フル・モンティ(1997年イギリス)

The Full Monty

かつて鉄鋼で栄えたイギリスの地方都市、シェフィールド。
鉄鋼業とサッカーが盛んで、人々が活発に活動していた時代から25年。
街の景気は一気に冷え込み、街を支えた製鉄所は次から次へと閉鎖し、街には失業者が溢れていました。

そんな中、とある閉鎖となった製鉄所に勤めていた工場勤務者が
妻から離婚され、一人息子の養育費も払えずにいたところ、男性ストリップが人気を博していることを知り、
同じく失業した中年のオッサンたちを集めて、ストリップの練習に勤しむ姿を描いたコメディ映画。

おりしもイギリス映画界が元気を取り戻しつつあった頃の作品であり、
本作が世界的にもヒットしたことがキッカケで、改めてイギリス映画の人気が集まったことを記憶しています。

97年度の映画賞レースでも注目を浴びた作品ではあったのですが、
同じ年は『タイタニック』や『L.A.コンフィデンシャル』、『恋愛小説家』がありましたからねぇ。
さすがに運が悪かったというか、違う年に製作されていれば、もっと高く評価されていたかもしれませんねぇ。

今になって観ても、映画の中盤で描かれる、
男性ストリップの練習をしていたオッサンたちが、職安で相談者の列に並んでいたときに、
ラジオで流れたドナ・サマーの Hot Stuff(ホット・スタッフ)を聴いて、次第に体を動かしていき、
フリを付けて、終いには踊り出す光景を観て、ロバート・カーライルがニヤッと笑うシーンが良いですね。
何度も言いますが、やはりこういう印象的なシーン演出がある映画って、やっぱり強いですね。

ストーリーの着想点の素晴らしさもあってか、
すぐにブロードウェイで舞台劇化されてアメリカでも人気を博し、世界各国で舞台で上映されるほど、
今となっては舞台劇のロングセラーとも言うべき名作になりましたが、オリジナルとなる映画も良いですね。

映画の出来も良いのですが、何より低所得や無職という社会的に不遇でありながらも、
いろんな問題を抱えながらも、毎日、頑張っている人を応援するかのように描くという姿勢が素晴らしいですね。
おそらく本作の根底にあるものも、劇場公開当時、多くの人々の心に響くものがあったのだろうと思います。

監督のピーター・カッタネオはあまり数多くの映画を撮っていないようで、
本作の前にも、短編映画を中心に活動していたようで、本作で初めて規模の大きな映画にチャレンジしたようで、
おそらく様々な局面で悪戦苦闘を強いられたのでしょうが、この姿勢を変えなかったのが良かったですね。
下手に欲張ることなく、イギリスの一般市民の日常を描いたことに、多くの観客が応援したいと思えたのでしょう。

主演のロバート・カーライルは勿論のこと、
本作でかつての工場主任で、社交ダンスの素養を活かして、ダンスの基礎を教えるジェラルドを演じた、
トム・ウィルキンソンはハリウッドに渡って活躍するキッカケとなった作品として、価値は高いように思います。

シナリオを書いたサイモン・ボーフォイもアカデミー賞にノミネートされるなど評価高く、
08年の『スラムドッグ$ミリオネア』で、ついにアカデミー賞を受賞するなど、彼にとってある種の出世作ですね。

個人的には主人公のガズと、彼が可愛がる一人息子との複雑な関係や
元妻とのイザコザなど、もっとしっかり描いた方が映画が盛り上がったと思える部分もあって、
決して完璧な映画ではないと思っているのですが、それでも断じて映画の価値を損なう致命傷ではない。
むしろ、その不完全さ...というか、どこか隙があるような作りが、かえって映画の面白味を増してる気がします。

どことなく、映画の序盤から手作り感があって、作り手がホントに苦労して製作されたのがよく分かる。
おそらくこういう感覚も、本作が世界中で受け入れられた要因として、決して無視できないのではないだろうか?

