レッド・オクトーバーを追え!(1990年アメリカ)

The Hunt For Red October

トム・クランシーの人気小説“ジャック・ライアン・シリーズ”の初映画化。

ジャック・ライアンと言えば、どうしてもハリソン・フォードの印象が強いが、
実はハリウッド映画でも、一番最初にジャック・ライアンを演じたのはアレック・ボールドウィン(笑)。
ハリソン・フォードが演じたジャックとは全くイメージが異なるけど、本作のアレック・ボールドウィンは凄く良いと思う。

と言うか、本作は監督のジョン・マクティアナンがよく頑張りました。
88年の『ダイ・ハード』に続いての大仕事でしたが、やはりこの頃のジョン・マクティアナンは素晴らしい仕事っぷり。

特にこの映画はスコット・グレン演じる“ダラス”の船長が登場してきてから、映画が一変する。
つまり、映画の終盤が凄く良くなる。勿論、前半から面白いは面白いのだけれども、終盤に一気に引き締まる。
ジョン・マクティアナンもどこま意図して撮ったのかは分からないが、終盤の画面いっぱいに伝わる緊張感は
正に特筆に値する秀逸さで、それまで動きが少なかった映画を一気にクライマックスへ向けて、動かしていく。
ひょっとすると、僕が見た“ジャック・ライアン・シリーズ”の映画化作品としては、本作が一番出来かもしれません。

十分にエンターテイメント色は強いものの、後にアクション映画シリーズみたいになった作品と比較すると、
終始、正攻法で押し通した作品となっており、良い意味での緊張感に溢れた素晴らしい出来と言っていい。

この映画で唯一の難点を感じた部分と言えば、
いくら百戦錬磨の敏腕CIAアナリストであるジャック・ライアンとは言え、1度会ったことがあるという程度で、
ロシアの原潜を操り、謎の無謀な航海に出た船長の真の目的を的確に見破れるということに、
映画はしっかりとした説得力を持たせられていない点で、たまたまジャックの勘が当たったという風にしか
見えないところがチョットいただけない。ここは客観的に分析するジャックの能力を示すべきところだ。

この映画で描かれるジャックは、そうやって行き当たりばったりな勘を炸裂させるキャラクターに
なっていることが散見されています。ジャックの魅力をどう捉えるかによりますが、これは賛否両論かもしれません。

個人的にはジャック・ライアンはもっと賢いキャラクターとして描いて欲しい。
本作でアレック・ボールドウィンが演じたように、意外に怖がりという性格はあまり気にならないのですが、
行き当たりばったりな感じで、半ば勘で分析して、たまたま当たったという感じになるのは違和感があるかな。

通常では考えられないジャックの分析なんで、当然のように周囲はジャックの説を疑って聞くので、
皆、ホントのところで協力的とまでは言えないのですが、それを実証を持って証明していく行動力は
確かにジャック・ライアンらしい姿なので、ホントは怖がりなのに身を危険にさらして我慢してまでも、
荒波と暴風の環境で、極寒の海に身を投げ出してまで“ダラス”に飛び乗ろうとするのがホントに凄い。
でも、この姿こそが“ジャック・ライアン・シリーズ”のスタンダードですね。あとはスマートさがあればねぇ・・・。

クライマックスのロシア軍による、魚雷攻撃を受けるシーンはなかなかの迫力。
ジョン・マクティアナンの真骨頂とも言えるアクション・シーンですが、さすがの演出力ですね。

本作自体は米ソ冷戦の夜明けが見えていた頃だからこそ、受け入れられたのかもしれませんね。
核ミサイルを搭載した原潜が暴走するかのように、アメリカを目指して単独航行を始めたことから、
アメリカもソ連も必死になって追い、お互いに別な目的で暴走を止めようする構図が面白く、
ソ連から見たら、技術力を競って開発した原潜をアメリカに没収されては困ると躍起になるというのも面白い。
でも、これって米ソ冷戦下ではとてもじゃないけど、受け入れられなかった内容ではないかと思うんですよね。

