ミケランジェロ・プロジェクト(2013年アメリカ)

The Monuments Men

これは正直言って、微妙な映画だ・・・。
つまらない映画というわけではないのですが、題材の割りにどこか物足りなく、
もっと違うアプローチをしていれば、映画は大きく変わっていたかもしれないと思えるだけに、チョット勿体ない。

第2次世界大戦が終焉を迎えつつある頃のヨーロッパで、
ヒトラー率いるナチス・ドイツが、各国の美術品などを略奪して大量に隠していることを
アメリカの美術・骨とう品の専門家たちが、戦争が終わったら爆破されてしまうことを悟り、
数々の美術品を奪還するために組まれた特殊部隊“モニュメンツ・メン”の活躍を描いたサスペンス映画です。

これはロバート・M・エドセルのノンフィクション小説『ナチ略奪美術品を救え』が原作で、
最近はすっかり映画監督としての活躍が知られるようになったジョージ・クルーニーが、
自身も出演することに加えて、仲良しマット・デイモンに加えて、ビル・マーレーやケイト・ブランシェットなど
豪華キャストを揃えて映画化した意欲作でしたが、相変わらずの良くも悪くも真面目路線で、
俳優業ではコミカルな側面を見せるジョージ・クルーニーですが、意外に自分で映画を撮ると、
真面目な路線のシナリオを、正攻法に撮ることしかしないせいか、これが悪く出ちゃうこともありますね。

最初に断わっておくと、僕は本作が、そこまで悪い出来の映画ではなくって、
言えば及第点レヴェルの映画ではあると思っています。だけど、僕の中では05年のジョージ・クルーニーの
第2回監督作品である『グッドナイト&グッドラック』で、衝撃的なインパクトを受けていただけに、
本作の水準くらいでは、正直言って、もう物足りない。彼の監督作に求めるものは、もっと高いレヴェルでしょう。

映画は、奪還の対象があくまで美術品であり、
別にアメリカ人だけが、政治的な理由で奪還を必要としていたわけではありません。

言えば、美術の専門家たちが国を動かし、特殊部隊を捻出したという話しです。
しかし、誰でもいいというわけではなく、当然のように軍隊で訓練を受けていることが前提ですし、
時には敵軍(ドイツ軍)と対峙したときには、交戦状態となることも想定しなければなりません。
奪還の主旨に賛同し、訓練に耐えた人は部隊に加わりますので、事実上の多国籍軍みたいなものです。

映画化するストーリーとしては十分に魅力的なものだと思います。
ましてやノンフィクションであれば、歴史的にも美術史に影響を与えた出来事として、価値のあることでしょう。

でも、僕が本作を観ていて感じたのは、あまりに起伏が無さ過ぎること。
もっと映画にメリハリをつけなければ、映画の醍醐味を演出することはできないと思う。
そもそもの起承転結が上手くいっておらず、「いつの間にか映画が進んでいく」としか言いようがないくらい。

でも、それが残念ながら悪い方向に機能してしまっている感じで、
どこか観客のことを考えない一方的な内容に見えてしまい、あまりに平坦に描かれ過ぎていて、どこか興が削がれる。

とは言え、個人的には心惹かれるエピソードもあって、
やはりパリで調査活動をして待機していた、マット・デイモン演じるグレンジャーが
パリ現地のクレールとロマンスを匂わせる関係になりながらも、情報を少しずつ得て、
部隊に貢献するなど、もっと広げられそうなエピソードは確実にあったと思いますね。

それと、そもそも結成された特殊部隊が、美術品が喪失していまうことに危機感を抱いた、
ハーバード大学の美術館長ストークスが、当時のルーズベルト大統領を説得して結成されたもので、
部隊の隊長がストークス自身で、それ以外も彼と旧知の仲の美術関係職員ということ自体がユニークだ。

この設定の面白さについては、もっとフルに活用して欲しかったですね。

映画の途中で触れられていましたが、ヒトラーがナチス・ドイツ敗北が決まったら、
直ちに美術品や骨とう品を破壊するように、兵士たちに伝えていたとされる中、実際にナチス・ドイツの敗北が
濃厚になり、ストークスらが逆に危機感を増していくというのも、なかなか映画として面白い状況だ。

「戦争で人が死ぬのは、一過性のものでやがて増えるが、文化や芸術が喪失すると、二度と戻らない」という、
ストークスの意見はやや偏っているとは言え、文化や芸術は失われると、戻ってこないというのは事実だろう。

だからこそ、奪還しなければならないという想いは増すばかりであったはずで、
この映画のクライマックスの駆け引きとしては、やはりもっとスリリングなものとして描いて欲しかった。
まさかあそこでソ連が絡んでくるとは思いもよらなかったが、あれはあれでノンフィクションだというのだから面白い。

でも、だからこそ、もっと映画にメリハリをつけて見せ場を作って欲しかった。
正直、この内容では本作は正当な評価を受けられないと思います。それくらい、何かが物足りないのです。
ジョージ・クルーニーの演出は良くも悪くも生真面目で、本作は何か大切なものを外している感があります。
だからこそ、今一度、監督をする場合は、その映画を撮る目的の明確化と、臨機応変さを身につけて欲しいですね。

そういう意味では、ひょっとすると、もっとコメディ映画にしてしまった方が映画は光ったかもしれませんね。
どうせシリアスに押し通すなら、もっと徹底してやって欲しいし、一方で特徴のある映画にするという意味では、
このようなシナリオであれば、コメディ映画として描いてしまった方が、ずっとやりやすかったかもしれません。

この辺は出演と兼任監督という立場の難しさもあったかもしれません。
原作は読んでいませんが、これは小説として読んだ方が更に面白そうです。
でも、映画としては観客に「原作をそのまま読んだ方が面白そう」なんて、思われた時点で負けです。
この辺のバランスはキャストとして出演していると、映画の特徴を出すことについては見い出しにくいかも。

それでも、そこそこの水準を保てているのでジョージ・クルーニーは
やはりディレクターとしての手腕は卓越したものがあると言っていいと思います。
デビュー作の02年の『コンフェッション』はどうかと思うところが多かったけれども、
ここから格段に技量をアップさせた映画を撮り続けており、ドンドン力を蓄えていっていますねぇ。

そう思って本作を観れば、これはこれで凄みを感じる部分はない、とは言えないですね。

(上映時間118分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ジョージ・クルーニー
製作 グラント・ヘスロヴ
   ジョージ・クルーニー
脚本 ジョージ・クルーニー
   グラント・ヘスロヴ
撮影 フェドン・パパマイケル
編集 スティーブン・ミリオン
音楽 アレクサンドル・テスプラ
出演 ジョージ・クルーニー
   マット・デイモン
   ビル・マーレー
   ジョン・グッドマン
   ジャン・デュジャルダン
   ボブ・バラバン
   ヒュー・ボネヴィル
   ケイト・ブランシェット
   ディミトリー・レオニダス