ハスラー(1961年アメリカ)

The Hustler

ポール・ニューマンを一躍、世界のトップスターに押し上げた、
ビリヤードに心血を注ぐ若き“ハスラー”の挑戦を描いた、緊張感に溢れたヒューマン・ドラマ。

賭けビリヤードで腕を上げたエディは随分と年上の相棒と、
各地のプール・バーに立ち寄っては、荒稼ぎをする名コンビで名をはせる。
とある日、凄腕で有名な“ミネスタ・ファッツ”に勝負を挑むキッカケを得たエディは、
あわや勝ち寸前というところまでいっておきながら、酔っ払った影響から判断力が狂い、逆転負けをしてしまう。

結局、これが原因で財産を失い、相棒とのコンビも解消。
再び新たな生活を見つけることを決意したエディでしたが、朝のバーで飲んだくれる女性に惹かれ、
同棲生活を始めるものの、やはり彼は“ハスラー”としての感覚が忘れられず、プール・バーへ通います。

そこで“ミネソタ・ファッツ”の側近的存在であったバートと知り合ったエディは、
自身の反省も含めてバートの助言を取り入れようとするも、バートの狙いは全く別なところにあり、
それに気づいたエディが、再び“ミネソタ・ファッツ”に挑戦する姿を描き、映画はクライマックスへ突入します。

監督は寡作な人、ロバート・ロッセン。
彼は決して目立った才覚が感じられる映像作家だとは思いませんが、
本作を観る限り、実に誠実で生真面目な映画を撮れるディレクターのように見受けられますね。
まぁ・・・その生真面目さが良くも悪くも働くのですが、少なくとも本作の場合は、良い方向へ機能していますね。

最近はこういう映画を撮れる映像作家がいないだけに、
個人的にはロバート・ロッセンの監督作品が少ないことに、とても残念な想いになりますね。
(ちなみにロバート・ロッセンは66年に他界してしまっている・・・)

ビリヤードって、僕には馴染みの無い競技だったんですが、
高校生の頃、本作を初めて観たとき、エディを演じるポール・ニューマンのカッコ良さに憧れて、
プール・バーに入り浸ってみたいと妄想していましたが、当然のように日本にそんな環境は無く、
せいぜい24時間営業の某アミューズメント施設で、数えるほどしかトライしたことがなく、
ほとんどできないに等しいレベルなんですが、世界的にはある程度、普及した競技のようですね。

印象的だったのは、5年前に会社の研修で行った、デンマークの研修施設には
まるで福利厚生のような感覚でビリヤード台が置いてあって、現地の講師もフツーに上手い(笑)。

っていうか、その研修に参加していた他の人たちもそこそこ上手くって、
ひょっとしたら僕以外のところでは、流行っていたのかもしれませんねぇ〜(笑)。

で、映画の方はというと、本来なら満点を付けたいぐらいカッコ良い映画ではあるのですが、
個人的には中盤の中ダルみっぷりが目立っている気がして、何度観ても、これだけは感心しない。
おそらくロバート・ロッセンはドラマ部分と、ビリヤード・シーンでバランスを取りながら編集を指示したのでしょうが、
さすがに映画全体を通して考えると、アルコール依存症との闘いに触れた中盤は、もっと何とかして欲しかった。

まぁこの映画の中盤にある、独特な重たさや暗さといったものを意識してか、
86年に何故か突如、製作されたマーチン・スコセッシが監督した『ハスラー2』では、
一気にエンターテイメント色を豊かにした結果、更に見事な失敗作になってしまったように感じるのですが、
そういう意味では、本作で貫かれたシリアスな主張というのは、これはこれで大事だったのかもしれません。
(ちなみに『ハスラー2』は、ポール・ニューマンにオスカーを獲らせるための映画だったと揶揄されている・・・)

