ミニミニ大作戦(2003年アメリカ・イタリア・イギリス・ドイツ合作)

The Italian Job

69年の同名作品のリメークで、ヴェニスやロサンゼルスを舞台に展開するカー・アクション。

多少の狭い場所や道路でも、ニューミニで縦横無尽に展開するカー・チェイスがなかなか面白く、
スタントマンを起用した撮影も使ってはいるものの、臨場感ある映像にするためにキャストたちも運転の特訓を受けて、
実際に運転したシーンも多くあるなど、特殊映像効果も含めてCGに頼らない、本物の迫力にこだわったらしい。

まぁ、大傑作というほどではないけれども、これは普通に面白い。良質なアクション映画だと思う。
監督のF・ゲイリー・グレイは98年に『交渉人』で評価されたディレクターですけど、本作も手堅い仕事ぶりですね。
『交渉人』ではやたらと頭脳戦をPRしていた割りに、中身はそこまで高等な内容とは思えなかったけれども、
本作はそういったイメージ戦略を一切捨てて、ニューミニを使ったカー・アクションにフォーカスしたのは賢かった。

とは言え、マイケル・ケインというバイプレイヤー主演で製作したオリジナルよりはエンターテイメント性に
寄った作品になっているので、この辺はオリジナルが好きな人には賛否が分かれるリメークだろうとは思います。

キャスティングとしては、当時の若手スターを集めた企画という感じで、なかなか豪華でした。
悪党に徹するスティーブを演じたエドワード・ノートンは言うまでもなく、紅一点、金庫破りの女性を演じた、
シャーリーズ・セロンの美貌は相変わらずピカイチに目立っている。この頃の彼女はホントに際立つ存在ですね。

こういう言い方をすると、ルッキズムだと批判は浴びるかもしれませんが、
シャーリーズ・セロンは芝居の実力も確実に積み重ねていたので、この美貌だけで売り出して女優さんではない。
(さすがにシャーリーズ・セロンがドナルド・サザーランドの娘役という設定は無理があったと思うけど・・・)

正直、日本では劇場公開当時、そこまでヒットしたという記憶がないのですが、
これだけのキャスティングを集めて、これだけスピード感と迫力あるカー・チェイスを展開する良質な作品なのに、
何故にあまり派手にヒットすることはなかったのか不思議ですね。もう少し話題になっても良かったとは思うのですが、
強いて言えば、単純にカー・チェイスだけだったというのは逆にインパクトがあるようには見えなかったのかも。

僕個人としては、なかなかよく頑張った映画だなぁという印象なんですけどね。
他のカー・チェイスをメインとした映画と比べたら、チョットずつ物足りないということなのかもしれませんが、
サプライズは無いにしろ、エンターテイメントとしてはそこそこ充実した手堅い作品になっていると思いますがねぇ。

映画の冒頭にあるヴェニスで金塊の入った金庫ごと強奪するシークエンスは悪くないのですが、
スティーブが裏切りを示した、ダムの上で車を強制的に止められ、結氷するくらい冷たいダムの中に車ごと落ちて、
道路上からスティーブによって銃撃されるという厳しい状況で、全員が生き延びるという展開はさすがに無理がある。

ましてやドナルド・サザーランド演じる殺害された金庫破りの遺体を回収したりと、
数秒も潜っていると命の危険がありそうな状況で、低体温にもならずに助かるとは現実世界では無理だろう(苦笑)。

この辺はシチュエーションも含めて、F・ゲイリー・グレイも現実的な設定に見直しても良かったかもしれません。
それから、ズル賢く裏切って、金塊を独り占めしようとするスティーブが悪党ですが、映画の最初っから彼に協力者が
いるという設定なはずなのですが、スティーブの部下があまり目立たないような感じで、手強さが希薄なのも勿体ない。
普通に考えれば、複数人の協力者がいて、かなり大掛かりな計画を立てないと、ああいう裏切りは成立しないと思う。

それを考えると、もう一人、彼に強力なブレーンがいるように描いた方が良かったかなぁ。
一応は、ヘリコプターを用意して操縦したりと、スティーブ一人ではできない組織的行動であるように描かれ、
ロサンゼルスに拠点を構えて、マネーロンダリングしている犯罪者として描かれるだけに、単独犯ではないわけで。
そういう意味では、何かが少しずつ物足りないというか、それぞれにもう一押しあれば映画は変わっていたでしょうね。

前述したように本作はエンターテイメントに寄ったリメークなので仕方がない部分もあるのですが、
欲を言えば、もう少し職人気質な地味な部分も描いても良かったかもしれません。具体的にスティーブに復讐を
仕掛けるために色々と手の込んだ工作活動を行うわけですが、ここでキー・マンとなるのがシャーリーズ・セロン演じる
金庫破りなわけで、彼女にスティーブの邸宅に潜入させて内部の情報を得るなど、重要なことをやらせるわけですね。

