フレンチ・コネクション(1971年アメリカ)

The French Connection

この映画との出会いは、中学1年生のときに民法テレビの
正月深夜にやっていた“年忘れアンコール映画放送”みたいな企画で放送していたのを録画したことでした。

当時、映画に興味が出てきたという程度で
前情報なしに適当な映画を録画しまくっていたので、あまり身構えずに本作を観たのですが、
もう最初から最後まで夢中になって、アッという間に最後の最後まで観てしまいました。

当時は小池 朝雄が主人公ポパイを担当している日本語吹替版で観ていて、
未だに僕の中でのイメージがこのヴァージョンなのですが、DVD化されたときに収録されていて、
涙が出るほど嬉しかったし、実は今でも日本語吹替版で観たりしています。それくらい傑作です。

アメリカン・ニューシネマの旋風がハリウッドで吹き荒れていた1971年、
当時はスティーブ・マックイーンの『ブリット』が世界的大ヒットに至ったこともあって、
刑事映画がブームでした。本作も『ブリット』の製作に関わったフィリップ・ダントニが企画しているわけで、
いろんなアイデアが詰まった、問答無用の強い刑事映画を作ろうとした意気込みが伝わってくる作品になっている。

この映画のウィリアム・フリードキンの演出は、何から何まで神懸っていて、
本作と『エクソシスト』と続けて発表した当時のウィリアム・フリードキンは、正に頂点にいた映像作家ですね。
(80年代以降のウィリアム・フリードキンは敢えて、何も言わないことにしますが・・・)

本作のウィリアム・フリードキンの何がスゴいって、言葉では表現し切れないくらいに
“押し出し”感の強い、そして圧倒的なカリスマ性を持った演出で押し切る力強さがある。
例えば、同年に製作された『ダーティハリー』とよく比較されますが、あれはあれでドン・シーゲルの代表作ですが、
ハリー・キャラハンとポパイの違いは、人としての理性だ。ハリーにはまだ理性があるが、ポパイには無い。

そんな理性の欠片も無い、ある種、本能で麻薬犯罪組織を追いつめることに目的がある、
ポパイは法に触れる捜査手法であろうが、刑事倫理に反する行為だろうが、とにかく手段は選ばない。

僕がこの映画を最初に観て衝撃を受けたのは、
クライマックスに誤射をしてしまい、同僚のクラウディはたじろいだものの、ポパイはすぐに銃に弾を装填し、
「そんなことより、今はフランスのヒゲだ。まだそこにいるぞ」と言い放ち、廃墟の暗闇へと入っていく。

僕はこのポパイの何なのかよく分からない執念が、映画全体を強烈に支配しているように観えた。
だからこそ、マルセイユの麻薬密売人のシャルニエもポパイを脅威に感じていたわけですがねぇ・・・。

これだけ徹底してポパイの執念をドキュメントしたウィリアム・フリードキンも、
撮影現場では主演俳優をスゴい過酷な要求をしていたようで、頑張ったジーン・ハックマンは
オスカーを獲得しましたが、後々のインタビューで「もう二度と一緒に仕事したくない」と言っていたので、
ジーン・ハックマンがスターダムを駆け上がるには重要な仕事だったけど、あまり良い思い出は無いようだ。

刑事映画としてのセオリーをことごとくブチ壊した作品ですが、
前述したようにポパイは全く理想的な刑事ではないし、違法捜査も当たり前の不道徳な奴だ。
仕事から離れれば、自転車に乗っている女子学生をナンパして、すぐに自宅に連れ込むし、
帰宅途中に自分を襲撃してきた狙撃者を追跡するためには、市街地を走っていた一般人の車を止めて、
いきなり運転席からドライバーを降ろして、車を奪ってハチャメチャな運転をして追跡する。

根拠は無く、ただただ野生の勘(?)に基づいて行動するだけで、
クサいと睨んだ放置自動車があれば、麻薬を探すために車を引っ張って、全て解体してしまう。

品行方正な刑事像が求められる現代社会に於いては、
このポパイのようなアンチヒーロー的な刑事はウケないだろうけど、それを堂々と真正面から描き、
別に悪を倒すことに目的があるわけでも、麻薬を憎み麻薬犯罪を摘発することに目的があるわけでもなく、
まるで野良犬のように、ただ追った悪党を逮捕することだけが目的という、アウトローな刑事を主人公にしている。

今だったら、なかなか考えられないニューヨークの市街地で
地下鉄に乗って逃げる狙撃犯を追いかけて、ポパイが高架下の道路を自動車で走って追いかけるなんて、
ある意味で奇想天外な発想で描いたカー・チェイスも、映画史に残る大迫力の演出になっていて、素晴らしい出来だ。

