キッド(2000年アメリカ)

The Kid

これは内容的には、如何にもディズニー映画という感じですが、
それがなかなか上手く世界観を構築できていて、映画の出来はそこまで悪くないと思いました。

本作は監督のジョン・タートルトーブが上手いことやってのけた作品という感じですね。

正直、彼が撮った96年の『フェノミナン』が日本でも話題となっていた記憶がありますが、
僕は『フェノミナン』は当時、そこまで良いとは思えなくって、コメディ映画以外は苦手なのかと
勝手に思い込んでいましたが、それがなかなかどうして本作...上手い具合にファンタジーでした。

敢えてなのか、アクション・スターのイメージが強いブルース・ウィリスを
主人公の嫌われ者のイメージ・コンサルタントに配役しましたが、それもそう悪い感じではなく、
彼自身の8歳の姿を演じる子役の子と、絶妙なコンビネーションでそれぞれが上手く機能している。

映画は、40歳手前にして社会的地位と財産はそれなりに築いた主人公が
イメージ・コンサルタントとして全米を飛び回っているうちに、疎遠にしていた父親がやたらと会いたがり、
それを敬遠しているうちに自分の目の前に一人の少年が現れ、彼が8歳のときの自分であることに気付き、
心の交流を重ねるうちに、過去のわだかまりを解消していく姿を、優しく丁寧に描き出していきます。

言うなれば、これは大人のためのファンタジー映画という気もしなくはなく、
ディズニー配給の夢のある映画ですが、これは内容的に子供向けというわけではないだろう(苦笑)。

よくあるタイプの過去の自分と対面する映画であれば、
過去を変えて、今の姿をなんとかしようとする発想が多いんだけれども、本作はそんな感じではない。
中年期を迎えた自分が、キャリア形成や恋人もいない自分の在り方に不安を感じ、
幻想が見えるようになったことで心療内科に通ったはいいが、8歳の頃の自分が目の前に現れることで、
次第に今の自分の生活と向き合っていきます。それでいて、映画のクライマックスでは8歳の自分が
思い悩むこと、不安に感じていることをソッと背中を押してあげることで、現実と向き合う勇気を与えるというのが、
映画の基本スタンスとしては、過去を変えようとすることで解決する力技ではないところが、好感が持てますね。

本作でジョン・タートルトーブが上手いことやってのけたというのは、
こういった無理矢理、現実を変えようとするわけではなく、現実と向き合う勇気を描いたという点で、
ファンタジー映画でありながらも、凡百のタイム・パラドックスを描いた映画と同化させずに、
中年男性が人生を見つめ直す姿を、克明に描けたという点にあります。これは容易いことではないと思います。

劇場公開当時、本作は全米でそこそこヒットしていた記憶がありますし、
日本でも拡大公開されて評判が良かった記憶がありますが、僕は当時、本作を観ていませんでした。
まぁ・・・想像していたよりも映画の出来は良く、観終わった後の印象も良い作品でしたね。

個人的には、主人公とエミリー・モーティマー演じるエイミーの関わりは、
もう少ししっかりとロマンスを描いて欲しかった。子供も安心して観れるというポリシーのディズニーなので、
ある程度は仕方ないところもあるかもしれませんが、あの程度で未来を安心して前へ進もうと思えるなら、
尚更、主人公がどう心変わりしてエイミーと向き合っていくのかは、作り手もキチッと描いて欲しかったですね。

見た目としても、40歳手前というには、少々年をとり過ぎたルックスに見えるブルース・ウィリスと、
まだまだ若々しいエミリー・モーティマーなのですから、主人公がそうとうに心変わりして、
態度を改めなければ、周囲の見方は変わらないはずで、そこを映画の中では曖昧なままにはして欲しくないですね。

だって、そういう自分を顧みて反省し、改めていくことこそが現実と向き合うことで、
それこそが主人公の未来を築いていく上で、とても重要な第一歩になるはずなのですから。

