ラストツアー(2019年アメリカ)
The Last Laugh
50年前に引退したコメディアンが、余生を静かに過ごすための老人ホームに入って、
プレーボーイとして暮らしていたが、そこに旧知のマネージャーと再会したことで一念発起して、
老人の身で車でアメリカ大陸を横断しながら、スタンダップ・コメディアンとして華やかな舞台に戻ろうとしながらも、
心配した家族から追われたり、公演先でトラブルに巻き込まれたりするドタバタ劇を描いた少しシニカルなコメディ。
名優リチャード・ドレイファス、コメディ俳優として活躍したチェビー・チェイスと
90年代くらいまでだったら、そこそこ豪華なキャストの映画としてヒットしたであろう企画なのですが、
本作はNetflixで製作された作品らしく、正直言って、映画という感じがあまりしない雰囲気で、僕は残念だったなぁ。
ポール・マザースキーに捧げると、ラストにテロップが出てきますけど、それもチョット言い過ぎかも。
勿論、作り手としてはポール・マザースキーに捧げたのでしょうけど、それならもっとキチッと編集して欲しかった。
新しい“風”を取り入れるのはいいけど、映画の後半に唐突に挿入されるミュージカル・シーン、
そもそも前後のつながりもよく分からない違和感があったけど、それ以上に加工した絵文字を画面に入れたり、
ほぼほぼ映画とは呼べないレヴェルの映像表現にでてしまうことは、僕には全く賛同できることではありません。
主演キャストも豪華ではありましたけど、リチャード・ドレイファスはかなり太っていたし、
老いを自然に見せてくれるアンディ・マクダウェルも素晴らしい存在感ではあるのだけど、彼女を引き立たせようと
作り手が考えていたようには思えないくらい、扱いが良くない。このスタンスには正直、ガッカリさせられたのは事実。
チェビー・チェイスとアンディ・マクダウェルが恋仲になるというのは、無理があるように見えて仕方がなかった。
ストーリー展開としてもかなり無理がある。さすがにアンディ・マクダウェル演じる女性とは年齢差もありますしね。
この違和感はどうしても最後の最後まで拭い切れず、チェビー・チェイス演じるマネージャーをもっと魅力的に描いて、
2人の違和感を乗り越えてでも結ばれる恋に発展することに、もっと説得力を持たせて欲しかったですね。
まぁ・・・パートナーを失った高齢者男女の恋愛を描く映画というのも、これからの時代は増えていくでしょうしね。
それから、2013年の『パワー・ゲーム』の時点で僕も気付いていてはいたけれども、
さすがにリチャード・ドレイファスは太り過ぎですね。元々、小太りな体型ではあったけど、不健康に見えてしまう。
(その不健康そうに見せていることも、脚本では利用しているようでしたが...計算されたものではないでしょう)
チェビー・チェイスも年齢が年齢なせいか、往年の勢いはもう無くって、毒っ気も無くなってしまいましたね。
これは仕方ない部分があるとは言え、さすがにこの高齢者2人でコメディ映画を成り立たせるのは難しいでしょう。
確かに日本だけではなく、近代化が進んでいる多くの国々でも核家族が進み、
少子高齢化の多死社会へ向かっている。そうであるがゆえに、ハリウッドも同様ですが高齢者が元気である。
健康寿命はともかく、どこも長寿化へと向かっているので、高齢者を真正面から描いた映画というのも重要だと思う。
だからこそ、本作は貴重な存在であって、高齢者の再起や恋愛を描いていることに大きな価値があるとは思います。
でも、それが映画の最後にはチョット弱まってしまったような印象があって、上手く肉薄できていないのが残念。
だからせっかく映画が面白くなる“土台”が揃った企画だったはずなのに、作り手が生かし切れなかったという感じ。
監督のグレッグ・プリティキンは01年に『ダミー』という作品で監督デビューしてますけど、本作はイマイチでしたね。
コメディ映画としてのテンポも良くないし、ギャグ一つ一つのキレ味もイマイチ。
言葉のニュアンスの問題もあるので、ギャグで観客の笑いをとることは難しい部分もあるかもしれませんが、
それでもこの手の映画でクスクスと笑うことも難しいというのは、説得力が生まれず、映画として致命的に感じられる。
せっかくリチャード・ドレイファスとチェビー・チェイスというキャスティングが実現したわけですから、
もっと2人の口八丁手八丁のやり取りが観たかったし、何か一つでもいいのでドッと笑えるシーンも欲しかった。
映画はロードムービーの様相を呈していますので、ペース的にノンビリしているだけに
映画のテンポを良くさせるために、リチャード・ドレイファス演じるコメディアンのトークスキルはもっと具体的に
見せて欲しかったし、もっと爆発力を持たせて欲しかったなぁ。その方が彼のステージが人気を示すことにつながるし、
コメディ映画としての魅力がもっと磨かれたはずだと思うんですよね。ただひたすら加齢ネタで笑いをとるのは難しい。
