インベージョン(2007年アメリカ)

The Invasion

悲劇の宇宙船墜落事故と同時に、地球に襲来してきた謎の地球外生命体。
徐々に地球外生命体は人体を借りて、地球を侵略し始め、必死に抵抗する人間を次々と無気力人間に変え、
やがては驚異的な感染力で人々へと広がっていく様子を描いたSFパニック・スリラー。

ジャック・フィニィ原作の『盗まれた街』の4度目の映画化だったのですが、
やっぱり正直言って、この原作の映画化は78年にフィリップ・カウフマンが監督した、
2回目の映画化ヴァージョンの出来が素晴らしくって、これを越えられない感じですね。

さりとて、矛盾したように聞こえるかもしれませんが...
少なくとも僕の予想していたよりは、ずっと良く出来ていて、失礼ながらも「なかなか、やるじゃん」と思いました。

これまでの映画化作品はカルトな空気を残したテイストに仕上がっていましたが、
本作はどちらかと言うと、ウィルス・パニックを描いた映画という感じになっていますね。
この辺は最近の流行りって感じですが、これはこれで新たな解釈の映画と言えますね。

寝てしまうと、自分のクローンをマユの中にコピーされるシーンの不気味さなどはありませんが、
本作はウィルスを感染させるシーンが、何か緑色の液体を吐きかけられることにより表現されており、
正直言って、食事中にはあまりオススメできない気持ち悪さで、映像表現が直接的になっていますね。

一見すると、順調な映画のようではありますが、
一方で撮影にあたっては、様々な紆余曲折があった企画らしく、
当初、ハリウッド進出第1作として支援したオリバー・ヒルシュベーゲルの撮影ヴァージョンに、
配給会社であるワーナー・ブラザーズの関係者がダメ出しをしたおかげで、再度、撮り直しとなりました。
ところがこの要求をオリバー・ヒルシュベーゲルは拒否したそうで、結局、違うメンバーで一部のシーンを
撮り直し、当初とは全くニュアンスの異なるシーンを撮影せざるをえなくなったようです。

まぁジョエル・シルバーという、大きなプロダクションがバックに付いていたことが幸いしてか、
無事に撮り直しを行うことができましたが、場合によってはお蔵入りになっていたかもしれませんね。

僕はあまりオリバー・ヒルシュベーゲルという映像作家のことはよく知らないのですが、
映画の世界観を作るのは、まずまず上手いと言っていいのではないでしょうか。
クライマックスでのサスペンス劇の盛り上げ方なんかは悪くなかったと思います。
主人公と彼女の息子が乗る車に次々とゾンビのような輩が飛び乗ってくるシーンはまずまずの恐怖感。

ひょっとしたら、オリバー・ヒルシュベーゲルが最初に編集したヴァージョンでは、
もっと酷い出来でつまらない映画になっていたのかもしれませんが、具体的にはどこを撮り直したのでしょうか?
僕にはよく分からないのですが、チョットだけ教訓的な説教臭い部分があって、ここが追加されたのなら、
如何にもハリウッド的で僕はどうも好きになれず、余計な撮り直しだったとしか思えないですね。
(ちなみに撮り直しには、『マトリックス』のウォシャウスキー兄弟に担当してもらったらしい)

上映時間もタイトにまとめられており、ヴォリューム的にも丁度良いですね。
映画の序盤からテンポ良く進んでいきますから、これぐらいのヴォリュ−ムだとアッという間の内容です。

但し、そもそもこの企画に対して強く思うことなのですが、
ジャック・フィニィの『盗まれた街』の映画化がわずか50年の間に4回ですから、チョット多過ぎますよね。
さすがに映画化の間隔が短くって、映画自体に新鮮味が欠けることは否定できませんね。

やっぱりこういう企画からは、ハリウッドのアイデアの枯渇というのを感じずにはいられないんですよね。

まぁ定番とも言えることではありますが、街の人々が徐々に無表情になっていき、
体を乗っ取られていない人々が次第に常軌を逸していき、乗っ取られた人々から襲撃される。
こうして謎の新生物の侵略が進んでいくのですが、この恐怖はまずまず上手く描けていると思います。

こういうオーソドックスな部分は良く出来ているのに、イマイチ映画が刺激的なものにならなかったのは、
やっぱり企画自体に新鮮味が欠けているからだろうなぁ。そういう意味では、オリバー・ヒルシュベーゲルには
不運なハリウッド進出作だったと思うし、彼の最初の編集ヴァージョンを観たいと思うんですよねぇ。

それと、ひじょうに下世話でどうでもいい話しなのですが...
映画の序盤で、ニコール・キッドマンが朝ご飯の支度をしている際に彼女が着ている、
透け透けのルームウェアが気になって(笑)、この映画を観終わった後、2日は脳裏に焼きついてました(笑)。
彼女のファンであれば、おそらくこのシーンだけでそこそこ満足できるのではないでしょうか(笑)。

あと、期待のダニエル・クレイグを“007シリーズ”以外で初めて観ましたが、
もう少し登場シーンを与えて欲しかったですね。これではさすがに不発だったとしか言いようがありません。
おそらくシリアスな映画などでも芝居ができるだけのアピール性ある役者なんだろうと思うのですが、
本作では役の位置づけそのものがイマイチだったせいか登場シーン自体が少なく、
彼本来の魅力を今一つ活かし切れないまま、映画が終わってしまった感じが残って残念ですね。

とは言え、映画は及第点を超えた出来と言ってもいいし、
ニコール・キッドマンの主演作としては、十分に満足可能な内容だと思いますね。

今後のオリバー・ヒルシュベーゲルの創作活動にも、期待が持てる一作ですね。

(上映時間96分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 オリバー・ヒルシュベーゲル
製作 ジョエル・シルバー
原作 ジャック・フィニィ
脚本 デビッド・カイガニック
撮影 ライナー・クラウスマン
編集 ハンス・フンク
    ジョエル・ネグロン
音楽 ジョン・オットマン
出演 ニコール・キッドマン
    ダニエル・クレイグ
    ジェレミー・ノーサム
    ジャクソン・ボンド
    ジェフリー・ライト
    ヴェロニカ・カートライト
    ジョセフ・ソマー
    セリア・ウェストン