アイランド(2005年アメリカ)

The Island

2005年の夏休み映画として、公開前から大きな話題となっていたのですが、
いざ全世界で封切になると、予想を大きく上回る不入りで、大赤字となってしまったSF映画。

物語の舞台は2019年。
植物細胞からクローニング技術を用い、クローン人間を作り出し、
不治の病いなどになった場合の“保険”とする会社が、富裕層を対象に人気を博すようになるものの、
要塞のような地下基地で規則正しい生活を強いられるクローン人間たちの中で、徐々に周囲の環境に
疑問を持つようになり、彼らが精神の糧(かて)にしていた“アイランド”の存在にも疑問を持つ姿を描きます。

結論から申し上げますと、商業的には大ゴケした作品ではありますが、
僕が観る前に予想していたよりは、遥かに面白い映画で、そこそこスリリングに仕上がっていると思いますね。

特に映画の中盤にあった、約10分ほど続く近未来のロサンゼルス市街地での
迫力のカー・チェイスは素晴らしい出来映えで、ハイウェイで追跡車が輸送トラックから
デカい車輪をぶつけて、一台一台撃退していくシーンは凄まじい迫力で手に汗握る展開でしたね。

まぁ・・・もっとも、2019年という、そう遠くはない未来に
かなりの高所をモノレールが走ったり、リニア式の鉄道が砂漠地帯を走ったりするようになっているとは
思えないのですが(笑)、意外にも今回のマイケル・ベイは一つ一つの動きを誤魔化さずに、
しっかりと描いており、カー・チェイスのシーン演出にしても真面目に描きたいとする意図が伝わってきます。

欲を言えば、全体的に尺が長過ぎて2時間を大きく越えてしまうのは
難点ではあるのですが、それでも観客を上手く飽きさせずに構成できていると感じましたね。

意外にマイケル・ベイって真面目なディレクターなのか、
一時期はジェリー・ブラッカイマーとのコンビで熱心な映画ファンからは非難されたりはしましたが、
本作を観る限り、映画が本来的にどうあるべきかキチッと考えて撮っていると感じましたね。
一つ一つのシークエンスをよく考えて、しっかりと見せ場を作っており、もっと評価されても良かったですね。

自分の“保険”として、クローン人間を利用するという発想自体が凄いけど、
生命倫理の概念が少しでも変わってしまうと、あながちこんな時代がやって来ることも否定できないですね。
ショーン・ビーン演じる博士も、難病を克服する観点から、クローン人間の研究を始めたようですし。

今はiPS細胞とか、色々と再生医療に関する研究も着実に進歩してきており、
がん発症のメカニズムやその他難病の発症メカニズムも、遺伝子レベルで解明されてきておりますので、
医学は確実にあらゆる観点から進歩を遂げるためのアプローチが続けられているんですよね。
だからこそ、資源の無い日本は特にこういった医療研究やバイオ研究に力を注ぐべきだと思うんですよね。
もう既に力を注いではいるけど、やるなら、もっと徹底してやるべきだと思うんですよね。

確かに本作で描かれたクローン技術の利用は色々な問題はあるし、
独善的な博士の姿勢は糾弾されるべきだけど、難病を克服するという志しは尊重したいですね。
(結局、この業界は成果の見返りがデカい分だけ、それがいろんな弊害を生むわけなのですが・・・)

但し、自我を持ったクローン人間を架空の楽園“アイランド”へ行けると称して、
まるでガス室のような部屋に押し込んで、臓器を取り出すという部分に大きな課題を残します。
これはどう考えても、ある種の殺人行為であり、人間の欲望のおかげで彼らが犠牲となるわけです。

ユアン・マクレガー演じる“6号”は完全に自我に目覚め、
自分が置かれる環境に最初に強い疑問を持ったわけなのですが、彼はカラクリの全てを知ったとき、
地下基地で規則正しい生活を強いられていたクローンの仲間を助け出そうと決断します。

何故か真面目に考えちゃった僕は(笑)、この“6号”の決断が正しかったのか、どうしても悩みますね。
彼らはあくまでクローン人間ということは、彼らを“保険”として設計するよう申し込んだ依頼主がいるわけで、
それまで地下基地で外界を知らぬ生活を送ってきたクローン人間が、果たして突如として外界に出て、
満足な幸せを得られるかと考えると、この“6号”の決断が正義とは、一様には言えないような気がしますね。

まるで開き直るかのように、「彼の決断は正義なんだ!」と主張するラストを
堂々と演出するあたりは、さすがにイベント・ムービーを数多く撮ってきたマイケル・ベイらしいですね。
まぁ・・・それでも『アルマゲドン』の頃に比べれば、かなり知性を感じさせる映画にはなってますがね(笑)。

下世話な話しではありますが...
本作は興業的失敗を記録したことを契機に、盗作疑惑が持ち上がったり、
キャストに責任があると噂されたり、散々な結果だったのですが、
ヒロインを演じたスカーレット・ヨハンソンは「アタシの演技には満足しているわ」と貫録のコメント(笑)。

別に僕は彼女の大ファンってわけではないのですが、
この映画の不入りは少なくともキャストの責任ではないと思いますけどね・・・。
少なくとも彼女はピチピチの衣装着てボディラインが強調されたコスチュームで出ずっぱりなのに、
世の男たちが満足しないわけないですもん(笑)。強烈なフェロモンがムンムン漂ってましたもんね。。。

そういえば、映画の冒頭で主人公の家のトイレで小便すると、
それが尿検査も実施できるようになっていて、正確な検査データが得られるというシーンがあるのですが、
これは画期的な発想ですね(笑)。個人的には是非とも実用化させて欲しいですね。

まぁ確かに大傑作とまでは言えないけど、
あまり深く考えずに軽い気持ちで観る分には、まずまずの映画と言っていいと思います。

最近はすっかりハリウッドでも地位を下げた感があるマイケル・ベイですが、
また、これぐらいの映画を定期的に発表して、夏休み映画や冬休み映画の目玉を作って欲しいですね。

(上映時間135分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 マイケル・ベイ
製作 マイケル・ベイ
    イアン・ブライス
    ローリー・マクドナルド
    ウォルター・F・パークス
原作 カスピアン・トレッドウェル=オーウェン
脚本 カスピアン・トレッドウェル=オーウェン
    アレックス・カーツマン
    ロベルト・オーチー
撮影 マウロ・フィオーレ
美術 ナイジェル・フェルプス
衣装 デボラ・リン・スコット
編集 ポール・ルベル
    クリスチャン・ワグナー
    ロジャー・バートン
音楽 スティーブ・ジャブロンスキー
出演 ユアン・マクレガー
    スカーレット・ヨハンソン
    ジャイモン・ハンスウ
    スティーブ・ブシェミ
    ショーン・ビーン
    マイケル・クラーク・ダンカン
    イーサン・フィリップス