ホット・ロック(1971年アメリカ)

The Hot Rock

少々、悪い意味で中途半端な仕上がりには思えるが、
これはこれでユル〜い持ち味を生かした、独特で個性的な犯罪映画。ロバート・レッドフォードのファンは必見だ。

68年に『ブリット』で高く評価されたイギリス出身のピーター・イエーツですが、
本作では『ブリット』で見せたようなソリッドなタッチは影を潜め、映画全体としてとにかくユルい作りだ。
ディティールにもこだわっている様子も無く、内容的には結構支離滅裂というか、メチャクチャなストーリーだ。
かと言って、インパクトあるアクション・シーンがあるわけでもないのですが、それでも何故か魅力ある作品に思える。

本作はロバート・レッドフォード演じるドートマンダーが、刑務所に収監されている設定で
ようやっと出所というところから映画は始まります。しかし、出所するや否かドートマンダーを迎えに来た男にも
恨みを持っていたのかドートマンダーのいきなり殴りかかって、いきなりアイスな空気感が漂います。

観ていると、ドートマンダーが次なる“仕事”に誘われて、
次に捕まったらヤバいんだと言いながらも、難しいミッションにトライする快感を忘れられないのか、
結局やることになって、集める仲間と噛み合っているのか、噛み合っていないのか微妙な関係が続きます。

そんあ微妙な人間関係のまま強盗計画は進められて、上手くいくかとところまできて、
まさかまさかの強奪対象の宝石を囲うケースが重た過ぎるという“トラブル”が発生(笑)。これで計画が狂うなんて、
ユルさを通り越して喜劇のようですが、もはやこれはこれでピーター・イエーツは確信犯だと思います。

一方のロバート・レッドフォードはいたって真面目に主人公のドートマンダーを演じており、
さすがに若き日のエネルギッシュな表情が見れて、その若さが眩しいほどの魅力はあるのですが、
ドートマンダーが真面目にやればやるほど、宝石を強奪する計画に“トラブル”や困りごとが発生してしまいます。

この映画で大きなキーとなるのは、強盗計画の仲間にいたアランの父親で
弁護士のエイブを演じたゼロ・モステルでしょう。あまりに個性的な風貌にも見えるのですが、
如何にも、ひとクセもふたクセもありそうなキャラクターで、ドートマンダーらをかく乱するように絡んできます。
映画の冒頭では、アフリカ小国のドクター・アミューサと名乗る黒人男性から仕事を依頼され、
強盗計画の準備のために週給をもらっていたドートマンダーらでしたが、映画が進むにつれて、
いつの間にかドートマンダーに依頼されていた仕事は、エイブが横取りするような形となり、なんとも憎らしい。

この辺の塩梅はとっても良くって、ピーター・イエーツの器用な側面が出ていたと思う。
やはりゼロ・モステルのような喜劇役者にコミカルに演じてもらったからこそ、映画に良いリズムが生まれましたね。

この辺はクインシー・ジョーンズが担当したジャジーな音楽をバックに、
大都会ニューヨークの空気を画面いっぱいに漂わせ、実に都会的でありながらもテンポの良い映画に仕上がっている。
当時は売り出し真っ只中のロバート・レッドフォードを前面に出したい企画だったのでしょうが、それだけではなく、
映画のセンスもとっても良い感じで、警察との追いかけっこなどを一切描かずとも、面白い仕上がりにはなっている。

ドートマンダーの仲間がヘリを操縦したことがあると言い放って、
警察署に侵入する作戦の侵入手段としてヘリを警察署の屋上に付けさせるというエピソードがありますが、
エンジンのかけ方すら怪しい雰囲気を出すので、ドートマンダーらが「オイオイ、大丈夫かよ・・・」という空気で見て、
いざ飛び始めたらメチャクチャ怖いという感覚からか、無表情になってしまうというシーンが何とも忘れられない。

ここから派生して、高層ビルを空から見下ろすと、一体どこがどこなのか分からないということを
逆手にとったかのように、思わずヘリをつけるビルディングを間違えてしまうというシーンには、
一体どんな意味があったのか僕にはよく分かりませんでしたが、この辺はドタバタ劇として見せたかったのかな?

