名乗る女性に
列車の中で声をかけられて、つい誘いに乗ってしまったロイは銃撃され、メジャーへの道を絶たれてしまいます。

それでも腐らずに野球を続けてきたロイは、再びメジャーリーガーとしての道が開かれ、
今度は野手としての才覚を発揮し、ホームランを量産。注目のスター選手としてチームを勝利に導くものの、
ロイは“そういう運命”だったのか、幼馴染の恋人以外だと女性運が無い。メジャーリーガーとして活躍し始めた
ロイは監督の姪だというメモという女性に一目惚れするものの、恋人関係になると調子を一気に崩してしまう。

しかも、球団買収の波に揺れるチームは八百長をけしかけられていた選手が多くいて、
メモが経済界の有力者に操られるかのように、ロイを引き合わせ多額の金銭を盾に、八百長をけしかけてきます。

これだけの怪我を負って、投手から野手に転向して、それでも他を圧倒する結果を残すのだから、
いくら古い時代の野球界とは言え、相当な才能と能力の塊でしょう。僕が最初に本作を観たのは20年ほど前だが、
その当時ではプロ野球の世界で“二刀流”というのは、もはや漫画の世界でしかなく、打つのが好きな投手、
というレヴェルのことであって、まともに投手も野手もやるプレーヤーが登場するなんて、思いもしなかった。

ところが今は大谷 翔平という日本人プレーヤーがメジャーリーグでやっているというスゴい時代だ。
僕がかつて札幌ドームで、彼が投げている試合を10年ほど前に見たけれども、メジャー志向は有名な話しだったけど、
当時はそれでもメジャーリーグに行っても尚、“二刀流”を続けるなんて思いもよらなかった。しかも、メジャーでMVP、
ホームラン王などのタイトル・ホルダーにもなったのだから、これは世界中の人々を凌駕する存在なわけですね。

本作の主人公、ロイの時代であれば“二刀流”に近いことはあり得たかもしれない。
時代的に大きな戦争が起きており、経済的にも世界恐慌の後であり、いろいろな意味で疲弊していた時代だ。

しかし、そんな疲弊した時代であっても、アメリカの人々は娯楽として野球を愛しているのがよく分かる。
そもそも野球を題材にした映画が生まれること自体が、その愛着を表現していると言えば、それはそうだが、
ロイのようなワクワクするプレーヤーが打席に入るのを、息を呑んで見守る観客という構図が、なんとも哀愁がある。

とは言え、そんな偉人とも言える、ロイを主人公とした映画なのですから、もっとハッキリ描いて欲しかったなぁ。

正直言って、アメリカに根付いた野球文化だからこそ、ハリウッドでも数多くの野球を題材にした映画が
製作されている事実を鑑みると、本作は野球映画としてそこまで良い出来だとは思えない。試合のシーンにしても、
そこまで臨場感に優れているわけではなく、もっと試合のシーンに関しては強くこだわって欲しかったなぁ。

まぁ、バリー・レビンソンの監督作品だったので野球の試合よりも、
ドラマ描写の方が力が入った作品なのだろうということは、観る前から想像できたことではありますが、
全体的に演出が過剰な感じで、もっとシンプルに映画を撮って欲しかったなぁ。決して雑な映画ではないのだけれども。

本作は地味に豪華なキャスティングを実現した作品でもあります。
それだけ当時のバリー・レビンソンは監督として期待もされていたのでしょう。主演のレッドフォードは勿論のこと、
脇役キャラクターにも芸達者な役者が揃っていて、それぞれに存在感がある。女優陣としてもグレン・クローズに、
売り出し中のキム・ベイシンガー、ミステリアスなハリエット役にバーバラ・ハーシーと実力派女優が揃っている。
ロイのことをスクープしたがる新聞記者役のロバート・デュバルも、登場時間は長くはないけど決して悪くないと思う。

それでも、映画が輝かなかったのは、やはりバリー・レビンソンの演出面での問題だろう。
いくらなんでも、クライマックスの火花がグラウンドに降ってくる演出は過剰に感じたし、それをスローモーションにすると
尚更クドい。上映時間も2時間を超える作品なので相応のヴォリューム感がありますが、訴求する力が弱いですね。

ハリエットの残像に悩まされるロイの苦悩もサラッとしか描かれないし、
結婚を誓っていたグレン・クローズ演じる幼馴染との恋愛も、しっかりと描かないので、どれも中途半端に見える。
個人的にはキム・ベイシンガー演じるメモに熱を上げるのは、ここまで描かなくても良かったと感じたせいか、
その代わりにハリエットの残像を残しつつも、再会した幼馴染との恋愛が再燃する過程に、時間を割いて欲しかった。

