嘘つきは恋の始まり(2008年アメリカ)

The Last Word

自殺志願者の遺書を書くというサービスを、ネットで展開している、
フリーランスの詩人が、とあるクライアントの葬儀に訪れ、そこで知り合ったクライアントの妹と恋に落ちるも、
自らの身分や職業を偽っていたことから、2人の関係がギクシャクする様子を描いた日本劇場未公開作。

かつて、ハリウッドでもトップ女優だったウィノナ・ライダーと、
『アメリカン・ビューティー』で少しだけブレイクしたウェス・ベントリーが共演した作品なのですが、
さすがに彼らも旬を過ぎたスターなせいか、日本でも作品の扱いは悪く、なんだか低予算な感じの作品だ。

結論から申しますと、映画の出来自体も決して良くはありません。

何故か日本では、恋愛映画であるかのような触れ込みなのですが、
これは本編を観て頂ければ分かりますけど、恋愛映画とは言い難いかなぁ。
どちらかと言うと、ビターなドラマを目指したという感じで、日本に本作を紹介した映画会社と、
本編で描かれた方向性が、全くマッチしていない印象を受けますね。そういう意味では、不運な作品です。

まぁ・・・こういう路線でしか、売り込むことができないと判断したのでしょうが、
これは正確に言えば、恋愛映画ではないですよね。これは最後まで観れば、明らかなことです。

確かにこれは売れ線の題材ではありませんが、
できることであれば、日本に紹介する時には内容を正確に反映した売り込み方にして欲しいですね。
こうやって、微妙に異なる売り込みをかけることに、騙される人もいるだろうし、何より作り手に失礼ですね。

この映画では、確かにフリーランスの詩人エヴァンと、兄が自殺したシャーロットは恋に落ちますが、
本作の主題は2人の恋愛が成就することにあるのではなく、エヴァンの人間性の成長です。
少しずつ変わっていくエヴァンを描くにあたって、言葉を悪くすれば、シャーロットとの恋愛は言わば“手段”なわけ。
決して、本作の目的はエヴァンとシャーロットの恋愛が成就することにあったわけではないということですね。
この映画の売り込みとのミスマッチは、大袈裟に言えば、映画に対する印象を貶めることにもなりえます。

それと、正直言って、ウィノナ・ライダーが苦しんでいますね。
10年前なら、文句なしにロマンティック・コメディのヒロインに君臨していたのですが、
実年齢も重ねてきているだけに、女優として上手く年齢を重ねることができていない印象です。

どうしても、僕にはかつてのイメージから自分自身で脱却し切れず、
いつまでも10年前のカラーをやり続けようとするも、苦しんでいる彼女がスクリーンにいる気がしてならない。
本作なんかを観ていると、一つのターニング・ポイントとなる作品が、彼女にとっては必要なのでしょうね。
そういう意味で、本作なんかは観ていて、ツラいものを感じてしまったことは否定できませんね。
(やはり01年の万引きスキャンダルの有罪判決が、彼女にとっては大きな痛手だったかな・・・)

まぁ・・・映画の雰囲気としては、まるで20代後半の女優さんが演じていても
おかしくない役柄なんだけれども、映画の前半からウィノナ・ライダーがとにかく“押しまくる”(笑)。
いわゆる肉食系女子さながらの“押し”の強さですが、よくよく調べたら、ウィノナ・ライダーも40歳間近。。。

エヴァンを演じたウェス・ベントリーは実年齢にして7歳も年下ですから、
なんか失礼ながらも、「ウィノナ・ライダーが若いオトコを追いかける映画」みたいになってしまっていますね(笑)。

ウィノナ・ライダーが若かった頃には考えられなかったように、
エヴァンをクドき落とすために、シャーロットもビルの屋上で素っ裸になったりと、
なんだかあれやこれやと手を尽くしてエヴァンをクドこうとしているようで、なんだか哀しかったなぁ(苦笑)。

でも、それは僕の考え過ぎであって、映画は決してそういうテーマではない。
映画のラストなんかは少しだけ意味深長で、「なんだ、人生を語る映画だったのか」と妙に安堵(笑)。

しかしながら、僕は思うのですが...
本作の作り手が、本来的に本作を通して語りたかったことって、とても道徳的なことだったと思うんですよね。
それを考えると、エヴァンとシャーロットの恋愛に関する描写に注力し過ぎて、エヴァンの考えの変化を
もっとしっかりと描くべきだったと思うんですよね。それができていないから、映画に説得力が無いのです。

そういう意味では、本作が恋愛映画であると解釈される流れも分からなくはないのですが、
個人的にはもっとエヴァンの変化、そして成長へとつながる部分はもっと丁寧に描いて欲しかったですね。
ラストシーンを観て、初めてこの映画の作り手が何をやりたかったのか分かるというのは、チョット遅過ぎる。

監督のジェフリー・ヘイリーというディレクターのことは、
僕はよく分かりませんが、どうやら2013年時点では本作が唯一の監督作品らしく、
本作が監督デビュー作のようですね。まだまだ課題が多いことは明らかかと思うのですが、
前述したエヴァンの成長を雑に描いてしまったこと以外は、割りかと慎重に映画を撮っているようですね。
無理せず、1シーンごと丁寧に撮ろうとする姿勢だけは良いと思いますね。そりゃ、細部にわたると苦しいけど。

あまり単純比較することはできませんが、本作のようなタイプの映画を撮る場合は、
89年の『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』を参考にして欲しいですね。
ドラマ的な人物描写と、恋愛描写の配分など、とても参考になる部分が多いかと思います。

この映画は、もう一人、印象的な脇役キャラクターがいれば映画は変わっていたと思うんだよなぁ。
やはりこの辺を考えると、低予算映画の限界だったのか、有能なプロデューサーを付けることの重要性を感じます。

本作の企画なんかは、有能なプロデューサーがいて、
映画全体のバランスを意識した助言ができていれば、映画の内容も含めて、ずっと良くなっていたと思います。
ジェフリー・ヘイリーは演出家としての可能性を感じさせるところはあるので、ブレーンが必要だと思いますね。

ところで主人公のやっている、遺言ライターって嫌な仕事だなぁ〜。

(上映時間93分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 ジェフリー・ヘイリー
脚本 ジェフリー・ヘイリー
撮影 キース・ヴァン=オーストラム
編集 ファビエンヌ・ロウリー
音楽 ジョン・スウィハート
出演 ウィノナ・ライダー
    ウェス・ベントリー
    レイ・ロマノ
    ジーナ・ヘクト
    A・J・トラウス
    キャサリン・ボシェール