モッド・スクワッド(1999年アメリカ)

The Mod Squad

一度、警察に逮捕された経験を持つ若者3人を、潜入捜査官としての特命を受けて、
警察官として危険な捜査を展開する姿をスタイリッシュに描いたアクション映画。ただ、日本劇場未公開作でした。

『レインメーカー』などで90年代後半は日本でも人気のあったクレア・デーンズが出演しているので、
なんで日本で劇場未公開作扱いで終わってしまったのかが不思議だったのですが、これは観てみて納得。
監督のスコット・シルバーは当時、期待の若手監督でしたが、その期待に応えられたものとは言い難いかな。

家出少女に不良青年、常に冷静ながらも犯罪に手を染めた3人が投獄を免除してもらう代わりに、
警察の潜入捜査官として働くことで特命を受けるわけですが、映画で描かれた内容では“特捜隊”と言うには弱い。
勿論、特命を受けたのは間違いないんだけど、その特別感が弱くて、映画的にも盛り上がらないのが勿体ない。

どうやら、60年代に放映されたTVシリーズを現代版に焼き直して映画化したという企画らしく、
『モッズ特捜隊』というタイトルで日本でも放送されていたようです。カウンターカルチャーの一種として描かれ、
当時はそこそこ人気があったようですが、60年代後半という時代だったからこそ、映えた題材だったのでしょうね。
それを90年代版に焼き直したとは言え、内容的にはどうしても新鮮味はないせいか、魅力に欠ける気がする。

とすれば、キャスティングでカバーしたいところなのですが、ヒロインのクレア・デーンズにしても
撮影当時、20歳くらいのときで日本でも旬な時期だったので、彼女の魅力たっぷりではあるのだけれども、
残念ながら彼女の存在だけで、本作が成り立っているかと言われると、それはチョット難しいなぁという印象。

彼女が演じた家出少女が、映画の途中で不良青年と同じベッドで横になるなんて、
なんとも微妙なシーンがあるのですが、これがプラトニックな雰囲気で印象的。この関係性も深く言及せずに
映画が終わってしまうので、なんとも勿体ないのですが、不良青年を演じるジョヴァンニ・リビシも悪くないだけに
全体として勿体ないなぁと思いました。どうせ中途半端な感じになるなら、もっと恋愛を描いても良かった気がします。

ジョヴァンニ・リビシはいつもこういうキャラクターになりがちなのですが、周囲の環境の変化の速さに戸惑いながら、
結果的に思い切り過ぎちゃって、余計なことをやってしまう主要キャラクターという位置づけで、安定してますね。
一方では、もう一人のオマー・エップスがそこまで見せ場を与えられなかった感じが、なんだか残念でしたが・・・。

全体的には映画のテンポは悪いとは思わないし、上映時間もタイトなのでアッという間に観れるのだけど、
どこかこの特徴の無い映画に映ってしまって、最終的にも物足りない印象が残ってしまうのが勿体ない。

ですから、個人的には『モッズ特捜隊』と同じ設定にこだわらなくても良かったと思うんですよねぇ。
あくまでキャラクターは想を得たということであって、全くリニューアルした中身に変えてしまっても良かったと思う。

タイトルにもなっている通り、モッズ・カルチャーを反映した若者たちを描いた内容なのだろうと思ったのですが、
本編はそんな感じでもなく、やっぱり90年代版に焼き直すというコンセプト自体が背伸びし過ぎだった気がします。
それならば、いっそのことオリジナルTVドラマのリメークということの方が、映画は成功し易かったのかもしれない。

もっと主人公3人が労働者階級の底知れぬパワーを内包した存在として描いて、
文字通りのモッズ・カルチャーの象徴のようにして暴れ回る映画であった方が、納得感があったかもしれません。

まぁ、あくまで特捜隊自体が更生プログラムの一環という設定なのだろうけど、
もっと3人が悪かったところをしっかりと描いた方が、この特捜隊が機能するまでの難しさを強調できたでしょう。
そういう意味では、この部隊を組織した上司がアッサリと退場してしまうことも残念で、もっと引っ張って欲しかった。

今となっては犯罪者を警察組織がスカウトするというような話しは実在する話しなので、
あまり驚くような話しではないのですが、確かに見るからに自由な感じでやっているので、警察内部からの目線は
厳しくなるだろうし、仲間内では特捜隊の存在自体、批判的な目で見られるということは至極当然のことかもしれない。

しかし、本作で描かれるのは、特捜隊が捜査する対象が実は警察内部の腐敗にメスを入れるものと
つながっていて、皮肉なことに犯罪に手を染めた若者によって、警察の悪事が暴かれるという構図になっている。
これはこれで発想としては悪くないだけに、映画全体としてあまりに平坦な見せ方になってしまったのが残念ですね。
所々、スタイリッシュに描こうとしている部分があるにはあるのですが、どうにも“波”にノレない感じなのがツラい。。。

