ドラゴン・タトゥーの女(2011年アメリカ)

The Girl With The Dragon Tattoo

04年に他界したスウェーデンの人気小説家スティーグ・ラーソンの原作を
『エイリアン3』、『セブン』、『ファイトクラブ』などで知られる鬼才デビッド・フィンチャーが映画化。

“6代目ジェームズ・ボンド”であるダニエル・クレイグを主演にキャスティングし、
更に劇場公開当時、大胆な演技で話題となった若手女優のルーニー・マーラをヒロインに大抜擢。
その他にもクリストファー・プラマー、ステラン・スカルスゲールドなど実力ある役者陣が脇を固めている。

実は09年に本国スウェーデンで映画化されているので、2回目の映画化ということになりますが、
確かに映画の内容的には、如何にもデビッド・フィンチャーが好きそうな世界観で、ピッタリな題材ですね。

ただ、敢えて辛めに感想を言うと、デビッド・フィンチャーは00年代後半から
力のある映画を撮り続けていたので、得意なジャンルの映画を撮るともなれば、観る前の期待が大きかったけど、
その期待以上のものは本作には無かったなぁというのが本音。デビッド・フィンチャーなら、これくらいは出来るでしょう。
「うわ、こうきたかぁ〜」と、何か一つでいいから唸らせられるものが欲しかったが、そういうのは無かったですね。

2時間30分という長さですが、その上映時間も一気に駆け抜けるという感じで、
映画はスピード感抜群で、内容がテンコ盛り。どれだけ原作に忠実に映画を撮ったのかは分かりませんが、
分量的には、よくこの尺の長さの映画に収めたなと感心するくらい。その影響か、映画の終盤の謎解きはかなり強引。

一つ一つ紐解いていくというよりも、ヒロインのリスベットが実は天才的なハッキングの能力があるという、
“魔法の一手”を使って、ズルズルと芋づる式に謎が明らかになっていって、アッという間に映画が終わるという力技。
この辺はジックリ楽しみたい人からすると賛否両論だろうし、確かに強引過ぎて僕もついて行けてないところがあった。

ルーニー・マーラ演じるリスベットは“異常者”という鑑定結果を記録され、
定期的に後見人の面談を受けなければならないという状況だったものの、頼りにしていた後見人が病いに倒れ、
代わりの後見人がトンデモない野郎で、リスベットは屈辱的かつ凄惨な扱いを受けたことから復讐を果たす。
そんなリスベットは、とある報道から窮地に陥っていた記者ミカエルに興味を持ち、ミカエルのことを調べ尽くしていた。

一方でダニエル・クレイグ演じるミカエルは、とある情報からスクープを報じたものの、
逆に事実無根と訴えられて窮地に追いやられていた状況で、大富豪ヘンリックから自分の一族のことについて
書籍にして欲しいと依頼を受ける。ヘンリックは人生最大の後悔として、40年前に行方不明になった、
ハリエットという彼の姪の失踪事件を調査して欲しいという。行き詰ったミカエルは、天才的なハッキングの腕を持ち、
抜群の調査力があるということで、全身タトゥーにピアスだらけというパンクなファッションのリスベットを紹介される。

というわけで、2人は40年前に起きたハリエット失踪の謎について調査するわけで、
当然のようにヘンリックの一族に、深い闇があって、次々と調査を妨害するようなことがあり、
そんな中でミカエルとリスベットの距離が縮まっていく描写があり、本作は恋愛映画としての側面もあります。

リスベットはツンデレですから、なかなか素直になれないものの、
ミカエルに父性を見い出していたのか、性愛の相手として見ていたのか、その辺が微妙なところですけど、
いずれにしてもリスベットがミカエルに特別な感情を抱き、その感情を上手く表現できないギャップを感じていきます。

このギャップが映画のラストシーンに凝縮されるように表現されますが、この味わいは悪くない。
ですので、僕はミステリー映画としてよりも、恋愛映画としての側面の方が、惹かれるものがあると感じましたね。
さすがにここまでパンクなヒロインというのも、映画では珍しいですから、そんな女性の恋愛というのは惹かれる。

と言うのも、原作を読んでいずとも、ヘンリックの一族の謎であったり、
ハリエット失踪の真相というのは、少々ありがちなオチがつき、想像の範囲内という枠にハマっているように見える。
その真相に至るまでの描写も、所々にショッキングな描写を交えるというデビッド・フィンチャーの“手口”だけど、
本作はドロドロした人間模様などがあまり描かれておらず、どこか表層的なミステリーに終始している印象があった。

演出的にはグイグイと力強く引っ張る感じなのは相変わらずなので上手いとは思うけど、
掘り下げが弱く、台詞上で多くの情報量を投入してくるので、物語を追うことに少々僕は疲れてしまった。
僕の観方に問題があるのだろうけど(笑)、でも、映画は映画。小説を読んでいるわけではないのでね、
あれやこれやと調査した情報を洗い出すことよりも、もっと絞って映画を撮って欲しかったなぁ。これがマイナス。

