王になろうとした男(1975年アメリカ)

The Man Who Would Be King

インドとアフガニスタンの国境あたりにあったカフィリスタンに乗り込んだイギリス人が、
ひょんなことから「神の子」と認定され、かねてからの野望であった王として統治者になる姿を描いたドラマ。

監督は名匠ジョン・ヒューストンで、本作は50年代から映画化の計画があったそうですが、
主演2人のキャスティングも紆余曲折があり、クランクイン前まではポール・ニューマンとロバート・レッドフォードで
キャスティングの調整が進んでいたらしいのですが、結局、ショーン・コネリーとマイケル・ケインになったらしい。

これはこれで、僕は本来的にはコメディ映画になるべき題材だったのではないかと思うのですが、
ジョン・ヒューストンにはそんな器用なことはできず、フツーにロンドンでは成功できないケチな男2人で、
カフィリスタンという仏教徒が多くいる集落で、現地人にハッタリかまして統治者になろうという姿を真正面から描く。

そうすると、ジャンル的には微妙な内容になっていて、もっとユーモラスな内容にした方が映画は光ったと思う。
個人的にはどっちつかずの中途半端な映画という印象が残ってしまい、どうしても最後までノレなかった。

特に映画の前半はキツかった・・・。スケールが大きな映画なので、ジョン・ヒューストンらしく豪快に
ストーリーを進めてくれれば良かったのですが、なんだかチグハグと緩慢な運びに見えて、どうも“入り込めない”。
それでいて、映画全体の尺も長いので、エンジンがかかり始めるまでに、えらく回り道をしたような印象なのです。

主人公2人がカフィリスタンに入って、高僧から寺院に招かれるあたりからは、映画が面白くなっていく。
本来であれば、映画の前半の構成って、アドベンチャー性豊かに冒険心くすぐられる内容にしたかったはずで、
インド山奥の大自然をバックに、主人公2人が半ば珍道中のようなやり取りを繰り広げ、目的である王になるべく、
状況に応じて立ち振る舞っていく姿を、ユーモラスに描くべきだったのです。しかし、前半はそれも含めて中途半端。

しかも、原作者のキップリング自身が登場してくるストーリーなのですが、
ストーリーテラーとして登場したのかと思いきや、実はそういうわけでもなく、映画の中盤は全く登場してこない。
結局は、ショーン・コネリーとマイケル・ケイン2人の芝居合戦で楽しむことになるのですが、どこかパンチが足りない。

この奇妙な冒険劇を、僕もどう受け止めていいのか分からぬまま、
モッタリしたペースで映画が進んでいくので戸惑ったけれども、ショーン・コネリー演じるダニエルが
「これは運命だ!」と言い出し、相棒のピーチーが止められないくらい自分勝手に暴走し始めるあたりから
映画はグッと引き締まった良い活劇になっていく。この辺はジョン・ヒューストンの経験値の高さの表れでしょう。

特に映画の終盤のハイライトとしてダニエルが、吊り橋を渡らせられるシーンがあるのですが、
ここで突如としてダニエルが歌い始めて、相棒も忠誠心を示すかのように一緒に歌い始めるのが良い。
このマイケル・ケイン演じるピーチーも映画の冒頭から酷いことをやる悪い奴なんだが、最後は良いところを見せる。

どうも原作者のキップリングを演じたクリストファー・プラマーは見せ場が少なくて物足りない。
実在のキップリングは25歳くらいまでインドにいたようだが、新聞記者ではなかったようですし、
おそらく本作の原作はキップリングが、自ら小説の世界に登場しつつも、完全なる創作なのだろうと思います。

であるならば、個人的にはキップリングがストーリーテラーとなって物語を進めるくらいの強引さがあっても
良かったのではないかと思えてしまって、せっかく自伝のような雰囲気で物語が始まるので、もっと自分自身を
前面に出して、この壮大で奇妙なアドベンチャーを自分勝手に描いたら良かったのに・・・と思えてならなかったです。
映画にしても、序盤と終盤に出てくるだけですからね。これだったら、キップリング自身という設定じゃなくともいいし。

発想としては面白い物語だと思う。言ってしまえば、ダニエルとピーチーは単なる侵略者ですが、
ダニエルは天下を取りたいという野望が無くはなかったものの、ピーチーは名誉よりも金が欲しかった。
それでも英国退役軍人としての誇りは捨てていないようで、少々大袈裟な行進を未だに忘れてはいない律義さ。

そんな2人が「天下を取るまで、酒と女はやらない」と心に決めて、何度も誘惑に負けそうになりながらも、
不思議な奇跡にも恵まれ、着実に彼らの当初の狙い通りのカフィリスタンで、集団の統治を可能になる力を持った。

