キッズ・オールライト(2010年アメリカ)

The Kids Are Alright

これは確かに、変わった視点から描かれた映画ですね。

レズビアン同士で同居し、お互いに精子提供会社から提供を受けて2人の子供を出産し、
過保護一歩手前なぐらいに愛情たっぷりに育て上げ、長女が大学へ進学するために、
一人暮らしすることが決定した頃に、子供たちが精子提供者を知りたいと思ったために、
母親たちに無断で精子提供者とコンタクトをとったことから巻き起こる騒動を描いた作品です。

かつて『ハイ・アート』で高く評価されたリサ・チョロデンコが02年の『しあわせの法則』以来、
8年ぶりに劇場用長編映画を撮影し、その斬新な内容から全米でも高い評価を受けています。

アネット・ベニングとジュリアン・ムーアがレズビアン・カップルに扮していますが、
特にジュリアン・ムーアはほぼスッピンで出演したような感じで、よく頑張っています。
久しぶりにオスカー・ノミネーションを受けたアネット・ベニングも、勿論、素晴らしい名演と言っていい。

しかし、僕はこの映画にあまり夢中になれなかった。
映画自体はインディーズという枠組みで製作されたこともあってか、
とても高く評価されており、映画賞レースを賑わせたことでも大きな話題となったのですが、
映画の方向性が最後の最後まで定まらないまま進んでしまい、ずっと中途半端なままで楽しめなかったですね。

これはファミリーを描いたコメディ映画にしたかったのか、
それとも真の親子とはどういうあり方なのかを問うドラマにしたかったのか、
この映画の作り手がどう考えていたのか、サッパリよく分からない作りになってしまっている。

個人的にはコメディ映画にした方が、この映画の土台に合っているような気がするので、
もっと明確に観客の笑いをおりにくることがあっても良かったと思うし、全体的に映画が明るくないんですよね。

特にジュリアン・ムーア演じるジュールスが、一時的な気の迷いから、
マーク・ラファロ演じるポールとの肉体関係に溺れかけるのですが、これは避けて欲しかった。
確かにこの映画の大きなテーマで、レズビアン・カップルの危機を象徴させたかったのかもしれませんが、
あまりに深刻な調子になり過ぎていて、この映画のカラーには合わなさ過ぎる気がしてなりませんでした。

さすがにジュールスとポールの“くだり”は簡単には解決できない問題のような気がするんですよね。
どうしてもこのエピソードに触れなければならないのであれば、もっとシリアスな映画にすべきですね。

タイトルから想像するに、ザ・フー≠フThe Kids Are Alright(キッズ・アー・オールライト)を
大々的にフィーチャーした映画かと思いきや、一度もこの楽曲は映画の中で使われず、
むしろアネット・ベニング演じるニックが、ポールに「ジョニ・ミッチェルのアルバムで何が一番好き?」と
質問するシーンがあって、ニックがAll I Want(オール・アイ・ウォント)をアカペラで歌い始めるシーンが印象的で、
彼女たちの長女の名前を、実はジョニ・ミッチェルから取っているとしていたり、洋楽に詳しい人は楽しめるかなぁ。
(ちなみに僕もジョニ・ミッチェルのアルバムとしては、71年のBlue(ブルー)が一番好きなんだけど・・・)

しかし、このシーンでそれまで感情的に不安定だったニックが、
ポールから「Blue(ブルー)はとてつもない名盤だよ」と言われて、嬉しそうに同調するシーンが良い。
勿論、この答えが良いというより、僕はこのシーンの空気がとても素晴らしいものだと感じましたね。
確かにニックはとっつきにくい頑固な母親だけど、このシーンでチョットした柔和な空気を出すのがお見事。

セクシャル・マイノリティを題材にした映画というのは、
過去に幾つもありましたが、本作のように共同生活を送って、子育ての難しさに直面する姿を描いた
映画というのは、希少かと思いますね。そうなだけに、本作の先駆性が評価されたのかもしれません。

とは言え、少し食い足りないなぁと思うのは、
この題材の面白さに依存してしまったかのように、映画の方向性を決め切れなかったことと、
レズビアン・カップルが子育てをしていくに、ベターなあり方をしっかりと主張できなかったのが気になるなぁ。

