ロング・ライダーズ(1980年アメリカ)

The Long Riders

実在の強盗ジェシー・ジェームズを描いた、ウォルター・ヒルの監督作品。

4兄弟が描かれるのですが、実際に演じた俳優たちも兄弟関係にあるというこだわりっぷりだ。
映画の冒頭に失態を犯して強盗団を追い出されるエド役のデニス・クエイドは、さすがに若いですねぇ。

どことなく乾いた感覚のある銃撃戦シーンは良い。ウォルター・ヒルらしく過剰に演出したりはしない。
伝説的な強盗ジェシー・ジェームズらを描いたということもあり、西部劇のフォーマットにこだわって撮っている。
南北戦争終焉後の難しい時代に生きる人々についてクローズアップしており、経済的に強盗に転じざるを得なかった
若者たちの刹那的な生き方がなんとも印象的である。彼らは決して残忍な手口で強盗をしたいわけではなく、
先に発砲しようものなら、無益な殺し合いになってしまうことを本能的に分かっていたようで、あくまで脅すだけでした。

それでもビビッたエドが先に発砲したことから、銀行強盗犯として周囲の警備員たちと銃撃戦になり、
指名手配犯として目を付けられてしまうことから、エドは仲間からも信頼していた兄からも、見放されてしまう。

どんな理由があっても銀行強盗を行っても仕方ない、なんてことにはならない。
いつの時代も、彼らのやってきたことは不法行為であり、法治国家である以上は法の裁きを受けるべきだろう。
しかし、彼らの強盗行為を問題視し、追跡を行うピンカートン探偵社もかなり強硬な手段で彼らを追跡していく。

強盗を止めさせるため、そして彼らに制裁を加えるために探偵社も覚悟を決めたように手段を選ばない。
15歳の障碍を抱える青年がいると言われている家であろうが、火を放って家族をあぶり出そうとするし、
大勢の徒党を組んで待ち伏せをして、ライフルを構える人間を手配して、まるで“ハチの巣”のように銃を浴びせる。

そんな攻防をウォルター・ヒルは実に淡々と描いており、良くも悪くもドラマチックに描くことはしません。
そんな塩梅がとても心地良い、ある意味では牧歌的な作品と言ってもよく、ライ・クーダーの音楽も素晴らしい。
これはこれでアッサリと無味乾燥な感じに仕上げたことに意味があったのだろうし、良い仕事をしているとは思います。

ただ、もっと湧き踊るようなシーンが観たかったというのが本音でもあるし、兄弟それぞれの人間描写の描き方も
全体に甘く、分かりづらいのが致命的でもあった。この辺はもっと上手く描くことができたと思うし、全体に表層的だ。
アクション演出にかけてはウォルター・ヒルも自信はあったのだろうが、もっと器用な人が撮っていれば違っただろう。
そもそもがこの強盗団の結成にしても、もっとしっかりと描いてからピンカートン探偵社との攻防に入って欲しかった。

如何なる理由があっても、彼らの結束は強いのかと思いきや、実はそうでもなかったのも拍子抜け。
色々な理由があったとは言え、彼らはアッサリとそれぞれの道を歩むことになり、「また新たな強盗団を作ろう!」と
言って馬で川を渡るシーンもありますが、なかなか彼らの逃避行も上手くいかず、すぐに追手に見つかってしまいます。

まぁ、登場人物の関係性がそうだったからとは言え、何故に出演俳優まで実際に兄弟にすることに
ウォルター・ヒルがこだわったのかは正直言って分かりませんが、ジェームズ・キーチとステーシー・キーチの兄弟が
製作にも絡んでいることから、敢えてこういう映画にしたかったのでしょうね。少々、無理矢理なところがありますが。

幾度となく描かれる銃撃戦シーンについては、ウォルター・ヒルの監督作品の中では平凡な出来。
正直言って、そこまで特筆すべきものではなかったように思う。割りと淡々と描かれているし、臨場感は弱いかな。
ウォルター・ヒルの実力からすれば、もっと真に迫った映像が撮れただろうし、演出面ではまだまだ遠慮がちである。
ひょっとしたら、キャストの意見力の方が強い撮影現場だったのかもしれませんが、ここはもっと頑張って欲しかった。

ジェシー・ジェームズって、結構な悪党だったのかと思いきや...
本作を観る限りではそこまでの悪党としては描かれていない。この辺はどれだけ史実に基づくのかは不明です。

後々、ブラッド・ピット主演で『ジェシー・ジェームズの暗殺』という映画がありましたけど、かなり印象は異なるかも。
本作は悪党に徹した描き方をしているわけではなくって、むしろ彼ら強盗団の人間味についてフォーカスしている。
そのせいか、どこか中庸的な立場に見えなくもない。どちらかと言えば、逃げ回る彼らの人間味溢れる姿や
ピンカートン探偵社の非道なやり方についてクローズアップしているようで、確かに強盗団に“寄った”映画ではある。

このピンカートン探偵社は何度も強盗を繰り返すジェシー・ジェームズらに手を焼いた銀行側が
強盗団の追跡を依頼し、その追跡を請け負った会社であって、クライアントのためであれば手段を選ばない。
怪しいと睨んだ家には、中に人がいようと火を点けるし、多少のヤバいことでも簡単にやってのけてしまう非道さだ。

