マネー・ピット(1986年アメリカ)

The Money Pit

原題は「金食い虫」という意味らしく、老朽化著しいトンデモない欠陥中古住宅を買ってしまった、
カップルがお互いにケンカしながらも、何とかして家を修復しようと資金投入して近所の大工を雇うものの、
直しているんだか、壊しているんだか分からないような荒っぽい施工に、不安を募らせていくコメディ映画。

80年代は絶好調だったスピルバーグのプロダクションで製作した作品で、
監督は『シティヒート』などコメディ映画を中心に撮ってきたリチャード・ベンジャミンでしたが、
結論から言うと、僕はあまり楽しめなかったなぁ。映画の雰囲気的には、如何にも80年代のコメディという感じ。

日本で言うと、ドリフのコントのような描写がある作品なのですが、
これはあくまでコントではなく映画ですからね。どうにも、一つ一つのギャグがつながっていない印象だ。

バスタブから泥水しか出てこないし、床が抜けてバスタブごと落下するし、
階段は外れて崩壊するし、壁からアライグマが飛び出してくるし、とにかくてんやわんやの大騒ぎ。
普通に考えて、こんな家に住みたくはない。自分だったら、すぐに前所有者の売主に文句言いに行っちゃうかも(笑)。

しかし、それぞれが全て単発的で映画全体に調和しないというか、まとまらない印象を受けた。
何か噛み合わないのです。映画全体の流れがキチッと出来ていないせいか、全てがバラバラになってしまう。
当時は期待されていた若手俳優の有望格であったトム・ハンクスが主演ですが、当時はコメディ映画ばかりに
出演していましたが、その中でも本作は特にドタバタ色が強いかな。彼に合っていた内容ではあったのですが・・・。

主人公が直しているはずの家をドンドン破壊してしまったり、その過程で穴にハマったり、
大工たちを雇って一安心かと思いきや、妙に陽気で豪快なアプローチで家を破壊し続けているようにしか見えず、
やたらと作業のペースも遅いことに不安になり、挙句の果てには家の足場がものの見事に崩れてしまったり・・・。

とにかく、家の修繕をモチーフに次から次へとギャグを繰り出す感じではあるのですが、
映画全体を通して一貫する主義主張がないというか、もっとクラッシュ・アンド・ビルトな部分を強調して欲しかった。

つまり、色々な苦難があって、様々なトラブルに見舞われるからこそ面白いのですが、
そんな幾多の障害に耐え、乗り越えたからこそ映画のラストで、主人公カップルに幸せが訪れるはずなのですが、
映画を観ていて感じたのは、想像以上に家を建て直していく過程が、端折られてしまっている感じで、
全く家を作り直すという観点からの苦労が描かれていないのが、最後まで観終わって、物足りなさに直結している。
だいたい、映画の上映時間も90分とかなり短いのだから、もう少し主人公カップルも関係の再構築を描いて欲しかった。

作り手が途中で飽きてしまったのか、実は撮影されていてカットされたのか分からないけど、
アッという間に家が作り直されていて、その過程での苦労やトラブルがほとんど描かれず、えらく性急に見えてしまう。
映画の題材は悪くないし、家を作り直していくことに注目したのは良かっただけに、なんだか勿体ないと感じましたね。

この映画の主人公は都市部のアパートを追い出されてしまったがために、郊外の大邸宅を購入しましたが、
古い中古物件というのは、結構なギャンブルですよね(笑)。かく言う自分も、中古マンションを購入しましたが、
相応のメリット・デメリットがあるし、おそらく家にこだわりがある人には向かない選択肢だなと感じる時があります。

やっぱり購入してから知る事実もあるし、当初は想定していなかった出費も発生することがあるし、
新築時に納得して購入したり、自分たちの意見を反映した住宅かと言うと、一概にそうではないですからねぇ。
当然のことですが、中古住宅はそういったことを理解して、(本来は勉強して)購入しなければなりません。

本作で描かれた邸宅の欠陥度合いは激しく、映画として誇張されてはいますけど、
でも、ヤバい物件を掴まされて、結果的に多額の出費を余儀なくされて、大きな痛手を負った人もいると思う。

いくら「金食い虫」とは言え、本作で描かれた物件の販売主は賠償ものではないかと思っちゃうけど、
余りそんな細かいことを気にしちゃいけないタイプの映画なのでしょうが、こんな物件掴まされてなんだか可哀想。
映画を観る限り、内装はほとんどやり直しだし、崩れてしまった階段は掛け直しですから、そうとうな費用ですよね。
最近で言う、中古物件を購入して、リフォームするということと同じではありますが、床が抜けたりは論外ですよね(笑)。

それでも、大工に依頼して意地でも住める家に作り直そうとするのが、またスゴい話しですけど、
ひょんなことから主人公カップルは大ゲンカしてしまい、2人の愛の巣のリフォームの雲行きが怪しくなっていきます。

