007/リビング・デイライツ(1987年イギリス)

The Living Daylights

長年、続いたロジャー・ムーアが降板し、
心機一転で若いティモシー・ダルトンが4代目ボンドを担ったシリーズ第15弾。

マンネリ化していたロジャー・ムーアのギャグを織り交ぜながらスタント・アクションを見せるみたいな、
ある意味で80年代の“007シリーズ”のお家芸の空気を少しだけ残してはいるものの、
基本的には本作で、イアン・フレミングの原作に忠実にスパイらしいボンド像を築いていることに好感が持てる。

正直言って、目を見張るような凄いアクション・シーンは無いのですが、
それでも冒頭の訓練をしていた山から下っていく、車を使ったチェイス・シーンからして悪くなく、
ヒロインのカーラと必死にオーストリアを目指して逃げるシーンも、そこそこの緊張感があって良い出来だ。
(まぁ・・・チェロのケースを使ってボード代わりにするという発想はご愛嬌ですが...)

これまで、まるで人情派のような趣さえ感じられたロジャー・ムーアとは違って、
本作から2作だけボンドを演じたティモシー・ダルトンは、どこかにドライさを持っているようで、
ただ淡々と仕事を機械的に片付けていくようなイメージがあって、これがまた新鮮で良いですね。

どこか2代目ボンドのジョージ・レーゼンビーに近い雰囲気があるのですが、
ティモシー・ダルトンは更にドライな感じにしたようで、初代ボンドを演じたショーン・コネリーは
ただただ女にダラしないエロ親父な空気で(笑)、3代目ロジャー・ムーアは半分コメディアンみたいなスパイ(笑)。
そこへきて、本作で4代目ティモシー・ダルトンが一番、スパイらしいシルエットを作っているのも面白い。

ある意味で、プロダクションもそういう使い分けができているようで、
残念なことにティモシー・ダルトンのそういったドライな空気が、当時の映画ファンから不評であったのか、
次作『007/消されたライセンス』が製作サイドの期待を裏切る、世界的な興行成績の落ち込みのため、
製作サイドがシリーズの見直しを迫られたため、6年間という長いブランクが空くことになってしまいます。

確かに、映画ファンの間では、こういうボンドは求められていなかったのかもしれませんが、
僕はロジャー・ムーアも嫌いじゃないけれども、『007/ムーンレイカー』あたりで降板しておくべきだったと
思っているだけに、本作でシリーズが原点回帰したように路線変更したのは、好意的に受け止めています。

事実、本作はそこまで悪い出来ではないし、
同じ80年代の“007シリーズ”の中では、おそらく『007/ユア・アイズ・オンリー』に匹敵する面白さだと思う。

散々、ジョン・バリーともめたらしいのですが(笑)、
a−ha≠ェ担当する主題歌だって、如何にも80年代ポップソングって丸出しって感じだけど(笑)、
決して出来の悪い曲だとは思わないし、エンディングのプリテンダーズ≠フ主題歌も印象的だ。

80年代に入ってからの“007シリーズ”では特に顕著な傾向なのですが、
全体的に尺が長く、あまり分量的な整理が上手くいっていないような気もするのですが、
逆に言えば、これだけ長い尺のアクション映画でも、十分にエンターテイメントとして成立しているということは、
作り手が十分に飽きさせずに楽しませようと映画を構成できており、十分な効果が得られているということ。
特に本作は中東に入ってからのエピソードも長いにも関わらず、中ダルみはほとんど感じられないかなぁ。

今回は随分と口笛に反応する装置が大活躍するのですが、
相変わらずQが研究施設で開発するアイテムが、クルクル回転して閉じ込めちゃうソファーとか、
巨大ラジカセを肩に抱えて、ミサイルとしても使えるとか、現実性ゼロで的外れなものばかりというのが笑える。
(でも、クルクル回転するソファーはあそこまで相手が上手く引っかかるなら、チョット欲しいかも・・・)

欲を言えば、アメリカの武器密売人で軍人もどきなウィテカーをもっと手強いキャラクターにして欲しかった。
クライマックスにボンドが彼の邸宅に侵入して、密殺を目論むシーンでは、戦争のジオラマで一人、
無我夢中になって熱狂しながら遊ぶ姿は、まるで子供のようで、ボンドと対決することになっても、
一人だけ随分と近代的な武器を使ったりして、徹底してセコい悪役だったというのが、チョット肩透かしかな。
正直、ジェローン・クラッベ演じるコスコフもセコいキャラクターだったので、同じ路線が2人はいらないですね。

ティモシー・ダルトンがクールなスパイ像を構築していただけに、
悪役も一人でいいから、冷酷かつ屈強なキャラクターであるという設定の方が、映画は面白くなったかも。

ジョン・グレンの演出は相変わらずキレが鋭く、
次から次へとアクション・シーンを投入する反面、しっかりとボンドとカーラのロマンスを描くなど、
それとなく気の利いた構成に気を配っており、特に彼なりにかなり背伸びした感はあったものの、
遊園地でのボンドとカーラのデートを描いたのは、いささか意外で、器用な一面も見せています。

コスコフの亡命に成功させた後、すぐにアッサリとロシア側の刺客の侵入を許し、
コスコフを奪還されてしまうなど、展開の速さも特筆に値し、これはジョン・グレンの演出の上手さだろう。

対して、ファンの間ではボンド・ガールのマリアム・ダボの評判がイマイチなのですが、
僕の中では、そこまで悪い印象は無いですね。確かに映画の序盤でコスコフに良いように使われて、
スナイパーもどきみたいなことをさせられたり、これまでのボンド・ガールの潮流とは違うし、
どちらかと言えば、性悪なボンド・ガールの存在が無かったりと、物足りない部分もあるのですが、
本作でのマリアム・ダボは体を張ったアクション・シーンにも果敢に挑戦しており、結構、頑張っていますね。

これまではロジャー・ムーアが高齢だったせいか、
ボンド・ガールも含めてアクション・シーンの大半でスタントを使用しており、
たまに観て明らかなスタント・シーンみたいな手落ちな部分が散見されておりましたが、
本作ではできる限り、ティモシー・ダルトンとマリアム・ダボがアクション・シーンを演じているのにも感心しましたね。

まぁ・・・徐々に変わりゆく“007シリーズ”を象徴する作品として、
一見の価値は十分にある作品だと思います。エンターテイメントとしては、十分に合格点をクリアしています。

ロジャー・ムーアのボンド像にマンネリを感じた人には、是非ともオススメしたい作品ですね。

(上映時間130分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジョン・グレン
製作 アルバート・R・ブロッコリ
    マイケル・G・ウィルソン
原作 イアン・フレミング
脚本 リチャード・メイボーム
    マイケル・G・ウィルソン
撮影 アレック・ミルズ
音楽 ジョン・バリー
出演 ティモシー・ダルトン
    マリアム・ダボ
    ジェローン・クラッベ
    ジョー・ドン・ベイカー
    ジョン・リス=デイヴィス
    アート・マリック
    ジョン・テリー
    アンドレアス・ウィズニュースキー
    デスモンド・リュウェリン
    ロバート・ブラウン
    キャロライン・ブリス