ナバロンの要塞(1961年アメリカ)

The Guns Of Navarone

スコットランドの人気小説家であるアリステア・マクリーン原作の映画化。

2時間を大きく超える作品でして、なかなかの力作なのは分かりますが...少々映画は中ダルみしてしまう。
監督はイギリス出身のJ・リー・トンプソンで彼の監督作品としては、最も高く評価された作品と言えるでしょう。
なんせ、61年度アカデミー賞で作品賞含む主要8部門で大量ノミネートされましたから。受賞は1部門だけでしたけど。

物語の焦点となるのは、第二次世界大戦のギリシアの孤島であるナバロン島にナチス・ドイツ軍が進軍して、
孤立したイギリス軍を全滅させようと、ナバロン島に巨大な大砲を配備して、今か今かと発射の準備をしていた。

その情報を察知した連合軍は、休暇中だった登山家でありマロリー大尉に救出作戦を招集した。
招集したのは、マロリーの旧知の仲であったフランクリン大佐であり、大学教授で爆弾の専門家であるミラーなどを
部隊に率いてフランクリンをリーダーとして、部隊はナバロン島への潜入を目指します。マロリーを呼んだ理由は、
ナバロン島へ船でアクセスして、断崖絶壁を登らなければならず、登山技術のあるマロリーに引率を託したわけです。

また、この断崖絶壁の崖というのがほぼほぼ直角な角度で、いくらマロリーが登山家とは言え、
思わず「あんなとこ登れるわけないだろ!」とツッコミの一つでも入れたくなるようなあり得なさで、ビックリさせられる。
そこをチームで登っていくという設定なのだから、どうやって登ったのだろう?と疑問に思えるほどなんですよね。
個人的にはこの崖を登るシーンはもっとスリリングに、時間をゆっくりかけて撮った方が良かったような気がしますね。

ところが登頂途中にフランクリンが負傷してしまい、必然的にマロリーがリーダーに代わることになり、
紆余曲折を経てナバロン島の基地に近づくものの、ドイツ軍の厳しい追跡に遭ってなかなか上手くいきません。
映画はそういった苦難の中で作戦を遂行していく姿をドミュメントしていくのですが、今一つ起伏が感じられない。

この崖登りのシーンで、もっとスリルを演出できていれば少なくとも映画の前半は盛り上がったと思うんですよね。
この前の荒波の中を航行する船のシーンにしても中途半端で、この崖登りも中途半端でと、どこかにフォーカスして
描き切れないJ・リー・トンプソンの不器用さ(?)が、なんとも歯がゆく見える作品でもあったというのが正直なところ。

これはこれで面白いという人の気持ちも分からなくはないんだけど、本作の果たすべき役割として、
ホントはもっと重厚感あって見応えのある内容にして欲しかったので、ある程度はドラマティックであって欲しかった。

そこが本作の物足りなさというか、もっと映画全体として起伏を作って、盛り上げるところはしっかり盛り上げて欲しい。
激しい戦闘シーンがあったりする映画ではないので、余計にドラマ部分でも盛り上がらないところは残念に思った。
監督のJ・リー・トンプソンもあまり細かいことを出来るディレクターではないけど、もっと上手く撮ることは出来たと思う。
キャスティングだって悪くないし、デビッド・ニーブン演じる大学教授のミラーなんかもクセ者っぽくて良いキャラなのに。

なんか、もっと生かせるキャラクターがいっぱいあったと思うし、監督の力も大きく影響したと思いますね。

まぁ、クライマックスの大砲に爆弾を仕掛けをして、ナバロン島から脱出、そしてドイツ軍が反撃するという
セオリーとも言うべき一連のシークエンスは、キチッと描かれているし、そこそこ緊張感が伝わってきて良かった。
ただ、この映画の場合はそこに至るまでの一本調子な感じがあまりに長過ぎる。なかなか映画が動き出さない。

映画の“骨格”自体は悪くないし、おそらくはアリステア・マクリーンの原作も魅力的なのだろうから、
それがここまで悪い意味で重たい映画になってしまったというのは、作り手に大きな責任があるような気がします。
劇中、ナバロン島に潜入してからも幾度となくドイツ軍の厳しい追跡を受けますが、ここももっと緊張感を出して欲しい。
チョットしたことから捕らえられたりするなど、大ピンチになったりしているのに、どこか映画の雰囲気が緩慢な感じ。

さすがにこれでは、本作が本来的に演出すべき空気感を表現できたとは言い難く、緩んだところばかりが目立つ。
もっと部分的にでもエキサイティングなところがあって、アドベンチャー性も表現されるべき題材だったはずなんですよ。
そして、ドラマ性も希薄となってしまっては、中ダルみしているように感じられ、必要以上に上映時間が長く感じられる。
(個人的には映画の前半にある、荒波の中でナバロン島を目指す船でのエピソードももっと緊迫させて欲しかった)

それから、アンソニー・クエイル演じるフランクリンが途中で負傷してしましますが、ドイツ軍の捕虜になっては
自白剤などを打たれてナバロン島潜入作戦の全てがバレてしまうことを危惧し、マロリーは彼を連れていく決断をする。
しかし、この決断はあまりに無理過ぎるのではないかと思える。自力で行動できない負傷兵を連れて歩くこと自体、
あまりに大変な負担だし、ドイツ軍に見つかるリスクを増大させるだけのように見えるけど、それを決行します。
この辺の荒唐無稽さが賛否の分かれるところだと思いますが、できるだけ違和感なく見せる努力をしないのも残念。