それもまた、不思議な偶然というか、奇跡がそうさせたわけなので、実力で取ったポジションではなかった。
この奇跡というのも、キップリングもダニエルもピーチーも友愛集団“フリーメイソン”の熱心なメンバーであり、
ダニエルがかけていた“フリーメイソン”のメダルを見て、仏教徒たちがダニエルを神の子だと勘違いしたというもの。
そうなだけにボロを出すのも速かった。ジョン・ヒューストンもユーモラスな視点を忘れてはいないので、
どことなくコメディっぽく見えるところも本作の魅力の一つでしたが、どこかヒネくれたようで尖ったテイストがある。

そんなダニエルの自分勝手さが映画の終盤に入ると、暴走していくわけですが、
「天下を取るまで、酒と女はやらない」と誓った男が、結局、こういった要素で狂わされていくというのが面白い。
そう、ダニエルは一人の現地人女性と結婚すると言い出したことで、周囲の信頼を失っていくわけですね。
呆れたピーチも「付いて行けないや」ということで、王に居座ると主張するダニエルを置いて、帰国することにします。

ところが、そんなピーチーの計画も間に合わずに、最終的には何もかも失ってしまう。
普段は大人しく、攻撃力ゼロのような人々であっても、あれだけ数がいれば誰がやっても無理ですね(苦笑)。
このクライマックスの攻防は、本作のハイライトの一つだと思う。さすがはジョン・ヒューストン、大事ところは外さない。

べつにダニエルは最初っから高慢な男だったというわけではなかったと思う。
それは本人も認めていましたが、最初は違う志しだったとしても、権力があると分かれば高慢なところが出てしまう。
これは政治家の不祥事にもつながるところがあるのかもしれませんが、人間の本質なのかもしれませんね。

それでもジョン・ヒューストンの手腕をもってすれば、本作はもっともっと面白く出来たはずだ。
確かに男臭く豪快で、スケールの大きなジョン・ヒューストンらしい作風の映画ではありますが、どこか物足りない。
そういう意味で、この映画は特に前半でモタモタさせ過ぎた。後半から良くなっていくだけに、この前半は残念だ。

コメディだからか、なんなのか分からないけど...ラストシーンは更にブッ飛んでいる(笑)。
最近の映画でも、こんなことを包み隠さずに描いた映画なんて、そうそうあるもんじゃありません。結構グロテスクだし。

あんなものを見せられて、呆気にとられたような表情を浮かべる程度のキップリング、というのも理解できないが、
これだけ振り切れるところまで、振り切ってしまったようなラストでして、初めて観た人はビックリするかもしれない。
もし自分がキップリングの立場だったら、大声を上げてビックリするだろうし、ピーチーの良識も疑いますよ(笑)。
これを実に堂々と描き切ったジョン・ヒューストンもスゴいが、よくこれを当時のスタジオもOKだしたなと感心する。

ジョン・ヒューストンは41年の『マルタの鷹』で監督デビューして以来、長年、ハリウッドを代表する巨匠として
活躍していましたが、60年代後半からアメリカン・ニューシネマの潮流が席巻して、生き残れなかった監督も
数多くいましたが、思えばジョン・ヒューストンは普通に生き残って、70年代以降も何本も監督作がありました。
74年の『チャイナタウン』の悪役で俳優としても活躍し、活動の幅を広げていたぐらいで、貪欲に活動していました。

本作もその貪欲さが表れたような部分があって、このラストの衝撃的な演出は挑戦意識の表れなのかもしれない。

しかし、この映画で描かれたことは植民地支配されていたインドの現実だったのかもしれません。
これはキップリングの創作だとは思うのですが、イギリスが長く植民地支配しているインドで資源は豊富でしたし、
当時から人口も多かったはずですから、ダニエルやピーチーのように不純な動機でインドへ渡った人もいただろう。

それでも富よりも権力にこだわるダニエルに対して、権力よりも富を選択するピーチーが対照的で、
いずれも現地の平穏な暮らしを荒らすものでしかなく、まるで天罰が当たるかのようなラストに帰結します。

まるでジョン・ヒューストンはウソのようなことで主人公2人の計画が上手くいく様子を描きつつも、
クライマックスで天罰が下るオチを描き、まるで豪快に笑い飛ばすかのようなスタンスで実に彼らしい作品ではある。

(上映時間128分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ジョン・ヒューストン
製作 ジョン・フォアマン
原作 ルドヤード・キップリング
脚本 ジョン・ヒューストン
   グラディス・ヒル
撮影 オズワルド・モリス
編集 ラッセル・ロイド
音楽 モーシル・ジャール
出演 ショーン・コネリー
   マイケル・ケイン
   クリストファー・プラマー
   サイード・ジャフリー
   ジャック・メイ
   ドギミ・ラルビ

1975年度アカデミー脚色賞(ジョン・ヒューストン、グラディス・ヒル) ノミネート
1975年度アカデミー美術監督・装置賞 ノミネート
1975年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート
1975年度アカデミー編集賞(ラッセル・ロイド) ノミネート