この映画を観ていて、感銘を受けるのはリスベットの強さだ。
見方によってはナイーブに見える彼女ですが、どんな苦境に立たされても覆すパワーがあります。
ミカエルには上手く感情表現できずに、前へ進もうとなかなか出来なかったところで踏み出そうとするラストが
なんだか切ないですけど、それでも、“異常者”の烙印を押されて犯罪の被害にあっても立ち上がる姿は強い。

少々飛躍しているかもしれないが、彼女のような境遇が生まれてしまうのは、男性社会の弊害でもあると思う。
リスベットの後見人がその典型だ。確かに私刑は許されない。でも、リスベットの感情からすると、当然のこと。
この辺は常識的な判断をせずに、あくまで自分を貫き通すリスベットの強い決意と行動力に圧倒される。

その行動力に圧倒されているのは、実はミカエルも一緒で、何故か唐突にリスベットに“襲われる”。
このリスベットの無感情に肉体関係を迫る姿が、どこか異様な光景に見えるが、最初から決めていたかのような行動。
しかし、これがリスベットの不器用さなのかもしれない。リスベットがミカエルのどういったところに興味があったのかは
分からないが、まぁダニエル・クレイグが演じていれば、カッコいいオヤジではあるので父性も感じたのかもしれない。

要するに、リスベットは愛情に飢えていたのでしょう。しかし、それを上手く言葉や態度で表現できない。

こういったミカエルとリスベットの駆け引きを観る分には、この映画、とっても良く出来ていると思う。
内容的にも斬新であるし、ヘンリック一族の謎解きは僕としてはサイド・ストーリーにして欲しかった。
ただ、デビッド・フィンチャー的には逆でしょう。謎解きメインで、ミカエルとリスベットの恋はサイド・ストーリー。
ここが僕の率直な感想と、本作の趣向が噛み合わない(苦笑)。それは観ていて、ひしひしと伝わってきました。

ただね、僕はデビッド・フィンチャーって、もっとシンプルに映画を撮った方が良い仕事するんじゃないかと思う。
本作も原作やら、09年の第1回映画化作品やらがあったから、おそらくデビッド・フィンチャーの中で
やりたいことがいっぱいあって、それらを精査して撮影したのだろうけど、それでも整理し切れていない。

もっと絞れば、これは2時間に収まる内容にできたはずだし、その方が描きたいことが伝わったと思う。

大胆な芝居で頑張ったルーニー・マーラが評価されたことは良かったけど、
むしろダニエル・クレイグは損な役回りに見えましたね。完全にルーニー・マーラに喰われてましたから。
この辺はデビッド・フィンチャーが撮影前に、どういうパワー・バランスで考えていたのかが気になるところ。
(どう見ても、本作のダニエル・クレイグは助演ではなく、“主演”級の役ですからねぇ・・・)

残酷かつショッキングな直接的描写が多い作品ですので、そういうのが苦手な人にはオススメできない。
そういう観客を不快にさせる描写にはデビッド・フィンチャーは躊躇しない映像作家ですので、
本作でも特に映画の前半は、居心地の悪さを感じるシーンが続く。しかも、どこかスッキリしないまま続いていく。

おそらく作り手が、それをワザと世界観として作り出しているので、
悪夢のような前半を抜け出して、ミカエルとリスベットがお互い協力して調査が進み始める後半で
一気に物語が加速していくイメージになります。この緩急のつけ方は上手い。こういうところは、すっかり上手くなった。

デビッド・フィンチャーなら、まだまだ高いレヴェルの映画が撮れるとは思いますが、
あらためてハリウッドを代表する映像作家の一人になったことを実感させられる部分はある作品だと思います。

(上映時間157分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

日本公開時[R−15+]

監督 デビッド・フィンチャー
製作 スコット・ルーディン
   オーレ・ソンドベルイ
   ソーレン・スタルモス
   セアン・チャフィン
原作 スティーグ・ラーソン
脚本 スティーブン・ザイリアン
撮影 ジェフ・クローネンウェス
編集 カーク・バクスター
   アンガス・ウォール
音楽 トレント・レズナー
   アッティカス・ロス
出演 ダニエル・クレイグ
   ルーニー・マーラ
   クリストファー・プラマー
   スティーブン・バーコフ
   ステラン・スカルスゲールド
   ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン
   ベンクトゥ・カールソン
   ロビン・ライト
   ゴラン・ヴィシュニック
   ジェラルディン・ジェームズ
   ジョエリー・リチャードソン
   ジュリアン・サンズ
   エンベス・デービッツ

2011年度アカデミー主演女優賞(ルーニー・マーラ) ノミネート
2011年度アカデミー撮影賞(ジェフ・クローネンウェス) ノミネート
2011年度アカデミー音響編集賞 ノミネート
2011年度アカデミー音響調整賞 ノミネート
2011年度アカデミー編集賞(カーク・バクスター、アンガス・ウォール) 受賞
2011年度セントルイス映画批評家協会賞主演女優賞(ルーニー・マーラ) 受賞
2011年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞脚色賞(スティーブン・ザイリアン) 受賞