ラスト・ボーイスカウト(1991年アメリカ)

The Last Boy Scout

これは実に気合の入ったアクション映画ではあるのだけど、興行的には成功しませんでした。

監督はトニー・スコットで、『ダイ・ハード』で一気にアクション・スターとしてブレイクした、
ブルース・ウィリスの主演作とだけあって、劇場公開当時もかなりの期待を背負った作品だったはずで
映画の中身的にもド派手な演出もあったりして、そこそこ力の入った作品だったのですが、全てが空回りしている。

まぁ・・・つまらん映画と切り捨てることはできないのだけれども、本作は色々と雑な映画ですね。
ハッキリ言って、トニー・スコットの失敗作の一つ。一見するとスケールのデカい、巨悪に立ち向かう映画として
鳴り物入りで競り落とされたシェーン・ブラックの脚本がスゴいと思われがちですが、かなり話しに無理がある。

ホントはブルース・ウィリス演じる主人公ジョーも、冴えない私立探偵のカッコ悪い中のカッコ良さみたく、
普通とは違う、渋いカッコ良さを表現して欲しかったところですが、どうにもカッコ良くなり切れない、もどかしさがある。

冒頭から酔っ払って車の中で寝ているジョーは近所の子供たちにイタズラされ、
車の中にリスの死体を投げ込まれても気づかないものの、腕時計に触れられたら目覚める。
そこから自宅に変えれば、妻は友人の男に寝取られていることに気付き、家庭生活も上手くいっていないようだ。
しかし、映画はここから一気に力技で動き始める。激怒したジョーは、妻を寝取った友人が出発するのを見送り、
いきなり車が大爆発。もう、このシチュエーションからしてメチャクチャなので、コメディとして観た方がいいかもしれない。

そもそもオープニング・シーンから、賭博で追い詰められたアメフト選手がいきなりパスをもらって、
タックルで止めにかかる相手選手に、隠し持っていた銃で撃ちまくるという設定からしてメチャクチャなのですが、
クライマックスもアメフトの試合会場であるスタジアムに舞台を戻し、荒唐無稽なアクション・シーンを展開します。

いつもは豪快さの中にも、切れ味鋭い描写を含むトニー・スコットなのですが、
本作は全体的になんだか雑な演出で、元々のストーリー自体が力技なのも災いし、どうにも引き込まれない。
ガン・アクションは確かにトニー・スコットらしい描き方なのですが、悪党たちも強いんだか弱いんだか分からないし、
政財界に力を発揮する経営者が、何故にそこまでのリスクを冒してでも悪事に手を染めるのも、なんだか意味不明。

そういうことをすっ飛ばして、単にブルース・ウィリスのアクションを観たい人にはオススメできるけど、
個人的には当時のトニー・スコットの流行りだったのかは知りませんが、夜のシーンでやたらと画面がモヤってるのが
映画の最初っから最後まで続いていて、悪い意味で気になった。これならば、もっと普通に撮って欲しかったなぁ。

この映画を観ていて感じたのですが、当時のプロダクションも本作の興行成績によっては、
バディ・ムービーとして続編を作って、シリーズ化することを目論んでいたのではないかと思います。
肝心かなめの監督のトニー・スコットがどう考えていたかは分かりませんが、ジョーとジミーの関係性や映し方、
そして本作のビデオ・ジャケットを観ても、明らかに新たなアクション・シリーズのコンビとして売り出そうとしている。

ただ、それには本作でジミーを演じたデーモン・ウェイアンズのキャラクターは複雑過ぎた。
シリーズ化するなら、もっと単純な方がいい。ただでさえ、恋人を目の前で殺されたりと、『リーサル・ウェポン』を
想起させるキャラクターなだけに、薬物中毒やらチームメイトとのイザコザなど、少々いろんな問題を含め過ぎた。

半ば所属していたチームの責任もあって、薬物中毒に苦しんでいたジミーが
そう簡単に自力で薬物を止められるとは思えないし、アッサリとジョーとの友情が続いていくかのような
明るいラストが、彼の抱える複雑さにフィットしない。だからこそ、これらは余計な要素だったのではないかと思う。

まぁ、ジミーのことを少々“陰のあるキャラクター”として描きたかったのだろうとは思いますけどね。
それならば、この映画の明るいラストよりも、事件解決の夜でアッサリと映画を終わらせた方がフィットしたと思う。

そして、このクライマックスのスタジアムでの攻防がなんとも物足りない。
そもそもの時間が短いということもあるけど、モヤった画面の中でアクションを展開するので、なんだかよく分からない。
途中からジョーに罪を着せようと画策しながら、警察官などを片っ端から殺していくマイロという男が登場してきて、
ジョーが最終対決する形となるのですが、もっとしつこく絡んでくるのか思いきや、ここもアッサリと終わってしまう。