そういう意味で、映画のメイン・ストーリーをかき乱す存在となるのが、
今は亡きアレキサンダー・ゴドノフ演じる、ヒロインの元夫でプライドの高いな指揮者の存在でしょうね。
主人公カップルがアパートを追い出されるキッカケも、2人が大ゲンカするキッカケもこの指揮者の存在なのですが、
後々『ダイ・ハード』の悪役で有名になるアレキサンダー・ゴドノフの珍しいコメディ演技が貴重な作品ですね。

個人的にはヒロインを演じたシェリー・ロングが如何にも80年代のコメディ映画のヒロインという感じで、
キュートな魅力で印象的なのですが、大工たちにセクハラまがいお節介なこと言われたり、結構な扱いを受ける。
特にデリケートなものを保管することが多い洗面所で、棚の中の物を取ってもらうのは、普通に考えて嫌だろう(笑)。

これは違うディレクターが撮っていれば、もっと面白い映画になっていただろうなぁ。
スピルバーグ製作総指揮の作品ではありますが、当時のスピルバーグは次々と企画を抱えていたし、
どうやらコメディ映画よりも当時はドラマ系の映画を撮ることに注力していたようで、本作をスピルバーグ自身で
監督するつもりは無かったのでしょうけど、もっとドタバタ・コメディが得意な人に監督を任せた方が良かったですね。

前述したように、壊すこともいいんだけど、同じくらい作ることも入念に描いて欲しかった。
作ってるのか、壊しているのよく分からない作業を繰り返す大工たちに主人公がスケジュールを聞いても、
「2週間だよ」という答えしか返ってこない。このトボけたやり取りなんかも、もっと笑いに変えられそうだったのだが。。。

そういった、細かなやり取りで笑いを生み出すことよりも、不条理に家が壊れることに注力してます。
そのせいか全体的に極端なベクトルに傾いてしまいましたね。この辺は良くも悪くもハリウッドって感じですが、
辛らつな言い方をすれば、リチャード・ベンジャミンにはこの辺の塩梅を整えられる器用さは皆無と言っていいですね。

唯一、この映画のアクセントとして僕が気に入ったのは、主人公の父親がリオデジャネイロで
息子である主人公よりも若く見える女の子とリオデジャネイロで結婚したというエピソードで、最後にも登場する。
これはチョットしたアクセントになっていて、やはり父親も家探ししているというのが面白く、悪くないラストだと思う。

終わり良ければ、全て良し・・・と言いたいところではあるのですが(笑)、
それでも本作はハッキリ言って、イマイチですね(苦笑)。トム・ハンクスのファンという人くらいにしか薦められないなぁ。

どうでもいい話しかもしれませんが...映画の後半にヒロインの浮気疑惑が持ち上がって、
主人公が疑いの想いを止められず疑惑をぶつけながらも、ベッドで消灯して「君が誰と寝たって構わないよ」と
言い放ちますが、いくら冗談とは言え、これから結婚する相手の女性に普通はこんなこと言えませんね。
結局、これは本意ではなくケンカになるわけですが、この辺の常識外れのギャグをどれくらい許容できるかもポイント。

日本では少子高齢化が進んでいますし、不動産投資なんかも盛んに行われていますので、
中古物件の売り買いは、これからもっと増える可能性もあると思います。投資ではなく、住居として住むのなら、
前述したように物件について勉強しなければならないのですが、実際に中古住宅を買った身からすると、
ハッキリ言って、そんな余裕はありませんでした(笑)。悩んでいたら、買いそびれてしまうこともありますからね。

衝動買いはギャンブル過ぎるとは思いませんが、やはり事前に勉強しておいて、
いざ買うというときに、自分の中で評価するポイントを決めておいて、迅速に判断することが大事なのでしょう。
(そりゃ・・・セカンドハウスを買っちゃうくらいに経済的な余裕がある人なら、話しは別かもしれませんが・・・)

僕の勝手なイメージかもしれませんが、欧米は特に古い中古住宅の売買が盛んなイメージがあります。
日本でも一時期、田舎の空き家になった一戸建てを、大々的にリノベーションすることも流行りましたしねぇ。
こういうのは事前にどれだけ準備できていたかが分かれ道になると思う。あとは...タイミングと、“運”ですね(笑)。

(上映時間90分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 リチャード・ベンジャミン
製作 フランク・マーシャル
   キャスリン・ケネディ
   アート・レビンソン
脚本 デビッド・ガイラー
撮影 ゴードン・ウィリス
編集 ジャクリーン・キャンバス
音楽 ミシェル・コロンビエ
出演 トム・ハンクス
   シェリー・ロング
   アレクサンダー・ゴドノフ
   モーリン・ステイプルトン
   ジョー・マンテーニャ
   フィリップ・ボスコ
   ジョシュ・モステル