女優陣としては、映画の冒頭しか登場してこないハリエット役のバーバラ・ハーシーがもっと観たかった。
あまりに一方的な行動に出るせいか、強烈なインパクトを残しているので、この残像を生かさないのは勿体ない。

ハリー・レビンソンはいろんなジャンルの映画を撮るほど、幅の広い創作活動を行っていますが、
少なくとも本作の時点では、まだ完成されている感じには見えない。高く評価された88年の『レインマン』では、
色々な苦労が成就した完成度であったとは思いますが、本作は描きたいエピソードを詰め込み過ぎたのかもしれない。

しかし、実は僕もこの映画の真意をしっかりと理解し切れていないのかもしれない、と思うことはあった(苦笑)。
と言うのも、普通に考えて、腹部から明確に出血しているほど状態が悪いロイが、ユニフォームにまでもが血液で
染まっているという、通常では考えられない状態であるにも関わらず、ロイは凄まじい結果を残すことになります。
これはどこまでが現実なのかが、怪しく見えるからです。ひょっとしたら、ロイにとって夢の世界なのかもしれません。

まぁ、並みの人間であればロイと同じ状況になれば、即病院行きでしょうね。立っていられないと思います。
そこを超越して打席に立って、相手投手の球を打つという超人のような活躍を、どこまで寛容的に観られるかがカギ。

いずれにしても、この主人公のロイを演じるのに、当時のレッドフォードも少々年をとり過ぎていた感があります。
撮影当時、レッドフォードは既に40歳代後半という年齢であったためか、30代半ばという設定に対してもキツい。
もう少し若い役者に任せた方が、映画は引き締まったような気がするし、試合のシーンにもキレが出たでしょうね。
そうすれば、まだ2時間を超える上映時間でテンポ良く見せることができ、全体をタイトに引き締めることができたと思う。

正直言って、同じバリー・レビンソンの監督作品であれば、他にももっと良い出来の監督作品があります。
前述したようにロイは、当時の常識を覆す活躍をしたプレーヤーですので、それを納得させる映像にして欲しかった。

そういう意味で本作は、肝心かなめの野球の試合のシーンが全く物足りないのですよね。
ほとんどがスローに処理されてしまっているので、選手たちの息遣い、躍動感、試合の臨場感が全く伝わらない。
これは野球映画として致命的であると言っても過言ではないと思う。この辺をバリー・レビンソンはケアすべきだった。

まぁ、本作はアメリカン・ドリームを体現したような内容の映画であって、
こういう物語って、欧米の方々、好きですからね。多少、過剰気味な演出くらいの方がハマるところもあるのでしょう。
そこにハリウッドを代表するナイスガイのレッドフォードが主演となれば、80年代なら映画はヒット確実だったでしょう。

でも、不思議と今となっては野球映画の代表として、本作の名を挙げる人は多くありません。
やっぱり物足りなさを感じたのは僕だけじゃないのかも(笑)。もっとロマン溢れる内容か、スポーツの躍動感を
吹き込んだ画面でなければ、映画に良い意味での特徴がつけられないですね。そこが、とっても勿体なかった。

ちなみに劇中、ロイの同僚選手がフライの打球を追って、外野フェンスを突き破って死亡するという
痛ましい事故が発生しますが、現実にフェンスに激突したり、仲間選手と衝突したりして大怪我を負った例があります。
現実に起こった事故例なのかは知りませんが、ああいうギリギリのプレーというのは危険と隣り合わせですね・・・。

(上映時間136分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 バリー・レビンソン
製作 マーク・ジョンソン
原作 バーナード・マラマッド
脚本 ロジャー・タウン
   フィル・ダッセンベリー
撮影 キャレブ・デシャネル
音楽 ランディ・ニューマン
出演 ロバート・レッドフォード
   グレン・クローズ
   ロバート・デュバル
   キム・ベイシンガー
   バーバラ・ハーシー
   ウィルフォード・ブリムリー
   リチャード・ファーンズワース
   ロバート・プロスキー
   ダーレン・マクギャビン
   ジョー・ドン・ベイカー

1984年度アカデミー助演女優賞(グレン・クローズ) ノミネート
1984年度アカデミー撮影賞(キャレブ・デシャベル) ノミネート
1984年度アカデミー作曲賞(ランディ・ニューマン) ノミネート
1984年度アカデミー美術監督・装置賞 ノミネート