ヤング・ブラッド(2001年アメリカ)
The Musketeer
劇場公開当時から本作の評判は著しく悪かったと記憶していたし・・・
これを評価しないと断じた人の気持ちもよく分かる(笑)。幾度となく映画化されてきた名作『三銃士』に
カンフー・アクションの要素を取り入れて構成した、大胆なアレンジを加えた新しい『三銃士』を見せたかったのだろう。
何故にピーター・ハイアムズは突如として、『三銃士』を撮ろうと思ったのか、その真意がよく分からない。
確かにカンフー・アクションの要素を取り入れて、主人公が剣闘するシーンなんかは華麗な動きで、新鮮には映る。
クライマックスの梯子上でのアクション・シーンにしても、それなりに緊張感があって悪くはないとはおもいます。
この辺のテンションの高さはさすがはピーター・ハイアムズの監督作品だなぁと、感心させられる部分はありました。
しかし、これはオールドな『三銃士』のファンは当然拒否するだろうし、
この融合の意味がよく分からないだろう。驚くような“化学反応”が起きた作品とは言い難いし、
監督したピーター・ハイアムズもそこまでの挑戦をした映画には観えず、なんだかこれは作り手の真意が分からない。
劇場公開当時、日本でもそれなりの規模で拡大上映されていた記憶がありますし、
地元のシネコンでも上映されていたはずですが、今思えば、よくそこまでの扱いを受けられたなぁと感心する(苦笑)。
スゴいキャストを集めたわけでも、当時大人気の若手スターが出演したわけでもなく、これもまた中途半端。
それでも日本の地方都市のシネコンで劇場公開されるくらいですから、当時の日本の映画館は元気だったんだなぁ。
最も致命的だったと思ったのは、この映画はダルタニアンだけを描いたことで、
他の2人であるアラニスとポルトスをほとんど描こうとせず、思わずどこが『三銃士』やねん!とツッコミの一つでも
入れたくなること請け合いの映画というわけで、このシナリオを書いた人の意図もなんだかよく分かりません。
とにかく、ダルタニアンを演じたジャスティン・チェンバースを表に出したかったのかなぁ?
このジャスティン・チェンバースも本作でブレイクしていれば次なるスターとして活躍を期待されていましたが、
残念ながら映画スターとしてブレイクとまでは至らず、あまり出演作品に恵まれず、主な舞台をテレビに移したようだ。
このアラニスとポルトスをほとんどチョイ役のように扱ってしまったことで、これは全く別物の映画になり、
ある意味では独自路線を歩んでいる。監督のピーター・ハイアムズにそこまでの興味はなかったのかもしれないが、
さすがにこれだけ主旨がズレていった脚本を読んで、どうとも思わなかったのかも不思議だし、本作をどういうつもりで
撮ったのか...大真面目に『三銃士』の映画化だとしていたのか、スピンオフのような感覚だったのか、不明瞭だ。
本作のワイヤー・アクションは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地黎明』のスタッフが監修している。
これは発想としては面白かったと思う。おりしも、『グリーン・デスティニー』などがヒットしていた時期でもあって、
この手のワイヤー・アクションがハリウッドでも重宝されていた時期だったし、スピード感を演出するに最適ではある。
まぁ、90年代に入ってからのピーター・ハイアムズはどちらかと言えばB級な映画ばかりになっていたので、
本作あたりでは心機一転、有名な原作である『三銃士』にトライしたのかもしれません。ただ、普通にやるのではなく、
ワイヤー・アクションと融合するという新しさを追求したのでしょうが、世評的には受け入れられなかったということかな。
やっぱり、僕はアラニスとポルトスもしっかりと描いて、あくまで『三銃士』を貫いて欲しかった。
それが原作者であるアレクサンドル・デュマへのリスペクトでしょうし、オールドなファンも納得しないでしょう。
さすがに勇者ダルタニアンだけが描かれるとなってしまえば、全く別物の映画になってしまうわけですからね。
この辺はシナリオの時点で、しっかりと手を入れて欲しかった。厳しい言い方をすれば、撮る前に予想できたはずだ。
こういう部分を見ると、ピーター・ハイアムズがホントに『三銃士』を撮りたかったのかが、疑問に思えるんですよねぇ。
だって、ダルタニアンだけしかまともに描かないというなら、べつに『三銃士』である必要はないですものね。
だいたい、アラニスとポルトス役がそれぞれ随分と年の離れたオッサン俳優をキャスティングしている時点で
作り手にはまともに『三銃士』として描くつもりがなかったと言っているようなもので、ダルタニアンだけが若過ぎる。
いくら原作をアレンジしたと言っても、これはさすがにいじり過ぎて、全く違うストーリーを映画化したという感じです。
こんな調子ではオールドな『三銃士』のファンの支持を得られるわけがないし、理解を得るのも難しいだろう。
しかも、オッサンというだけではなく、まるでヤル気があるように見えず、
お世辞にも若さいっぱいのダルタニアンと肩を並べて一緒に闘う剣士とは思えないくらいの、冴えない雰囲気。
