イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密
(2014年イギリス・アメリカ合作)

The Imitation Game

正直に申し上げて...この映画を観るまでは、
アラン・チューリングという人物を知らなかったし、こんな事実があったのかと、驚いたというのが本音。

多少、脚色している部分はあるのだろうけど、
これは素直にトンデモない、スゴい話しだと思います。第二次世界大戦の大きな鍵を握った人物の物語です。

と言うか、この物語に触れて、驚かない人などいるのだろうか・・・?

アラン・チューリングは実在の人物で、数学者としてケンブリッジ大学で教鞭をとっていました。
彼は実に優れた研究者であり、明晰な頭脳を持っており、第二次世界大戦下、とある極秘任務に就いていました。
彼がその際に開発したものが後のコンピュータの礎となったものであり、第二次世界大戦がすでに情報戦で
あったことを決定づけるものとなったのです。彼は同性愛者であり、当時のイギリスでは同性愛は法律で禁じられ、
逮捕されたことがキッカケで彼は薬物治療を受け、研究者としての道を“塞がれ”、41歳の若さで自殺してしまいます。

イギリス政府は、2013年、アランへの恩赦を発表し再評価と共に、
過去、同性愛で罰せられた人々への恩赦を求める動きを加速させることに至ります。

エニグマとは、ナチスの暗号機の名前でドイツ軍だけではなく、ドイツ政府も利用しており、
様々な政治的メッセージを含めたものは、このエニグマを介して各所に指令を飛ばしていたようだ。
そういった重要な場面で使うに値する能力があるとドイツ国内では認められ信頼されており、
当時のドイツ人の認識としても、エニグマは見破られることがない絶対的な暗号機であると思っていたのかもしれない。

当然、各国がエニグマの解読に奔走していたわけですが、あのアメリカでさえ難航していました。
第二次世界大戦では厳しい国内情勢に追いやられたイギリスは、なんとかして難局を克服するために、
当時のイギリス国内の精鋭を集めて、エニグマの解読に当たらせるのですが、やはりなかなか上手くいきません。

統計的手法と、ゲーム理論に卓越した人物を選抜するために、
映画で描かれるのは、アラン・チューリングが考えたテストは難解なクロスワード・パズルを制限時間内に
解かせることで、彼が重要視していたのは正解にたどり着くまでのプロセスそのものであったようだ。

当時は、世界的にも男尊女卑の風潮が色濃く残っていた時代で、
「男が働き、女は家事」という先入観があったイギリスでも、このアランの試験を受けに遅刻してきたジョーンを
会場整理員が門前払いするところ、アランがジョーンに遅刻しないよう注意を与えて受験を許可するシーンがあります。

アランはエニグマ解読のためには天才的なひらめきと、考えることができる能力が必要と考えており、
その能力さえあれば性別は問わないというスタンスでしたので、ジョーンが女性であるからと断わる気などありません。

このアランの判断が正しかったことを裏付けるように、ジョーンがアッサリとクロスワード・パズルを解き、
彼女も優秀なメンバーとしてチームに加わることとなったのです。このジョーン役にキャストされたのが、
『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズでヒロインを演じていたキーラ・ナイトレイで、本作劇場公開当時は
彼女のキャスティングについて賛否両論であったらしいのですが、僕は彼女の頑張りが映画を支えたと思っています。
こういう頑張りが高く評価されて、彼女が助演女優賞部門でオスカーにノミネートされたことが、素直に嬉しいですね。

アランはエニグマを解読できる暗号解読機に留まらず、統計的に数理情報や言語情報を処理して、
最適な判断を下すために重要な情報処理結果を出す、極めて有能な“装置”を作り出そうと尽力します。

驚くことに、現代で言うスーパー・コンピューターのような発想は、アランの発想と一致する。
つまり、スーパー・コンピューターを最初に実際に具現化しようとしたのは、アラン・チューリングなのである。
現代と同様に、当時も多額の資金を投資しただけに、早期に結果を出すことを期待していた人々の思惑で
アランの開発した“装置”は潰されるところでしたので、アランは逆にそう簡単に成果を他言しない方が良いと判断します。

これは現代社会にも通じるものがあって、ついつい分かり易い成果のみを評価するせいか、
一つの成果が達成されたと知れば、人間の欲はドンドン膨れ上がって、目の前のことに対処しようとしがちで、
目先で利することだけを考えて、永続的かつ戦略的に利用していこうとする精神が、どうしても芽生えにくいです。

