ラスト サムライ(2003年アメリカ)

The Last Samurai

今になって思えば、日本を舞台にした映画をハリウッド資本でここまでのスケールで撮ったのは、
実にスゴいことだったと思うし、やっぱり天下のトム・クルーズだったからこそ成し得たワザだったのかもしれない。

日本人俳優も大々的にフィーチャーされており、渡辺 謙は本作でのインパクトがあって、
ハリウッド映画での仕事が増えたようなもので、ナンダカンダで本作の影響力というのは強かった気がしますね。

監督は『きのうの夜は・・・』や『マーシャル・ロー』などで知られるエドワード・ズウィックで、
正直、こういうアクション的な題材の映画を撮ること自体が意外ではありましたけど、活劇性という観点ではまずまず。
少々クサい面があったことは否めませんが、2時間30分を超える長編映画でしたが、メリハリはついていて悪くない。

ただ、僕はこの内容ならば、べつに侍にこだわらなくても良かったのではないかと思ってしまった。
勿論、日本人特有の思いを反映させた部分はあるので、武士道をテーマとして取り上げたことに意味はあるのだろう。
とは言え、もっと訴求するものが欲しかった。これが良くも悪くもハリウッドなのだが、この映画は妙に軽く映る。

時代考証含めて、この映画のスタッフはよく頑張ったとは思う。かつてのハリウッドが描いてきたような、
悪い意味でのいい加減さというのは最小化していて、この映画でヘンテコで偏見的な描写は無いわけでもないが、
それでも出来るだけ目立たないようにしていて、大部分は日本人の意見もかなり聞き入れたのか、中身はまともです。
ただ、問題となるのは...肝心かなめの武士道に触れる部分が中途半端な感じなので、ここは物足りなさが残る。

どうしてもね...命からがら闘って負傷したところで、自ら切腹を決断したり、首斬りを希望する姿が
武士道そのものであるというニュアンスに見えてしまうのは、残念だなぁ。この辺はもっとよく考えて欲しかった。

衝撃的な首斬りだの、武士の情けだの、日常の静かな日々や剣術の鍛錬を描けば武士道かと言われれば、
決してそういうことではないので、この映画で描かれたことは表面的なものに見えてしまうことは否めないと思います。
でもね...それでも、この映画のスタッフはよく頑張ったと思う。過去の映画と比べても、しっかりと考証しています。

そうなだけに勿体ないよね・・・と思えちゃう。製作費も相当かかっているし、スタジオの気合を感じる。
ロケーションも含めて悪くないし、なかなかここまでやったハリウッド製の時代劇というのは、出来ることではない。
何が勿体ないって、クライマックスの合戦シーンにしても、一つ一つの殺陣(たて)のシーンにしても、気迫が足りない。
こう言うと精神論っぽく聞こえるけど、それが武士道の一つではないかと思うので。合戦シーンの迫力は悪くないし、
映画全体の活劇は“なんとなく”良く見えるんだけど、個々一つ一つのシーン...特に相対するシーンに弱さがある。

それは皮肉にも、トム・クルーズ演じるオルグレン大尉が銃を人に向かって撃てない若者を罵倒して、
自分を撃たせようとするシーンが表現したものであって、命を失うかもしれないという恐怖心をもっと支配的にしたい。
それが武士としての気迫であり、相手を圧倒するものが無ければ・・・と思ったのですが、本作はそれが描かれない。
唯一描かれたのは、トム・クルーズの気迫だったというのがオチになってしまうのは、なんとも皮肉な結果ですね。

勝元の妹を演じた小雪との奥ゆかしき(?)恋愛エピソードも、どことなく野暮ったさを残してしまった気がする。
当時の小雪は日本でも売れっ子でしたから、話題性はあったにしろ、時代性を思うと尚更、田舎の集落に暮らす
未亡人でしかも夫を殺した張本人であるアメリカ人に、淡い恋心を抱くということ自体が説得力がない展開に思える。

だからこそ観ている人々に納得させなきゃいけないのですが、本作自体がそこまでの説得力を持っていない。
それゆえにトム・クルーズと出会ってからの彼女が、ヤケに素っ気ない態度をとったり、意図的に彼から遠ざかろうと
感情的になったりする姿が、どうにも胡散クサく見えてしまった。そもそも何故に彼女が彼に惹かれたのかという、
映画の根本的なところを説得力もって描けていないですからね。この2人のロマンスは前提にあったのでしょうけど、
それなら尚更のこと、こんなに唐突に奥ゆかしき恋愛に発展させるのではなく、もっとキチッと描いて欲しかったなぁ。

この辺はエドワード・ズウィックの中途半端なところ。今までの監督作品でもそういう傾向はあったけど、
彼にロマンスを描かせると、どうにも中途半端な感じになってしまうところが定番化してしまっていて、悪癖ですね。

この映画で驚かされたのは、ハッキリと明治天皇を登場させていることですね。
ハリウッド映画でここまで明確に日本の皇族、しかも実在の存在を描いているというのは初めてではないだろうか。
実際に19世紀に生きた日本人で、ずっと日本に暮らしていた明治天皇があそこまで流暢な映画を話せて、
ネイティヴな英語を的確に聞き取れるだけの能力があったのかは知りませんが、日本に西洋の文化を入れたわけで、
かなり西洋の文化に対する理解もあっただろうし、英語学習にも積極的だったのではないかとは思いますね。

まぁ、この映画で描かれる日本人が時代の考えると、やたらと英語が上手いのはハリウッド映画だからかも。
それに対して、ティモシー・スポール演じる実業家の日本語はイントネーション含めて、メチャクチャなのが笑える。
そんなことが気になって仕方ない人には向かない映画かもしれません。これはこれで宿命みたいなものですがね・・・。

同じようなことをもう一つ言えば、忍者が登場してくるのですが、これも時代錯誤な描写と言えば否定できない。
さすがにこの時代に忍者はないだろ、とツッコミの一つでも入れたくなるのですが、こういうところは賛否が分かれそう。
(とは言え、本作のスタッフもこの時代設定で忍者が登場してくること自体がおかしいことは認識していたらしい...)