まぁ、時代の緊張感が緩和された途端に、アッサリと映画化してしまうあたりは
良くも悪くもハリウッドの懐の深さという感じもするし、この時期ならではの映画という印象もありますね。

同じ原子力潜水艦での緊張をモデルにした映画という意味では、
95年にトニー・スコットが『クリムゾン・タイド』を製作しており、こちらもヒット作になりましたが、
どちらかと言えば、『クリムゾン・タイド』よりも本作の方がエンターテイメント色が強い作品ですね。

2時間を超える映画になってしまいましたが、
ジョン・マクティアナンもできる限り無駄を排除した内容になっていて、尺の長さを感じさせません。
そういう意味では、本作は編集が素晴らしいのかな。重厚感あり、見応えも十分にある作品です。

ロシア原潜の艦長を演じたショーン・コネリーにしても、艦長の補佐を演じたサム・ニールにしても、
ロシア人には見えないところはネックですが、それでも堂々と演じてのける豪快さが気持ち良い。
特にショーン・コネリーはあまり悪役キャラクターを演じないからこそ、映画に対するイメージを決めてしまったものの、
やはり何度観ても、この頃のショーン・コネリーの安定感が素晴らしく、正に俳優しての円熟期という感じですね。

艦長が「自沈する」と言って、部下たちを逃がすという英雄的行動をとったかのように見えて、
実は違うというのが事実なのに、皮肉にも闘いが盛り上がるほど、部下たちが艦長の闘いを称賛するという
流れが何とも面白く、ショーン・コネリーの風貌だからこそ、こういう人望に説得力があるのかもしれません。

実に男臭い映画で、ほとんど女性キャラクターが登場しないというのがポイントでもありますが、
やはりショーン・コネリー演じる艦長の妻が亡くなったということが、一つのターニング・ポイントですね。

残念ながらトム・クランシーも他界してしまいましたが、原作の面白さがあることは確か。
映えある“ジャック・ライアン・シリーズ”の第1作として、ひじょうに価値のある映画と言っていいと思うし、
ジョン・マクティアナンが得意分野でいかんなく、その手腕を発揮した実に見事なエンターテイメントと言っていい秀作だ。

但し、それはあくまで映画としての話しであって、軍事マニアの人にはウケないかもしれません。
潜水艦の攻防ですので、もっと静かな現実的な闘いの方が好むという論調もあるかもしれません。

そういう意味ではエンターテイメントに徹したジョン・マクティアナンならではの映画ということで、
割り切った方が楽しめる作品ということで、現実とはまた別なお話しという感じがします。
個人的にはしばらく、この路線で“ジャック・ライアン・シリーズ”を作って欲しかったのですが、
92年の『パトリオット・ゲーム』でハリソン・フォードが演じたジャックは、また別な持ち味になっていますね。

どちらの路線が好きかでも、賛否が分かれそうな気がします。。。

(上映時間135分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ジョン・マクティアナン
製作 メイス・ニューフェルド
原作 トム・クランシー
脚本 ラリー・ファーガソン
   ドナルド・スチュワート
撮影 ヤン・デ・ボン
特撮 ILM
美術 テレンス・マーシュ
音楽 ベイジル・ポールドゥリス
出演 ショーン・コネリー
   アレック・ボールドウィン
   スコット・グレン
   サム・ニール
   ジェームズ・アール・ジョーンズ
   ピーター・ファース
   ティム・カリー
   コートニー・B・バンス
   ステラン・スカルスゲールド
   ジェフリー・ジョーンズ
   リチャード・ジョーダン
   ジョス・アックランド

1990年度アカデミー音響賞 ノミネート
1990年度アカデミー音響効果編集賞 受賞
1990年度アカデミー編集賞 ノミネート