グッド・シェパード(2006年アメリカ)

The Good Shepherd

イェール大学在学中に諜報活動するようスカウトされ、
第二次世界大戦中からキューバ危機までの約20年間にわたって、“マザー”と呼ばれて、
政界の裏側で暗躍したエドワードの激動の日々を綴った伝記ドラマの大作。

93年に『ブロンクス物語/愛につつまれた街』で監督デビューを果たした、
名優ロバート・デ・ニーロの第2回監督作品で、今回も彼自身が役者として出演もしている。

あまり辛らつなことは言いたくないが...
3時間近くの長丁場に付き合った結果、僕にはこの映画が何を描きたかったのか、よく分からなかった。。。

重厚な作り、しっかりした映画。断じて、適当に作った作品ではないことは認めるけど、
特に映画の前半はストーリーテリングという観点から、この映画は大きなミステイクがあったと言わざるをえない。
それは時制の表現であり、これだけエピソードが多く、上映時間が長い映画なわけですから、
もっと単純に時制を表現しないと、ただいたずらに観客に混乱を招くだけで、えらく理不尽な映画に感じられる。

『ブロンクス物語/愛につつまれた街』はひじょうに良い出来の映画で感心したけど、
お世辞にも本作の出来に感心はできないし、「なんでこんな出来になってしまったのか...」と嘆きたくなる。

少し擁護すると、別に全てが悪いわけではない。良いシーンだって、ある。
エドワードが密かにFBIや国の高官、諜報組織関係者と接触するシーンの空気は総じて良い。
また、映画の全容としてキューバ侵攻失敗の背景として、その原因となった内部情報のリークが
誰がどのようにして行ったのか検証していくというスタンス自体は、間違っていないと思う。

それからロバート・デ・ニーロの演出家としての手腕は確かなもので、
長丁場に及んだ本作ではありましたが、演出面でのブレは全く生じていない。
静かなシーンが多いことにも起因するが、格調美を意識した画面作りには映像作家としての誇りを感じる。
おそらくここまでキチッとした画面を作るのは、二束三文の映画監督にはできないことだろう。

ただ細かいストーリーテリングになると、てんでチグハグになってしまう。
随分と不親切な形で、異なる時代の複数のエピソードが次から次へとオーヴァーラップしてきて、
ひどく話しの構造が分かりにくく、これでは真剣に観ていた観客の集中をも離してしまう。
勿論、時制の軸を動かして物語を語ることの全てを否定するつもりはないけど、
本作の場合はまるで必要のないことをやって、映画をほぼ完全にブチ壊してしまっているのです。
さすがにこれでは勿体ないですね。もっと誠実に、丁寧に映画を築こうとする姿勢が必要だったと思うのです。

そういった意味では、こういったシークエンスにしてしまった編集も問題視せざるをえない。
さすがにこれでは、余計なことをし過ぎなのですよね。もっと作り手の主張を明確にした形にすべきでした。

この物語で問題となってくるのは、いわゆる“ハニー・トラップ”ですが、
ピッグス湾事件の背景だけではなく、エドワードがマーガレットと結婚した経緯もまるで、
“ハニー・トラップ”のようなニュアンスがあるのが、何だか複雑な心境にさせられますね(苦笑)。

やたらと積極的にエドワードにアタックしてくるマーガレットを演じたアンジェリーナ・ジョリーが凄くって(笑)、
まるでエドワードを演じたマット・デイモンを食べてしまうのかと思ったキスシーンが印象的でした(笑)。

確かに“ハニー・トラップ”とは言い過ぎですが、マーガレットが妊娠していなければ、
エドワードは耳の聞こえないローラと結ばれていた可能性が高く、彼の人生は変わっていただろう。
そうすれば、ピッグス湾事件の内容も変わっていたわけで、キューバ危機の歴史も変わっていただろう。
そうなると、もっと話しは大きくなるわけで、90年代後半の国際政治の概要まで変わっていたはずだ。

1人の結婚がここまでの影響を波及するなんて、考えてみれば凄い話しですね。
(少なくとも一般庶民である僕には、全く縁のない世界の話しですが...)

当初はフランシス・フォード・コッポラがメガホンをとる予定の企画だったとのことですが、
様々な紆余曲折を経て、ロバート・デ・ニーロがメガホンをとることになったらしい。
ここ数年、コッポラはここまで大きな企画の映画を撮っていませんから、賢明な判断だったのかもしれませんね。

この映画で大きなキー・ポイントとなっているのは、エドワードがイェール大学在学時に誘われた、
“スカル&ボーンズ”という秘密結社の存在で、ここから数多くのCIA高官を輩出されている。
基本的に白人至上主義の連中の集まりで、見た目の優雅さにこだわりを持ち、壮大な集会を度々催している。
そんな“スカル&ボーンズ”から数多くのCIA高官が出ていたわけですから、
どれだけ政治信念の偏りがあったかということを考えると、何だか怖い気がしますねぇ。

“スカル&ボーンズ”については細かく描かれており、入会の儀式の異様な光景など、
こういった秘密結社が身近に存在しない昨今の日本においては、なかなか理解しにくいファクターでしょうね。

おそらくエドワードが如何にして、家庭を犠牲にしてまでも諜報活動に明け暮れ、
時に残酷な決断をくだし、国際政治をも操っていたかを描きたかったのだと思いますが、
前述したようにこの映画は各エピソードのシークエンスを決定する段階において、かなり手痛いミスをしています。
故に、ひじょうに不親切な映画となってしまっており、事実関係や時の経過がひじょうに分かりにくい。

題材は悪くないし、上手く撮れば良質な社会派ドラマとなっていたでしょうから、
良い素材をまずまずの調理をしたにも関わらず、盛り付けで大失敗したかのようで、ひじょうに残念ですね。

(上映時間167分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ロバート・デ・ニーロ
製作 ロバート・デ・ニーロ
    ジェームズ・G・ロビンソン
    ジェーン・ローゼンタール
脚本 エリック・ロス
撮影 ロバート・リチャードソン
編集 タリク・アンウォー
音楽 ブルース・フォウラー
    マーセロ・サーヴォス
出演 マット・デイモン
    アンジェリーナ・ジョリー
    アレック・ボールドウィン
    タミー・ブランチャート
    ビリー・クラダップ
    ウィリアム・ハート
    ロバート・デ・ニーロ
    キア・デュリア
    マイケル・ガンボン
    マルティナ・グデック
    ティモシー・ハットン
    ジョン・タトゥーロ
    リー・ペイス
    エディ・レッドメイン
    ジョー・ペシ
    ガブリエル・マクト
    ジョン・セッションズ

2006年度アカデミー美術賞 ノミネート
2007年度ベルリン国際映画祭銀熊賞 受賞