ゴッドファーザー(1972年アメリカ)

The Godfather

言わずと知れた、マリオ・プーゾ原作のマフィア映画の第一作で、
72年度のアカデミー賞で作品賞を含む、主要3部門を獲得し、根強いファンを生んだ不朽の名作です。

しかし、実は僕、最初はこの映画と相性があんまり良くなかった(苦笑)。
なんか...あんまり良さが分かんなかったんですよね。最初に観たのは、確か中学生の頃だったと思うのですが、
そもそものストーリーが整理して理解できていなかったということもあるのかもしれませんが、本人に継ぐつもりも、
周りに継がせるつもりもなかったにも関わらず、激しい抗争の中にあっては、いつしか引き込まれてしまうという
ある種の不条理な運命が、僕には理解できなかった。何回か観るようになってからですね、良いなぁと思ったのは。

冷静に見るとあんまり似てないんだけど、不思議と映画を観ていたら、
ドン・コルレオーネを演じたマーロン・ブランドも、マイケルを演じたアル・パチーノも、フレドを演じたジョン・カザールも、
映画が進むにつれて、それぞれが似ているように見えてしまうあたりが、コッポラの狙いにハマった感がありますね。

また、この映画のコッポラも自信ありありな感じで演出しているようで、妙に嬉しい。
次から次へと面会を求められ、それぞれの困りごと相談を持ちかけられ、反社会的な対応を懇願され、
苦悩を見せるドンの部屋でのシルエットなど、とっても“絵的にもセンスがあって、しっかり観客の印象に残りますね。

まぁ・・・中学生の自分には“早過ぎた映画”だったのかなぁ(笑)。今になってみれば、そう思う。
マフィアの仁義とか、なりたくもないマフィアのドンになってしまう皮肉とか、あの頃はその良さが分からなかったし。
しかも、映画は3時間近くあるという...良く言えば重厚感のあるドラマ、悪く言えば冗長な映画なので。

コッポラとは、こういう人なんだと分かれば、本作もすんなり受け入れられると思うんだけど、
そういった前情報がないと、この時代の他のディレクターのようなカリスマ性があるわけでもないので、
チョット素直に受け入れることが難しいくらい、とてもパーソナルな叙事詩って感じに見えて、難しいんですよねぇ。

この物語で実に興味深いところは、実はドン・コルレオーネは自分の跡継ぎ問題に困っており、
長兄で気性の荒いソニーや、どこか頼りないフレドを後継者としてはアテにしておらず、それでいてマイケルは
大統領などの政治家を目指す、堅気の人間であって欲しいと、切に願っていた点だ。しかし、ドンが撃たれると
状況が一変し、マイケル本人も後を継がなければならないのだと決意したようで、なんとも運命の皮肉を辿る。

「絶対に親父のようにはならない」と、おそらくマイケルは思っていたのだろうが、
いつしかマフィアの世界に引き込まれ、決断を迫られるとマフィアとして生きる男の血が騒ぐかのようだ。

若き日はマフィアを否定し、相談事を反社会的に片付けていくドンの手法にも共感せず、
恋人ケイにもそのように主張していたにも関わらず、結局はマフィアの世界に引き込まれてしまう不条理さ。
それは皮肉にも、銃撃され深刻な容態のドンが入院する病院にて、明らかに警護の手を抜き、
まるで他のファミリーの手下がドンの止めを刺しに来るのを容認しているかのような構図に激怒して、
マイケルが方々に手を回してドンの安全を確保したり、用意周到にレストランで休戦交渉をしたりと、
次から次へと、マイケルの用心深い性格が実はマフィアのドンとして成り上がる適性を示しているかのようだ。

結局、本作でコッポラが描きたかったことって、これではないかと思う。
マイケルが堅気ではなくマフィアの世界に入り、ファミリーの後継者となったことをドンがどう思っていたかは分からない。
しかし、言葉ではマイケルへの信頼の示しており、ドンなりに覚悟を固めたということだったのかもしれませんね。

実権を握ってからのマイケルにしても、それは同様だ。彼は成るべくして、成り上がっている。
表向きは激情な部分を見せずとも、冷静に状況を把握し、まるで“仕事人”のように冷酷に指令を下していく。
これはある意味で、恐怖政治のようなやり方で周囲はマイケルの決断力に、ボスとしての権威を与え始める。
そういう意味で、この映画は新たなボスの誕生、そしてコルレオーネ・ファミリーの世代交代を描いているわけだ。

しかし、別にマイケルは野心を持ってマフィアのボスに成り上がったわけではない。
あくまで肉親である父親への敬愛の気持ち、家族愛を基本としてファミリーを守ろうとしたことに端を発している。
そこから、マフィアのボスとしての才覚が覚醒してしまうことで、そこからは単純な家族愛とは言い難いけど・・・。

それにしても、本作を観ているとマーロン・ブランドのカリスマ性がよく分かる。
マイケルを演じたアル・パチーノも決して悪くはないし、出世作となったことは間違いありません。
それでもマーロン・ブランドに圧倒されているように見え、正に貫禄の芝居ですね。これは彼ならではの仕事ぶり。

マイケルの兄ソニーが高速道路の料金所で待ち伏せされるシーンは出来過ぎな印象ですが、
ソニーが激怒することが分かっていて、ソニーの妹の亭主が意図的に暴力を振るうという発想がスゴいですね。
マフィア連中の抗争ですから、あらゆる手段を講じてくるわけですが、リスクをとってでもおびき寄せる覚悟がスゴい。

