リンカーン弁護士(2011年アメリカ)

The Lincoln Lawyer

ロサンゼルスで刑事事件専門で活動しながらも、表舞台では無名弁護士であった、
高級車であるリンカーンの後部座席を事実上の弁護士事務所として使って、キワどい事件を片付ける姿を描く、
人気ハードボイルド小説家のマイケル・コナリー原作を映画化した、やや不条理なリーガル・サスペンス。

最近ではNetflixでテレビドラマ化されていますけど、これは確かに手堅く面白かったですね。

主人公は酒浸りで、暴走族連中でもグレーなやり取りを平然と行ったりとか、結構ヤバい奴でしたが
突然正義に目覚めたり、チョットよく分からないキャラクターでもある。でも、そんな表裏一体なキャラクターこそが
マシュー・マコノヒーにはピッタリ合っているキャラクターであって、彼が表現する“軽さ”の塩梅が実に丁度良い。

この少々アウトローな弁護士でありながらも、何か疑惑だらけの犯人の弁護士と指名され、
「何か裏があるのではないか?」と勘ぐっているうちに、彼がドップリと事件の深みにハマっていってしまいます。
この疑惑だらけの犯人役として、ライアン・フィリップがキャスティングされていて、彼もまた微妙な役どころにピッタリだ。
白か黒かは、割りの映画の早い段階でハッキリとしてくるのですが、ハッキリした後も主人公との駆け引きがスリリング。

しかも、かつて弁護を担当した事件に関しても、実は隠された事実があるのではないかと疑い、
真実を明らかにしようとします。普通なら...時間が経ってから掘り返そうとは思わないかもしれないが、無実の罪で
投獄されている可能性を思うと、この主人公は放っておけない。まぁ、正義漢なのかアウトローなのは分からないけど、
この主人公なりに強い信念がって弁護士家業を営んでいることは間違いないだろう。これが何とも絶妙な塩梅なのだ。

べつに話題性抜群な大きな事件の弁護を担当した経験があるわけでもないし、セコい仕事で稼いでいる状態。
連戦戦勝、百戦錬磨の弁護士というわけではないにも関わらず、何故か彼には途切れなく仕事が舞い込んでくる。
それは少々グレーなクライアントからすれば、“頼み易い”存在だということ。言い方を変えれば、突け入れられ易い。
だからこそ、彼自身も警戒していたのでしょうけど、徐々に巧妙に仕組まれたような構図の事件に巻き込まれていく。

終いには、彼に家族の身の安全について脅迫してくるメッセージが届いたことから、反撃に出る覚悟をします。

主人公は弁護士家業に誇りを持っているだけに、「金はあくまでクライアントからもらう」と渡された金を
差し戻すシーンがあります。アウトローぶった主人王ではありますが、これはこれで誇りを持って仕事をしている、
主人公からすればこれは本音でもあるだろうし、斜陽な弁護士とは言え、これは彼の矜持としているわけですね。

主人公がいきなり弁護士として指名されるところから映画は始まります。
その事件は「金になる案件だ」と表現され、大富豪の息子で不動産業を営む経営者であるルイスが逮捕された、
暴行と強姦の事件であり、多額の保釈金を払ってルイスを保釈させるも、ルイスは一貫して無実であると主張します。

そこからは、一癖も二癖もありそうなルイスの母親やこの母親が経営する企業の顧問弁護士の存在など、
主人公としては気になる面々ではあったものの、いつもコンビを組む私立探偵であるフランクを使って証拠集めする。

ところが、ルイスへの疑惑は深まるばかりで、主人公も予想だにしないルイスの本性を知ることになります。
そんな中で、主人公の自宅から奪われた銃を使って、フランクが撃たれて射殺された事実を知り、大きく困惑します。
次第に牙が主人公にむき始めて、主人公の形勢も悪くなってしまいます。映画の終盤はこのピンチに焦点がなります。

監督のブラッド・ファーマンはあまり知らないディレクターではありましたけど、
そこそこ上手いディレクターだと感じましたね。映画全体のバランスは良く、全体として映画のテンポが実に良い。

アクション映画ではないので、派手なシーン演出があるわけではないですけど、
流れとしては実にスムーズであって、全体の構成が上手くいっている証拠だと思うし、停滞する部分が無いのが良い。
自堕落なイメージがある主人公なだけに、ダラダラした映画になりそうな印象がありましたが、決してそうはなってない。

ただ、この主人公には別れた妻子がいて、今でも積極的に関わっているという設定なのですが、
この別れた妻役としてマリサ・トメイが出演しています。個人的な意見ではありますが(笑)、彼女はもっと観たかった。
と言うのも、描き方がどことなく中途半端で特に終盤ではメイン・ストーリーに絡んでこなくなってしまって物足りない。
マリサ・トメイも自然体な感じで年齢を重ねているような美貌で、良い意味で印象に残るだけに、もっと描いて欲しい。
正直言って、彼女の描き方の物足りなさが本作の足を引っ張ってしまっているような気がしてなりませんでしたね。

