ザ・バンク 堕ちた巨像(2009年アメリカ・ドイツ・イギリス合作)

The International

やたらと血生臭い映画ではありましたが...
これは久々に楽しめたサスペンス・アクションでしたね。実に真っ当な路線で勝負してきた作品です。

監督は『パフューム ある人殺しの物語』のトム・ティクヴァで、
そりゃまだまだ詰めの甘い部分はあるけれども、今回は奇をてらう部分もなく、
実に誠実に、ストレートに映画を押し通したようで、これが結果的に正解だったと思いますね。

最近はこういう実直に真っ直ぐ押してくるスタイルを持った映画は数少なくなっていましたから、
僕はこの映画の強い芯の通ったスタイルに、ホントに感心してしまいましたねぇ。

映画の主人公サリンジャー捜査官はフランスはリヨンに本部を置く、
インターポール(国際警察)の捜査官で、巨大国際銀行であるIBBCの不正行為を暴くために、
ニューヨーク検事局の女性検事官エレノアと共に、内部告発者や情報提供者への事情聴取を進め、
IBBCの闇の部分に迫ろうとしていたものの、次第に政府が介入してまでも捜査妨害にあってしまいます。

実はこのIBBC、途上国の借金やミサイル売却など
様々な利権に絡んでおり、IBBCの悪事を暴かれると、複数の政府が困るというカラクリがありました。

かつて、内偵を進めていた事件の捜査で、
事件の核心に迫った途端、情報提供者を片っ端から殺害され、事件の捜査をもみ消された
苦い過去を持つサリンジャーは捜査妨害を警戒しながらも、命懸けで捜査を続ける姿を描きます。

前述したように、血生臭い描写が多い映画ではありますが、
何度か登場する追跡シーンや、銃撃戦シーンの見応えはたっぷりあり、
特に映画の中盤にある、グッゲンハイム美術館での壮絶な銃撃戦はひじょうに良い。
らせん状になっている通路の構造的な面白さもあるけど、これはアクションの見せ方も秀逸であり、
また、次から次へと現れる襲撃者たちの登場のさせ方も、シーンの緊張感を増長させるのに寄与している。

欲を言えば、演出のテンポがもっと良ければ、
話しの運びももっと良くなっただろうと思えるのですが、それでも致命的なほど遅いわけではありません。

最近はハリウッド製の大型アクション映画でも、ここまでエキサイティングな映画が
数少なくなってきましたから、こういう撮り方ができるだけの手腕があるというのは、
とても貴重なことだと思うし、トム・ティクヴァの今後の創作活動に注目したいところですね。

特にサスペンスの盛り上げ方は上手かったと思うし、
グイグイ、グイグイ、観客を惹き込む力に関しては、とても強い作品になっていますね。
これはトム・ティクヴァが最初に評価された『ラン・ローラ・ラン』から、共通していることですね。

銃撃戦シーンの撮り方なんかは、出演者の身のこなしが良いですね。
彼らをあらゆるショットから撮って、色々と工夫しようとする意図が見えるし、
それが意図だけでなくって、まるでシューティング・ゲームのように見えて、画面に緊張感が出ますね。
あらゆるショットから映すことによって、空間を広く見せることにも成功していますね。

ただ「工夫しました」ってだけじゃなくって、
ある一定の効果がしっかりと認められるあたりは、実に凄いことだと思いますね。

映画の冒頭で、情報提供者と駐車場で接触した男が
突如として通りを渡ろうとした際に、嘔吐して倒れて死んでしまうシーンが強烈だったのですが、
こんな瞬間的に毒殺できるテクニックがあるというのは怖いですね。
主人公のサリンジャーも過敏になって、過剰反応してしまう気持ちがよく分かります。
(まぁ・・・現実にあんな過剰反応してしまうと、すぐにケンカになるだろうけど...)

現実にあんな方法でサクッと人殺しが行われるのであれば、
恐ろしくて人混みの中に入れないし、うっかり他人とぶつかろうものなら脅えてしまいますね(笑)。

この映画のストーリーのモデルとなったのは、
91年にルクセンブルクに実在した国際銀行が破綻したトピックスらしく、
ホントはこの辺の裏事情も知っていれば、もっと楽しめるんでしょうね。
但し、そういった社会派な側面を持つ作品でありながらも、しっかりとエンターテイメントとしての
路線を強調したためか、あまり細かいことに気を配らずとも十分に楽しめるようになっていますね。

この辺はトム・ティクヴァの作戦勝ちって感じで、
つまらないミステイクもせずに、いろんな意味でしっかりした映画になるように配慮されていますね。

個人的にはナオミ・ワッツ演じるエレノアはもう少しクローズアップして欲しかったのですが、
従来のこの手の映画では、彼女とサリンジャーのロマンスなんかも欲張って描きたがるのですが、
本作はそんな欲目に見向きもせず、あくまで硬派に押し通したあたりも、ある意味では新鮮かもしれません。

一応、日本でも劇場公開された作品ではあるのですが、
あまり大きな話題となっていた記憶はないのですが、もっとヒットしても良かったと思うんですよね。
製作総指揮としてジョン・ウーが参加していることから分かるように、殊に銃撃戦にかけては
並々ならぬ情熱を捧げており(笑)、映画全体のバランスもひじょうに良いです。

そういう意味で、もっと評価されても良かった作品だと思いますけどね。。。

(上映時間117分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

日本公開時[PG-12]

監督 トム・ティクヴァ
製作 チャールズ・ローヴェン
    リチャード・サックル
    ロイド・フィリップス
脚本 エリック・ウォーレン・シンガー
撮影 フランク・グリーベ
編集 マティルド・ボンフォワ
音楽 トム・ティクヴァ
    ジョニー・クリメック
    ラインホルト・ハイル
出演 クライブ・オーウェン
    ナオミ・ワッツ
    アーミン・ミューラー=スタール
    ブライアン・F・オバーン
    ウルリク・トムセン
    パトリック・バラディ
    ミシェル・ヴォレッティ
    ジェームズ・レブホーン
    ジェイ・ヴィラーズ