ザ・メキシカン(2001年アメリカ)

The Mexican

劇場公開当時、ハリウッドを代表するスターだった、
ブラッド・ピットとジュリア・ロバーツという嫁の顔合わせを実現させたロマンティック・コメディ。

正直、僕が期待していたタイプの映画ではなかったのだけれども、
最初に観た時ほど、2回目は悪い出来の映画には観えなかったですね。時を経て観ると、良さが伝わってきます。

おそらく、ゴア・ヴァービンスキーもエルモア・レナードの世界を参考にしたのではないかと思う。
メキシコという土地柄もあるけれども、オフビート感覚でどこか緊張感の無い空気感。
映画全編を埋め尽くす、キャストたちの会話の数々。一見すると、映画の本筋が分かりにくい。
でも、そこがこの映画の魅力なのかなぁと。20歳そこそこのときは、この映画の魅力というものは分からなかったけど。

監督は97年に『マウス・ハント』をヒットさせたゴア・ヴァービンスキーで、
『マウス・ハント』とはまるで異なり、大人向けの映画を撮ることになりましたが、
本作自体の評価も微妙な感じで終わってしまいましたので、本作の後は『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズで
一気に世界的なヒットメーカーになったことで、本作のような映画を監督することは少なくなりましたね。

期待されていたブラッド・ピットとジュリア・ロバーツの共演は、
共に同世代の俳優であるだけに、息の合ったところを見せてくれますが、
映画の途中から、お互いにメキシコとアメリカで別々に行動するロード・ムービーになっていくので、
当時の映画ファンが期待していたような内容にならなかったことで、本作の評価が上がらずに終わってしまいました。

まぁ・・・ゴア・ヴァービンスキーも頑張ってはいるのですが、
たぶん、主演の2人の絡ませ方を間違えてしまった感じで、期待されているものを作れなかったのでしょう。

別に派手なアクション・シーンがあるわけでも、カー・チェイスがあるわけでもなければ、
ブラッド・ピットとジュリア・ロバーツが終始、イチャイチャしている映画というわけでもない。
映画の見せ場の大半は、ゲイの殺し屋を演じたジェームズ・ガンドルフィーニがさらっています。
(どうも、ジェームズ・ガンドルフィーニはジュリア・ロバーツの推薦で出演することになったらしい)

この映画の大きな問題として感じるのは、
主人公がメキシコまで行って、ゲットするように指示される伝説の銃とされるものが、
どれだけ魅力的なもので、人々にとって大切なものであるかが、今一つ伝わってこないところだ。
その銃にまつわる逸話が複数パターン描かれますが、これらのエピソードが少しあざとく見えてしまう。
この辺は作り手も、もっと配慮すべきところで、伝説の所以をしっかりと示し、その魅力を磨くべきだったと思う。

その魅力がよく分からないからこそ、この映画には緊張感が生まれない。
主人公含めた、その銃の争奪戦が果てしなく緩く、さして重要なこととは思えなくなってしまうのは勿体ない。

観る人が観れば、この緩さが本作の魅力と言うのでしょうが、
そうであるなら、もっと徹底して緩い映画にすべきですね。この緩急も中途半端に見えてしまう。
時に殺し屋が容赦なく人殺しをするシーンが描かれたりするので、作り手も緩い映画にしたいわけではないのだろう。

この中途半端さゆえ、結局、作り手がこの映画を通して何を第一に描きたかったのかがよく分からない。

だからこそ、本作は劇場公開当時から賛否両論だったのでしょう。
とてもじゃなけど...ヒットするような類いの映画とは思えないし、その割りにキャスティングが豪華過ぎる。
これだけのキャスティングを実現できたのなら、もっと違う内容の映画で観たかったなぁというのが正直な本音。

でも、この映画、褒め称える人の気持ちも、なんとなくですが・・・僕は分かる気がするんです。
正直、僕はあまり楽しめなかったけれども、この映画の独特なリズムが分かっている人にはしっくりきそうだ。
つまり、複数回鑑賞して、徐々に良さが分かってくるタイプの映画ということなのかもしれません。

個人的には、メジャー映画なのだから「複数回観て、初めて良さが伝わる」なんてことじゃ
ダメだと思ってるんだけれども、どうやらまるでダメな映画というには尚早な判断のような気がしました。

映画の終盤で突如として登場するジーン・ハックマンにはビックリしたけど、
映画の途中からジュリア・ロバーツとジェームズ・ガンドルフィーニの2人旅の映画がメインに変わっていって、
しまいには人質が殺し屋をゲイだと疑い、それを的中させて大喜びするという展開には拍子抜けさせられました。
思わず、「銃の話しはどうでもいいのか?」と画面に向って問いただしたくなるくらい、脇道に逸れまくり(笑)。

こういうリズムを刻む映画なんだと割り切れば、そこそこ楽しめるのだろうと思う。

ただ、劇場公開当時は2大スター共演のラブコメという触れ込みだったし、
全米でもそこそこヒットしてからの日本への配給でしたから、まったく映画ファンが期待してた内容とは
“ねじれの位置”にあるような映画で、否定的な感想が凄く大かったと記憶してますがねぇ〜(苦笑)。

主人公に絡んでくる連中が、どこか抜けた部分のあるキャラクターだから成立する映画ですが、
悪い意味での中途半端さが目立ったことには、幾つかの要因があって、これらは作り手の問題でしょう。

いざ完成作品を観て、冷静に感じた部分として、
メキシコの乾いたような暑さを感じる大地の雰囲気に合わせて、もっとユル〜い感じで良かったと思うし、
映画にメリハリをつけるための、アクセントとして例えばボブ・バラバン演じる主人公の雇い主は
もっと冷酷な存在として、映画の中で唯一恐怖の存在として際立たせた方が良かったかもしれません。

描きたいことが違うとは言え、ユル〜い映画の中でも
観客にストレスとなる敵役の存在を、もっとしっかり描いた方がクライマックスはスッキリ描けたでしょう。

少々、勿体ない出来の映画ではありますが...
本作の企画を映画化させることができたからこそ、ブラッド・ピットとジュリア・ロバーツにコネクションができて、
『オーシャンズ11』のオールスター映画のキャスティングにつながったようにも思います。

そういう意味でも、意義のあった映画だったのかもしれません。

(上映時間123分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ゴア・ヴァービンスキー
製作 ジョン・バルデッチ
   ローレンス・ベンダー
脚本 J・H・ワイマン
撮影 ダリウス・ウォルスキー
音楽 アラン・シルベストリ
出演 ブラッド・ピット
   ジュリア・ロバーツ
   ジェームズ・ガンドルフィーニ
   デビッド・クラムホルツ
   ボブ・バラバン
   J・K・シモンズ
   ジーン・ハックマン
   シャーマン・オーガスタス
   マイケル・セルヴェリス