経済的にも、低予算で製作されており、
それが本国イギリスで大ヒットとなったことから、世界各国で製作費の8倍を超える興行収入があって、
驚異的な収益率を叩き出しただけでなく、前述した舞台劇のオリジナルでもあることから、
あらゆる面で莫大な収益をもたらした映画ということができて、これは作り手も予想していなかったかもしれない。

そういう意味では、近年、稀に見る映画界の成功事例と言っていいかもしれません。

上映時間も91分という、実に経済的な時間の中で一気に楽しませてくれる。
クライマックスにようやっと、メンバーたちがストリップ・ダンスを踊り始めるのですが、
ややもすると、一気に下世話になってしまうシーンであっても、実にサラリと上手く見せてくれる。
この辺の感覚的な部分でも、この映画の作り手は演出上の選択を間違えなかったですね。

トム・ジョーンズが「帽子だけは取らないで!」と歌ってのラストシーンも、実に痛快。
こういう面では、とてもユーモアのセンスがあって、思わず感心してしまった。

しかし、繰り返しになるが決して完璧な映画を目指したというわけでもないせいか、
印象としては「この映画は最高だった」とは述べられない。しかし、平均水準は上回ったのは確かだ。
こういう映画がコンスタントに出てくるというのは、如何に当時のイギリス映画界が元気だったかを象徴している。
(こういう映画がコンスタントに発表されるとなると、全体の平均レヴェルが上がります)

それにしても、妻に半年間、失業したことを黙っていて、失業がバレて家を追い出されたジェラルドが、
再就職先にあり付けたというのに、家を出されたままの状態で一夜限りの“フル・モンティ”の舞台に立った結果、
その後、妻との夫婦関係がどうなったのかについて、映画の中で一切描かれていないのが気になる(笑)。

奥さん、そこまで怒っていないようにも見えたが、
さすがに差し押さえになって、それまで失業したのを黙っていた現実に許せなかったのか、
内心ではそうとう怒っていてもおかしくはない状況だが、何故、ジェラルドが彼女に打ち明けられなかったのか、
ホントはその理由をよく考えた方がいいのですが...まぁ、現実はそんなに甘くないですよね(苦笑)。

本作の前年、『ブラス!』という似たような環境を題材にした映画がありましたが、
本作は『ブラス!』に漂っていた重たさを取り除いたような空気感ではあるのですが、
おそらく映画のクライマックスのストリップ・シーンで警察官が来ていたのが映っていただけに、
やはり彼らは金銭的に恵まれることはないのだろうなぁと予感させるあたりが、どことなく切ない。

そういう意味では、実は教訓的な映画なのかもしれない。

(上映時間91分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ピーター・カッタネオ
製作 ウベルト・パゾリーニ
脚本 サイモン・ボーフォイ
撮影 ジョン・デ・ボーマン
編集 デビッド・フリーマン
    ニック・ムーア
音楽 アン・ダッドリー
出演 ロバート・カーライル
    トム・ウィルキンソン
    マーク・アディ
    スティーブ・ヒューイソン
    レスリー・シャープ
    エミリー・ウーフ
    ポール・バーバー
    ヒューゴ・スピアー
    ウィリアム・スネイプ

1997年度アカデミー作品賞 ノミネート
1997年度アカデミー監督賞(ウベルト・パゾリーニ) ノミネート
1997年度アカデミーオリジナル脚本賞(サイモン・ボーフォイ) ノミネート
1997年度アカデミー音楽賞<オリジナル・ミュージカル/コメディ部門>(アン・ダッドリー) 受賞
1997年度イギリス・アカデミー賞作品賞 受賞
1997年度イギリス・アカデミー賞主演男優賞(ロバート・カーライル) 受賞
1997年度イギリス・アカデミー賞助演男優賞(トム・ウィルキンソン) 受賞