ハンティング・パーティ −CIAの陰謀−

(2007年アメリカ・クロアチア・ボスニア・ヘルツェコヴィナ合作)

The Hunting Party

90年代、勃発したボスニア・ヘルツェコヴィナ紛争を舞台に、
「民族浄化」と称して、イスラム教徒の大虐殺を敢行した戦争犯罪人の行方を追う、
3人のアメリカ人ジャーナリストの姿を、シニカルに描いたサスペンス・アクション。

これだけの規模の映画ですから、日本でももっと大々的に劇場公開されてもいいような気がしますが、
実にアッサリと劇場公開が終了し、まるでビデオスルーのような扱いを受けた不遇の作品でもあります。

でも、配給会社がどうしてそんな方策をとったのか、なんとなく理解はできますね。
やっぱり、このレヴェルの出来では配給会社の面々では心配になるだろう(笑)。
シニカルな視点から戦争を描いたとは言え、別にコメディ映画というわけではないし、
強烈なメッセージ性を帯びた力強い映画と言うには、程遠い内容で、やや中途半端な内容だ。

現地人から見れば異国人で、異国の惨状を伝えるアメリカ人ジャーナリストを描いた映画と言えば、
僕の中では何と言っても86年の『サルバドル/遥かなる日々』が強烈で脳裏に焼きついているのですが、
仮に本作にもあれぐらいの強さがあれが、映画は大きく変わっていただろうし、勿体ないですね。

映画の冒頭で主人公らのボスニア・ヘルツェコヴィナ紛争に於ける、
報道姿勢ぶりを紹介するシーンがあるのですが、ここで描かれたとおり、
リチャード・ギア演じるサイモンは恋人を殺害されたわけで、彼には当然、私的感情があったはず。
それがキッカケでキー局のアンカーマンに暴言を吐いてクビになり、日陰な毎日を送るわけです。
しかし、何年もサイモンは復讐心を温めていたわけで、それを晴らすときがようやっと来たのです。

映画のクライマックスで描かれる、サイモンたちの決断は悪くないと思うし、
ある意味で「民族浄化」のような醜い野蛮な行いに対する報復としては、妥当性があると思う。

但し、何となくサイモンの感情が燃え上がる部分というのが感じ取れず、
クライマックスでの爽快感がイマイチなままで終わってしまい、カタルシスにも達しませんでしたね。
それが結果的に映画の強さへとつながらなかった感じで、物足りなさを感じます。

主演のリチャード・ギアも悪くはないけど、もう世代交代が必要かな。
どことなく、この手の役柄も一回りぐらい若い役者を起用してもいいような気がします。
チョイ役で登場したダイアン・クルーガーなんかも勿体ないですよね、こんな使い方されて。

劇中、“フォックス”の居場所を知っている女性として、トンネルの中で隠居生活を送っている最中、
3人が面会に行くシーンで登場してくるのですが、別に彼女でなくともいいようなチョイ役で残念。
『ナショナル・トレジャー』シリーズのヒロインなどで、これからブレイクしていく女優さんだと、
00年代中頃は期待していただけに、こんなチョイ役扱いを受けてしまうのは可哀想だと思いますけどね。

ただ、この映画、さりげないところで上手いところはあります。

例えば、映画の序盤で久しぶりにボスニアへやって来たカメラマンが、市街地を走る車の中から
街の様子を眺めるのですが、どことなくこのシーンは突き放したように撮っており、
ここで時間的なファクターが大きいとは言え、カメラマンが戦地から久しく離れていたブランクを感じさせます。
どことなく彼の表情からは、現実感に乏しいような感覚を映すと同時に、紛争集結から5年が経過したと
言われるものの、国の内情は何も変わっておらず、内戦が未だ継続していることを同時に表現してしまう。

ホントに些細な描写と言えばそれまでなのですが、
この映画は細かい部分までケアできている部分もあるにはあるのです。
このムラさえ無くなれば、本作はもっと良くなっただろうし、訴求する内容になったはずだと思いますね。

戦争をシニカルな視点から描いたにも関わらず、
何も訴求しない、映画に力を感じないというのは、これは明らかに作り手の責任だと言わざるをえません。

一つ僕によく分からなかったのは、
この映画が主人公3人の行動を肯定的に描きたいのか、それとも否定的に描きたいのかよく分からないこと。

と言うのも、3人の行動がジャーナリストとして褒められたものかと言われたら、
僕には一概にそうとは言えないのではないかと思えるからなんですよね。
危険を顧みず、リスクを顧みず、片っ端から目的達成のために手段を選ばず危険な勝負に出るのですが、
それで危険な目に遭わないならまだしも、複数回の危険な目に遭っているわけで、
ハッキリ言って、命を取られずとも紙一重。全てが結果オーライな行動なんですよね。

オマケに結果によっては、国家保安をも揺るがす事態となりかねないため、
お世辞にも模範的、優秀なジャーナリストとは言えない気がしますね。
(まぁ・・・あれぐらいしないとスクープをモノにできないというのは、理解できますがね...)

どことなく作りがチープなので、B級映画が好きな人にはオススメしたい。
劇中、何度か勇んで戦地に乗り込んでくる賞金稼ぎのことを、チャック・ノリスと揶揄的に語っているのですが、
思えばチャック・ノリスと言えば、日本でも熱狂的な支持者がいるB級映画のアクション・スター。

本作の作り手が、何を意図してチャック・ノリス、チャック・ノリスと連呼するのかよく分からないが、
悲しいかな、本作もチャック・ノリスと争うぐらいのB級っぷりをいかんなく発揮しております。

(上映時間103分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 リチャード・シェパード
製作 マーク・ジョンソン
    スコット・クルーフ
    ビル・ブロック
原案 スコット・K・アンダーソン
脚本 リチャード・シェパード
撮影 デビッド・タッターサル
編集 キャロル・クラヴェッツ=エイカニアン
音楽 ロルフ・ケント
出演 リチャード・ギア
    テレンス・ハワード
    ジェシー・アイゼンバーグ
    ダイアン・グルーガー
    ジェームズ・ブローリン
    ジョイ・ブライアント
    リュボミール・ケレケス
    ディラン・ベイカー