僕が観てきた中でも、ズバ抜けて編集が素晴らしい作品でもあります。
これは当時のウィリアム・フリードキンの眼力も確かなものだったのでしょう。これはなかなか出来ないレヴェルです。

勿論、75年に製作された続編も面白いは面白いし、
ポパイとシャルニエの闘いのその後を描いているので、必要な続編だったことは理解しますが、
僕の中では、あくまで本作だけで完結した刑事映画なのです。この尻切れトンボのようなラストが、また良いのです。

そして、やっぱり役者を走らせる映画は良いなぁ。
映画の冒頭から幾度となく、中年のオッサンであるポパイが走って追跡するシーンがあります。
こういったシーンで如何に臨場感を出すかという観点から、本作はあらゆる工夫をしています。
その最たるものが、足音と吐息を全面に押し出す演出をしたことでしょう。本作以前の作品では
あまり観られなかった発想であり、ウィリアム・フリードキンが追求したドキュメンタリー手法を飾る演出でした。

あの地下鉄が車両基地に突っ込むシーンにしても、別に実際に地下鉄同士を衝突させたわけではない。
それでもこれだけ迫力のある衝突シーンに昇華させることはできるし、見せ方がとても上手いです。
やはり本作は当時としても、莫大な製作費が用意されていたわけではないことは明白でしょう。

そうであるならば・・・と新進気鋭のウィリアム・フリードキンが繰り出した創意工夫は、映画史に残るものです。

別にド派手な爆発シーンがあるわけでも、激しい格闘シーンがあるわけでもありません。
それでも、ブルックリンの場末のバーの“ガサ入れ”シーンに代表されるように、
ウィリアム・フリードキンはあらゆる仕掛けをして、映画を息つく暇ないくらい緊張感の高いものに仕上げました。

たぶん、もうこのレヴェルで映画を撮ることはできないでしょう。それくらい、神懸った作品です。

僕は今まで10数回観てきましたが、何度観ても、僕の中では生涯ベスト・ムービーなのは変わりありません。
それくらい複数回の鑑賞に堪える名作と言っていいと思います。それくらい、当時は衝撃的な存在だったことでしょう。
(できることなら、僕もこの時代にリアルタイムで本作で出会いたかったと、本気で思っています・・・)

性格に難があるらしく、ウィリアム・フリードキンのことをあまり良く言う人がいないけれども、
僕の中では本作から『エクソシスト』の流れだけで、凄い映像作家という位置づけでして、
日本はじめ世界的にも忘れ去られてしまった存在になってしまったのは、個人的に凄く残念でなりません。

是非とも、今後も語り継いでいきたい、僕の映画好きの原点とも言える名作です。

(上映時間105分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 ウィリアム・フリードキン
製作 フィリップ・ダントニ
原作 ロビン・ムーア
脚本 アーネスト・タイディマン
撮影 オーウェン・ロイズマン
編集 ジェリー・グリーンバーグ
音楽 ドン・エリス
出演 ジーン・ハックマン
   ロイ・シャイダー
   フェルナンド・レイ
   マルセル・ボズフィ
   トニー・ロー・ビアンコ
   エディ・イーガン
   ソニー・グロッソ

1971年度アカデミー作品賞 受賞
1971年度アカデミー主演男優賞(ジーン・ハックマン) 受賞
1971年度アカデミー助演男優賞(ロイ・シャイダー) ノミネート
1971年度アカデミー監督賞(ウィリアム・フリードキン) 受賞
1971年度アカデミー脚色賞(アーネスト・タイディマン) 受賞
1971年度アカデミー撮影賞(オーウェン・ロイズマン) ノミネート
1971年度アカデミー音響賞 ノミネート
1971年度アカデミー編集賞(ジェリー・グリーンバーグ) 受賞
1971年度全米映画監督組合賞(ウィリアム・フリードキン) 受賞
1971年度全米脚本家組合賞脚色賞<ドラマ部門>(アーネスト・タイディマン) 受賞
1971年度イギリス・アカデミー賞主演男優賞(ジーン・ハックマン) 受賞
1971年度イギリス・アカデミー賞編集賞 受賞
1971年度ニューヨーク映画批評家協会賞主演男優賞(ジーン・ハックマン) 受賞
1971年度ゴールデン・グローブ賞<ドラマ部門>作品賞 受賞
1971年度ゴールデン・グローブ賞<ドラマ部門>主演男優賞(ジーン・ハックマン) 受賞
1971年度ゴールデン・グローブ賞監督賞(ウィリアム・フリードキン) 受賞