気にならないことがないわけでもない作品でして、映画のラストの主人公が見舞われる銃撃シーンについては
あまりに唐突でそこに至るまでの過程があまりに雑に見えてしまう。まぁ、予想できる範囲のオチではあるのですが、
もっと丁寧に描いておかないと、映画に説得力が出ないですよね。これだけ雑に見えてしまうと、映画を壊してしまう。

主演のマシュー・マコノヒーは本作のあたりからオスカー受賞俳優の有力候補として挙がるようになっていて、
本作もかなり期待値が高かったとは思うのですが、映画の出来が追いついておらずノミネートすらありませんでした。
とは言え、映画の出来はさておき...本作で演じたキャラクターは彼にピッタリと思えるくらい、ハマっていたのに・・・。

こういう映画を観ると、ホントにそう思うのですが...事件の真相が弁護の過程で分かっても、
引き受けた以上は最後の最後まで職務を全うして、弁護を遂行しなければならないというのは、酷なことだと思う。
勿論、弁護を降りるということも可能ですが、それをあまりやり過ぎると弁護士としての信頼を失うでしょうしね・・・。
仮に自分のクライアントが事件の犯人と分かっていても、クライアントが無罪を主張するなら、同調しなければならない。

これは日本の弁護士家業も一緒ですから、同じことで悩んでいる人もいるのだろうとは思う。
自分ならこれは耐えられないかもしれない、というくらいのストレスだろう。弁護しながらも、ずっと迷いがあるはずだ。

しかし、主人公は弁護士という職務であるためか、あくまで安全な方法で反撃することを最優先に考えます。
一つは保釈の条件として付けられたGPS情報を駆使するという点と、自分は手を下さないように復讐することだ。
GPS装着については日本でも議論されていますが、人権派の方々から言わせると問題なのかもしれませんが、
本作で描かれた事案を観ると、やっぱりリスクよりもベネフィットの方が被害者視点で上回っていると思います。

この「被害者視点で」ということが重要で、社会全体が被害者になり得ることを思うと、
加害者視点が全く不要であるとまでは言いませんが、被害者視点が優先される社会を形成して欲しいなぁと思う。
勿論、GPS情報の利用にあたっては様々なルールが必要かとは思いますが、日本でも深く審議されて欲しいと思う。

まぁ、自分にGPSが装着されている人間が、更に悪事を重ねに行くのか?という疑問がなくはないですけどね・・・。

この映画は上手いなぁと感じるのは、やはり主人公の描き方そのもので演じるマシュー・マコノヒーも良いんだけど、
一箇所に定住することが難しい性分であるのだろうと思わせられるのですが、ロサンゼルスの都市部に事務所を
構えながらも、移動手段として使っているはずの自動車リンカーンを実質的に事務所代わりに使っていて、
資金力を使って仕事をこなしているわけではなさそうなんだけど、金が無いわけでもなさそう。つまり、ケチっぽい。

そして、グレーな情報源を使って仕事をこなすという怪しさがあるけれども、前述したように弁護士としての誇りはある。
何だか分かるようで分からないところがあるキャラクターではあるのですが、その塩梅がなんとも絶妙な具合で良い。
これは確かに現代で言う、ハードボイルドなのかもしれない。ただ、個人的にはマシュー・マコノヒーがカッコ良過ぎる。

やっぱりハードボイルド小説の主人公だというからには、少々ダサいけどカッコいいくらいが丁度良い(笑)。

おそらくこの辺はマイケル・コナリーの原作の雰囲気を忠実に映画化したのだろうけど、
もっと、この主人公がボロボロになりながら、大ピンチを迎えながらも乗り越える姿を描いて欲しかったところです。
どうしても僕の中では異色のフィリップ・マーロウ像を演じたエリオット・グールドを意識しちゃうからダメなんですよねぇ。

それから、僕はあまり本作のカメラと編集には感心しなかったなぁ。
完全に感覚的な議論になってしまうのですが、フラッシュ・バックを連続させるのにカットを割りまくったり、
どうしても僕にはテレビドラマの延長戦上にある映画として思えなくって、映画らしさが希薄に感じられるんだよなぁ。

まぁ、終盤にマシュー・マコノヒーが家の前で待ち受けるシーンはキマっていたようには思うんだけど、
このカメラや編集というのでは、かなり本作は大きく損をしているとおもうんですよね。そこがあまりに勿体ない。

(上映時間118分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ブラッド・ファーマン
製作 トム・ローゼンバーグ
   ゲイリー・ルチェッシ
   シドニー・キンメル
   リチャード・ライト
   スコット・スタインドーフ
原作 マイクル・コナリー
脚本 ジョン・ロマーノ
撮影 ルーカス・エトリン
編集 ジェフ・マカヴォイ
音楽 クリフ・マルティネス
出演 マシュー・マコノヒー
   マリサ・トメイ
   ライアン・フィリップ
   ジョシュ・ルーカス
   ジョン・レグイザモ
   マイケル・ペーニャ
   ウィリアム・H・メイシー
   フランシス・フィッシャー
   ボブ・ガントン
   ブライアン・クランストン
   トレイス・アドキンス
   ローレンス・メイソン
   ミカエラ・コンリン
   マルガリータ・レヴィエヴァ
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