ゴッドファーザー PARTU(1974年アメリカ)

The Godfather : Part U

72年にコッポラが打ち立てたマフィア映画の金字塔的作品である『ゴッドファーザー』の続編。

往々にして、シリーズ化されて続編になると、ダメになってしまうことが多いのですが、
本作は例外的に劇場公開当時から高く評価されており、第1作から続く一大叙事詩として観ると、
凄まじいくらいに見応えのある作品に仕上がっていて、3時間を大きく超える作品ですが、アッという間に観れる。

かく言う私は、最初に観たときは良さが全く理解できなかった作品だったのですが、
やっぱり年をとってから観ると(笑)、感じ方が変わったというか...これはスゴい出来の作品ですね。

どうやらずっと続編を製作することを計画していたらしく、第1作が高く評価されたことで
コッポラも本気で取り組み気になったようで、続編製作に向けてスタッフ集めなど本格的に動き始めたそうだ。
前作ではマーロン・ブランド演じるヴィトー・コルレオーネが、世代交代するにあたっての苦悩をメインに描きましたが、
この続編ではコレルオーネ・ファミリーのドンとなったマイケルが、ファミリーをクリーンにすると妻ケイに誓いながらも、
結局は汚い仕事をやり続けてしまい、結果的にはファミリーが肥大化し、血まみれの抗争に発展する様子を描きます。

マイケルからしたら、ファミリーを継ぐことには積極的ではなかったし、ヴィトーも巻き込みたくはなかった。
だからこそ自由に自分の意思で人生を歩むことを容認し、マイケルは大学にも行かせてもらっていました。

いざマイケルもドンの椅子に座ってしまえば、次から次へと“相談”が持ち込まれ、
そのほとんどが汚い手法で解決するしかないことで、政財界へのマイケルの影響力は増すばかりだった。
当初の理念から大きく逸れ、完全にマフィアのドンとなったマイケルは周囲の人間を誰も信用できない状況になり、
気付けばヴィトーの時代よりも残酷な手法で、周囲を縛り付けることで裏切りを牽制するドンに変貌していきます。

そんな皮肉な結果へと転じてしまうマイケルの姿を、前作よりもデカいスケールで見事に映画化している。
これは前作が高い評価を得たことで、桁違いの予算がついたことで実現したスケール感であったようですね。
なんせ若き日のヴィトーが暮らす1910年代のニューヨークを、再現するために建物を改築したというから驚きだ。

73年の『ミーン・ストリート』で評価されたデ・ニーロが若き日のヴィトーを演じることになりましたが、
さすがに名優マーロン・ブランドのイメージを踏襲しなければならないわけですから、これはとても難しい仕事でしたが、
そんなハードルをまるで軽く超えたかのように、マーロン・ブランドのイメージを壊さずに演じたのだからスゴい。

ただ、決してマーロン・ブランドのコピーというだけではなく、デ・ニーロなりのオリジナリティがある。
だからこそ、若き日のヴィトーの実像が見事に形作られていき、続編のマンネリを防ぐ良いアクセントになっている。

確かに第1作からマイケルを演じ続けているアル・パチーノも見事な熱演ぶりではあるのですが、
正直言って、この続編がアル・パチーノだけで物語を語ろうとしても、ここまでの評価にはならなかったでしょう。
マイケルの苦悩というテーマだけであれば、第1作の続きというだけなので、マンネル化と紙一重だったと思う。
そこをデ・ニーロ演じる若き日のヴィトーが如何にして、ファミリーのドンという地位を築いていったのかを描くことで、
同世代のマイケルの苦悩と上手くシンクロし、映画の味わいとして深みが出たという感じがしますねぇ。

ヴィトーもファミリーを守ろうとしていたし、マイケルもファミリーを守ろうとしていたことには変わらない。

しかし、青春時代に苦労したという経験がないせいか、最初っからファミリーの世界を見ていただけに
裏切りに次ぐ裏切りの数々を知っている。そうすると、「やられる前にやる」という精神に火が点き、止められなくなる。
その成れの果ては、ヴィトーの時代よりも恐怖政治のようにマイケルは、仲間うちでも牽制するように締め付けます。

それを快く思わない商売敵は、マイケルの仲間に懐柔し裏切りを促すようになり、
マイケル自身は勿論のこと、マイケルの家族にも危険が及ぶようになり、マイケルは警戒心を強めます。
映画はその繰り返しを描いているわけですが、前作よりもフォーカスされているのは、兄のフレドの存在だろう。
今は亡きジョン・カザールが演じているわけですが、マイケルとフレドの微妙な関係がなんとも絶妙な塩梅だ。

そして、マイケルの息子アンソニーが前作で、ヴィトーの最期に居合わせたことを思い出させるように、
本作でもアンソニーが抱える皮肉な運命が印象的だ。これがマイケルの妻ケイが懸念している、輪廻なのかな。
どう見ても、アンソニーはマイケルの後継者として育てられるわけで、ケイは自分の息子を巻き込みたくはない。

そんな思いが、ケイに一つの大きな決断をさせることになるわけですね。
ビジネスも軋轢だらけになり、家庭生活にも影響するようになったマイケルは、より苦悩を深め孤立していきます。

マイケルのビジネス仲間であり、共同経営を目論んでいたマイアミの大物、
ハイマン・ロスを演じたリー・ストラスバーグは映画史に残る名演技ですね。オスカーにもノミネートされました。
彼は著名な演技指導者であって、アル・パチーノやロバート・デ・ニーロも教え子の一人であり、
アル・パチーノからしたら、これはとても価値のある共演だったでしょうね。本作でも、かなり強い存在感でした。

