007/黄金銃を持つ男(1974年イギリス)

The Man With The Golden Gun

まぁ・・・愛すべき失敗作って感じだけど、これは確かにメチャクチャな作品だ(笑)。

お馴染み、ガイ・ハミルトンによるシリーズ第9作なのですが、
いつの間にか世界を股にかける犯罪組織スペクターの陰謀を撲滅すべく、
やはり世界を股にかけて暗躍する英国諜報局に所属するスパイである“007”を描いていたはずなのに、
前作からそうなのですが、今回も香港付近の中国の孤島に立派な別荘を建てて、特殊な装置を手にして、
太陽光エネルギーを集中的に集めて、莫大なエネルギーに変換するシステムを開発して、
独占的に大儲けしようと企む、殺しも躊躇しない富豪スカラマンガという“小者”を相手にします。

スカラマンガを演じるクリストファー・リーは良いのですが、
たいへん申し訳ない言い方ではありますが、僕にはどうしても彼の発想も幼稚にしか見えず、
これまでボンドが相手にしてきた悪役たちと比べると、随分と見劣りしている気がしてなりません。

それだけでなく、ガイ・ハミルトンも半ば“ヤッツケ仕事”のようになってしまった感があり、
タイと思われるマーケットで、前作、アメリカの田舎町の保安官として登場させたペッパーを
今回も妻と旅行中という設定で、無理矢理に登場させて、ボンドと不必要に絡むなど、もはや意味不明だ(笑)。

たぶん、ガイ・ハミルトンも困ったんでしょうねぇ。
イアン・フレミングが残した最後の小説が原作だったのですが、単純に映画化するには難しかったのでしょうね。

73年の『燃えよドラゴン』の世界的大ヒットに伴ってか、
やはりカンフー・アクションのブームは確実に“007シリーズ”にも影響していたのか、
映画では幾度となく、カンフー・アクションを駆使したアクションが登場してきており、
気絶させられて道場に運ばれたボンドが、嫌々とカンフー・アクションさせられたり、
現地で知り合った警察官の姪がボンドを助けに来て、ボンドよりも強かったなんてオチもあったり、
映画の中でも随所にカンフー・ブームが影響を与えており、チョットした異色作となっております。

ロジャー・ムーアはさすがに2作目のボンドなだけあってか、
シリーズの顔として板に付いてきた感はありますが、全体的にシリーズのマンネリ化が進んでいますね。

ペッパー保安官が再登場した、映画の中盤にあるボート・チェイスに至っては、
完全に前作の二番煎じだし、やはりこのチェイス・シーンが延々と続くのも、シリーズの迷走を象徴している。
さすがにガイ・ハミルトンも多様なアクション・シーンを繰り出すのが困難になっていたようで、
バリエーションの勝負に陥ってしまった、このシリーズの決定的な間違いが悔やまれるんだよなぁ。

明らかに、このシリーズは本作あたりで原点回帰を図るか、
アクション映画の面白さの本質を追求する路線にシフトすべき、ポイントがあったと思うんですよね。
それがダラダラとシリーズが続いてしまい、シリーズ序盤のようなエキサイティングさを取り戻すのに、
長らく時間がかかってしまったことには、本作のような空気をずっと引きずってしまったことにあると思うんですよね。

本作はお馴染みのボンド・ガールがスウェーデン出身のブリット・エクランドとモード・アダムスの2人で、
映画としては“グッドナイト”を演じたブリット・エクランドの方が、ビキニ姿を延々と見せ付けたせいか、
派手な容姿もあって目立っていたように思うのですが、モード・アダムスの大人の色気も公開当時、
大きく話題となったようで、確かに映画を観る限り、彼女の方が印象に残るかもしれません。
(なんとモード・アダムスの方がブリット・エクランドより3歳若い!)

但し、モード・アダムス演じるアンドレアとボンドの面白いやり取りがあって、
このあまりに陳腐な台詞が、僕の頭からどうしても頭から離れません(笑)。

アンドレア 「あなたなら、身を捧げてもいいと思ってるのよ」
ボンド 「段々、核心に迫ってきたな」
アンドレア 「熟れてるわよ」

いくら撮影当時29歳のモード・アダムスが大人の女性の色気を出しているとは言え、
自分から「アタシ、熟れてるわよ」なんて言わせるなんて、この台詞にはセンスが無い(笑)。
(これは日本語字幕の対訳が適切ではないんでしょうかねぇ?)

おそらく本作での強烈なフェロモンが効いたんでしょうね、
モード・アダムスはなんと83年の『007/オクトパシー』では別役で2度目のボンド・ガールに抜擢され、
85年の『007/美しき獲物たち』にもカメオ出演するなど、シリーズ通して愛された女優さんになりました。

クライマックス、スカラマンガの邸宅に潜入するボンドですが、
何故かスカラマンガ自身がボンドに対して友好的に接するという異色な悪役だったせいか、
全然、ピンチにならないボンドに一切、ハラハラ・ドキドキさせられないのですが、
結局、映画の冒頭と同じようなアクションになってしまうのは、あまりに芸が無くて、ガッカリしましたね。

オマケにスカラマンガが開発した装置を回収しようとするボンドですが、
スカラマンガの秘密基地自体がひょんなことから大爆発してしまうのは、いつもの大円卓と大差ない。

けれども、この秘密基地の爆発に関するシーンでは、
無駄にずっとビキニ姿でいるブリット・エクランド演じる“グッドナイト”のお尻がボタンに当たって、
装置が稼働してしまうなんて、まるでギャグみたいなシーンがあって、これはロジャー・ムーア時代の典型ですね。

ちなみにタイでのペッパー保安官の存在もギャグみたいに扱われるが、
スカラマンガが運転する車を追っていたボンドが道を間違えたことに気づき、
崩落した橋をムチャに飛んで渡ろうとするシーンがあるのですが、これだけは凄い!
実際の映像を見たら分かりますが、当然のようにCGなんて代物はありませんので、実際にスタント撮影している。
あまりに奇抜な発想で、思わず「これって、どうやって撮ったの?」と驚かされざるをえませんでしたね。

まぁ正直言って、症状が明らかに悪化しているシリーズの迷走ぶりですが、
言い方を変えれば、ロジャー・ムーア時代の“007シリーズ”としては、平均的なレヴェルかな。

個人的にはスカラマンガがもっとしぶとければ、もっとマシな映画だと思えたんだろうけどなぁ・・・。

(上映時間125分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 ガイ・ハミルトン
製作 ハリー・サルツマン
    アルバート・R・ブロッコリ
原作 イアン・フレミング
脚本 リチャード・メイボーム
    トム・マンキウィッツ
撮影 テッド・ムーア
    オズワルド・モリス
音楽 ジョン・バリー
出演 ロジャー・ムーア
    クリストファー・リー
    モード・アダムス
    ブリット・エクランド
    リチャード・ルー
    クリフトン・ジェームズ
    マーク・ローレンス
    バーナード・リー
    デスモンド・リュウェリン
    ロイス・マクスウェル