リンカーン弁護士(2011年アメリカ)

The Lincoln Lawyer

無名弁護士でありながらも、キワどい案件ばかりを中心に引き受けて、
ロサンゼルス市内を所狭しと、日々忙しく働き回っている弁護士を主人公にして、
資金力ある不動産会社の御曹司が娼婦を暴行した容疑で逮捕された事件の弁護人として
指名されたことをキッカケに、依頼人に疑惑の目を向けながらも、奔走する姿を描くリーガル・サスペンス。

主演はすっかり売れっ子俳優となったマシュー・マコノヒーで、
本作の芝居でも高い評価を受け、2013年の『ダラス・バイヤーズ・クラブ』でオスカー俳優となる道への
ある種の布石となった熱演だったと言ってもいいでしょう。僅かながらも自堕落な空気を出しながらも、
著名な弁護士とは言えずとも、とても有能であることに対しては、実に納得性ある芝居と言っていい。

タイトルになっている“リンカーン”は、彼が移動の手段として愛用する、
リンカーン・コンチネンタルのことで、高名で資金力ある弁護士とは言えないにも関わらず、
大枚はたいてリンカーン・コンチネンタルを購入し、薄給で運転士も雇うという、かなり背伸びしている。

しかし、忙しいスケジュールでありながらも、別に高速道路を駆使したりして、
速く移動することにリンカーン・コンチネンタルを使っているわけではなく、ハッキリ言って事務所代わり。

別に事務所がないわけではなく、都心部には立派なオフィスを構えている。
しかし、彼は同じ場所に居続けることはできないタイプなのです。少々、グレーな情報屋を使って、
裁判の材料を収集します。一方で見栄があるのか、移動手段はあくまでリンカーン・コンチネンタル。
リッチなのか、貧乏なのか、よく分からないのですが、間違いなく言えることは、彼はあくまで俗な人間だということ。

テレビに出てくるような有名な弁護士ではない。弁護料もべらぼうに高いわけではない。
有名な裁判を担当した実績があるわけでもなく、連続勝利記録を持っているわけでもない。

それでも、彼は弁護士依頼の話しが絶えない。それは“頼みやすい”から。
言ってしまえば庶民派なのだろう。それでいながら、金持ち連中からは“利用し易く”見えるのかもしれない。
それは彼が多少、ヤバい仕事でもひるまず、金のためであれば引き受けると見えるからだろう。

そんな空気感を見事にマシュー・マコノヒーも体現できていて、
本作での彼の存在感は抜群だ。前評判は高かったものの、残念ながら映画賞レースには絡めなかったのですが、
本作でももっと高く評価されていても、まったくおかしくはなかったと思いますよ。言ってしまえば、過小評価。

脇役も豪華なキャスティングがされていて、地味に結構お金がかかった映画だと思いますね。

本作はマイケル・コナリーが06年に発表した人気同名小説で、すぐに映画化が決まりました。
確かに弁護士が守秘義務とモラルとの間で葛藤するという物語は、あまり多くはなかっただけに、
過去の事件も含めて、ここまで複雑化した構図の事件の弁護の中で、物語を展開させたのは魅力的ですね。
主人公のキャラクターといい、映画向きのシナリオと言えば、それは当たっているかもしれません。

この映画の主人公は一見すると、アウトローぶったように見えるのですが、
かなりシビアな仕事人としての側面も垣間見れて、弁護士稼業に誇りを持っているのでしょう。

彼は金で動くタイプの弁護士であることは間違いなく、時にクライアントから“ぼる”こともあるのですが、
映画の序盤で「金はあくまでクライアント本人から受け取る。依頼人はあくまで彼(ルイス)だ。勘違いするな」と
ルイスの母親と弁護士に啖呵を切る姿を見せるのですが、これは駆け引きではなく、彼の本音なのだろう。

金に汚い性格であったかもしれないが、弁護士とクライアントの関係性にはポリシーがあって、
それだけは曲げないと心に決めて、弁護士稼業をやっているからこそ、出てきた言葉なのでしょう。
そういう意味では、この映画は主人公のミックという男を魅力あるキャラクターにブラッシュアップできていると思う。
原作は読んでいないから詳細は分かりませんが、ひょっとすると原作以上に魅力あるキャラクターかもしれません。

ただ、僕はこの映画のカメラがどうにも好きになれない。
どこかテレビドラマでよく見かけるアプローチがあったりして、映画的には見えない部分が見え隠れする。
監督のブラッド・ファーマンは07年にデビューした映像作家のようですが、そこまで経験豊富というわけではない。

個人的にはこういう映画に出会うと、編集が重要だと痛感する。
本作もカメラと編集がイマイチなおかげで、映画の魅力が半減していると言っても過言ではない。
(このカメラワーク、カメラの質感の違和感は編集段階で気づいて、映画らしい感覚に修正すべき)

おそらく気にならない人も多いとは思うんだけど、これは作り手も意図してやっていることなのだろう。
僕にはどうにも、“テレビドラマの延長線”みたいな感覚に陥ってしまって、トップギアにはいけないんですねぇ・・・。

個人的には、こういう映像表現や編集技法そのものをスタイリッシュと言って、もてはやしたくない。
せっかく映画化するのですから、原理主義的なことを言っても仕方ないけど、映画らしさを追求すべきです。
“テレビドラマの延長線”のような感覚でいいのであれば、そもそも映画である必要はないのですから。
せっかくの豪華キャストも、これでは意味がない。もっと映画らしさを追求できていたら、傑作になりえたのに勿体ない。

ラストのあり方に少し甘さはあるけど、僕は主人公ミックが必ずしもクリーンな男ではないと、
あたかも開き直ったかのように描いた、終盤の展開はそこそこ気に入っている。
「過去の間違いを正す」という目的を持って、ルイスの弁護に奔走するミックを描きながらも、
決してミックが“完璧な男”とは描かず、敢えて彼の不完全さ(隙)を彼のキャラクターの魅力として描く。

こういう部分は僕は好きですね。これこそが本作の原作の魅力の一つでもあるのでしょう。

欲を言えば、もう少し法廷での駆け引きを描いて欲しかった。
これは別にマイナス要素ではないと思うのですが、ミックが下調べに奔走する姿を中心的に描いたせいか、
リーガル・サスペンスと宣伝されていた割りには、そこまで法廷での描写に緊張感が無いのがチョット残念ですね。。。

(上映時間118分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ブラッド・ファーマン
製作 トム・ローゼンバーグ
    ゲイリー・ルチェッシ
    シドニー・キンメル
    リチャード・ライト
    スコット・スタインドーフ
原作 マイクル・コナリー
脚本 ジョン・ロマーノ
撮影 ルーカス・エトリン
編集 ジェフ・マカヴォイ
音楽 クリフ・マルティネス
出演 マシュー・マコノヒー
    マリサ・トメイ
    ライアン・フィリップ
    ジョシュ・ルーカス
    ジョン・レグイザモ
    マイケル・ペーニャ
    ウィリアム・H・メイシー
    フランシス・フィッシャー
    ボブ・ガントン
    ブライアン・クランストン
    トレイス・アドキンス
    ローレンス・メイソン
    ミカエラ・コンリン
    マルガリータ・レヴィエヴァ
    マイケル・パレ
    ペル・ジェームズ
    シェー・ウィガム
    キャサリン・メーニッヒ