ジャッカル(1997年アメリカ)

The Jackal

73年の名作『ジャッカルの日』を現代風にアレンジしてリメークした話題作。

劇場公開当時、僕もよく覚えていますが、
当時は何よりも、リチャード・ギアとブルース・ウィリスという2大ハリウッド・スターが顔合わせして、
実質的に対決するという構図になっていることだけが話題で、映画自体の評判は良くありませんでした。

いざ本編を観ると...まぁ・・・やっぱり評判通りでしたね(苦笑)。
フレッド・ジンネマンが緻密かつシリアスに押し通した『ジャッカルの日』と比較すると、どうしても見劣りする。

そもそも、リチャード・ギアとブルース・ウィリスの豪華顔合わせという自体、
ホントは画期的な企画だったはずなのに、その土台を全く生かせていないというのが致命的だ。
監督のマイケル・ケイトン=ジョーンズも、いろんなジャンルの映画を発表し続けていましたが、
どうも元々は生真面目な映画作りがベースになっているせいか、エンターテイメント性の高い企画に合っていない。

映画全体のテンポが著しく悪く、上映時間以上に映画が長く感じてしまう。
これは一つ一つのエピソードがメリハリに欠け、これといった起伏がないせいか、ダラダラ続いてしまう。
それならそれで『ジャッカルの日』のように緻密に描いているなら面白味もあるのですが、
映画に社会派な志向があるわけでもなく、依頼された合衆国大統領夫人の暗殺を行うための工作活動と、
武器をテストするジャッカルの姿を延々と描き続ける割りに、どこか行き当たりばったりな映画に見えてしまう。

一方でリチャード・ギア演じる元IRA闘士で、刑務所で服役しているデクランについても、
そもそも論から言えば、いくら大統領夫人の暗殺計画を阻む目的があるとは言え、刑期短縮を引き換えに
天下のFBIが囚人に協力を依頼するということ自体、どこか胡散臭いのですが(笑)、それはさておき、
刑務所を出たデクランのいの一番の要望が、かつての恋人に会いに行くということで、
そこは恋人が新しい家庭を持って、夫と子供がいるというところに堂々と乗り込んでいって、
夫は「あっちに行ってるよ」と随分と聞き分けが良く、そこでデクランが未練タラタラにイチャイチャしに行くなんて、
如何にも映画的というか、ハリウッドの悪しきご都合主義丸出しな感じで、どうにも感心しませんね。

それを、あたかもロマンチックであるかのように描いているけど、
これはただ単にリチャード・ギアという甘いマスクの色男だから許される空気感を演出したかっただけのようで、
本来、この映画が徹するべきアクション・エンターテイメントとは程遠いところであったことは言うまでもありません。

マイケル・ケイトン=ジョーンズは根は生真面目なディレクターと前述しましたが、
まるで自己矛盾したことを言いますが、こういう演出を平然とできてしまうあたりは、無神経なディレクターにも見える。

エンターテイメント性を志向すること自体は良いと思っているのですが、
それならもっと徹底してやって欲しかったですね。どこか中途半端で、見せ場らしい見せ場が無かったですからね。
映画の始まりから、約1時間30分経って、ようやく映画が動き出したような感じで、どこか物足りなかったですね。
この辺は編集の段階で、いくらなんでも映画全体のバランス、そしてテンポの悪さには気付けたはずです・・・。

ジャッカルを演じたブルース・ウィリスも、当時はハリウッドきってのタフガイでしたが、
意味不明にも男色の役人に近づくために、男とキスをしてまでも熱演だったのに、彼本来の魅力が生きず空回り。
リチャード・ギアも、どこかインパクトを残すことができず終わってしまったような感じで、なんだか消化不良(苦笑)。

個人的には、もっとリチャード・ギアとブルース・ウィリスの対決の色を濃くして欲しかったですね。
やはりそうでないと、映画が盛り上がりません。全体的に緊張感もないし、どこか中途半端な印象が残ります。
それは2人がお互いを意識しながら、対決しているような雰囲気になっていないことに起因している気がします。

常にお互いが牽制し合っているような、油断ならぬ緊張感を観客にも伝えられる映画であって欲しいし、
だからこそ、いざ対決が始まると、映画が一気に盛り上がるはずなのに、本作はまるでそうはなっていません。

本作は当初、リメークという触れ込みが企画が立ち上がったものの、
いざ仕上がったシナリオはまるで、『ジャッカルの日』と共通した部分はないながらも、
製作者サイドがリメークであると主張し続けたがために、『ジャッカルの日』を監督したフレッド・ジンネマンは
本作のあり方に理解を示さず、結局、同じ映画のタイトルを付すことができなくなってしまい、
更にこのストーリーの原作者であるフレデリック・フォーサイスも、原作者としてクレジットすることを拒否するなど、
製作サイドの本作の意義を、複数のオリジナル関係者から認めてもらうことができなかったという経緯があります。

でも、それは仕方がない話しかもしれません。
おそらくフレッド・ジンネマンも、製作前から反発していたようですが、
いざ完成した本作を観ても、全く納得してもらえなかったことでしょう。オリジナルへのリスペクトに欠けますからね。

しかし、ベテランFBI捜査官プレストン役に、シドニー・ポワチエがキャスティングできたことは、
全くもっての奇跡であり、未だに不思議な配役だ。何故に彼が本作に出演することになったのだろうか?

さすがに重厚感ある存在感ではあり、映画にアクセントを付けているようには見えますが、
一方で映画のエンディングで、チョットした“軽さ”を見せ、売店へ買いに行く姿に敷居の低さも感じ、
かつてのシドニー・ポワチエだったら、演じなかったようなタイプかもしれないとは思わせられました。
ただ、映画の出来が彼の存在感の強さに、半ば負けたかのようになってしまったのは残念ですね。

それと、若き日でブレイクしつつあったジャック・ブラックが登場するのにも注目。
半ば、どうでもいいようなところで登場し、突如としてマイケル・ケイトン=ジョーンズが行った、
残酷描写の餌食になったような役だったのですが、すぐに彼と分かる、とにかくよく喋るキャラクターだ。

これだけの資金力があったのですから、もっと成功させることができた映画だったと思う。
これは良くも悪くもハリウッドって感じですが、そうなだけに実に勿体ない結果となってしまいましたね。

ハッキリ言って、失敗するべくして失敗した企画だと思う。
もう、このような企画が乱立するような時代でも無くなったけど、やはり作り手の手腕は大事ですね。
この映画も、この手の規模の大きな映画の経験があるディレクターであれば、結果はもっと変わっていたかもしれない。

(上映時間124分)

私の採点★★★☆☆☆☆☆☆☆〜3点

監督 マイケル・ケイトン=ジョーンズ
製作 ジェームズ・ジャックス
   ショーン・ダニエル
   マイケル・ケイトン=ジョーンズ
脚本 チャック・ファーラー
撮影 カール・ウォルター=リンデンローブ
音楽 カーター・バーウェル
出演 ブルース・ウィリス
   リチャード・ギア
   シドニー・ポワチエ
   ダイアン・ベノーラ
   マチルダ・メイ
   J・K・シモンズ
   ジャック・ブラック
   リチャード・ラインバック