マイ・インターン(2015年アメリカ)

The Intern

何年か前にインターンシップをテーマにした映画がありましたけど、
本作は就職前のインターンシップではなく、リタイアした高齢者のシニア・インターンシップを描いた作品。

上から目線な言い方で恐縮ですが、これは感心しました。
社会性を考えると賛否両論に至るのだろうが、これは映画のバランスがとても良い。
どこか肩入れする部分は無く、映画全体の塩梅を作り手が強く意識しながら、上手く撮れている。

簡単に言ってしまうと、この手の映画は現代社会をリードする若者の理屈vs時代から取り残された年寄り
みたくなりがちなのですが、本作は「お互いを認める力」を描いていて、実に建設的な内容になっている。

作劇的に考えると、登場人物の対立を敢えて描かない映画になっているので、
“波乱”が無いせいか、ドラマティックに描くことが難しいように思えるのですが、
ジェネレーションギャップではなく、お互いに助け合うということを前提に描いているせいか、
どちらかが正しくて、どちらかが間違っている(“折れる”)という構図になりにくい。それが結果的には正解だったと思う。

監督は女流監督ナンシー・マイヤーズ。いつもの彼女の監督作品であれば、
どちらかと言えば、コメディな内容に傾倒していくのですが、本作はそこまでコメディに傾倒していません。

映画は電話帳を印刷し販売する会社で40年以上勤務し、営業職に工場責任者の職を歴任し、
今はリタイアし老後の生活を送っていたものの、長年連れ添った妻が他界し、ブルックリンで一人暮らしし、
たまに子供と孫の家に泊まりに行くという日々を送っていたベンが、社会と隔絶されたような生活に危機を感じ、
自ら応募要件にあった自作PRのVTRを製作し、アパレル会社のシニア・インターンに応募し、活躍する姿を描きます。

この映画の大きなキー・ポイントは、ベン自身がナレーションで語っている通り、
彼自身は別に不幸な境遇にあるとか、私生活で大きなトラブルを抱えているとか、経済的に苦しいとか、
自分の身の回りに大きな障害があるわけでもなく、比較的、満ち足りた老後を送っているということだ。

これは不幸が重層的に重なることを描きがちな映画界に於いて、
このベンという主人公はいたって庶民的というか、その辺に多くいる一般人と同じようなキャラクターだということだ。

そうであるがゆえに、仕事に生きてきた人にとっては、誰にでも起こり得るシチュエーションということ。
共感性を得やすいということもあるのですが、敢えて日常的かつ平凡な目線で描くということで、
映画的には逆にハードルを上げて撮ったと、僕は解釈しました。これはホントに難しい題材だったと思います。

今から仕事を辞めた年齢のことなど詳細に考えることはできませんが、
日本流に言う定年退職の年齢が近づくと、否が応でも自分事として意識し始めるようになるでしょう。
今や日本は超高齢化社会ですから、労働者人口は減るし、労働者の平均年齢は上がりつつあります。
最近は“エイジ・フレンドリー”という言葉が生まれるぐらい、日本では高齢者が安全に働くことがテーマになっています。

今の自分は定年退職を迎えたら、早々にリタイアして好きに過ごしたい・・・と思ってはいますが、
おそらくいざ現実問題として考えたら、おそらく経済的な部分である程度は働かざるをえないのでしょうね。
その時に雇ってくれるところがあれば良いのですが、やっぱり“老後2000万円問題”がありますから(笑)。

新型コロナウイルスの流行で、外国人実習生が入国しづらくなり、
そうでなくとも外国人実習生の扱いに賛否がある日本国内ですが、そういう外的な力に頼らざるをえないぐらい、
今の日本の特にブルーカラーの仕事は、日本人がやりたがりません。それは給料の問題もありますが、
労働者人口が減ると、必然的に職に就きやすくなり、そういったブルーカラーの仕事は不人気職になりつつあります。

そうなると、正規雇用者の比率が下がるなどの問題があり、賃金を上げるにも限界があります。
特に一次産業や二次産業というのは、固定費の負担がもの凄く重くのしかかる会計構造になっていて、
固定費を上げて全体の収益を確保するためには、収穫物・製造物の価格にダイレクトに反映せざるをえません。
(収益を確保しなければ、維持管理や新規投資の原資が無くなるため、事業が成り立たない・・・)

