モンタナの風に抱かれて(1998年アメリカ)

The Horse Whisperer

どのような荒馬でも調教できるように育てることができる、
凄腕のカウボーイと彼に馬を預ける母と娘の交流から、別れを描いたヒューマン・ドラマ。

当時としては、待望のロバート・レッドフォードの監督作品で、
92年の『リバー・ランズ・スルー・イット』、94年の『クイズ・ショウ』に続く作品となりました。

全米ベストセラー小説の映画化との触れ込みでしたが、
個人的にはこの物語は好きになれないかな(苦笑)。如何にもエリック・ロスが好きそうなアレンジですが、
これは日本人の道徳観もあり、賛否両論でしょうね。言っても、不倫の恋を主題にした映画です。

雄大な大自然に抱かれて暮らした日々の中で、
大都会での暮らしとの違いを実感して、カウボーイがカッコ良く見えちゃうこともあるのでしょうが、
何故に難しい年頃の娘と共に、長期休暇をとってまで滞在した先で、初めて会ったカウボーイに
淡い恋心を描いてしまうのか、なんだかよく分かりません。とは言え、人間って、そういう裏腹な心を持っている
生き物でもあるので、いけないと分かっていつつも気持ちが傾いてしまうなんてこともあるのかもしれません。

しかしながら、本作で一番の問題に感じたのは、
こういう難しい部分を描いたメロドラマにも関わらず、そういった道徳観や倫理観を越えてでも、
いけない領域に本能的に突入してしまう危うさとか、感情的な揺れ動きを、全く描けていません。

正確に言えば、そういう部分をロバート・レッドフォードも描こうとはしているのは分かるけど、
乱暴な言い方をすると、どうやっても彼にはそういうものは上手く描くことはできなさそうです。
もっとも、『愛と哀しみの果て』とか『ハバナ』とか『幸福の条件』とか、不道徳極まりないと断罪されかねない
アブノーマルさを含んだテーマの映画に俳優として複数本出演しているのですが、映画の出来の良し悪しはともかく、
それらは全てどこか俳優ロバート・レッドフォードのカラーに染まった映画になっており、押しなべて爽やかさを持つ。

結局、そんなロバート・レッドフォードのカラーというのが、
彼自身がスクリーンに映れば映るほど、そして彼がメガホンを取れば、必ずと言っていいほどに、
独特な爽やかさが映画に残ってしまい、不道徳さを映画の中で“正当化する”ほどの力強さが出ない。

だから観ていて感じるのです。「このストーリーには共感できないな・・・」と。

本来、僕は映画はストーリーの良し悪しだけで評価することはナンセンスだなぁと感じているのですが、
それでも重要なファクターの一つであることは否定できないわけで、面白いかどうかはともかくとして、
映画の上映時間内でどんなに合わない物語であっても、その作品で描く必要性が示されていれば、
自分の中で、その映画を観た価値はあったと感じることができると考えています。

だからこそ、「このストーリーには共感できないな・・・」で終わられてしまってはダメなのです。
そんな個人の嗜好など、有無を言わさぬ力強さが映画には必要だと、僕は昔っから思っています。
(その力強さというのも、映画によって、いろんな形で表現されるものだとは思いますが・・・)

それが、僕にはロバート・レッドフォードぐらいのディレクターであれば、
当たり前のようにできるレヴェルだと思っているのですが、それができないのであれば、
彼はこの類いのジャンルを好んでチョイスしているように見えるのですが、彼自身が好きで撮っていても、
案外、彼にはこの類いのジャンルの映画は不釣り合いなのではないかと、根本的なところで疑問に思います。

そもそも、映画の序盤からそうなのですが・・・
誰しも完璧な人間などいないとは言え、クリスティン・スコット・トーマス演じるヒロイン(母親)を
どうしてこんなに魅力ないキャラクターであるように描くのだろうか? 僕には不思議でなりません。

それが映画が進むにつれて、どこか潜めていた魅力をあぶり出すのであれば納得できるのですが、
最初っから最後まで、どこか首を傾げてしまうような性格に難があるキャラクターなのが変わらない。
ここまで魅力的に描かれないヒロインに、恋愛が成立するのか・・・とても不思議に思えるアプローチなのです。
これはロバート・レッドフォード個人が抱えている、嗜好の問題なのか、原作の問題なのか、よく分かりませんが、
仮に原作の問題だったにしても、少なくともヒロインなのであれば、脚色してでも魅力を引き出すでしょう。

故に、この映画はとても勿体ないなぁと思う。
乗馬という、どちらかと言えば、マイナーなスポーツを題材にした映画も珍しいのですが、
そこからドロップアウトしそうな馬を、なんとか落ち着かせるセラピーというのも、映画の題材としてはユニークだ。

今になって思えば、本作は豪華キャストを実現させた作品でした。
まだメジャーな存在とは言い難かったですが、ロバート・レッドフォードの弟役として、
クリス・クーパーがキッチリ存在感を示しているし、その妻役としてダイアン・ウィーストというのも見逃せない。
そして何より、事故で義足となった思春期を迎えた娘役としてスカーレット・ヨハンソンが出演しています。

今とそこまで変わらぬ容姿ですが、やはり当時のハリウッドでも彼女は目立つ存在だったのでしょうね。
撮影当時、13〜14歳くらいでしょうか。本作が彼女にとっての出世作となったのは、間違いありません。

そういう好条件が整った企画だったからこそ、これはもっとやりようがあった作品だと思う。
上映時間が3時間近い割りには、重厚感にも希薄な印象ですし、良くも悪くも見応えがないですね。
良く言えば、上映時間の長さを感じさせないのですが、悪く言えば、50〜60年代はこういうメロドラマ大作って、
数多く製作されたのですが、あの頃の映画と比べて、良い意味で「観たなぁ〜」という実感があったものです。

ところが、本作からはそういった実感がなく、どこか表層的というか、食い足りない部分を感じます。

ロバート・レッドフォードのファンであれば必見の作品でしょう。
別に揶揄して言っているわけではありませんが、さすがに自分自身で監督している作品のせいか、
俳優ロバート・レッドフォードがどういう立ち位置で映るべきか、よく自己分析できている作品だと思う。

例えば、ダンスホールでのシーンなど、踊り手の陰に隠れた一瞬とも言える隙に、
姿を消すシーンなど、彼自身の映り方に対するこだわりは強く感じられる。言わば、これは彼の美学なのだと思う。

こういうことがキチッとできている役者は、やはり息が長いんです。

(上映時間169分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ロバート・レッドフォード
製作 ロバート・レッドフォード
   パトリック・マーキー
原作 ニコラス・エバンス
脚本 エリック・ロス
   リチャード・ラグラヴェネーズ
撮影 ロバート・リチャードソン
音楽 トーマス・ニューマン
出演 ロバート・レッドフォード
   クリスティン・スコット・トーマス
   サム・ニール
   ダイアン・ウィースト
   スカーレット・ヨハンソン
   クリス・クーパー
   チェリー・ジョーンズ
   タイ・ヒルマン
   キャサリン・ボスワース

1998年度アカデミー主題歌賞 ノミネート