リバティ・バランスを射った男(1962年アメリカ)
The Man Who Shot Liberty Valance
名匠ジョン・フォードがジョン・ウェインとジェームズ・スチュワートの2大俳優を共演させた、
チョットした異色な西部劇を撮りました。この時代にしては少数派になりつつあった白黒映画でワイド画面だ。
スゴい完成度を誇る作品だとまでは言わないけど、個人的には主流な感じではなく、
若干それまでとは違ったアプローチをしている西部劇に感じられて、そこそこ楽しめる作品になっていると感じました。
基本的には回想劇のスタイルをとっているのですが、胸躍るような馬上のガン・アクションがあったり、
スリリングは果たし合いが描かれるわけでもなく、雄大な大自然をバックに撮ったスケールのデカい映画でもない。
ジョン・ウェインも本作では控えめな存在で、どちらかと言えば本作はジェームズ・スチュワートに花を持たせている。
映画はリー・マービン演じる荒くれ者であるリバティ・バランスが暴れ回る田舎町で、
法曹界で育ったジェームズ・スチュワート演じるランスがリバティから暴行を受けたことから、なんとかリバティに
法の裁きをと願って、リバティを拘束しようとしますが、牧場主トムは「ここは西部だ。法ではなく銃がモノを言う」と
ランスのことをたしなめて、トムはトムで銃を使ってリバティらの蛮行を避けながら、銃による統治を進めようとします。
それでもリバティは仲間を引き連れて酒場で暴れ回り、ついにランスはリバティと対決する決意をします。
ここからが本作の見せ場で、リバティと1対1の対決となって、ランスはランスで銃を手にして対峙するわけです。
皮肉にもトムの言っている通り、「法ではなく銃がモノを言う」ということを証明するかのような展開ですが、
これが一つの契機となり、ランスとトムの友情にも似たものはより強固なものとなり、お互いを信頼していきます。
この信頼関係こそが、後年、トムが他界したと聞いてランスがわざわざワシントンからやって来る、
というエピソードにつながっていくわけで、上院議員になっても田舎の牧場主が死んだことでワザワザやって来る。
それだけ固い友情で結ばれていたというわけなのですが、普通だったら考えにくいようなエピソードで映画が始まる。
タイトルになっているリバティ・バランスは前述したように、リー・マービンが演じているのですが、
確かに西部劇の典型的な荒くれ者って感じで、インパクトは強いですね。そんなリバティ・バランスを文字通り、
撃った男を描く映画というわけなのですが、ありがちな真相であるとは言え、このタイトルが意味するところは
結構深い内容だなぁと思いましたし、ジョン・フォードにしても珍しく意味深長なニュアンスを内包した作品だと思った。
また、ヴェラ・マイルズ演じる学がないと自ら言う女性ハリーも絡んで、ランスとトムは三角関係になる。
本作のジョン・ウェインも他作品と同様に、本作でも恋愛に不器用な性格のキャラクターを演じているのですが、
毎日彼が通う店のマドンナでもあるハリーに、素直な気持ちを上手く表現できないもどかしさは、なかなか上手い。
それから、前述したように本作が製作された1962年って、結構カラー・フィルムが主流になりつつあった時期で
本作も十分にカラー・フィルムで撮影できたのではないかと思えるのですが、敢えて白黒フィルムで撮っている。
ただ、さすがに本作の白黒フィルムはとても美しいですね。特に空を実に美しくフィルムに収めていて印象的ですね。
ジョン・フォードは本作を通して、少々類型的な構図を生かして、西部の感覚を風刺していると感じた。
確かに貫禄の出てきたジョン・ウェインのシルエットをシブく、カッコ良く描いてはいますけど、彼もまた古参な存在。
言ってしまえば、いつまで他ってもリバティの暴挙に対して、銃で脅して黙らせるという手法のみに固執して、
リバティとの攻防は延々と続く。これを終わらせるために銃を持つというのが、彼の発想ではあるのですが、
「法ではなく銃がモノを言う」という彼の持論は、法治国家として発展したアメリカの歴史と相反するものであります。
そのようなアメリカの歴史の中において、結局はトムもリバティと同胞と言えば同胞のようなもので、
時代遅れな感覚として描いているようにも見え、棺桶に入るトムに時代が変わることを象徴させているように思います。
そして皮肉にもリバティを殺めた罪悪感を持ちながらも、ワシントンで上院議員として活躍し、
法治国家の勃興に一役買ったランスが、まるで凱旋とばかりに田舎町にやって来て、厚遇を受けるという皮肉。
まぁ、どちらが正しくて、間違っている、という問題ではないような気がしますが、それでもアメリカの近代史に於いて、
いつまでも西部開拓史の時代の感覚では、発展することはなかったと言わんばかりに、シニカルに描いています。
そして何より、あれがけリバティに法の裁きを受けさせたいと思っていたランスが銃を持つ皮肉。
いろいろなエッセンスをブランドした結果、それまでのオールドな西部劇とは明らかに一線を画す作品となりました。
ジョン・フォードも晩年に差し掛かっていた頃の監督作品ではありますが、本作はどこかアグレッシヴですね。