本作なんかが、もっと成功していればクレア・デーンズはもっとトップ女優としてブレイクしていたことでしょう。
勿論、彼女は女優業を続けているのだけれども、当時の扱いを思えば、もっと大成したっておかしくはなかった。
ただ、出演作の“選球眼”も今一つだったのか、エージェントが悪いのか、どうにも出演作に恵まれなかった印象。
最近の写真を見ても、相変わらずの美貌ですので、年を重ねた役を演じる力量がありそうなだけに、とっても残念です。
(そうなだけに刑務所に入れられるぐらいの悪事を働いた若者という設定に、少々無理があったのかもしれない・・・)

こういうのって、ギャップがあるからこそ映画が面白くなるものだと思うので、
やっぱりクレア・デーンズのキャラクターにもっと意外性があった方が、映画が磨かれたような気はしますね。
家出して犯罪に手を染めたという設定ではあるけど、どこかにクールさを残したままであって、ヤンチャなとこはあれど、
すぐに可憐なキャラクターに落ち着いちゃった感じで、映画の後半ではすっかり序盤の荒っぽい姿が見えなくなる。

結局、彼女が懇意にしていた更生を手伝ってくれた男と恋仲になっていて、
彼女はその男を信頼していたものの、実は裏があった・・・という展開で、彼らが立ち向かう相手は
想像を超えた存在であったという展開になります。まぁ、このストーリー構成自体はそんなに悪いものではないと思う。

しかし、この更生を手伝ってくれた男を演じたのもジョシュ・ブローリンということで、
日本劇場未公開作としては異例なくらいに、まずまずのキャスティングだったのですが、彼は少々アンバランス。
失礼ながらも、クレア・デーンズの相手役としては年をとり過ぎていた印象が否定できないし、存在感が弱かったかな。

監督のスコット・シルバーは本作を最後に、自身で監督することを辞めて、
エミネム主演で話題となった『8 Mile』や『ザ・ファイター』といった作品で脚本を担当し、最近では『ジョーカー』が
大きな話題となりました。脚本家としては成功したので、ひょっとしたら本作あたりで一つ踏ん切りがついたのかも。
確かに本作の消化不良な感覚は大きく、アイデアとしては面白かったのかもしれないけど、磨き切れなかった印象だ。

そうなってしまうと、クレア・デーンズら当時の若手俳優たちを集めたキャスティングも全く生きてこない。
内容的には青春映画にも出来たと思うのですが、青春を描くという感じも弱くて、作り手も正直、迷走していたと思う。

せっかくだからアクション映画として、爽快なアクション・シーンにも期待したいところだったのですが、
本作の場合はそのアクション・シーンも見せ場の一つにすることができず、なんだか中途半端な印象が残る。
映画全体のバランスを整えることと、オリジナルの良さを踏襲することが出来ておらず、どうしても辛口な意見になる。
そう思うと、スコット・シルバーなりに思うところがあったのではないかと思う。得意な人に任せようという感じで・・・。

良くも悪くも、映画の特徴と観客にしっかりと印象付けることができず、良い流れを作れなかったですね。
題材は悪くないし、キャスティングにも恵まれた部分はあったし、経験豊富なスタッフがいればなぁ・・・という感じかな。

しっかし、刑務所行きと引き換えに潜入捜査官という交換条件も何気にスゴいですよね(笑)。
潜入捜査自体、かなりのリスクを伴うものですし、ましてや潜入捜査官としての訓練を受けたわけでもない。
そんな状態で、いきなり頑張れと言われても難しいですよね。誰も守ってくれないことは、明白な状況でしたしね。

そのリスクも含めて、刑務所行きの代償を払うということなのでしょうけど、潜入捜査は極めて過酷ですね。
僕なんかは潜入捜査を無事に終えたとしても、その後の生活がどうなるか分からないだけに、嫌だなぁと思っちゃう。

まぁ、本作あたりがヒットしていればクレア・デーンズも、いろんな映画でヒロインを演じられると評価されて、
もっと仕事の幅が拡がって、大きくブレイクしただろうなぁとは思った。しかし、これは残念な出来としか言いようがない。
ホントに彼女にとっては、本作が実はターニング・ポイントだったのかもしれません。本作以降は大きな仕事が来ず、
03年の『ターミネーター3』が少し話題になったくらいで、テレビと舞台をメインに活動の場を移したようですからね。

ひょっとすると、『ブロークダウン・パレス』の撮影で訪れたマニラに関する、
“舌禍事件”も影響して、ハリウッドのプロダクションも起用しづらくなってしまったのかもしれませんがね・・・。

(上映時間94分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 スコット・シルバー
製作 ベン・マイロン
   アラン・リッシュ
   トンー・ルドウィグ
脚本 スティーブン・ケイ
   ケイト・ラニアー
   スコット・シルバー
撮影 エレン・クラス
音楽 B・C・スミス
出演 クレア・デーンズ
   オマー・エップス
   ジョヴァンニ・リビシ
   デニス・ファリーナ
   ジョシュ・ブローリン
   スティーブ・ハリス
   リチャード・ジェンキンス