そう、所々に意図がよく分からない演出があるのが、僕には違和感だったのですが、
まぁ・・・この辺はコメディ映画でもあると思って、ある程度は寛容的に観ないと本作の魅力が分からないのかも。

そういう意味では、ドートマンダーの計画と実行って、最初は上手くいくんですよね。
ところが計画が進行すると、必ずどこかで上手くいかなくなって、事態を収拾することにエネルギーを使う。
オマケに新たに課題が積み重なっていて、今度はそれらを崩しに行かないといけなくなるという悪循環(笑)。

なんか、これ...現実世界の仕事でも、似たようなことありますよ(苦笑)。
そこまでこの映画の作り手が意識していたかは分かりませんが、やらなくてもいい仕事をやってしまう、
仕事の生産性を落とすターニング・ポイントを実に的確に描写しているような映画で、これは興味深かった。
また、そのターニング・ポイントにある出来事って、言葉は悪いけど...しょうもないことが多いんですよね(苦笑)。

本作は二転三転するストーリーの先駆けのような作品だと思います。
時代はアメリカン・ニューシネマ期の作品ですから、もっと重々しい空気があってもいいのですが、
前述したようにピーター・イエーツは映画の中にソリッドな感覚を排して、ソフトなタッチに終始していて、
一切、警察の影を感じさせない、悪党同士の攻防をコミカルに描くことに注力しているようで、どこか軽い。

そう思ってみると、ドートマンダーが最も泥棒稼業に誇りと好奇心を持っているように見えるが、
それ以外のメンバーは一つ一つの腕前もなんだか今一つで、それでいてどこかでドジを踏むから観ていられない(笑)。

さすがに、ありがちなギャグではありますけど、映画の前半にある宝石を盗みに入るシーンで、
やっと鍵を開けたと思ったら、重たいショーケースの中に閉じ込められるなんて、笑うしかないですもんね。
まぁ、そんな姿をもロバート・レッドフォードはいたって真面目に演じているので、そのギャップを楽しむ作品なのでしょう。

催眠術の呪文のように使われた「アフガニスタン、バナナスタンド」という台詞は
原作者もどこから思いついたのか知らないが、確かにどことなくクセになるフレーズで印象に残る。

ストーリーとしてはヒネリもないし、派手なアクション・シーンもありません。
独特なペースを持っている映画であって、昨今のアクション映画と比較されるとしんどいですが、
これはこれで面白い作品だと思います。ピーター・イエーツがこういう仕事が出来るんだと驚かされます。

それでも、映画のクライマックスではチョットだけドキドキさせられるし、
映画全体としては意外にまとまりある仕上がりにはなっている。もう少しアクションがあっても良かったとは思うが、
作り手としてはコミカルさを強調したかったのでしょう。常に少しずつトボけたテイストを残しながら進めています。

例えるなら、最近では『オーシャンズ11』がこんなテイストを残した映画でしたが、
本作は決してゴージャスではなく、実に小じんまりとした世界で映画が展開していて、エンターテイメント性は希薄だ。
でも、それが本作の良さだと思う。ピーター・イエーツに職人気質なところがあるから、この仕上がりになったのかも。

どうでもいい話しですけど、ドートマンダーがストレスを溜め込んだ結果、
胃が悪いという設定なのですが、彼は常時胃薬を服用していることを描いていて、お菓子のように薬を飲む。

僕も胃が弱いので、ドートマンダーのように胃薬を持ち歩く気持ちは分かるのですが、
さすがに次々と錠剤を飲むようなことはできませんね(笑)。飲食店で食事したときに、食後の“感覚”が悪いときに
服用できるように胃薬を財布に忍ばせているのですが、これは自分の中で“精神安定剤”のようなものですね(苦笑)。

(上映時間101分)

私の採点★★★★★★★★☆☆・・・8点

監督 ピーター・イエーツ
製作 ハル・ランダース
   ボビー・ロバーツ
原作 ドナルド・E・ウェストレイク
撮影 エド・ブラウン
音楽 クインシー・ジョーンズ
出演 ロバート・レッドフォード
   ジョージ・シーガル
   ゼロ・モステル
   ロン・リーブマン
   モーゼス・ガン