それはジョン・フォードが描く西部劇にこのようなメッセージを忍ばせること自体、珍しいとしか言いようがなく、
功労者でありながらも、時代の変遷をジョン・ウェインの死をもって描くというのも、少々異色な作品という気がする。
但し、ジェームズ・スチュワート演じるランスはランスで、如何にも理想論に固執する正義漢という感じで、
映画が進むにつれて、少々ウザったいところもある(苦笑)。これはジェームズ・スチュワートが得意なキャラクター。
個人的にはジョン・ウェインとの異色な顔合わせもそんなに悪くはなかったので、もっと上手くやって欲しかったなぁ。
どうしても、ジェームズ・スチュワートがランスのようなキャラクターを演じてしまうと、こうなってしまう。
それは悪い意味で予想を裏切ることがないからだ。これはこれで堅実な仕事ぶりで、決して下手ではないけど、
ジョン・フォードから見ても、都合のいいアメリカの理想を掲げるリーダーというシルエットで、正直言って面白味が無い。
ヴェラ・マイルズ演じるハリーも学に飢えている感じで、ランスに学校を開いてもらうことを希望して、多くの人々を集め、
それまでの学が無い時代を脱しようとする機運を感じさせるのですが、このキャスティングでは全てが予定調和。
ジョン・ウェインはあくまでジョン・ウェインなので(笑)、このままでいいとは思いますが、
いっそのことジェームズ・スチュワートとリー・マービンが逆だったらどうなっていただろう・・・と邪推してしまいます。
それから、さすがに映画の序盤でリバティから暴行を受けて助けられるランスを演じたジェームズ・スチュワートは
さすがに年をとり過ぎていたように見える。あくまで法曹界にデビュー仕立てというフレッシュな時期という設定で、
本来であれば若々しさが欲しいところだったのですが、結局はほぼそのままに演じているというのが結構な力技。
べつに過剰にメイクをする必要はないにしろ、もうチョット...若々しさがあった方が良かったかなと思いますね。
なんせ、このランスはやっとリバティとの果たし合いの場面を迎えたと思ったら、思わずエプロンを着けたまま
決闘の場所に出てきてしまう“初々しさ”で、当然のことですがアウトローと銃で対決するような男ではないということ。
それゆえに、このランスには肉体的にも精神的にも行動面でも、もっと若さや青臭さがあった方が良かったなぁ。
さすがにジェームズ・スチュワートがいつもの調子で演じてしまうと、老練な雰囲気を出してしまっていて、
とてもじゃないけど、このランスのキャラクターと合わない。この辺はジョン・フォードも再考して欲しかったところ。
しかし、一方で古き良きとは言い過ぎかもしれないが、慎み深いところを残しているのは本作の良さだと思う。
特に映画の冒頭から語られている通り、ランスはトムの葬儀に参列するために凱旋するわけですが、
トムの遺体が収められる棺は映っても、決してトムの亡骸を映そうとしたり、棺を開けようとする人は描かない。
これは静かに、そしてあくまで西部の強い男としてジョン・ウェインをフィルムに収めたいという意図ではないだろうか。
60年代に入ると、直接的な描写も増えていた時代ですので、トムの最期や亡骸を描くという選択もあっただろう。
しかし、そういったことを敢えてやらない...いや、できなかったのかもしれないが、
ジョン・フォードはあくまでジョン・ウェインのシルエットを壊さずに描こうとしていて、良い意味での慎み深さを感じる。
それは本作がジョン・フォードとジョン・ウェインの名コンビの最後のコンビ作となっただけに尚更そう思ってしまう。
ジョン・ウェインは体調の影響もあったのか、50年代以前のペースで映画出演をしなくなっていきましたが、
ジョン・フォードからすれば、どこかでジョン・ウェインとの仕事を総括するような作品を撮りたかったのではないかと。
そういう意味で本作は、従来ジョン・フォードが撮ってきたような西部劇とは明らかに一線を画する内容である。
僕はジョン・ウェイン自身、ずっと引き際をどうするか考えていたような気がしますし、
晩年になってから現代劇にも挑戦しましたが、遺作となった『ラスト・シューティスト』ではまるで自身の最期を
西部劇の時代の終焉を告げ、新しい世代へと引き継がれることを象徴するようなラストになっていて印象的だった。
それだけ、当時のハリウッドはジョン・ウェインと言えば、西部劇の代名詞とも言える存在だったということだ。
チョット言葉が過ぎるかもしれないけど、これはこれでジョン・ウェインなりの“終活”と言える作品なのかもしれない。
(上映時間123分)
私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点
監督 ジョン・フォード
製作 ウィリス・ゴールドベック
原作 ドロシー・M・ジョンソン
脚本 ジェームズ・ワーナー・ベラ
ウィリス・ゴールドベック
撮影 ウィリアム・H・クローシア
音楽 シリル・モックリッジ
出演 ジョン・ウェイン
ジェームズ・スチュワート
ヴェラ・マイルズ
リー・マービン
エドモンド・オブライエン
アンディ・ディヴァイン
ジョン・キャラダイン
ストローザー・マーチン
リー・ヴァン・クリーフ
1962年度アカデミー衣装デザイン賞<白黒部門> ノミネート