キング・オブ・コメディ(1983年アメリカ)

The King Of Comedy

オイ、マーチン・スコセッシ! この映画は怖過ぎるぞ!(笑)

ナンダカンダ言って、僕も過去にロバート・デ・ニーロというカメレオン俳優の芝居には、
『タクシードライバー』のトラビス役、『ケープ・フィアー』のマックス役などで、十分に恐怖を感じてきました。

最近のマーチン・スコセッシのロング・インタビューでも、
本作でデ・ニーロが造形したルパート・パプキンという男は、ある意味で『タクシードライバー』のトラビスより、
ずっと暴力的なキャラクターなんだと語っていましたが、僕の中ではそんな次元を超越して怖い(笑)。
もうトンデモない暴走と言っても過言ではないと思うし、これはストーカーの“はしり”だろう。

映画はとにかくコメディアンとして有名になりたい30代男のルパートが、
常軌を逸した方法でテレビ・タレントのジェリーに接近し、自身のネタを認めてもらおうとするものの、
ジェリーに邪険に扱われたがために、更に上を行く常軌を逸した手段に出る姿を描いたサスペンス・コメディ。

いやいや、この映画をコメディ映画と言うには、チョット怖過ぎるよ(笑)。
これは僕の中ではマーチン・スコセッシ監督作の中では、有数の出来と言っていいレヴェル。

今は亡き松田 優作も、本作のデ・ニーロの芝居を見て、
「完全に手が届かない存在だということを痛感した」と感想を漏らしたそうですが、
確かに色々な意味で、本作のデ・ニーロの怪演は映画史に残ると言ってもいいと思う。

彼の言動や行動は、まるで破綻しているし、
思い込みの激しい自己中心的なものでしかないのですが、この徹底ぶりが凄い。
例え非難されようが、彼は主張を曲げないし、他人の話しを聞こうともしない。
言ってしまえば、人格的に破綻した社会不適応者なのですが、この徹底ぶりは目を見張るものがある。
さすがにここまで徹底した一方性があると、「コイツは尋常じゃない」と観客に思わせることができますね。

「目的のためには手段を選ばない」なんて簡単によく言っちゃうことがありますが、
本作でデ・ニーロが演じたルパートという男こそが、目的のためには手段を選ばない危険な男だ。

半ば強引にジェリーにコネを作った(つもりの)ルパートですが、
ジェリーが追い払う口実として、ルパートに甘い言葉をかけちゃうものだから、さぁ大変!

ジェリーの所属事務所には勝手に押しかけるし、郊外の別荘には勝手に入り込むし、
何を言っても、ルパート自身はまるで主張を曲げないし、思い込みの強さも天下一品!(笑)
何とか追い払おうと、再びジェリーは直接的に厳しい言葉をかけますが、ルパートは全くへこたれない(笑)。
僕もこのルパートの厚かましいぐらいの、強い生き方を見習った方がいい部分もあるのかもしれません(笑)。

このどう追い払っても、まるでくじけないルパートはまるで蛇のようですね。
もうこれは文字通り、ストーカーと言っていい存在で、そんな彼を支えているのは自我の強さだろう。

自我って、僕はあって然るべきものだと思うし、無きゃ無いで大変なものだと思う。
但し、あとは理性との関係があって、強い自我を抑えられないのは困ったものです。
勿論、僕も自我の強い人間なものですので(笑)、強過ぎる自我のせいで失敗することもあります。

但し、やっぱり社会は集団生活の場ですからね。
強過ぎる自我は厄介な存在です。適度に自我を出しながら、自分を表現したいものです。

仮に集団生活の場で、複数名がそれぞれ自分を出し合って、
その自我を押し通して生活しようとするものなら、生活そのものが成り立たず、
形成される集団が歪んだ構図となり、下手をすればトンデモない事件へと発展してしまうかもしれません。

本作のルパートのような性格は多少、ステレオタイプなところがありますが、
現代社会で陥りがちな落とし穴を、マーチン・スコセッシはルパートの姿に上手く投影できていると思いますね。

映画のラストに、ルパートのお気に入りの女性リサに自分がテレビに出演した様子を見せようと、
彼女が経営するバーに入って、得意げにテレビを見せるシーンがまた印象的ですね。
但し、このラストの描き方なんかを観るに、本作のマーチン・スコセッシは少し意地悪い(笑)。
あれだけ究極のルパートの自己満足を描き、ある意味で彼の主張を尊重したかのように見せながらも、
最後のラストシーンでテレビ出演でMCに紹介を受けるルパートを少し突き放したように見せ、
ある意味で彼を奇異に、そして強烈な違和感を持たせてフレームインさせ、急激に観客をも突き放す。

まるでグイグイ引っ張られた挙句、最後の最後で一気に突き放されたかのような豹変ぶりで、
この映画のマーチン・スコセッシの姿勢は、意外にドラスティックな一面を持っていると思いますね。

正直言って、僕は80年代のハリウッドはそれまでと比べると、
当然好きな映画はあるんだけど、格段に映画のクオリティが低下したと思っています。
そんな中で本作は数少ない映画界に強い影響を与えた価値ある一本として評価できる作品だと考えています。

いずれにしても、『恐怖の岬』のリメークということで、
マーチン・スコセッシとデ・ニーロは91年に『ケープ・フィアー』を製作して、
陰湿な嫌がらせの恐怖を観客に強烈な形で見せ付けますが、8年前の本作にその序章がありました。

確かにショッキングなシーンはないけどさぁー。別な意味で怖過ぎるよ、この映画(苦笑)。

(上映時間108分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 マーチン・スコセッシ
製作 アーノン・ミルチャン
脚本 ポール・D・ジマーマン
撮影 フレッド・シュラー
音楽 ロビー・ロバートソン
出演 ロバート・デ・ニーロ
    ジェリー・ルイス
    サンドラ・バーンハード
    ダイアン・アボット
    シェリー・ハック
    トニー・ランドール

1983年度全米映画批評家協会賞助演女優賞(サンドラ・バーンハード) 受賞
1983年度イギリス・アカデミー賞オリジナル脚本賞(ポール・D・ジマーマン) 受賞