インフォーマント!(2009年アメリカ)

The Informant!

食品添加物のメーカーにて勤務し、生産管理の業務に於いて重要なポジションを務めるウィテカーが
企業慣習として繰り返される、国際的な企業間での価格協定を巡って、FBIへの内通を試みたことから、
周辺に様々な波紋を呼び、捜査が二転三転する様子をコミカルに描いたサスペンス・ドラマ。

監督は『オーシャンズ11』のスティーブン・ソダーバーグで、
最近でこそ、ややハリウッドでの注目度が落ちてしまったような感はありますが、
少なくとも10年ぐらい前までは、ハリウッドでも期待の映画監督であり、日本でも注目されていました。
僕、個人としてもそこまで肩入れはしてなかったのですが、とは言え、『エリン・ブロコビッチ』や『トラフィック』、
『オーシャンズ11』と続いた頃は、少なくともハリウッドを代表するヒットメーカーにはなるだろうと思ってました。

しかし、包み隠さず本音を言いますと、正直申しまして...
02年の『ソラリス』を撮ったあたりから“道”に迷い始め、最近は低迷していると言っていいような気がします。

本作なんかも、ユニークな題材であり、決してつまらない映画ではありません。
シナリオもしっかり書けているようであり、特段、「大傑作!」と賞賛するほどでもないにしろ、
そこそこしっかりとした作りで、小粒ながらも充実した映画という印象を受けましたね。
でも、やっぱ...スティーブン・ソダーバーグが低迷しているせいか、どうもこの映画の扱いが悪いんでよね。
そのせいか、日本でも劇場公開されたようですが、ほとんど注目されずに劇場公開が終わってしまいました。

ただ、そういう微妙な扱いを受けてしまうのは、なんとなく分かる気がするんだよなぁ〜。
どことなくスティーブン・ソダーバーグらしく、生真面目な映画という印象は拭えず、
僕はいっそのこと、本作はもっとコメディ的に描いた方が、ずっと映画は良くなった気がしますけどね。

言ってしまえば、本作は食品の安全性というテーマに肉薄した作品であり、
昨今は世界的に食品の安全性については、数多くのトピックスがあって、多くの議論を呼びます。

この傾向は日本だけではなく、世界的に広がっており、
食品の品質管理に関する、国際的な認証制度は広く浸透しており、
日本でもISOやHACCPに関する認証を受ける動きというのは、数多くの食品会社で見られています。

考えてみれば、食品は当然のことながら、我々の体内に摂り込まれるものであり、
場合によっては、命を落とすことだってあるわけで、今現在、世界各国に数多くの食品が存在しますが、
それらの多くは先人たちの経験に裏打ちされた原理原則があるわけで、その経験には当然、
腐敗した食べ物を食べて健康を害した、或いは死に至ったということで獲得してきた英知があるはずなのです。

そう考えると、人々の関心が食品の安全性に向くことは、何ら不思議ではないように思います。

事実、食品を由来とする事故は後を絶えないし、
人々が必ず必要とするためか、日本をはじめ各国、食品産業の企業数は極めて多い。
それゆえ、様々な観点から不正行為が過去に起こったことは事実ですが、
悲しいかな、“安全な食品はタダでは買えない”というのが現実であり、楽をして安上がりに、
パーフェクトな食品を製造するのは難しいわけで、食の安全はコストアップにつながるのが現実です。

例えば日本でも推進されている、HACCP型の管理なんかは
アメリカで宇宙食を製造する管理手法として確立していますし、勿論、全ての事業所がそうとは限りませんが、
食品製造に関わる管理手法に関するアプローチというのは、欧米の方が先進的な部分はありますからね。

それどころか、FSSC22000など、次々と食品製造の品質管理手法に関する認証制度は
増加傾向にあり、日本のエンドユーザーの一部で、こういった認証取得を取引要件にする企業もあるぐらいです。

そうであるがゆえ、本作で描かれたカルテルのように不正競争も近接した問題であります。
これは、いわゆる業界の暗黙のルールなど、過去の歴史からのしがらみもあったりして、根深い問題なんですね。
昨今の国際的な食品安全に関わる興味・関心が高まっている時代であるがゆえ、尚更のことなのですよね。

この映画の主人公ウィテカーはライバル企業と結託して、
マーケットをも掌握しようと、モラルに反するような悪事をも躊躇しない環境に嫌気が差し、
彼はインサイダーとしてFBIなどに助けを求めるわけなのですが、国際的な価格密約に対する憤りよりも、
彼の行動の原動力はチョットした目立ちたがり屋な性格なのか、あまり用意周到に生きるタイプではありません。

そう、ある意味で彼はとんだお調子者だったというわけなのですが、
そんな内容であるからこそ、僕は本作でもっとニヤリとさせて欲しかったですね。あまりに中途半端で困りました。

監督のスティーブン・ソダーバーグはシリアスにもコメディにもできる題材を、
どちらかと言えば、コメディ的なタッチで映画を進めているのですが、全体的に中途半端だったと思う。
個人的にはもっと大胆にコメディ映画にしてしまって良かったと思うし、そうできなかったがために、
映画に良い意味でリズムが生まれず、2時間にも満たない上映時間が冗長に感じられる部分はありましたね。

メチャクチャをやった人物を主人公にした映画なわけですから、
もっと開き直った方が映画はずっとポイントを端的に表現できただろうし、冗長な空気は生まなかったでしょうね。

どうやらスティーブン・ソダーバーグは映画監督は休止し、
今後はテレビ業界での活動を始めるとコメントしているそうなのですが、
本作なんかを観る限り、ひょっとすると最近は軽いスランプに陥っていることを自覚しているのかもしれませんね。
やはり勢いのあった頃の彼の監督作品と比べると、本作なんかは明らかにパワーダウンしていることは否めません。

まぁソツの無い映画ですから、スティーブン・ソダーバーグ監督作という先入観さえ取り去れば、
そこそこ楽しめる映画だとは思いますがね。かつての彼の監督作をどうしても比較してしまいがちな人には、
あまり冴えない映画という印象しか残らないでしょうね。個人的には、もう一度、奮起して欲しいのですが。。。

(上映時間108分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 スティーブン・ソダーバーグ
製作 グレゴリー・ジェイコブズ
    ジェニファー・ジェイコブズ
    マイケル・ジャッフェ
    ハワード・ブラウンスタイン
    カート・アイケンウォルド
原作 カート・アイケンウォルド
脚本 スコット・Z・バーンズ
撮影 ピーター・アンドリュース
編集 スティーブン・ミリオン
音楽 マービン・ハムリッシュ
出演 マット・デイモン
    スコット・バクラ
    ジョエル・マクヘイル
    メラニー・リンスキー
    ルーカス・キャロル
    エディ・ジェイミンソン
    トム・ウィルソン
    クランシー・ブラウン