ハード・ウェイ(1991年アメリカ)

The Hard Way

人気ハリウッド俳優が自身のベビーフェイスをコンプレックスにして、
次なるイメージを構築するために、ニューヨークの荒くれ刑事に密着取材して、
役作りをしようとするも、ウザがる刑事はなんとかして彼を追い払おうとする姿を描いたアクション・コメディ。

マイケル・J・フォックスとジェームズ・ウッズというコンビ自体が意外と言えば意外ですが、
この2人のコンビはそこまで悪い感じではなく、キャスティングの妙であったと思います。

監督はアクション映画を中心に活動しているジョン・バダムで、
彼は77年の『サタデー・ナイト・フィーバー』を出世作として、80年代以降はアクション映画を中心に撮って、
97年の『迷宮のレンブラント』を最後に映画監督から遠ざかり、00年代は数本テレビシリーズの
演出を手掛けてから完全にリタイア状態なのですが、能力は高いディレクターなだけに残念なんですよねぇ。

どうやら、本作撮影当時は既にマイケル・J・フォックスは
パーキンソン病の症状の兆候が出ていたようで、彼の中では悩みながらの撮影だったようですが、
ジェームズ・ウッズとほぼ台頭に渡り合っていると言っても過言ではなく、彼の持ち味が生きた作品だ。

ジェームズ・ウッズ演じる刑事は、映画の冒頭から“パーティー・クラッシャー”と称される、
警察に挑発的な連続殺人鬼(サイコパス)を追い続けているという設定ですが、
この“パーティー・クラッシャー”を演じたスティーブン・ラングは、なかなか傑出した存在感だったと思います。

所詮はコメディ映画の悪役と言われがちですが、
本作でのスティーブン・ラングはキレ味鋭く、文字通りのサイコパスを演じ切っていて、
どこかユル〜いコメディ映画の中にも、緊張感ある狂気的なエッセンスを加えており、
こういう芝居を要求したのもジョン・バダムなのかもしれませんが、他作品との差別化を図れていると思いますね。

基本はコメディ映画というフォーマットにあるのですが、
さすがはジョン・バダム、エンターテイメント性をしっかりと加味した作品に仕上げるのが上手いですね。

本作はマイケル・J・フォックスがウザったいくらい刑事について回るのですが、
それをなかなかあしらうことのできない不器用なジェームズ・ウッズ演じる、気性の荒い刑事。
そんな二人のコミカルな応酬を描きながらも、クライマックスのアクションはしっかり見応え十分。
この辺はジョン・バダムがハリウッドで活躍するようになってから培ったバランス感覚の良さを感じさせますね。

役作りとは言え、実際に刑事に張り付いて役柄の取材をすること自体、稀だとは思うけど、
それだけでなく、一緒になって潜入捜査したり、連続殺人鬼を追い詰めたりと、ストーリーはかなり奇想天外だ。
でも、本作のジョン・バダムはそういった奇想天外さを、観客に違和感なく見せてしまう要領の良さがある。

当時は、いわゆるバディ・ムービーが流行っていた頃だったので、
本作のような凸凹な刑事コンビの活躍を描く、コミカルなアクション映画って多かったのですが、
本作も実に手堅く、しっかりと楽しませてくれるし、何よりマイケル・J・フォックスがアクティヴに動き回るのが印象的。

但し、掌を返したようなことを言って恐縮だが、あくまで映画の出来は及第点レヴェルだ。
欲を言えば、ジョン・バダムの力量を考えると、「もっと出来たはずだ」...そういうコメントになると思うのです。

まずは、バディ・ムービーとして考えると、決定的なまでにマイケル・J・フォックスとジェームズ・ウッズが
映画の最後の最後まで噛み合うことなく終わってしまうのは致命的だ。あのジェームズ・ウッズが言い放つ、
「お前は映画の世界で17テークできるが、オレはあくまで1テークで勝負だ!」を、そのまんま盗んだという
オチは楽しいが、ここぞというクライマックス近くまでなって、お互いに殴り合っているようではダメですね。

どこかで団結する姿を強く描かないと、映画は良い意味で高揚しないと思います。
そういう意味で、あくまでバディ・ムービーとして見ると、ちっともエキサイティングに見えない。
最後の最後まで、ジェームズ・ウッズ演じる刑事が非協力的だった・・・と、映画の印象が決まってしまうのです。

バディ・ムービーとしての本来的な役割を思うと、こんなことではダメなのだろうと思うのです。

それと、ジェームズ・ウッズ演じる刑事が恋焦がれるシングル・マザーを演じたアナベラ・シオラも、
どことなく中途半端な存在感で終わってしまったのが残念。もう少しインパクトが欲しかったですね。
ようやっとクライマックスの攻防に絡んできたという感じで、刑事との恋愛のニュアンスは弱過ぎた。
(まぁ・・・マイケル・J・フォックスを“焦らせる”地下鉄での会話は面白かったが・・・)

ジョン・バダムは本作の後の93年に、フランス映画のヒット作『ニキータ』を
ハリウッド版リメークとした企画の『アサシン −暗殺者−』のメガホンを取って、更に評価を上げます。
『張り込み』、『バード・オン・ワイヤー』、そして本作とコミカルなバディ・ムービーが続く中で、
あの作品は注目度の高い、しかも割りと早期に実現したハリウッド版リメークという、
とてもプレッシャーのかかる、難しい企画であったがために、あの作品での成功は評価されるべきでした。

そうであるがゆえに、日本でも過小評価とも言えるぐらい、
ジョン・バダムの映画監督としての知名度が上がらなかったのは、とても残念ですね。

スティーブン・ラングのキレまくった悪役キャラクター造詣が、
この映画のインパクトの全てを奪っていったかのようで、主人公2人をも食っている感はあり、
一生懸命、コミカルな芝居にトライした感あったジェームズ・ウッズも不運でしたが、
実は本人、ハリウッド随一のIQの高さ(IQ180!)で知られる、政治的には強烈な共和党信者で
タカ派な論客であることで知られる役者さんですが、コメディ映画が実は好きなんだそうで、
ヤケになったのか、00年代は『最’新’絶叫計画』に出演したり、アニメ映画の声優にもチャレンジしてました。

まぁ・・・良くも悪くも90年代ハリウッドを象徴する映画と言えばそれまでですが、
まだ当時のハリウッドは今と比べても、映画を撮るという意気込みに関しては、勢いが強かったので、
そういった息吹きは、本作からも強く感じられる。だからこそ、映画の出来は及第点に達したと言える。

本作を観て、やっぱりマイケル・J・フォックスのこういう姿を観たい...と、素直に思うようになった。

(上映時間110分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ジョン・バダム
製作 ロブ・コーエン
   ウィリアム・サックハイム
原案 マイケル・コゾル
脚本 ダニエル・パイン
   レイ・ドブス
撮影 ドナルド・マカルパイン
   ロバート・プライムス
音楽 アーサー・B・ルビンスタイン
出演 マイケル・J・フォックス
   ジェームズ・ウッズ
   スティーブン・ラング
   アナベラ・シオラ
   ジョン・カポダイス
   ペニー・マーシャル
   LL・クール・J
   デルロイ・リンド
   クリスティーナ・リッチ