当時のアランも早々に解読機の能力を発揮して、何でもかんでも行動に移せば、
ドイツ政府はエニグマが解読されたと悟って、また新たな解読機を開発するに決まっていると考え、
敢えてエニグマの解読を相手に分かるようには行わないという、人道的には苦渋の決断を下します。
この判断には当然、賛否はあるだろうけど...でも、映画を観る限り、アランの言い分は筋が通っていると思った。

事実か、脚色されたものは分かりませんが、このアランの判断が
結果的に戦争の終結を早まらせ、それと同時に戦火で命を落とす人数を劇的に減らしたとする見方があります。
しかし、そんな“英雄”であっても、イギリス政府は長らくアランの功績を機密情報扱いとして、秘匿してしまったのです。

映画はこういった微妙なエッセンスをブレンドしながら、実に見応えのあるドラマに仕上げています。
ただ単にシナリオが面白いというだけではなく、キチッと作り込まれた内容になっており、高評価も頷けますね。

映画はジェンダーフリーを求める声にも後押しされ、
同性愛者ということを理由に、不当に社会的に追い詰められていった優秀な研究者である、
アランの功績を称える作品として、より高い評価を得たようですが、単にジェンダーについて論じたからではなく、
やはり映画として優れているから評価されたのだと思います。莫大な予算を投じた作品ではないでしょうから、
イギリス国内に留まらずに、ここまで映画賞レースに食い込んだこと自体、大健闘だったと言っていいと思います。

実際に僕も、アランのことをこの映画で初めて知りましたが、
第二次世界大戦をコントロールさせ、終結へと導いたわけであり、、現代のコンピュータの礎の開発者だ。
(勿論、このコントロールの中で犠牲となった人々も多く出たことも忘れてはならないが・・・)

彼がエニグマの解読に成功しなければ、確かに第二次世界大戦の影響は更に甚大なもので、
その後の歴史や文明の発展、人々の社会生活の進展スピードは、大きく変わっていたかもしれません。

ただ、強いて言うと、僕には映画の時間軸の整理が今一つついていないように感じられる部分があった。
ストーリーテリングの問題という感じもしますが、もう少し上手く描いて欲しかった。ここは残念だったところ。
結果として、映画の出来自体に大きな影響はしていないようには思いますが、もっと素直に描いても良かったと思う。

1950年代の警察がアランを尋問するシーンが所々で挿し込まれるのですが、
これがどうにも映画の流れを阻害しているように感じられてしまった。ここはもっと上手く構成して欲しいところ。
ここさえクリアできていれば僕の中では傑作と言って作品でした。まぁ、それでも十分に面白い映画だけれども。

個人的には第二次世界大戦から情報戦を繰り広げていたということは興味深かった。
現代のように技術が進展していない時代に、どういった手法がとられていたのかに肉薄した映画は、そう多くはない。

そういう意味で、本作は一つの新たな切り口を提示した映画と言えるでしょう。
勿論、僅かながら描いた作品はあるにはありましたが、ここまでクローズアップした作品は多くないと思います。

しかし、この映画を観ていて、頭が良過ぎると大変そうだなぁとは思った(笑)。
だって、他人の会話を聞いていても、常に何かしらのパズルになっていると直感が働くわけでしょ。
四六時中、そんな思慮にまみれていたら、さすがに精神的に疲れ果ててしまいそうです・・・。

(上映時間113分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 モンテン・ティルドゥム
製作 ノラ・グロスマン
   イドー・オストロウスキー
   テディ・シュウォーツマン
原作 アンドリュー・ホッジェズ
脚本 グレアム・ムーア
撮影 オスカル・ファウラ
編集 ウィリアム・ゴールデンバーグ
音楽 アレクサンドル・デスプラ
出演 ベネディクト・カンバーバッチ
   キーラ・ナイトレイ
   マシュー・グード
   ロリー・キニア
   アレン・リーチ
   マシュー・ビアード
   チャールズ・ダンス
   マーク・ストロング

2014年度アカデミー作品賞 ノミネート
2014年度アカデミー主演男優賞(ベネディクト・カンバーバッチ) ノミネート
2014年度アカデミー助演女優賞(キーラ・ナイトレイ) ノミネート
2014年度アカデミー監督賞(モンテン・ティルドゥム) ノミネート
2014年度アカデミー脚色賞(グレアム・ムーア) 受賞
2014年度アカデミー作曲賞(アレクサンドル・デスプラ) ノミネート
2014年度アカデミー美術賞 ノミネート
2014年度アカデミー編集賞(ウィリアム・ゴールデンバーグ) ノミネート
2014年度全米脚本家組合賞脚色賞(グレアム・ムーア) 受賞
2014年度フェニックス映画批評家協会賞助演女優賞(キーラ・ナイトレイ) 受賞