これはべつに、スティーブが不在なときにやったわけではなく、工事業者を装って行うわけなのですが、
もっと緊張感ある駆け引きがスティーブとの間にあっても良かったですね。ここはアッサリとさせ過ぎたように思う。

やはり、こういう工作活動はバレるかバレないかのスリルを楽しむということが基本なるべきで、
そこに至るまでの駆け引きも含めて、如何にスリリングに描けるかで映画の満足度は大きく変わってくると思います。
手堅い作品ではあるのだけれども、強いて言えば、スティーブに復讐するための準備については物足りないかも。
ここは彼らの職人気質な部分があってこそだと思うので、べつに華麗に大胆に準備することがすべてではないはずだ。

言ってしまえば、もっと地味に行われているはずの工作活動がかなり端折られてしまった印象なんですよね。

監督のF・ゲイリー・グレイからすれば、本作はまともなリメークというよりもオマージュであって、
オリジナル作品のコンセプトと登場人物から再構築した内容という位置づけのようなので、同一視していないのだろう。
そうであるなら尚更、オリジナル作品との差別化は必要だったはずで、こういう部分で差別化を図って欲しかったなぁ。

ニューミニがメインで描かれるせいか、水道管の中や地下鉄の線路、市街地の路地など
やたらと狭い場所をニューミニが所狭しと疾走するシーンが多くあって、ニューミニ好きにはたまらない作品だ。
特に運転テクニックが必要というわけではないのかもしれないけど、普通はハイスペックな車でチェイスをすることが
多いのですが、敢えてニューミニにこだわったのは、リメークでありながらも他作品との差別化の意図かもしれない。

そういう意味では迫力不足な映像にならないように工夫したウォーリー・フィスターのカメラも良いですね。
これ見よがしに、過剰なほどのカット割りを挟んだりはしないし、実に的確に表現することに徹していて好感が持てる。

映画の最後は、色々とスッキリするラストではあるのですが、エドワード・ノートンのジメッとした悪党ぶりが際立つ(笑)。
賛否はあるのかもしれないが、本作はスティーブ役にエドワード・ノートンをキャストできたことが大きかったと思う。
散々強がって、残忍な手口で悪事を重ねて、「オレ様キャラ」のように傲慢に振る舞っていたのに、最後は情けない。
まったく堂々としていない弱々しい性格で、ヤバい奴を怒らせてしまったことに気付いたときには、既に手遅れ状態。

そんなエドワード・ノートンの表情を見てスッキリする面があることは否定できないので、
やっぱりそれだけ憎たらしい悪役に徹することができたエドワード・ノートンが上手かったということでしょうね。
この辺はF・ゲイリー・グレイも計算づくだったのかもしれませんが、あらためてキャスティングの重要さを感じましたね。

ちなみにオリジナル作品である69年の『ミニミニ大作戦』では、ニューミニではなくミニ・クーパーが大暴れでした。
私はまったく車は詳しくないのですが、ミニ・クーパーは1960年代は大衆車として人気があったそう。
それでもイギリス皇族やビートルズ≠フメンバーも愛車にしたりと、広く愛されてきたという歴史があります。
そのせいか、ミニ・クーパーはなんとなく右ハンドルが似合って、アメリカよりもヨーロッパの方が似合う気がする。

本作では、正確にはBMWから発売されたニューミニを使っているので、ミニ・クーパーとは違いますけど、
それでもコンパクト・サイズという点では共通しているし、小回りが利きそうでスピード感溢れる感じで新鮮味がある。

最近の風潮なのか、車の付加価値化ということなのかもしれませんが...
ニューミニもクロスオーバー・タイプが発売されたりして、当初のコンセプトとは対極する流れになっている気がします。
実際、町でも見かけるので売れているのでしょうし、タフな走りをするコンパクトカーという中庸的なポジションなのかな。
最近は車の価格も高騰していて、燃費も悪そうなので自分とは縁が無さそうですが、ニーズがあるのでしょうねぇ。

丁度、90年代末期から軽自動車とは異なるコンパクトカーが売れ始めて、
低燃費化の競争も激しくなっていた頃ですから、敢えてミニサイズの車でチェイスするというコンセプトが
当時の時代性に合っていたのか、どことなく観客も親しみを込めて観ることができるカー・アクションだったのかも。

まぁ、でも・・・自分の中で際立って印象に残ったのは車よりもシャーリーズ・セロンだったかもしれません(苦笑)。

(上映時間110分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 F・ゲイリー・グレイ
製作 ドナルド・デ・ライン
脚本 ドナ・パワーズ
   ウェイン・パワーズ
撮影 ウォーリー・フィスター
編集 リチャード・フランシス=ブルース
   クリストファー・ラウズ
音楽 ジョン・パウエル
出演 マーク・ウォルバーグ
   シャーリーズ・セロン
   エドワード・ノートン
   セス・グリーン
   ジェイソン・ステイサム
   ドナルド・サザーランド
   モス・デフ
   フランキー・G