フランクリンの負傷に関しては、チーム内でも意見が分かれているところなんかは面白かったので、
マロリーの意見が最も非現実的な気がしたんだけど・・・(苦笑)、それでも強引に連れていく姿がなんとも微妙。。。

クライマックスでは、あまりに簡単に工作活動を許してしまうドイツ軍の緩さも気にはなるけど、
デビッド・ニーブン演じるミラーがやっと自身の能力を発揮して、手際良く爆弾を仕掛けて、相手の動きや反応を
予想しながら“次の一手”をも仕込んでいるというのが良い。そして、最後はド派手な爆破シーンが待っている。

戦争映画なので、ここに力を入れるのは当たり前でありますが、60年代前半の映画ということを考慮すると、
これだけ次々と爆破して要塞ごと吹っ飛ばそうとする、豪快なシーン演出を具現化したというのはスゴいことだと思う。
同じ時代の他作品を観ても、ここまで具体的な映像表現として出来たというのは、そうそう多くはないと思います。

この一連の特撮シーンはなかなかの迫力で、アカデミー賞で唯一受賞できた部門だというのは分かる気がする。

良く言えば、客観視をして戦争の現実を描いた映画と言えるかもしれませんね。
J・リー・トンプソンは扇動的な表現をできるだけ避けて、ただひたすら淡々と描いているように見えなくはないです。
そこにきて、主演のグレゴリー・ペックが割りと一本調子な感じで芝居をしているので、映画はより平坦な感じになる。
ここがターニング・ポイントのような気がしますが、これはこれで本作の良さだと言えば、それも否定できないのかも。

アリステア・マクリーンの原作は未読ですから、原作のディティールは分かりませんが、
戦闘を主題とした物語というわけでもなさそうですから、如何にしてナバロン島にドイツ軍の目を欺いて潜入するか、
このただ一点にこだわって描いて映画として考えると、余計な感情を映画の中に入れないようにしたのは正解かも。
前述したように、J・リー・トンプソンはそこまで細かなことが出来る器用なディレクターではないとしれば、尚更のこと。

少々、不愛想な感じのグレゴリー・ペックとは対照的に、マロリーに恨みを持つチームの仲間の一人を演じた、
名優アンソニー・クインの特異な存在感は特筆に値する。やっぱり彼が登場すると、空気が一変するように感じますね。

この映画のオープニングは、チョット見ものだ。まずは、撮影にあたって随分と長々とテロップが流される。
これはプロデューサーらの感謝の言葉と解釈できますけど、「特にギリシアの人々には大いに励まされて感謝してる」と
異例なくらいエモーショナルなメッセージが長めに表示されて、僕はあまりここまでのテロップを観たことがなかった。
もっと淡々とした形式的なテロップが多いのですが、かなり丁寧に書かれているので、ホントに感謝していたのだろう。

それと合わせて、合成映像を使って動画を重ねるテクニックも披露していて、この時代にしてはアグレッシヴ(笑)。
さり気なくJ・リー・トンプソンは新しい感覚を映画に吹き込もうとしていたみたいなんですね。あんまり目立たないけど。

他の戦争映画とは一線を画すような内容の作品ではありますが、いずれにしても尺が長いのがツラい。
戦争映画に特別な思い入れがない人は、鑑賞するのに体力を使うタイプの映画でチョットしんどいかもしれません。
ギリシアの現地ロケに加えて、大砲を備えたドイツ軍の基地などのセット撮影は素晴らしい出来ではありますが、
いかんせん、内容的には時間に追われているチームを描いているはずなのに、タイムリミット感が希薄なのも致命的。

J・リー・トンプソンなりに頑張った力作ではありますが、もっと上手く撮ろうと思えば出来た作品なだけに勿体ない。
アリステア・マクリーンは人気小説家ですから、注目度の高い作品ではあったはずですから、個人的にはもっと
エキサイティングな仕上がりになっていることを期待していたのですが、どうにも僕には合わない作品で残念でした。

こんなことを言ってはナンですが...連合軍はマロリーらに託すしかホントに術が無かったのかなぁ?(笑)
これが仮に成功しなかったら、何か補完するリスク分析は行っていたのだろうか?と余計なことを考えてしまった。

(上映時間157分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 J・リー・トンプソン
製作 カール・フォアマン
原作 アリステア・マクリーン
脚本 カール・フォアマン
撮影 オズワルド・モリス
編集 アラン・オスビストン
音楽 ディミトリ・ティオムキン
出演 グレゴリー・ペック
   デビッド・ニーブン
   アンソニー・クイン
   スタンリー・ベイカー
   アンソニー・クエイル
   ジェームズ・ダーレン
   イレーネ・パパス
   ジア・スカラ

1961年度アカデミー作品賞 ノミネート
1961年度アカデミー監督賞(J・リー・トンプソン) ノミネート
1961年度アカデミー脚色賞(カール・フォアマン) ノミネート
1961年度アカデミー劇・喜劇映画音楽賞(ディミトル・ティオムキン) ノミネート
1961年度アカデミー衣装デザイン賞<白黒部門> ノミネート
1961年度アカデミー特殊効果賞 受賞
1961年度アカデミー音響賞 ノミネート
1961年度アカデミー編集賞(アラン・オスビストン) ノミネート
1961年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ドラマ部門> 受賞
1961年度ゴールデン・グローブ賞音楽賞(ディミトリ・ティオムキン) 受賞