ゲッタウェイ(1972年アメリカ)

The Gataway

名優スティーブ・マックイーン主演のヒット作で、サム・ペキンパーの商業的成功作となりました。

どうやら、サム・ペキンパー本人は本作の仕上がりに満足はしていなかったようで、
それは分かる気がします。僕もサム・ペキンパーの監督作品として観ると、少々物足りないという印象。
ラストもこの内容ならば、もっと刹那的というか破滅的な方が良かったのではないかと思うのですが、
当初のシナリオがマックイーンが気に入らなかったようで、脚本の書き直しがあったようで、この内容になったそう。

まぁ、実際にどう改変したのかは分かりませんが、マックイーンの意見力も強かったのでしょうね。
本作が知り合ったマックイーンと妻役のアリ・マッグローが結婚したり、マックイーンにとって意味の大きな仕事でした。

映画の焦点としては、何かの罪で収監されていたドクが刑務所生活は耐えられないとばかりに、
愛する妻キャロルに命じて、政治力のある裏社会のボスであるベニヨンに会って出所の口利きをしてもらうよう指示。
その通りに行動したキャロルのおかげでドクは出所するものの、口利きの交換条件として田舎町の銀行を襲って、
50万ドルを強奪してこいとの指示がベニヨンから下り、ベニヨンの手下の2人の男が見張り役としてつくことになる。

しかし、ドクの出所に際してベニヨンがキャロルとの関係を求め、それに応じていたことを知り、
ドクは激怒しベニヨンの手下、そしてベニヨンも殺害して、キャロルと共にメキシコへ逃走しようとします。

このドクとキャロルの逃避行をメインに描いているわけですが、随所にアクション・シーンがあるとは言え、
いつものサム・ペキンパーらしい演出が続出かと言われると、そうでもないです。お得意のスローモーションは
ありますけど、どちらかと言えば、マックイーンというスター性を生かす方向にしたのか、いつもの調子とは違うかな。

やっぱりサム・ペキンパーの映画って、もっといつもは泥臭い感じなんですけどね。
本作はやっぱりどこかキレイ。決してつまらない映画ではないし、ドクのことを復讐心から追跡するベニヨンの手下の
ルディを演じたアル・レッティエリなんて、素晴らしい助演だと思うんだけど、それでもいつもの調子となんか違う。

もう、映画の冒頭の刑務所のカットからして、マックイーンがカッコ良く撮られ過ぎですよね(笑)。
この頃はハリウッドを代表するスターの一人であった自負もあったのか、一つ一つのカットが堂々たる映り方。
サム・ペキンパーの意向がどこまで反映されていたのかは分かりませんが、マックイーンの意見力は強かっただろう。
脚本に若き日のウォルター・ヒルがクレジットされているのも注目ですが、たぶんマックイーンの意向が強く働いてます。

だいたいゴミまみれになってもカッコ良いし、子どもに睨みを利かせてもカッコ良く見えちゃうし、
あれだけ堂々と出歩いていれば目立つわけで、そりゃすぐに手配犯として通報がいってしまうのは当然だ。
そういう意味では、ドクも自分が指名手配犯であるという意識が希薄なのか、堂々とハンバーガーショップの
ドライブスルーを変装もせずに利用して、ショップの店員に通報されるというのは、少々間抜けに見えてしまうなぁ。

肝心かなめの映画の前半にある、ドクらが銀行強盗に入るシーンから続く、
カー・チェイスを経てドクらが逃走する一連のシークエンスは見どころたっぷりで面白かったけど、
そこからは結構、中ダルみした部分はある。個人的にはもう少しドクの情けないところ、カッコ悪いところも描いて、
ドクと彼の妻キャロルとの人間味溢れるエピソードがあっても良かったと思うんですよね。それを補うかのようにして、
ルディが獣医の家に乗り込んでいって、エルパソまで車を出せと脅すエピソードがあるのですが、これが目立っちゃう。

時代性もあるのでしょうが、映画の雰囲気としてはアメリカン・ニューシネマそのものに感じる。
ただ、あくまで映像表現という観点からサム・ペキンパーっぽさは弱く、やっぱり彼の監督作の中では異色な存在かも。

それにしても・・・ドクは自身の出所に絡んで、キャロルがベニヨンの求めに応じて、
ベニヨンと関係を結んだ事実を知って激怒するのですが、確かにこれは2人の夫婦関係に亀裂が入って、
どこかぎこちない不安定さを抱えながら、メキシコへの逃避行を選択するわけで、一つのエッセンスとして機能しますが、
これをキャロルの“浮気”とか“不倫”や“裏切り”という言葉で表現するのは、チョット違うのではないかと思います。

そもそも刑務所暮らしが耐えられないからと言って、キャロルにベニヨンと会うよう指示したわけで
若いキャロルを一人で裏社会の実力者であるベニヨンと会わせるなんて、リスク以外の何物でもないわけで
ハッキリ言って、原因はドクにあるとしか思えないので、ベニヨンの求めに応じた彼女にキツく当たるのは同情し難い。

