ハプニング(2008年アメリカ)

The Happening

まぁ・・・発想自体は悪くはなかったとは思いますが...
今までは“ハッタリの常習犯”であって、そのハッタリが稀に上手くいくことがあったから、
僕は『シックス・センス』や『ヴィレッジ』なんかは、そんなに悪くはないと思っていた
M・ナイト・シャマランの監督作品ではあるのですが、今回は見事に失敗しましたね。

いや、この映画、何がいけないって、
そのハッタリが無くなってしまった点で、まるで開き直ったかのようにカオスな映画になりました。

正直言って、僕にはどこまでM・ナイト・シャマランがこの映画を撮ったのかが
よく分からなかったので、あまり強いことは言えませんのですが、
例えば映画の中盤にあった、動物園で飼育員がライオンに腕を食いちぎられるシーンなんて、
思わず、「この映画はコメディなのか!?」とツッコミの一つでも入れたくなるほどでした。

いや、映画の狙いは良かったと思うんです。
映画はニューヨークで突如として発生した、人々が突如として自殺衝動にかられる現象が伝播し、
やがてニューヨーク近郊、フィラデルフィアへと広がっていく恐怖から、逃げる人々の姿を描いた作品で、
『シックス・センス』のM・ナイト・シャマランが描くわけですから、当然、大ドンデン返しを期待します。

ところがM・ナイト・シャマランは本作ではストレートに描くことを押し通したようで、
どちらかと言えば、カタルシスを感じさせるような方向性へとシフトしていきます。

但し、科学だけでは説明がつかない超常現象的な恐怖を題材に、
文明に対する自然界からの警鐘を描いていると捉えれば、これは環境問題を映画にしたようなもので、
その狙い自体は決して悪いものではなかったと思うし、シナリオは良く書けていると思いますね。

70年代はこの手のSF映画が多かったのでお手本がたくさんあるとは思うのですが、
カメラの質感がとことなく、安っぽくて、冒頭のセントラル・パークでのシーンなんかはイマイチなんですよねぇ。

本作が公開された頃、セントラル・パークで人が大量に死んでいくシーンを売りにしていたので、
このシーンが如何に表現されているかを期待するわけなのですが、これがサッパリでしたね。
たいへん申し訳ないけれども、この冒頭のシーンのイマイチ感で、本作に対するイメージが悪くなりましたね。

これならば、まだ建設現場で人が大量に落下してくるシーンの方がインパクトがあったかもしれません。

理科の教師の主人公を演じたマーク・ウォールバーグは良かったと思うのですが、
彼の同僚の数学教師を演じたジョン・レグイザモの扱いの悪さには、正直、ビックリしましたね。
10年ぐらい前までは、規模の大きな映画に頻繁に出演していた役者さんなのですが、
最近はスクリーンで活躍する姿を見ることが少なくなっただけでなく、本作も実にアッサリと退場してしまいます。

あと、この映画で微妙にズレた部分があるなぁと感じたのは、
M・ナイト・シャマランの価値観そのもので、主人公の夫婦は夫婦仲があまり上手くいっていないという
設定なのですが、人類滅亡の危機に瀕するトンデモない現象に見舞われているというのに、
この夫婦は妻の浮気疑惑が気になり、「あの人と一緒にデザート食べに行って、ゴメンなさい」と突然謝罪したり、
「オイオイ、この状況下でそんなことかよ!」とツッコミを入れたくなりましたね。
(まぁ・・・反面、「人間なんて、そんなものだよ」って気もしなくはないのですが...)

あと、映画の終盤で主人公たちは文明とは隔絶したかのように、
一人暮らしを続ける老婆の家に逃げ込むのですが、このエピソードは暴走気味でチョット面白かったですね。

この老婆が優しいんだか、気難しいんだか、よく感情の起伏が分からないのですが、
突然、娘の手をぶったり、突然、伝染病にかかって、ガラス窓を頭突きでブチ破ったりと、
とにかくこの辺りはM・ナイト・シャマランがヤケになったかのようで、なんだか面白かったですね。

やはりM・ナイト・シャマランって、不器用な人なんだと思う。
本作なんかを観て強く思うのは、奇異な状態を描くのは得意だけど、平凡な状態を描くのは極めて苦手。
例えば、主人公夫婦の描き方などを観て、お世辞にも上手いだなんて言えないあたりが象徴していますね。

それはそれで彼の持ち味ですから良い部分を伸ばせばいいのかもしれませんが、
例えば野球にしても、良い変化球を持っていても、そればっかりでは攻略されてしまったり、
勝負球としてその変化球が活きてこないので、真っ直ぐを磨かなければいけないのと同じで、
M・ナイト・シャマランの良さをスクリーンで活かすためには、日常を上手く描けなければいけないと思うのです。

これがまだ、M・ナイト・シャマランが「オレは超常現象だけを描きたいんだぁ!」と
開き直ってるというのなら、それは許容される難点だとは思いますが、少なくとも本作を観る限り、
人間たちの業の深さであったり、夫婦の絆であったり、そういった日常的な要素に物語が帰結するのであれば、
その日常を上手く描けない限り、映画はどうしても光り輝くものにはならないと思いますね。

僕はこの辺の出し入れをM・ナイト・シャマランが見誤らなければ、
M・ナイト・シャマランは凄い映像作家に変貌できるものと、信じているんですよね。
ですから、早くこのレヴェルから卒業しなければなりません。彼が伸び悩んでしまった大きな原因は、
最初にヒットした『シックス・センス』の頃から何一つ進歩せず、二番煎じに甘んじているからなのです。
(まぁ・・・それが彼のファンを作る、大きなポイントであることも否定はしませんが...)

全体的に開き直ったかのようなショック描写が多いので、
血生臭い描写、あからさまショック描写が苦手な人は注意した方がいい作品ですね。

(上映時間90分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

日本公開時[PG―12]

監督 M・ナイト・シャマラン
製作 バリー・メンデル
    サム・マーサー
    M・ナイト・シャマラン
脚本 M・ナイト・シャマラン
撮影 タク・フジモト
編集 コンラッド・バフ
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演 マーク・ウォルバーグ
    ゾーイ・デシャネル
    ジョン・レグイザモ
    アシュリン・サンチェス
    スペンサー・ブリスリン
    ベティ・バックリー

2008年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト作品賞 ノミネート
2008年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(マーク・ウォルバーグ) ノミネート
2008年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト監督賞(M・ナイト・シャマラン) ノミネート
2008年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト脚本賞(M・ナイト・シャマラン) ノミネート