まぁ・・・そんな大切なことを描かずしても、それなりに映画を見せてくれるのですから、
本作はまずまず良く出来ているということなのだと思いますね。これは、作り手のヴィジョンがブレなかったからでしょう。
ジョン・タートルトーブもこういう仕事を多くやっていることもあり、ディズニーからの信頼も厚いんじゃないかなぁ。

丁度、ブルース・ウィリスも90年代後半から脱アクション映画のような動きをしていて、
シリアスな映画やコメデイ映画に出演するようになっていたことから、本作もその流れでオファーを受けたと思う。
子供のまま大人になったというか、どこか大人になり切れない大人を演じているのですが、似合ってますね。
ディズニー映画ですから、最低な奴というほどではありませんが、ピッタリなキャスティングでしたね。

映画の冒頭で、飛行機で隣に座った新人キャスターを名乗る女性を
テレビで観て、思い立ったように彼女に会いに行って、バー・カウンターで飲むシーンは良い。
飛行機では静かに過ごしたい主人公が、女性を軽くあしらうような態度だったのですが、
今度は一転して彼女との会話を楽しみながら、真摯に何を得たいとする姿勢がどこか照れくさくも感じる。

まるで立場が逆転したかのようですが、イメージ・コンサルタントという、
今でも一体何をするのかよく分からない職業の男が、有名人の悩みを聞いて指南している立場だったのが、
いつしか自分がコンサルタントを必要としているというのが、なんとも皮肉ですけど、これは現実に心療内科の医師が、
いつの間にか心を病んでしまって、患者側に回るという話しと似ている気がします。これはよくある話しなのだろう。

ただ、その構図よりも主人公が彼女の話しに真摯に向き合っているというのが、良いシーンにしている。

ちなみに8歳のときの主人公を演じたスペンサー・ブレスリンは、
今でもミュージシャンとして活動しているようですが、名前を見てピンと来たのですが、
いざ調べてみたら...やっぱり、『リトル・ミス・サンシャイン』のアビゲイル・ブレスリンの兄だったんですね。

どうやら、丁度、妹のアビゲイルが子役として活躍するようになった頃から、
スペンサーは映画などの俳優としての活動を終息させたようで、ミュージシャンに転身したようです。
(まぁ・・・別に本作では台詞にあったような、ブルース・ウィリスとソックリというわけではなかったが・・・)

僕も40歳近くなって、主人公と同じような年齢になってきましたけど、
少なくとも今は8歳のときの自分と会いたいとは思わない(笑)。あの頃に思い描いていた将来とは、
まるで違う姿だし、正直、もっと早く結婚していると勝手な妄想を抱いていたと記憶してるし(笑)、
職業だって、当時は電車の運転士にでもなっていると思っていたはずで、まるで異なる“未来”です。

この映画の主人公のような境遇でもないし、8歳当時はまだ悩みのある人生ではなかった(笑)。
ですので、今の自分が8歳の自分の背中を押してやることなどないのだけれども、
この先、どんだけ生きられるのか分からないけど、爺さんになった自分と会ってみたい気持ちはあるかも(笑)。

いざ会えるとなったら、楽しみなような怖いような気持ちになると思うけど(苦笑)、
でも、何かをしたいわけでも、何かをして欲しいわけでもないけど、どんな爺さんになっているのかは知りたい(笑)。

そんなことを何故か考えさせられるハートウォーミングな一作でした。

(上映時間104分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジョン・タートルトーブ
製作 ハント・ロウリー
   クリスティーナ・スタインバーグ
   ジョン・タートルトーブ
脚本 オードリー・ウェルズ
撮影 ピーター・メンジースJr
音楽 マーク・シェイマン
出演 ブルース・ウィリス
   スペンサー・ブレスリン
   エミリー・モーティマー
   リリー・トムリン
   チ・マクブライト
   ファニタ・ムーア
   メリッサ・マッカーシー