こういうところはマックイーンらしくないというか、なんとも度量の狭い男だなぁと思えてならない。

この辺は原作でも同じニュアンスで描かれていたのか、ウォルター・ヒルの脚本でアレンジしたのか、
マックイーンの介入があったのかは分かりませんが、この度量の狭さは少々印象が悪いような気がしてならない。

まぁ、こういう言い方をすると矛盾したように聞こえちゃうかもしれないけど、
キャロルもドクの指示から少し外れていて、ベニヨンのオフィスに面会しに行く前半のシーンでは
いきなりキャロルは大胆に胸元の開いたスーツで出向いているので、多少なりとも色仕掛けを意識していたのだろう。
そうなってくると、ベニヨンから“交換条件”を求められることも予想していたわけで、キャロルの作戦であったわけです。

しかし、決してキャロルが自ら進んでベニヨンに会いに行ったわけではないし、
ドクがそのように指示しなければ、キャロルもそんな危険なことをしなくとも良かった。それでドクに怒られるのは、
あまりに理不尽な気がしますが、時代性もあるのでしょうし、それだけドクが不器用な性格ということなのかもしれない。

ただ、やっぱり・・・この映画で気になるのは、前述したサム・ペキンパーの監督作品っぽさが弱いところだ。
汗臭そうな中年オヤジとしてウォーレン・オーツが出演していないのは寂しいし(笑)、バイオレンス描写も今一つだ。
そういう意味では、クライマックスにもう少しドクとキャロルが焦らされるようなシチュエーションにして欲しかった。
そこで砂煙がたつような乾いたバイオレンスが展開されれば、雰囲気的にサム・ペキンパーの画面になるはず。
(まぁ、ウォーレン・オーツのような存在を補完するために、本作はアル・レッティエリが頑張ったんだけど・・・)

敢えて、そういった従来の持ち味を消したかったのかもしれませんが、どうにも彼のカラーが弱いのは寂しい。

映画の後半のハイライトとなるのは、エルパソのホテルでのガン・アクションということになるだろう。
定宿として安心して部屋を確保するドクとキャロルでしたが、これがギャングの罠だったというのは定石でして、
なんとかホテルから脱出するため、そして追跡者たちを片付け、国外へ安全に逃げ切るためにドクは闘いを挑みます。

この一連のシークエンスはサム・ペキンパーというか、脚本のウォルター・ヒルの意向を強く反映する。
とは言え、さすがにドクのアシスタントにしかすぎなかったキャロルまでもが闘いに加わるのは無理があると感じた。
この辺はドクのサポートに回るとか、ドクとひと時も離れずに行動いたとか、細かな部分に気を配って欲しいところだ。

これは本作の本質ではないのかもしれないけど、描写が全体的に前時代的なスタイルだ。
ドクとキャロルを観ていても明らかですが、キャロルはドクに理不尽に叩かれますし、突然理不尽にキレられて、
キャロルは言い返すわけでもなく、ドクから冷淡な態度をとられます。これは現代社会なら、完全にアウトでしょう。

獣医師の夫婦の描写にしても同様、ストックホルム症候群なのかは知りませんけど、
獣医師の妻が、元々の生活に飽き飽きしていたのか、突然やって来た犯罪者ルディに“手なずけられる”ように
愛人となり、感情の起伏が大きなルディに突然キレられて食べ物を投げつけられたりする。これも今ならDV扱いだ。

まぁ、ドクもルディも所詮は犯罪者ですので、そういう側面があっても何も不思議ではありませんが、
それにしても作り手の視点自体が極めて前時代的で、時代錯誤。こういう描写に同意できない人には向かないかも。

ルシアン・バラードのカメラは素晴らしいのですが、所々に噛み合っていない感じがあるのが玉に瑕(きず)。
ラストの変更もマックイーンの意向が働いたそうなので、やっぱりこういう介入は良い結果を生まないと思いますね。
映画がヒットしてサム・ペキンパーも諦めたのかもしれませんが、やっぱりこの何もピンチが無いラストは馴染まない。

そういう意味では、本作でのサム・ペキンパーは本領発揮とはいかなかった作品のように思えます。
とは言え、そんな映画であっても決して見どころの無い映画にはならず、根強いファンを生む作品に仕上げていて、
どんな企画を任されてもサム・ペキンパーなりの仕事をすれば、それなりの出来になることを証明した作品と思います。
これは決して否定的なニュアンスで言っているわけではなく、これこそサム・ペキンパーの能力の高さの証明だと思う。

是非とも94年のリメークを観る前に楽しんでおきたい、マックイーンのカリスマ性が光る一作だ。

(上映時間123分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 サム・ペキンパー
製作 デビッド・フォスター
   ミッチェル・ブロワー
原作 ジム・トンプソン
脚本 ウォルター・ヒル
撮影 ルシアン・バラード
編集 ロバート・L・ウルフ
音楽 クインシー・ジョーンズ
出演 スティーブ・マックイーン
   アリ・マッグロー
   ベン・ジョンソン
   アル・レッティエリ
   サリー・ストラザース
   スリム・ピケンズ
   ボー・ホプキンス