これで『三銃士』の前提として成り立つわけがなく、もっと魅力的なキャラクターとして描いて欲しかったですねぇ・・・。
それから、ティム・ロスが彼の得意技であった悪役を演じていたのですが、彼もまた、あまり見せ場が与えられない。
強いインパクトを持ったのは、ティム・ロスに関しては映画の冒頭でした。その後はそこまでのインパクトはありません。
これもまた勿体ない。せっかくのティム・ロスの悪役なのに、まるで映画をかき乱すストレスフルな存在にならない。
正直言って、これでは映画が面白くなるはずがないですよね。この辺は作り手の責任も大きかったと思いますよ。
もう一人、ヒロインを演じた ミーナ・スバーリも『アメリカン・ビューティー』で小悪魔的なキャラクターで
一躍話題となった女優さんで、これからという時に本作に出演したわけですが、大きな印象は残らず終わってしまう。
ダルタニアンとの恋愛もなんだか中途半端な感じで、もっとミーナ・スバーリ演じるヒロインも磨いて輝かせて欲しい。
まぁ、王妃役を演じたカトリーヌ・ドヌーブはさすがの貫禄を感じる部分もあったけれども、
劇中、地味な雰囲気を出してダルタニアンらと一緒に逃げるというシーンがあったり、そこまでド派手な感じではない。
ただ、やっぱり大女優の風格を醸し出しているので、普通の女優さんではない(笑)。存在感は半端じゃないですね。
(まぁ・・・言葉悪く言えば、彼女だけが“浮いている”という見方もできなくはないけれども・・・)
ピーター・ハイアムズは自分の監督作品でも、自ら撮影監督を務めるなど撮影にこだわりがある人ですが、
前述したように、ワイヤー・アクションを伴って剣術を披露するシーンは新鮮味があって悪くない活劇性だと思います。
しかし、その活劇に持続性が無い。映画が進むにつれて、次第にマンネリ化が進んでいくように新鮮味が弱くなる。
もっとエキサイティングな活劇が連続して、持続性あるエンターテイメント期待していただけに、これは残念な出来。
『三銃士』って、欧米の文学としては古典だと思うのです。ハッキリ言って、知らない人がいないレヴェルでしょう。
だからこそ、かつて何回も映画化されているし、その中には独自のアレンジを施した作品もあり、ヒット作もあります。
とすると、そこにワイヤー・アクションを取り入れて映画化するという大胆なチャレンジは注目を浴びて然るべきだし、
結果としてそのチャレンジ自体は悪くなかったと思うのですが...どうしてこんなストーリーにしてしまったのだろう?
今だったら、ほぼほぼ間違いなく映画化自体にGOサインが出ない企画ではないかと思うのですが、
これがヒット作になっていれば、主演のジャスティン・チェンバースもスターダムを駆け上がっていたかもしれず、
色々とこの後の展開が変わっていたのではないかと思えるだけに、このストーリーで映画化したのが罪深く思える。
ただ、映画の原作は『三銃士』ということになっているのだけれども、原題からは“Three”が抜けているので、
この映画の作り手に言わせれば、「誰も銃士が3人とは言っていないよ!」という反論が出てくるのでしょうか?(笑)
チョット興味深い部分は、悪党を演じたティム・ロスと実は枢機卿が結託して王妃を追い出そうとするものの、
途中からこの悪党と距離を置くかのように、中立的な立ち位置を画策し始める、姑息な男として描いていることだ。
実在のリシュリュー枢機卿は、権力者側に立ってローマ教皇からの反感をかい、フランス教会を牛耳ることには失敗。
どうやら、多くの人々との関係性が悪化し、枢機卿として君臨しながらも人徳は得られず、周囲に敵は多かったようだ。
そんな側面も本作で垣間見れるかのように、映画のラストでもこの枢機卿に関しては微妙な描かれ方をしている。
ピーター・ハイアムズはこういう政治的な話しにはほとんど興味がなかったのではないかとは思いますが、
どこまで意識したかどうかはともかく、人の上に立つ立場としては人徳がなければとても苦しいことを象徴しています。
じゃあ、この王妃たちはどうなんだ!?って話しですが、人徳があったかどうかはともかく、貫禄だけは凄まじい(笑)。
王妃を演じたカトリーヌ・ドヌーブは全盛期の頃と比べるとそこまでではないかもしれませんが、
それでも王妃としてのオーラ全開にさせられるだけの雰囲気をにじみ出せる大女優であって、彼女にピッタリでした。
そんなカトリーヌ・ドヌーブと対照的にフィルムに映るることになった、ミーナ・スバーリは確かに不運だったのかも。
とにもかくにも...他の銃士たちももっとキチンと描いてあげて欲しかったなぁ・・・。
(上映時間105分)
私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点
監督 ピーター・ハイアムズ
製作 ルディ・コーエン
モティ・ディアマント
原作 アレクサンドル・デュマ
脚本 ジーン・クインターノ
撮影 ピーター・ハイアムズ
編集 テリー・ローリングス
音楽 デビッド・アーノルド
出演 ジャスティン・チェンバース
カトリーヌ・ドヌーブ
ミーナ・スバーリ
スティーブン・レイ
ティム・ロス
ニック・モラン
ジャン=ピエール・カスタルディ