実際にリー・ストラスバーグ演じるハイマン・ロスのモデルとなったのは、
アメリカでは有名なマフィアであったランスキーという男らしく、実際にランスキーはキューバやバハマに投資していた。
本作で描かれるロスは健康状態が悪く、訪問先のキューバで病状が悪化したものの、キューバ革命のドサクサで
仲間の手引きでキューバを脱出し、イスラエルへの亡命を試みるも、どの国も入国を拒否され仕方なくアメリカへ
帰国することを決意する。これが終盤のハイライトとなりますが、帰国時の空港での“ラスボス”感はハンパない(笑)。

まぁ、第1作でも報復に報復を重ねてコルレオーネ・ファミリーのドンとして君臨したマイケルでしたが、
本作では更にエスカレートしていて、ヴィトーよりも遥かに残忍性や情けをかけない主義に転じてしまっている。

それゆえか、ヴィトーとの大きな違いはファミリー内でどれだけの敬愛を集められているかという点で違っていた。
皮肉にも映画のラストシーンでヴィトーの誕生日の回想シーンが組み込まれていて、荒くれ者のソニーら含めて、
家族からは深く愛されており、ファミリーの仲間からも敬愛を集めていた。ところがマイケルには、それが無い。
ヴィトーの家族への深い愛情、仲間らへの包容力など、総合的な人間力でヴィトーと大きな違いがありましたね。

及ばぬところがあったからこそ、マイケルは家庭環境も芳しくないし、仲間の裏切りにもあってしまう。
マイケルは常に仲間を疑わなければならない日々を過ごすこととなり、ファミリーをなかなか合法化させられません。

コッポラはこの第2作に満足できなかったようだが、当初、彼が描きたかったのは
マイケルがマフィアの稼業に否定的であったものの、ヴィトーの後継者として指名されファミリーを継ぎ、
ヴィトー以上に非情かつ冷酷なファミリーのドンとして君臨しながらも、孤立を深めていく好対照な姿だと思う。
冷酷になることで恐怖政治のようにファミリーを管理するマイケルは、ヴィトーが集めた人望とはまるで違うスタイルだ。

マイケルも望むべくして、こうなっていたわけではないだろうが、
血まみれの抗争や報復に次ぐ、報復でファミリーのドンという立場を築き上げた以上、もう後戻りできないのです。
これがマイケルの大きな間違いであったのだろうし、どうあがいてもファミリーの結束力は集結できません。

本作の後、約16年後の1990年に第3作が製作され賛否両論となりました。
本作を観る限り、コッポラはこれ以上の続編を製作する気はあまり無かったのではないかと思います。
前述したように、しばらくはコッポラ自身、この第2作の出来に満足していなかったようなのですが、
僕にはこのラストシーンで、呆然とした表情で椅子に座り放心のマイケルの表情に、“やり切った感”を感じさせます。

欲を言えば、もう少しテンポ良く描いて欲しかったところだが、コッポラも重厚感を意識したのかも。
第1作の流れでそのまま鑑賞すれば、この3時間超えはサクッと観れるのですが、単発的に観ると鈍重に映るかも。

やはり本作にも、第1作で描かれたジェームズ・カーン演じるソニーのような、
マイケルも手を焼くくらいの荒くれキャラクターが必要だったのかもしれません。ソニーがいない代わりに、
ロバート・デュバル演じる弁護士トムの存在感が第1作よりも遥かに強くなっているのですが、正直、小物感が強い。

どこかクセの強い、インパクトある脇役を登場させて、映画をかき乱した方が良い意味で起伏が出来たでしょう。

(上映時間202分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 フランシス・フォード・コッポラ
製作 フランシス・フォード・コッポラ
   グレイ・フレデリクソン
   フレッド・ルース
原作 マリオ・プーゾ
脚本 フランシス・フォード・コッポラ
   マリオ・プーゾ
撮影 ゴードン・ウィリス
音楽 カーマイン・コッポラ
   ニーノ・ロータ
出演 アル・パチーノ
   ロバート・デュバル
   ロバート・デ・ニーロ
   リー・ストラスバーグ
   ダイアン・キートン
   ジョン・カザール
   タリア・シャイア
   マイケル・V・ガッツォ
   マリアンナ・ヒル
   ダニー・アイエロ
   ハリー・ディーン・スタントン
   ジェームズ・カーン
   トロイ・ドナヒュー
   リチャード・ブライト

1974年度アカデミー作品賞 受賞
1974年度アカデミー主演男優賞(アル・パチーノ) ノミネート
1974年度アカデミー助演男優賞(ロバート・デ・ニーロ) 受賞
1974年度アカデミー助演男優賞(マイケル・V・ガッツォ) ノミネート
1974年度アカデミー助演男優賞(リー・ストラスバーグ) ノミネート
1974年度アカデミー助演女優賞(タリア・シャイア) ノミネート
1974年度アカデミー監督賞(フランシス・フォード・コッポラ) 受賞
1974年度アカデミー脚色賞(フランシス・フォード・コッポラ、マリオ・プーゾ) 受賞
1974年度アカデミー作曲賞(カーマイン・コッポラ、ニーノ・ロータ) 受賞
1974年度アカデミー美術監督・装置賞 受賞
1974年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート
1975年度イギリス・アカデミー賞主演男優賞(アル・パチーノ) 受賞
1974年度全米映画批評家協会賞監督賞(フランシス・フォード・コッポラ) 受賞
1974年度全米映画批評家協会賞撮影賞(ゴードン・ウィリス) 受賞