勿論、子育ての難しさはレズビアン・カップルでなくとも直面する話しであり、
ハッキリ言って、何がベターなあり方かなんて、誰も明確な答えは出せないと思うし、
その時代や家族によって、ベターなあり方は変わってくるだけに、答えが一つとは限りません。
しかしながら、僕はニックとジュールスにとって、子育てとは何なのか?を映画の中で描くべきだったと思う。

映画のクライマックスで、ジュールスは過去の過ちを謝罪しますが、
僕はこのシーンで期待したことは、実は全く別な話しであり、ハッキリ言って過ちの謝罪だけではなく、
今まで子供たちにどういう気持ちで接してきて、どれだけ愛しているのかを主張すべきだったと思う。
(これは「お涙頂戴だ!」と批判する人もいるだろうが、そうでなければ親子関係を描く意味がない)

そして、この映画で最も感心しない幕引きはポールとの関係で、
ニックがポールのことを「私たち家族にとって、あなたは無関係な“侵入者”なのよ!」と叱責して、
彼を追い払うことによって収束しますが、これはあまりに理不尽な幕引きと言えるだろう。

確かにポールに落ち度はあるが、それでも彼だけが責められて、
彼に弁解する余地や、謝罪を受け入れずに、“侵入者”呼わばりして追い払うなんて、あまりに酷い仕打ちだ。

これはポールにとっても、同じことが言えるはずで、
心情的に彼がそう言える立場にはないが、ポールから見ても、ニックとジュールス、
そして彼女たちの子供たちは“侵入者”であるはずで、それまでの生活を一変させてしまった一端のはずだ。
ましてや子供たちからポールに連絡をとったわけで、この一方的な叱責で理不尽に終わって、
ニックやジュールスの家族のあり方を冷静に観ろと言われても、これは素直な気持ちで観れないですね。

まるで自分たちのことを棚上げして、家族の体裁を保っているようで、
ニックとジュールスのカップルを、半ば無理矢理に肯定しているようで、あまり感心しませんねぇ〜。

というわけで、僕は彼らの葛藤の中から、人間的な成長を描いて、
現在進行形でもいいから、ある一つの結論を導き出せるような形で、映画を終わらせて欲しかったですね。
これだけでは、一体、何のためにレズビアン・カップルを主人公にさせたのか、よく分からないのが残念です。

あと、地味に大人向けな映画なので、おそらく賛否が激しく分かれる作品でしょう。

(上映時間106分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

日本公開時[R−15+]

監督 リサ・チョロデンコ
製作 ゲイリー・ギルバート
    ジェフリー・レヴィ=ヒント
    セリーヌ・ラトレイ
    ジョーダン・ホロウィッツ
    ダニエラ・タップリン=ランドバーグ
    フィリップ・エルマン
脚本 リサ・チョロデンコ
    スチュアート・ブルムバーグ
編集 ジェフリー・M・ワーナー
音楽 カーター・バーウェル
出演 アネット・ベニング
    ジュリアン・ムーア
    ミア・ワシコウスカ
    マーク・ラファロ
    ジョシュ・ハッチャーソン
    ヤヤ・ダコスタ
    クナル・シャーマ

2010年度アカデミー作品賞 ノミネート
2010年度アカデミー主演女優賞(アネット・ベニング) ノミネート
2010年度アカデミー助演男優賞(マーク・ラファロ) ノミネート
2010年度アカデミーオリジナル脚本賞(リサ・チョロデンコ、スチュアート・ブルムバーグ) ノミネート
2010年度ニューヨーク映画批評家協会賞主演女優賞(アネット・ベニング) 受賞
2010年度ニューヨーク映画批評家協会賞助演男優賞(マーク・ラファロ) 受賞
2010年度ニューヨーク映画批評家協会賞脚本賞(リサ・チョロデンコ、スチュアート・ブルムバーグ) 受賞
2010年度ロンドン映画批評家協会賞主演女優賞(アネット・ベニング) 受賞
2010年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ミュージカル・コメディ部門> 受賞
2010年度ゴールデン・グローブ賞主演女優賞(アネット・ベニング) 受賞
2010年度インディペンデント・スピリット賞作品賞 ノミネート
2010年度インディペンデント・スピリット賞主演女優賞(アネット・ベニング) ノミネート
2010年度インディペンデント・スピリット賞助演男優賞(マーク・ラファロ) ノミネート
2010年度インディペンデント・スピリット賞監督賞(リサ・チョロデンコ) ノミネート
2010年度インディペンデント・スピリット賞脚本賞(リサ・チョロデンコ、スチュアート・ブルムバーグ) 受賞