グレイテスト・ショーマン(2017年アメリカ)
The Greatest Showman
貧しい環境に育ち、周囲の過酷な仕打ちに苦しみながらも、ずっとショービズ界での成功を夢見ていた
主人公のバーナムが、良家の娘と結婚し、苦しいながらも温かい家庭を築いていたところ、勤務していた会社が倒産し、
それをキッカケにして変わった人々をキャストとして集め、“見世物小屋”のオーナーとして成功し多額の富を築く。
しかし、周囲の上流階級の連中からは、バーナムのような新興勢力を受け入れる度量は無く、
キワモノ一家のように扱われて偏見から露骨な差別を受け、“見世物小屋”に対する反発も強くなり、
次第に彼のビジネスが上手くいかなくなっていく様子を、悲喜こもごも次々と展開させていくミュージカル映画。
まぁ、この映画の作り手が何をどう描きたかったのかは、よく分かる作品だ。
ミュージカル映画としてのスケールも大きく、映像表現できる幅が広くなった現代だからこそ描けた部分もあるだろう。
また、一足先にダイバーシティを訴える部分もあったりして、さり気なく時流に乗った作品という気がします。
でもね、僕は基本的にあんまり本作にはノレなかったというか、完全には楽しめなかったというのが本音。
そもそもミュージカル映画として・・・というところなのですが、チョイチョイ、映画の流れを止めてしまうのが気になる。
これでは、ミュージカル映画としての良さが全くでない。この頃は『ラ・ラ・ランド』なども高く評価されたので、
この手の映画がヒットし易い頃だったのですが、キャストの踊りですらCGを使っているように見えるのも賛同できない。
もっとミュージカル映画としての本来的な良さを追求して欲しかったし、CGを使うなということではないけど、
せめて肝心かなめの踊りくらいはキチッと見せて欲しかった。そして、何よりイチイチ流れが途切れてしまうのは
もっと何とかして欲しかった。編集の仕方では、ここまでぶつ切りにならずに済むはず。映画の流れが出来ていない。
これはミュージカル映画として、致命的にすら感じられた。“見世物小屋”のフリークスたちのキャラクターは良いけど、
彼らをホントにここまで醜悪に見せる必要があったのかも疑問だ。喜劇として構成するならそれでいいかもしれないが、
あくまでバーナムの人生を描いたようなものであって、観客の心を動かしたいのであれば、少々やり過ぎに感じる。
特に映画の後半で、フリークスたちの“反乱”とバーナムが心奪われる美人歌手の歌唱を
交互に見せるように描くのは、悪目立ちしているように見えてしまった。ここも僕は賛同できない編集だった。
とまぁ・・・文句ばかり並べてしまいましたが、全米では口コミでヒットしたという理由も分からなくはない。
ヒュー・ジャックマンの歌って踊れるミュージカル・スターぶりはすっかり板に付いているし、やっぱり上手い。
どうやら、アカデミー賞の授賞式でのパフォーマンスからキャスティングにつながったらしく、期待通りの出来でしょう。
貧乏な環境で生まれ育ち、大人になってからもなかなか起死回生のチャンスを得ることができずに、
地味に暮らしてきた男が、アメリカン・ドリームを叶えるみたいな物語なだけに、欧米の方々の心に触れるものがあり、
そこに多様性を認め合うという時代に合った社会的なメッセージを込めることが、時代にフィットしたのかもしれません。
全てがすべて、歌や踊りでつなぐことは難しかったようですが、それでも如何にも欧米の方々好きそうな内容である。
本作のモデルとなった実在の人物は、19世紀に活躍した興行師フィニアス・テイラー・バーナムらしい。
人間の遺体解剖をお金を取って見せたりとか奇怪なことをやっていたようですが、いつしかサーカス団を所有したり、
本作で描かれた通り、スウェーデン人女性歌手に入れ込んで莫大な投資をしたり、興行師として有名になりました。
挙句の果てには、政治家にまでなっており、人種差別に基づく奴隷制度などには反対するなど、
かなり早い段階から、差別撤廃を訴えていた政治家だったようだ。若い頃は自身も黒人を奴隷のように
扱っていたことを悔い、自身が経営したサーカス団などでも共に働いた経験から、このような心変わりがあったのだろう。
本作ではそこまで深くバーナムの人間性や生きざまにクローズアップしたわけではありませんが、
まぁ、映画としてダイバーシティに言及したような部分があるのは、実在のバーナムの理念に基づいたのだろう。
そういう意味では、監督のマイケル・グレイシーは本作が監督デビュー作だったわけですが、
初監督作品としてはプロダクションの期待に応える中身ではあったのだろうし、興行的にも成功を収めました。
よく頑張ったと思います。ただ、クドいようですが、自分にはどうしてもミュージカル映画の良さがあるとは言い難かった。
この辺は自分の無知さゆえなのかもしれないけど、ことごとく映画の流れを阻害する部分があったように感じられ、
且つ映像的な華やかさを追い求め過ぎたせいか、ここまで踊りもCGを使うとなると、どうしても興醒めというのが本音。
もっとキャストの能力を信じて、生身の人間の動きでスペクタクルな感覚を演出して欲しかったなぁ。
それが出来る“土台”はこの映画には十分にあったと思えるので、僕にはスゴく勿体ないことだと感じられてならない。