前述したように、映画の後半にあるミュージカル・シーンに閉口させられたのだけれども、
このミュージカル・シーンが何故あるか言うと、リチャード・ドレイファス演じるコメディアンがマリファナを吸っていたから。
彼がマリファナを常用していたことには理由があるのだけれども、この秘密が明かされても映画は暗くはならない。
この最後まで明るく前向きなスタンスを貫いたのは、お年寄りの再起を描いた映画だからこそではあるけど、
ある意味では高齢者を描いた映画のセオリーでもあるし、年老いても尚、人間らしく生きようとする姿は眩しい。
見方によっては楽天的にも見えなくはないのだけれども、このスタンスはポール・マザースキーの映画っぽさがある。
僕の偏見なんだけど...Netflixが配給する映画だからというわけじゃないのでしょうけど・・・
チョット映画が軽過ぎるような気がする。これは映画のオープニングから感じていたことなので、作り手の問題であり、
Netflixの問題ではないと思うんだけど(苦笑)、どうしても画面作りから何から何まで軽く映ってしまったのが気になる。
今後、Netflixだけではなく配信サービスを営んでいる会社がスタジオを持って映画を作ることが主流になるでしょう。
そうなのであれば尚更、映画界の大きな変化なのでしょうから、こういう映画が増えるのかもしれませんけど、
できれば往年の映画の良さも踏襲して大切にすべきものは大切にしながら、新しいものを生み出して欲しい。
ただ、頑固な意見を言うと...やっぱり絵文字が画面いっぱいに広がるというのは、個人的には勘弁して欲しい(笑)。
やっぱりなぁ・・・チェビー・チェイスの持ち味がこの内容だと生かされないと思うんだよなぁ。
久々に主演級の映画となったので、これはこれで仕方がないのかもしれないけど、もっと皮肉屋でそれでいて
強がったりトボけたところがあったり、それを真面目な表情でやるという面白さがあるコメディ俳優なのですが、
僕はてっきり再起を目指すコメディアン役なのかと思いきや、実はキャスティングは正反対だったというから驚いた。
まぁ、リチャード・ドレイファスは名優でありコメディもアッサリやってのける器用な役者さんだから、
こういうキャラクターを演じることに何ら違和感はないけど、チェビー・チェイスの見せ場が少なかったのが残念。
いくらなんでもラストシーンで、謎にアンディ・マクダウェル演じる新しいカノジョにチェビー・チェイスがヌードを
描いてもらっているなんてシーンで映画を締めくくっても、それまでの展開と脈絡なさ過ぎて、これでは笑えない。
まぁ、欧米ではこういうギャグセンスがウケるのかもしれないけど、映画なのだからもっとキチンとやって欲しいところ。
特に映画のラストシーンは大事なわけで、登場人物たちは「最後に笑っていたい」わけですから、少々安直に映った。
また、チェビー・チェイス演じる爺さんの孫娘の存在もハッキリしない位置づけのまま映画が進んで、チョット謎。
ホームから行方不明になってしまった爺ちゃんを心配して、町から町を巡る2人の爺さんを捜索してきたのは分かるが、
普通に考えたら、よほどのことがない限りこの旅を容認する家族はいないだろうし、ここでもかなりの力技に見える。
そういう意味では、僕のフィーリングを全く合わなかった作品なのだろうけど、脚本の段階でもっとよく練って欲しい。
20世紀末であれば、これくらいの映画はほとんどが劇場公開されず“ビデオスルー”だったことでしょう。
そう思うと、Netflixのような配信サービスの会社が出資して、映画製作にまで進出していることは実にスゴいこと。
ある意味、一気通貫で作品を届けるようになるので、これまでは映画化されなかったような企画も通り易くなるのかも。
そう思うと、まだ発展途上なのでしょうから、これから更に上質な映画を手掛けるスタジオになっていくのでしょう。
(実際、マーチン・スコセッシの『アイリッシュマン』はNetflixが配給しており、今や数多くの作品が生まれている)
以前、スピルバーグもNetflixで製作した映画に異を呈していたことがありましたが、
その際も映画館で劇場公開されて、一定期間置いてから配信するなどを映画賞に出品する条件とするなど、
様々な議論がありました。一方で、もうサブスクの勢いは止まらないと思いますので、作品数はもっと伸びるでしょう。
よくよく調べたら、チェビー・チェイスの方がリチャード・ドレイファスよりも4歳も年上なんですね。
リチャード・ドレイファスは年齢相応だとは思いますが、チェビー・チェイスは見た目的に若いなぁと感じる一作でした。
(上映時間98分)
私の採点★★★☆☆☆☆☆☆☆〜3点
監督 グレッグ・プリティキン
製作 ロブ・バリス
脚本 グレッグ・プリティキン
撮影 スティーブ・ゲイナー
音楽 ジェイ・ワイゲル
グレッグ・プリティキン
出演 チェビー・チェイス
リチャード・ドレイファス
アンディ・マクダウェル
ケート・ミクーチ
クリス・パーネル
ジョージ・ウォレス