映画は3時間近くある大作なので、通常だと必ずと言っていいほどダレるところがあるのですが、
本作はそういった中ダルみが一切なく、ほど良い緊張感を見事に持続させて、エピソードもギュッと詰まっている。
キャストに恵まれた面はありますけど、本作は決してキャストの力に依存した映画というわけではないと思います。
これだけの力を結集して、まとめ上げたコッポラの力量はスゴいと思います。この頃は勢いが違いましたねぇ〜。

本シリーズは結果として三部作となり、マリオ・プーゾが他界してしまったので
おそらくこれ以上の続編は難しいと思うのですが、言わば輪廻を描いている映画でもあるので、
作ろうと思えば、第4作・第5作と続けていくことは可能なはずだ。しかし、コッポラにはもう撮れないでしょうね。

本作製作当時のコッポラは自身の映画会社がジョージ・ルーカスの監督デビュー作『THX 1138』に
投資したものの、ワーナー・ブラザーズの連中に酷評された挙句、結んでいた契約を解除されてしまい、
内容も勝手に意に沿わない編集を加えられてしまったがために、映画は興行的に大失敗してしまいました。
結果としてコッポラは経済的に窮地に追い込まれ、映画会社の存続も危ぶまれる事態となってしまいます。

ですので、崖っぷちのコッポラにとって本作は、当時の興行収入記録を更新するほどのブロックバスターとなって、
映画賞でも称賛され、文字通り起死回生の監督作品となりました。この時の意気込みも半端なかったでしょうね。

実際、コッポラは本作での成功のおかげでハリウッドでも巨匠扱いになりましたし、
イタリア系の映画人だけでイタリアン・マフィアのファミリーについて叙事詩的な映画を撮ったという事実が
当時はとっても大きな出来事だったようで、コッポラの起用に迷っていたスタジオもこの結果には驚いたようだ。
(ちなみに本作の成功はプロデューサーとしてのロバート・エバンスの名前を、世に知らしめるキッカケともなった)

それにしても、アル・パチーノ好きとしては(笑)、本作の時点でアル・パチーノの視線が良いですねぇ。
若い頃もアクティヴに動き回って叫ぶことが多かったし、老いてからは更にエスカレートして絶叫演説することが
多くなったアル・パチーノですけど、彼の目、そして視線はやっぱりどこか俳優としての天性のものを感じさせる。
本作でも特に映画の終盤、ファミリーのボスの座に就いてからは彼の視線が、虎視眈々と場の空気を支配する。

敵対する勢力となったマフィアの大物バルジーニを見る視線など、尋常ではない緊張感がある。

また、映画の中盤でマイケルがレストランへ出向くシーンも印象的だ。
この前に、ドンが担ぎ込まれた病院で警護がいないことを担当の警察官に感情むき出しに怒ったところ、
スターリング・ヘイドン演じる警察官がマイケルのことを痛めつけるのですが、これが感情的には伏線になっていて、
レストランでのシーンにつながって、内に秘めたる感情を瞬間的に爆発させる、その視線も忘れられない。

ちなみに劇中、洗礼を受ける赤ん坊は娘のソフィア・コッポラだったらしい。
まさかこのときは、将来、女流監督としてハリウッドで活躍するようになるとは、想像もしていなかったでしょうね。

(上映時間174分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 フランシス・フォード・コッポラ
製作 アルバート・S・ラディ
   ロバート・エバンス
原作 マリオ・プーゾ
脚本 フランシス・フォード・コッポラ
   マリオ・プーゾ
撮影 ゴードン・ウィリス
美術 ウォーレン・クライマー
編集 ウィリアム・レイノルズ
   ピーター・ジンナー
音楽 ニーノ・ロータ
出演 マーロン・ブランド
   アル・パチーノ
   ジェームズ・カーン
   ジョン・カザール
   ロバート・デュバル
   ダイアン・キートン
   リチャード・カステラーノ
   タリア・シャイア
   スターリング・ヘイドン
   ジョン・マーリー
   リチャード・コンテ
   アル・レッティエリ
   フランコ・チッティ
   シモネッタ・ステファネッリ
   ソフィア・コッポラ

1972年度アカデミー作品賞 受賞
1972年度アカデミー主演男優賞(マーロン・ブランド) 受賞
1972年度アカデミー助演男優賞(アル・パチーノ) ノミネート
1972年度アカデミー助演男優賞(ロバート・デュバル) ノミネート
1972年度アカデミー助演男優賞(ジェームズ・カーン) ノミネート
1972年度アカデミー監督賞(フランシス・フォード・コッポラ) ノミネート
1972年度アカデミー脚色賞(フランシス・フォード・コッポラ、マリオ・プーゾ) 受賞
1972年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート
1972年度アカデミー音響賞 ノミネート
1972年度アカデミー編集賞(ウィリアム・レイノルズ、ピーター・ジンナー) ノミネート
1972年度イギリス・アカデミ−賞作曲賞(ニーノ・ロータ) 受賞
1972年度全米映画批評家協会賞主演男優賞(アル・パチーノ) 受賞
1972年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ドラマ部門> 受賞
1972年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞<ドラマ部門>(マーロン・ブランド) 受賞
1972年度ゴールデン・グローブ賞監督賞(フランシス・フォード・コッポラ) 受賞
1972年度ゴールデン・グローブ賞脚本賞(フランシス・フォード・コッポラ、マリオ・プーゾ) 受賞
1972年度ゴールデン・グローブ賞音楽賞(ニーノ・ロータ) 受賞