前述したバーナムがスウェーデン人歌手に魅了されてしまうエピソードからは、
子どもたちと留守番させられ、それまで見たことがないような表情をするバーナムを見て、複雑な心境に陥る妻を
もっと深掘りして描いても良かったかな。妻を演じたミシェル・ウィリアムズも悪くないだけに、もっと見せて欲しかった。
そして、妻と対照するようにレベッカ・ファーガソン演じる歌手を映して欲しかった。ところが対照して描くのが妻よりも
フリークスと呼ばれ虐げられていたサーカス団員の“反乱”であったので、このアプローチには納得がいかない。
正直言って、スウェーデン人歌手にバーナムが入れ込んでしまうことと、団員たちの“反乱”は分けて描いて欲しい。
妻子を大切に思うことに気付かされて、戻って来たところで“反乱”から発展した火事に直面とは、都合が良過ぎる。
無用に混沌としてしまったし、変に映画の流れを止めてしまうように感じられて、どうにも悪目立ちしてしまって見えた。
繰り返しになってしまいますが、こういった部分を含めて、もっと慎みを持って描いて欲しかったなぁ。
原理主義者みたいなこと言ってしまいますが、ここまで整理がつかないまま映画を進めてしまうと、
せっかくのミュージカル映画の良さが出ないと思うんですよね。脚本に参加しているビル・コンドンは02年の『シカゴ』、
06年の『ドリームガールズ』とミュージカル映画を得意にしている人なので、脚本の時点で何とかして欲しかったが・・・。
一方で、バーナムの娘がバレエ教室に通うようになったら、それまではバーナムは経済的にヤバい状態で
興行師として成功し、急激に成功した実業家として台頭せいか、古くからの富裕層にはウケが悪く、
娘のバレエ教室でも嫌がらせのようなことをされ、嫌味を言われるというエピソードが妙に印象に残りますね。
まるで既得権益のように金持ちとしてのプライドを守りたいようで、バーナムの娘を受け入れようとはしないみたい。
それを子ども同士でやらせてしまうというのが、チョット自分の発想には無い切り口のエピソードだったので印象深い。
いくら気にしない正確であったとしても、子どものときにあんな扱いをされてしまうなんて、トラウマになりますよね。
そうでなくとも、父バーナムの商売に対する向かい風は強いということが前提なので、子どもとしてはツラい現実です。
まぁ、こういうエピソードが家族の結束を強くするものなのですが、それもバーナムのスキャンダルで揺らいでしまう。
そう、バーナムがスウェーデン人歌手とステージ上でキスしたという報道が新聞紙面に載ってしまうのです。
これはバーナムの妻も危惧していたことでした。この辺はストーリー展開は悪くなく、上手く組み立てられている。
とまぁ・・・良いところもたくさんある映画だとは思いますし、本作のことが好きな人の気持ちも分かる。
但し、敢えて厳しい感想を述べさせてもらうと、「最近よくあるタイプのミュージカル映画」という印象を受けてしまう。
つまり、観る前の想像を超える出来とは言い難いということです。ミュージカル映画の本来的な良さというものを、
もっと作り手に追求してもらいたかったし、実在の人物をモデルにした映画なのにどこか全てが作り物の世界っぽく、
表現されてしまったのは、個人的には残念でした。どうせ作り物の世界にするなら、もっと徹底的に振り切らないと。
(その好例なのは、ドギツい感覚たっぷりにミュージカルにした『ムーラン・ルージュ!』だったと思うんです)
そういう意味では、映画の冒頭のミュージカル・シーンは一気に観客を惹き付ける力のある良い出だしだったと思う。
それが持続しなかったのが悔まれます。あのリズム、躍動感、瞬発性、人間らしさ...その全てを詰めて欲しかった。
しかし、バーナムはフリークスと呼ばれた団員たちに差別意識は無かったように描かれていますが、
結果としてサーカス団員たちを見世物として扱って、好奇心にまみれた大衆から集めたお金で成り上がることになり、
フリークスの“やりがい搾取”のようになってしまい、たくさんの人々かと対立してしまうのがなんとも数奇なものである。
バーナム自身も自分の行いを悔い、一緒に働いた団員たちに誇りを持っていただけに、これは本意ではないだろう。
ちなみにヒュー・ジャックマンが本作の続編をやりたがっているという話しを聞きましたが、
本作でほぼ簡潔しているわけで一体、ここからどうやってバーナムの物語を続けているのだろうか・・・?
(上映時間105分)
私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点
監督 マイケル・グレイシー
製作 ローレンス・マーク
ピーター・チャーニン
ジェンノ・トッピング
原案 ジェニー・ビックス
脚本 ジェニー・ビックス
ビル・コンドン
撮影 シーマス・マッガーウェイ
音楽 ジョン・デブニー
ジョセフ・トラパニーズ
出演 ヒュー・ジャックマン
ザック・エフロン
ミシェル・ウィリアムズ
レベッカ・ファーガソン
ゼンデイヤ
キアラ・セトル
ヤーヤ・アブドゥル=マティーン二世
エリス・ルービン
サム・ハンフリー
2017年度アカデミー歌曲賞 ノミネート
2017年度ゴールデン・グローブ賞歌曲賞 受賞