すると、どうなるかと言うと、こういった仕事の現場でも高齢化が著しく進むわけで、
ブルーカラーの仕事は必然的に労災のリスクが高い現場ですので、“エイジ・フレンドリー”がテーマになるわけです。
僕の知る限りでは、80代前半の方でもこういった仕事に就いて、低賃金で働いている人が現実にいます。
(終日の立ち仕事は、80代という年齢を考えると、肉体的にもかなりキツい仕事だと思います・・・)

勿論、日常生活のために給料を得るために働いている高齢者の方もいるでしょうし、
中には本作の主人公ベンのように、社会との接点を失うことを恐れて、働いているという人もいるでしょう。

本作で描かれたベンのスゴいところは、とにかく今の時流を否定的に見ないところでしょう。
インターンに応募したアパレル会社で働く人は若者ばかりで、働き方・価値観もベンとは大きく異なる。
そこには間違いなくジェネレーション・ギャップがあるはずで、ベンの本音は同意できない部分もあるのだろうが、
ベンはそういった本音でぶつかる前に、彼が知ること、彼ができることの最善を尽くすことに注力します。
つまり、異を呈するというよりも、彼が知ること、できることで若者をアシストすることに徹するのです。
それは彼の流儀を押し通さず、若者のスタイルを尊重して、それで出来るようにアシストするのです。

40年という会社人生を歩んでキャリアを築いてきた人にとって、“我を殺す”というのはスゴく難しいことと思う。

しかも、フェイスブックに代表されるように、現代のコミュニケーション・ツールに対して、
抵抗せずに対応しようとする姿勢を持ち、諦めることなく順応しようとする姿勢もスゴい。
要するに、ベンは他者を認める力が高いからこそ、インターンという立場を超越して、会社で認められるわけです。

一方で、アン・ハサウェイ演じるアパレル会社の社長であるジュールズは、
自分で立ち上げた通販を主体とするアパレル会社を、18ヵ月間という短期間で従業員200名という
全米でも有力なe−コマース企業として成長させたことを誇りに、ワーカーホリックに走り続ける女性社長だ。

社会貢献のために同意したシニア・インターンシップ制度でベンを雇用するものの、
実は元々、彼女はお年寄りと接することが苦手であると自覚していて、ベンに仕事を与えることも気が進まない。

しかし、ベンの勤勉さと誠実さに彼女の見方が変わっていくということなのですが、
彼女は彼女でベンの積極的な歩み寄りがあったとは言え、彼女にもベンを認める度量があったということだ。
往々にして、業態からして馴染まないと判断する人間は、先入観で排除しがちな経営者が少なくないが、
ジュールズには人を観察する力と、前言を撤回できる勇気があったということだ。これは実に大きな力でしょう。

まぁ、セットアップ作業場でジュールズが見せたように、仕事への情熱がスゴく、
自分の思いが強過ぎるがゆえに、自分のやり方を押し通してしまう側面もあるのですが、
部分的にでも仕事を他人に任せて、他者の仕事の出来映えも正当に評価するということができれば、
ジュールズは時代を代表する経営者になる素質が十分にあるということなのでしょう。どんなに能力が高い人でも、
一人の人間ができることって、限界がありますからね。そういうときこそ、ベンのような人が良い指南役になるのです。

ジュールズの夫のエピソードは個人的にはいらなかったような気がするんだけど、
それを除けば、実に質の高い“助け合い”のドラマだと思います。この平々凡々なストーリーを、
しっかり映画的に見せることができたというのは、ナンシー・マイヤーズの力量の高さを証明したと思います。

ベンとジュールズの関係性は男と女というより、どちらかと言えば、父と娘。
そんな父親像を演じるにデ・ニーロというのは、この時期では絶好のキャスティングだったのかもしれません。

(上映時間121分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ナンシー・ナイヤーズ
製作 ナンシー・マイヤーズ
   スーザン・ファーウェル
脚本 ナンシー・マイヤーズ
撮影 スティーブン・ゴールドプラット
編集 ロバート・レイトン
音楽 セオドア・シャピロ
出演 ロバート・デ・ニーロ
   アン・ハサウェイ
   レネ・ルッソ
   アンダース・ホーム
   アンドリュー・ラネルズ