やっぱり、巨悪に立ち向かう映画なわけですから、もっと悪党はしつこい方が面白いですね。
この辺はトニー・スコットらしくないというか、もっと爽快感あるラストにするために徹底的にやるのかと思いきや、
半ばヤッツケ仕事のように、ヘリコプターまで登場させて早々に収束させてしまうという、強引なラストでした。

なんか、こういったところはトニー・スコットらしくないというか、もっとしっかり出来る人なはずなんだけどなぁ・・・。

とは言え、全てがダメかと言われるとそうでもない。苦しい中でもトニー・スコットらしい仕事でもある。
やたらと撃ちまくったり、爆発に巻き込まれたりと、大忙しのブルース・ウィリスですが画面の臨場感は素晴らしい。
音響と編集の良さもあり、ジョエル・シルバーのお好みの映像感覚とも言える仕上がりで、良くも悪くもハリウッド的。
賛否があるだろうが、90年代に絶好調のハリウッド映画のエンターテイメントを見てただけに、今となっては懐かしい。

映像技術の進展もあるのだろうが、最近はこういう臨場感あふれるアクションが少なくなった気がする。
基本、本作も観ていて感じるが、正しく“本物のアクション”に作り手がこだわって撮っているのですよね。
そして、そんな作り手の要求に応える、文字通りのタフガイ・スターとしてブルース・ウィルスが見事に応えている。

爺さんみたいなこと言ってしまいますが(笑)、最近ならこういうアクションでもCG使っちゃったりしますからね。
時代が違うと言えばそれまでですが、本作なんかはその臨場感が映画全体への貢献度って、大きいと思います。

ちなみにブルース・ウィリスが私立探偵を演じるとなれば、彼がテレビ俳優として出演していた、
『こちらブルームーン探偵社』を思い出してしまうオールドなファンもいるかもしれませんが、そもそもジャンルも違い、
本作で彼が演じたジョーは比較にならないほどの自堕落っぷりで、腕っぷしは強いが実は臆病で人付き合いが苦手。
お世辞にも器用な生き方をしているとは言えず、スマートなカッコ良さや洒落たカッコ良さとは無縁なキャラクターだ。

しかし、愛情表現も不器用なジョーだけど、家族愛は実に深いという人間臭さが心ニクい部分でもある。
おそらくコンプライアンスの時代である現代社会では、ジョーのような「顔にするか、腹にするか選べ」と
体罰を予告して、思いっ切りやっちゃうタイプの人間なので生きていけないだろうが、それでもどこか人間味はある。

しかも、家では妻や娘から散々悪口叩かれていて、妻は浮気、娘は汚い言葉遣い、
という家庭生活では問題のオンパレード。腕っぷしは強く、悪党は片っ端からやっつけるが、なかなかのダメ親父。

このころから冴えない中年男性を演じるというのが、ブルース・ウィリスの持ち味の一つになっていましたね。
何気にプールサイドでパンチ一発で、悪党の一人を殺害してしまうなんて、人間技とは思えない鉄腕っぷり(?)。
言ってしまえば、本作で彼が演じたジョーも『ダイ・ハード』で演じたマクレーン刑事の延長線にあるようなキャラですね。

たぶん、本作はトニー・スコットよりもプロデューサーのジョエル・シルバーの意見力の方が強かったのだろうと思う。
劇中、ジョーの娘がテレビで見ている映画が『リーサル・ウェポン』だったり、何かとジョエル・シルバー色が強いです。
派手なカー・チェイスに、クライマックスのヘリコプターが登場する大捕り物にしても、なんか既視感のある構成です。

ちなみに本作、映画の序盤にジミーの恋人役として下積み時代のハル・ベリーが出演しています。
後に『チョコレート』でオスカー女優となるなど大成しますが、やっぱりどこか印象に残る存在感を示していますね。
ちなみにブルース・ウィリスとは、後に07年に『パーフェクト・ストレンジャー』でも共演することになります。

しかし、それでもハル・ベリーがスターダムを駆け上がるには、まだまだ時間がかかりました。

おそらく映画の特に序盤では、ジョーをハードボイルドに描きたかったのでしょうけど、
全くそんな感じにはならなかったなぁ。やっぱりそういうのって、トニー・スコットのカラーじゃない気がします。
いろいろな意見はありますけど、ジェリー・ブラッカイマーとのコンビの方が彼には合っていたのかもしれませんね。

(上映時間105分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 トニー・スコット
製作 ジョエル・シルバー
   マイケル・レヴィ
脚本 シェーン・ブラック
撮影 ウォード・ラッセル
編集 マーク・ゴールドブラッド
   スチュアート・ベアード
   マーク・ヘルフリッチ
音楽 マイケル・ケイメン
出演 ブルース・ウィリス
   デーモン・ウェイアンズ
   ハル・ベリー
   チェルシー・フィールド
   ノーブル・ウィリンガム
   ブルース・マッギル
   テイラー・ネグロン
   ダニエル・ハリス