個人的にはこのピンカートン探偵社については、実在の会社であるということも踏まえて、
こういった歴史を描く映画であるならば、もっとしっかりと詳細に描いても良かったのではないかと思いましたし、
主役級に見せ場が用意された印象深いキャラクターを立てて欲しかったなぁ。ここが本作、結構物足りないんですね。

ウォルター・ヒルは中立的に描いたとは言い難いと僕は感じたのですが、逃げ回る強盗団が次第にバラバラとなり、
一人また一人と殺されたりしていく様子をジックリと描いているのが興味深い。決して劇的ではないのですが、
徐々に追い詰められていくのが面白い。こういう姿を観て、中には「自業自得だろう」と感じる人もいるでしょうね。

何気に銃撃戦でスローモーションを使っているあたりは、サム・ペキンパーからの影響を感じさせますね。
思えばウォルター・ヒルは72年のサム・ペキンパーの監督作品である『ゲッタウェイ』の脚本を担当したことがあり、
おそらくは映像表現や演出の面では強く影響を受けたのでしょうが、後年のウォルター・ヒルの映画とは少し違う感じ。
ただ、サム・ペキンパーならそもそも、こういう題材の映画を撮らないでしょうし、本作なりに独自性はありますけどね。

ちなみに本作の音楽はライ・クーダーが担当している。後に数多くの映画のサントラを担当し、
特にヴィム・ベンダース監督の『パリ、テキサス』のサントラが有名ですが、本作が初めての映画音楽の仕事でした。
ライ・クーダーといったら、キャリアは長く70年にソロ・デビューしてはいるのですが、商業的に成功できずにいて、
80年代以降の映画音楽の仕事が評価されて、ギターの腕前や過去の仕事が再評価された面はあると思います。

正直、本作を観る前はこれがライ・クーダーの初めてのサントラだったとは知らなかったのですが、
実に彼らしい楽曲ばかりで良いですね。ライ・クーダーと言えば、スライド・ギターが有名ですけど本作のように
カントリーな曲もいいですね。思えば78年の Jazz(ジャズ)というアルバムでインストゥルメンタルな曲が増えていて、
それにウォルター・ヒルが目を付けたという話しらしいです。ひょっとしたら、ライ・クーダーの中にも意識はあったかも。

それにしても...どうして強盗団の主要キャストに実際の兄弟俳優をキャスティングすることにこだわったのか、
その理由が僕にはよく分からなかった。決してキーチ兄弟もキャラダイン兄弟もクエイド兄弟も悪くはないんだけど、
兄弟俳優でなければならない感じではなかったし、映画としても強みにしている感じではなかったのでね。。。

まぁ、単純にこれだけ実際の兄弟俳優を揃えたというのはスゴいですけどね、それならば兄弟の絆の強さとか、
血のつながりというものをもっと意識させる描き方があっても良かったのではないかと思うし、どこか中途半端でした。
前述したエド役のデニス・クエイドなんかは、ほぼ途中退場に近い扱いでしたしね。もっと良い描き方があったはずだ。

それにしても、経済的に困窮して、未来に希望が持てない状況であるから強盗するしかない、
となってしまう刹那的な生き方というのは、こうした戦争終焉直後の象徴とも言える生き方に見えてしまいます。

ジェシー・ジェームズが実際にどう考えていたのかまでは分かりませんが...
主だった経験や実績も無ければ、手に職をつけているわけでもない。戦争が終わったとは言え、景気は悪い。
そうなれば、なんとか日銭を稼ぐ手段として銀行強盗しかない、と後先のことも考えずに傾倒するのは、やるせない。
しかし、現実にこういうマインドを持った群盗はいたのだろうし、時代が生み出した動きだったと言えるのかもしれない。

そう思うと、浅はかにも強盗に傾倒して、後戻りできなくなっていた若者たちを描いた作品として考えると、
映画のテーマ的にはアメリカン・ニューシネマの影を引きずっていた作品なのかもしれない。アプローチは異なるけど。
これはこれで自分自身で選択した道だし、同じ生活環境・社会環境に置かれながらも、強盗にはならない若者も
数多くいたはずなので、彼ら兄弟のことを時代の被害者面して語る気もありません。が、生きる時代が違っていれば、
ひょっとしたら違う人生になっていたかもしれない...とも思えなくもなくて、そう思うと僅かに切ない作品でもある。

ここにライ・クーダーの簡素なギターが流れると、なんとも切ない気分になれる作品でもあるのですよね。
とは言え、ウォルター・ヒルの作りは全体的にまだ甘くって、もっとこの映画は磨けば光る作品だとも思えるのです。

(上映時間99分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ウォルター・ヒル
製作 ティム・ジンネマン
脚本 ビル・ブライデン
   スティーブン・フィリップ・スミス
   ステーシー・キーチ
   ジェームズ・キーチ
撮影 リック・ウェイト
音楽 ライ・クーダー
出演 ジェームズ・キーチ
   ステーシー・キーチ
   デビッド・キャラダイン
   キース・キャラダイン
   ロバート・キャラダイン
   ランディ・クエイド
   デニス・クエイド
   ニコラス・ゲスト
   クリストファー・ゲスト
   パメラ・リード
   ジェームズ・レマー
   ジェームズ・ホイットモアJr

1980年度ロサンゼルス映画批評家協会賞音楽賞(ライ・クーダー) 受賞