マシンガン・パニック/笑う警官(1973年アメリカ)

The Laughing Policeman

路線バス内で起こった無差別大量殺人事件の捜査の過程で、
事件の被害者に相棒の刑事がいたことを知ったベテラン刑事が、かつて真相究明を諦めた事件の捜査が
大きな鍵を握っていることを察知し、上司に反発しながら、強引に捜査を進めていく姿を描いた刑事映画。

これもまた、某レンタルショップの復刻企画もあって、蘇った作品ではありますが、
どうも話しがあっち行ったり、こっち行ったりするせいか、散漫な印象が拭えず、
あまり映画の出来が良いとは思えなかったですね。どちらかと言えば、チョット雑な印象が残る映画です。

監督は67年の『暴力脱獄』で知られるスチュアート・ローゼンバーグですが、
安定感ある演出に関しては定評があるディレクターではありますが、やはり細かい仕事はできませんね(苦笑)。

70年代前半は刑事映画が大ブームになったのですが、
正直言って、これら他作品と比較すると、映画の出来自体はそこまで良くないと思います。

今もそうですが、アメリカの同性愛に関しては先進的な考え方を持っているサンフランシスコを舞台に、
サンフランシスコの風俗をふんだんに描きながら、映画を進めていくのですが、あまり大きな意味を持たない
シーン演出も散見されており、正直言って、かなり無駄なシーンの多い映画と言ってもいいような気がします。
この辺はスチュアート・ローゼンバーグが制御しなければならない部分だと思いますけどね・・・。

まぁどこら辺が“笑う警官”なのかもよく分からない作品ではあるのですが、
おそらく原作との関係で、大きな企画の改変はできなかったのでしょう。この辺は作り手も苦労したんでしょうね。

全体的に雑な作りが目立つ作品ではあるのですが、
例えば映画の前半にあるような、殺人現場の現場検証シーンや司法解剖のシーンなど、
どう考えても、映画の本筋にあまり大きな影響を与えないようなシーンであっても、
無駄に時間を割き、無駄に現実感たっぷりに、現実に忠実に描こうと徹しており(笑)、
本来、刑事映画が果たすべき機能については、ほとんど放棄して、ほとんど検証現場を描いた映画になっている。

そういう意味で、この映画は別に手を抜いた映画というわけではなく、
十分に力の入ったシーン演出もある作品であり、断じて手を抜いた映画というわけではありません。
しかしながら、力の入れどころを間違えた感じで、一体、何を描きたかったのかよく分からない(笑)。

70年代は数多くの映画に出演していたウォルター・マッソーが主演で、
本作の後は『サブウェイ・パニック』に出演しているのですが、本作ではイマイチ元気も無い。

映画は出だしの雰囲気が最高なのですが、
そこから路線バス内でマシンガンの乱射事件が発生して、バスが路肩に乗り上げて止まるところで区切りを付け、
残りは惜しいことに、ダラダラした演出に終始してしまい、メイン・エピソードに関係の無いところにばかり、
時間を費やすという、究極の時間稼ぎにでて、事件の真相も含めて、一体何を描きたかったのかよく分からない。

映画も終盤に近づくと、さすがにウォルター・マッソー演じる主人公も胡散クサく見えてくるのですが、
さすがにこの扱いの悪さにはチョット、ビックリさせられましたね。常に彼はドシッと構えて演じていて、
説得力あるキャラクターを演じてきただけに、こういう周囲から疑惑の目を向けられるようなキャラを演じるとは、
彼のフィルモグラフィーを考えると、かなり異質な出演作と言ってもいいような気がしますね。

どうやら原作はスウェーデンの人気小説『マルティン・ベック』シリーズらしく、
原作は随分と硬派な作調らしいですね。でも、本作はその原作の雰囲気も踏襲できていない気がします。
個人的にはもっとドキュメンタリーの手法を推し進めて、事件の捜査にだけフォーカスして欲しかったですね。
どちらかと言うと、この映画でのスチュアート・ローゼンバーグは話しの広がりを持たせることができないと悟り、
あまり脈絡の無いエピソードで時間稼ぎして、全体的に散漫な出来になってしまったという感じがしますね。

原作は淡々と事件を描写しているらしいのですが、残念ながら本作はその路線で貫けなかったですね。
どうせやるなら、この映画の作り手には原作の手法をやり抜くという、強い信念が欲しかったところです。

まぁこういうこともあるとは思うのですが...
この映画が好きな人にはたいへん申し訳ない言い方ではあるのですが、
僕はこの映画が何故、埋もれてしまったのか、そして今から45年前の劇場公開当時でさえ、
製作から3年も遅れて、日本でようやく劇場公開に至ったのか、その理由がよく分かるような気がします。

もう少し作り手が映画の中で、主義主張を押し通せたら、映画は変わっていたでしょうが、
残念ながら、作り手のビジョンがハッキリとしない映画で、ひじょうに微妙な出来であることは否定できません。

おそらくこれは、本作劇場公開当時から、関係者の間では懸念されていたことなんでしょうね。
そうでなければ、当時、勢いがあったウォルター・マッソー主演作なのですから、
3年間も劇場公開見合わせという、扱いの悪さはなかったはずで、その後も埋もれることはなかったはずです。

ちなみに主人公が疑惑の目を向けられ、彼の監視を命ぜられる刑事として、
ブルース・ダーンが出演しておりますが、彼は後に『ブラック・サンデー』に出演するなど、
やはりアクション映画で強い印象を残しておりますが、やはり彼も本作ではイマイチなんですね。
この映画のもう一つの難点は、比較的、恵まれたキャストを集めながらも、あまり活かし切れなかった点ですね。

というわけで、よっぽど70年代の刑事映画が好きな人にしかオススメできないかな。
お世辞にも映画の出来は良いとは言えないので、根気強く観れる人にしかオススメできません。。。
(さすがに僕も、途中で何を描きたいのか、よく意図の分からない内容に、集中を切らさないのに必死でした...)

まぁ部分的にはアメリカン・ニューシネマのテイストを残した部分はあったのですがね、
それら映画の空気というのも、あくまで表層的なものでしかなく、持続性は無かったですからねぇ。

ひょっとすると、これは『フレンチ・コネクション』を撮ったウィリアム・フリードキンであれば、
凄い映画に昇華させることが可能だったかもしれません。それはクライマックスの中途半端なカー・チェイス、
それから地道に内偵を進めていく捜査の描写を観て、強く作り手の力量の差を痛感させられましたね。

(上映時間111分)

私の採点★★★☆☆☆☆☆☆☆〜3点

監督 スチュアート・ローゼンバーグ
製作 スチュアート・ローゼンバーグ
原作 マイ・シューヴァル
    ペール・ヴァールー
脚本 トーマス・リックマン
撮影 デビッド・M・ウォルシュ
編集 ボブ・ワイマン
音楽 チャールズ・フォックス
出演 ウォルター・マッソー
    ブルース・ダーン
    ルイス・ゴセットJr
    アルバート・ポートセン
    アンソニー・ザーブ
    キャシー・リー・クロスビー
    ジョアンナ・キャシディ
    フランシス・リー・マッケイン