知らなすぎた男(1998年アメリカ)

The Man Who Knew Too Little

うーーーーん...結構、評判が良かった作品だから、期待してたんだけどなぁ〜。

自分の誕生日だからプレゼントをもらいたくてという一心で、
ロンドンに暮らす銀行員の弟を訪ねるために、わざわざアメリカからロンドンへやって来た、
田舎町のビデオ屋の店員である中年男性ウォーレスが、大事なプレゼンを控えていた弟に
厄介者扱いされ、ロンドンのテレビ局が企画する視聴者参加型のドラマに参加したことをキッカケに、
ひょんなことからドイツとロシアの諜報部が共謀していた陰謀に巻き込まれるサスペンス・コメディ。

邦題だけでなく、原題から作り手も確信犯的にヒッチコックの56年の名作『知りすぎていた男』の
タイトルをモチーフにしており、内容的にそこまで似ているわけではないが、映画の最初から最後まで、
徹底して主人公のウォーレスが「何も知らない」という状態を貫き、映画を構成しているのが特徴的だ。

ビル・マーレーお得意のジャンルの作品ではありますが、
彼の勘違いと無知が何もかも功を奏し、正に“踊らされる”という状況にありながらも、
それが上手い具合にハマって、最終的にはトントン拍子でハッピーエンドという様子も、彼に合っている。

そして、全てに於いて勘違いしていて、
トンデモない陰謀に巻き込まれながらも、彼自身はあくまでテレビの撮影であると思い込んでいるものだから、
映画のクライマックスまで彼は舞台俳優へのスカウトだと勘違いして、寸劇を始めるというのも凄まじくシュール(笑)。

まぁ・・・上映時間も短いし、割りと気軽な気持ちで観れるというのもウケが良いだろう。

とは言え、結構、本作は評判が良かったし、
日本でも劇場公開された割りには、すっかり忘れられていた作品だったせいか、
まるで“知る人ぞ知る逸品”のような扱いを受けていた感があって、僕の中でも期待が大き過ぎたのかな。
思ったよりも、映画自体のテンポが良くないせいか、ただでさえ短い上映時間だったにも関わらず、
ウォーレスが追われてホテルでピンチに追い込まれるシーンあたりでは、若干の中ダルみを感じましたね。

監督は95年に『コピーキャット』が少し話題になったジョン・アミエル。
元々、イギリス出身の映像作家であり、90年に『ラジオタウンで恋して』のような軽いタッチの映画を
撮っていたことから、本作のようなコメディ映画を手掛けることは必然であったように思うのですが、
あまり過剰にドタバタさせないという意図があったせいか、全体的に起伏に乏しい構成になってしまったように思う。

映画の終盤に要人が集まる晩餐会でのコサックダンスがあるのですが、
このシーンはビル・マーレーの見せ場にはなっているものの、爆弾を仕込んだマトリョーシカをダンサー間で
回し合って誰に爆弾を仕込んだマトリョーシカが行ったのか分からなくなるというスリリングな演出も、
どこか不発なまま終わらせてしまい、過剰に演出しない意図は分かるものの、どこか映画的ではない気がします。

個人的には、映画のテンポはもっと良く出来たと思うし、
それはビル・マーレーの持ち味を壊さない程度にできたはずで、やはり映画自体にはメリハリがあった方が良い。

おそらく静かなギャグ、シュールな状況で笑いをとることに主眼がある映画ですから、
メリハリのある映画とは作り手が目指していたものは違うのだろうし、こういうコメディ映画も成立しうるとは思う。
これでは正直言って、“分かる人にだけ分かる映画”という扱いになってしまうのですね。でも、これは勿体ない。

何度も何度も無駄にロータリーをパトカーと一緒に回り続けるという、
一体どこに意味があるのかと思えることに時間を費やすというのは、究極のシュールレアリズムなのですが、
これだけではなく、ビル・マーレーが繰り出すギャグのほとんどが彼のファンに向けられたものって感じ。
それで映画自体も“分かる人にだけ分かる映画”になってしまっているというのは、とってもいただけない。

ビル・マーレーのコメディ映画って、日本でもヒットした作品が数多くありましたが、
そのほとんどはビル・マーレーの芸風や持ち味を上手く活かしながら、構成できていましたからねぇ。
やっぱり、この辺は作り手がもっとバランスをとって欲しかったなぁ〜というのが、僕の正直な本音ですね。

特にジョン・アミエルのディレクターとしての手腕自体に強いカリスマ性があるわけでもないのだから、尚更のこと。

思わずクスクスと笑えるというタイプの映画を目指したんだろうけど、
ビル・マーレーのシュールな面白さや、彼の芸風を十分に輝かす映画にはなっていないですね。

やはり悪役キャラクターがもう少し強い敵として描かれていた方が、映画はずっと面白くなる。
あくまで本作はコメディ映画ですから、本格的にサスペンスに傾倒する必要は私もないとは思いますが、
本作なんかはもう少し、悪役キャラクターの存在感を出ささせて、良い意味で映画を盛り上げた方がいい。
敵が強いからこそ、主人公が映画の最後の最後まで、真実に気付かなないまま終わってしまうということに
意味があると思うし、その方が映画自体にサスペンスの要素として、良い意味での緊張を与えられると思う。

結果的には目指したところはコメディ映画であったとしても、
やはり主人公と対極する存在となる悪役にあっては、もっと執拗で強い存在として描かなければダメですね。

どちらかと言えば、アクセル全開ではないユル〜いコメディ映画が好きな人にはオススメしたい。
アメリカン・ジョークではなく、どこかクスッと笑わせてくれる、チョットだけヒネったギャグが好きな人にはオススメ。
そういう意味では、やはり「映画の方から観客を選ぶ」という構図になっているのかもしれません。これは少し残念。

ただ、前述したように、映画の最後の最後まで主人公が勘違いしたままで
映画が終わるという発想は、ある種、整合をとることに注力する昨今の映画には無い、突き抜け方であると言える。
この首尾一貫したスタイルはビル・マーレーの本領でもあるが、この点は本作の大きな特徴と言える。

通常の感覚と僅かにズレたようなヒネくれた見方をするビル・マーレーの
芸風やギャグセンスが好きな人には、たまらなく楽しめる作品でしょう。もう、彼の独壇場のような映画ですから(苦笑)。

(上映時間93分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ジョン・アミエル
製作 アーノン・ミルチャン
    マイケル・ネイサンソン
    マーク・ターロフ
原作 ロバート・ファーラー
脚本 ロバート・ファーラー
    ハワード・フランクリン
撮影 ロバート・スティーブンス
音楽 クリストファー・ヤング
出演 ビル・マーレー
    ピーター・ギャラガー
    ジョアンヌ・ウォーリー
    アルフレッド・モリーナ
    リチャード・ウィルソン
    ジョン・スタンディング