まぁ、僕はあんまり気にならなかったのですが、もう少し慎み深く個々のエピソードを描いて欲しかったですね。
だって、開国して間もない頃の日本を舞台にしていて、加えて勝元の暮らす田舎の集落にオルグレン大尉は
身を置くことになって、彼らの生活に触れて心境に変化が現れるわけで、もっと勝元の家族も閉鎖的で良かったかと。
それがオルグレンと生活を共にすることでお互いに理解し合うという過程を描きたかったのだろうけど、友好的過ぎる。
お互いの内面の“壁”を破るまでが距離を縮めていくドラマになるのに、それを表現したのは小雪だけというのは・・・。

しかも前述したように、小雪は小雪でいきなりオルグレンに淡い恋心を抱く、という驚かされる展開だ。
べつに何でもかんでもリアル志向に描く必要はないとは思うけど、この映画の中で作り手が何を描きたかったのか、
それが最初っから最後まであまりハッキリしないように映るのは残念で、スゴい資金を投じた企画だったのに勿体ない。

個人的にはエドワード・ズウィックはプロテュースに回って、もっとアクションを撮るのが得手な人に任せて欲しかった。

なんせ、真田 広之の剣術のシーンは素晴らしい出来だったらしいのですが、トム・クルーズよりも目立つから
編集でカットしたとかネットにも書かれていますけど、これが事実ならディレクターとしての判断を疑ってしまいます。
本作を観終わって感じたのは、正しくそういった動的なシーンに目を見張るくらいの勢いが欲しかったなぁということ。
それを編集で“落として”しまったのであれば、エドワード・ズウィックの監督としての致命的なミステイクだと思います。

それで、中途半端にロマンスを優先して描こうとしてしまうのですから、ここは批判されてしまうのは仕方ないかと。
それなりに日本人スタッフの意見を尊重して描こうとした形跡は感じ取れる映画なだけに、これはあまりに勿体ない。

と言うか、結局はトム・クルーズ主導の企画だったのかもしれず、こうなるのは必然だったのかもしれませんが・・・。
どうせトム・クルーズの映画ということになるのであれば、もっと侍の生きざまが何たるかにフォーカスして欲しかった。
それこそが本作のプレゼンスにつながるものだと思っていただけに、それが無かったのはかなり痛かったと感じる。

とは言え、本作は渡辺 謙にとってはハリウッドでの仕事を増やす大きなキッカケとなった作品になりましたし、
00年代前半に少しだけハリウッドの潮流にあった、日本を舞台にした映画の製作を後押しする分岐点になりました。
撮影当初は渡辺 謙も英語をあまり上手く喋れなかったらしいのですが、英会話を猛勉強して撮影を乗り切りました。
その努力が報われたのか、渡辺 謙は本作の芝居でアカデミー賞にノミネートされるという快挙を成し遂げました。

本作から少し時間を要しましたが、真田 広之にしても配信シリーズ『SHOGUN 将軍』で
アメリカでも大きな話題となりましたから、本作あたりから海外での仕事を増やして、地ならししていたのでしょう。
そういう意味でも、本作の製作ということは一つのターニング・ポイントでもあり、それなりにヒットし評価されたという
「結果」を残せたことが大きかったのでしょう。本作の誕生がなければ、彼らの国際舞台での活躍は無かったのかも。

まぁ、トム・クルーズは以前から親日な姿勢で有名で、何度も来日してましたから、ずっと撮りたかったのでしょう。
そうなだけにこういう形で日本の俳優陣にスポットライトが当たるキッカケを作ってくれたのは意義深いかもしれません。

映画の出来としてはそこまで良いとは感じなかったけれども、それでもトンチンカンな描写をできるだけ減らして、
ハリウッドのプロダクションも日本人スタッフの意見を採用し、それまでの流れを変えた作品と言っていいと思います。
まぁ・・・いろいろな意見はあるでしょうが、最悪な出来のハリウッド製時代劇...というほどではないかなと思う。

(上映時間154分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 エドワード・ズウィック
製作 トム・クルーズ
   トム・エンゲルマン
   スコット・クルーフ
   ポーラ・ワグナー
   エドワード・ズウィック
   マーシャル・ハースコヴィッツ
脚本 ジョン・ローガン
   エドワード・ズウィック
   マーシャル・ハースコヴィッツ
撮影 ジョン・トール
編集 スティーブン・ローゼンブラム
音楽 ハンス・ジマー
出演 トム・クルーズ
   ティモシー・スポール
   渡辺 謙
   ビリー・コノリー
   トニー・ゴールドウィン
   真田 広之
   小雪
   小山田 シン
   池松 壮亮
   中村 七之助
   菅田 俊
   原田 眞人
   ウィリアム・アザートン
   スコット・ウィルソン

2003年度アカデミー助演男優賞(渡辺 謙) ノミネート
2003年度アカデミー美術賞 ノミネート
2003年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート
2003年度アカデミー音響調整賞 ノミネート
2003年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞監督賞(エドワード・ズウィック) 受賞