ヤギと男と男と壁と(2009年アメリカ)

The Men Who Stare At Goats

ベトナム戦争以降のアメリカが、本気で超能力を駆使する部隊を戦地で使うための
実地研究に取り組んでいたという、奇想天外な実話(?)を映画化した、イラク戦争をモチーフにしたコメディ。

なんか全体的に『空飛ぶモンティ・パイソン』のようなノリで、
僕にはジェフ・ブリッジスがジョン・クリーズで、ジョージ・クルーニーがグレアム・チャップマン、
ケビン・スペイシーがマイケル・ペリン、ユアン・マクレガーがエリック・アイドルのようにしか見えなかった(笑)。

昨今、よくあるタイプのユル〜いコメディ映画ですが、
全体的にはまずまずの出来かと思います。日本ではヒッソリと劇場公開が終わってしまいましたが、
これは限定公開ではなく、全国で劇場公開しても良かったような気がしますけどねぇ。

映画はドキュメンタリー・タッチで進んでいくのですが、
新聞記者のボブが妻に不倫され離婚し、挙句の果てにその不倫相手と再婚された腹いせに、
「9・11」後の戦禍に揺れるイラクへ行って、一仕事することによって、元妻に復讐しようとしていたものの、
以前から凄腕の超能力の使い手と聞いていたリンと出会い、共にイラクへ入って行動する中で、
リンの過去を聞き、実は米軍には超能力を本気で軍部に活かそうとしていることを知り、
次第にラヴ&ピースの信念で戦争を終結させようとする、「新地球軍」の存在を追及していく姿を描いています。

なんか、この「新地球軍」の存在自体が、どこか胡散クサい映画ではあるのですが、
ジェフ・ブリッジス演じるビルが、当初はひじょうに堅実な軍人であったにも関わらず、
色々と疑問を持ち、至った結果が「ラヴ&ピースで戦争をホントに終わらせることができないのか?」ということ。

なんで、いきなりそんな突飛なテーマが掲げられたのかも意味不明ですが、
ビルは一旦、軍隊を除隊して、ヒッピーのような生活を過ごし、文字通りラヴ&ピースを研究し、
数年後にはすっかりヒッピーになっていたという展開が、少し面白かったですね。
しかし、所詮は若者の専売特許のような概念であり、すぐにラヴ&ピースのムーブメントは衰退します。

となると、残ったビルは軍隊に戻って、若者たちを教育していたとは言え、
一人中年のオッサンがロン毛にして、「さぁ踊って!」なんて言っても、まるで化石みたいな存在なんですね。

そりゃあ、軍部にもてはやされていた時代は良かったんですね。
超能力を使って、ラヴ&ピースでハッピーにLSDでキメ込んでゴキゲンだったわけですし。
ところが、何かをキッカケにして形勢が不利になってしまうと、彼の地盤はひじょうにモロかったんですね。

そのギャップを描くのが凄く上手くって、
映画の終盤で描かれるビルは、もう足腰が弱った老人のような姿であり、
デスクに座って仕事をする彼から漂う空気は、すっかりリタイヤなムード。
腹は出てしまい、売店に行ってお気に入りのアイスクリームを食べるのが習慣という物悲しさ。

まぁあくまでこれは映画ですので、現実にここまでユルかったかどうかはともかく(笑)、
演じるジェフ・ブリッジスも含めて、本作の真の意味での功労者はビルの存在でしょうね。

当初、大爆笑できる映画みたいな触れ込みもあったのですが、これはチョット的外れかな。
むしろ内容的にはかなりブラックなコメディ映画なので、映画の方から観る人を選ぶタイプの作品です。
少なくとも万人ウケするタイプの作品とは言い難く、シニカルな笑いが好きな人にしか薦められません。

個人的には映画の着眼点は良かったし、原作はもっと面白いのだろうけど、
映画はあと一歩のところで押し切れなかったイメージはあります。特にそれは終盤の展開に顕著だ。
映画の前半は妙なテイストに満ち溢れたギャグが満載で、ジェフ・ブリッジスが『フルメタル・ジャケット』の
教官ばりに新兵たちに挨拶して脅かすというのも、映画ファンなら思わずニヤリとさせられるだろう。
しかしながら、あくまで皮肉るという観点からはイマイチ押し切れていない。そもそもがヒッピー文化で
戦争を片付けようとする発想を米軍が持っていたという設定自体が、あまりに奇想天外なのに、
この奇想天外なストーリーのオチを付けるのが、決定的に上手くなかったというのが、とても残念ですね。

そして、ホントに『スター・ウォーズ』シリーズに出演していたユアン・マクレガー相手に
ジョージ・クルーニーが真顔で「オレはジェダイ戦士なんだ」と豪語するのも可笑しいのに、
これらのギャグが全て単発的なのが、ひじょうに勿体ない。映画の流れをもっと意識して欲しかったですね。

映画の冒頭で軍人のオッサンが壁に向って悠然と走り始めるのですが、
何故かこのオッサンが僕には映画のタイトルにもなっている、ヤギに見えて仕方がなかったですね。

んで、同じようなシーンで映画のラストシーンを飾っているのですが、これはもっと良い形があったはず。
一体、何を主張したいラストシーンなのかも、よく分からないし、中途半端な帰結で実に勿体ない。
この辺は作り手のビジョンの問題なのかもしれませんが、ラストシーンはもっと大切にして欲しかったですね。

僕は『グッドナイト&グッドラック』を観て、ジョージ・クルーニーの映画監督としての手腕は
本物だと感じているのですが、本作と同じ年に出演した『マイレージ、マイライフ』なんかも一緒なのですが、
こういうオフビート感覚なコメディ映画が好きなんですかねぇ。僕はあまり固執して欲しくはなんだけれども。

一応、グラント・ヘスロヴがメガホンを取った作品ではありますが、
おそらく本作もジョージ・クルーニーにも一部のイニシアティヴがあった企画でしょう。
それを考えれば、映画の方向性にもある程度は口を挟んでいたのかもしれません。

どうでもいい話しですが...やはりこの映画を観ると、妙にボストン≠聴きたくなりますね。

(上映時間93分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

日本公開時[PG−12]

監督 グラント・ヘスロヴ
製作 グラント・ヘスロヴ
    ポール・リスター
    ジョージ・クルーニー
原作 ジョン・ロンスン
脚本 ピーター・ストローハン
撮影 ロバート・エルスウィット
編集 タティアナ・S・リーゲル
音楽 ロルフ・ケント
出演 ジョージ・クルーニー
    ユアン・マクレガー
    ジェフ・ブリッジス
    ケビン・スペイシー
    スティーブン・ラング
    ニック・オファーマン
    ロバート・パトリック