また、この映画は“ミネソタ・ファッツ”を演じたジャッキー・グリーソンのオーラが素晴らしいんだ(笑)。
体型的には太くて、酒とビリヤードが好きなオッサンって印象なんですが、エディが指摘するように
実に滑らかなキューのさばきで、露骨にビリヤードの上手さを主張してくるわけではなく、
実に淡々と一つ一つ、狙いをポケットに落としていき、まるで職人であるかのようなぐらい落ち着いている。

この立ち振る舞いのカッコ良さは、クライマックスでポール・ニューマンが完全に踏襲し、
当初、バートがエディに指摘した、人間性が成熟したことの証明だと思うのですが、
その裏側には、エディがアルコール依存症に苦しむ女子大生サラへの愛情なはずなんですよね。

そういう意味で、映画の中盤で中ダルみすると前述はしましたが、
やはりこの中盤でのサラとのエピソードは、決して本作にとって無駄なエピソードではないんですよね。
むしろ、こっちの方がメインテーマなのかもしれないというぐらい、ウェイトを高くしたかったのかもしれませんね。

その意図は、なんとなくですが、僕にも分かります。
ただ、ロバート・ロッセンの生真面目さゆえか、僕にはどうしても迷いながら構成しているように見える。
この迷いこそが、この映画の一つの難点であったように思う。だから「百点満点の傑作!」とは言えないんだなぁ。

バートを演じたジョージ・C・スコットはハリウッドを代表する頑固な人でしたが、
彼自身のデビュー作である『或る殺人』に続いて、本作でアカデミー助演男優賞にノミネートされることを拒否し、
大きな話題となりましたが、70年の『パットン大戦車軍団』ではアカデミー会員の投票のおかげで、
ついにアカデミー主演男優賞を獲得してしまい、お決まりのように授賞式に不参加で代理人も出席させず、
由緒あるアカデミー賞初の、受賞拒否という事態に陥ってしまい、大きな話題となりました。

ちなみにそれでも翌年、71年の『ホスピタル』でも2年連続でアカデミー主演男優賞に
ノミネートされており、それだけ周囲の評価は高かったということができると思いますね。
(当然のように、『ホスピタル』でのノミネートも拒否している・・・)

ケニヨン・ホプキンスの音楽も、モノクロの画面に上手く合うジャズで素晴らしいですね。
この映画はこの音楽が無ければ、これだけカッコ良い印象は持てなかったかもしれませんね。

ビリヤードに興味が無い人にはキツいかもしれませんが、
渋〜い映画が好きだという人には、是非ともオススメしたい秀作ですね。
何より血気盛んなポール・ニューマンが好きな人は、外すことができない一本だ。

(上映時間134分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ロバート・ロッセン
製作 ロバート・ロッセン
原作 ウォルター・テヴィス
脚本 ロバート・ロッセン
    シドニー・キャロル
撮影 ユージン・シャフタン
音楽 ケニヨン・ホプキンス
出演 ポール・ニューマン
    ジャッキー・グリーソン
    パイパー・ローリー
    ジョージ・C・スコット
    マーレー・ハミルトン
    マイロン・マコーミック
    マイケル・コンスタンティン
    ジェイク・ラモッタ

1961年度アカデミー作品賞 ノミネート
1961年度アカデミー主演男優賞(ポール・ニューマン) ノミネート
1961年度アカデミー主演女優賞(パイパー・ローリー) ノミネート
1961年度アカデミー助演男優賞(ジャッキー・グリーソン) ノミネート
1961年度アカデミー助演男優賞(ジョージ・C・スコット) ノミネート
1961年度アカデミー監督賞(ロバート・ロッセン) ノミネート
1961年度アカデミー脚色賞(ロバート・ロッセン、シドニー・キャロル) ノミネート
1961年度アカデミー撮影賞<白黒部門>(ユージン・シャフタン) 受賞
1961年度アカデミー美術監督・装置賞<白黒部門> 受賞
1961年度イギリス・アカデミー賞作品賞 受賞
1961年度イギリス・アカデミー賞主演男優賞(ポール・ニューマン) 受賞
1961年度ニューヨーク映画批評家協会賞監督賞(ロバート・ロッセン) 受賞