ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ(2016年アメリカ)

The Founder

これまで、“発見者”という観点で見たことがなかったので、この原題には唸ってしまう。

世界的に有名なバーガー・チェーンになった「マクドナルド」が、全米で広がっていくキッカケとなった、
実業家レイ・クロックの姿を描いたコメディ・ドラマ。皆さんお馴染みの「マクドナルド」の歴史を知る上で面白い作品だ。

僕は本作、映画の出来としても極めて優秀であり、もっと注目されても良かったと思います。
09年に『しあわせの隠れ場所』で評価されたジョン・リー・ハンコックの監督作品であり、面白い着想点ですね。

とっても興味深いのは、レイ・クロックは飲食業をプロデュースするということを大々的にやった人で
そのプロデュースの手法として不動産業の手法をとったという点だ。これは本作を観て、思わず唸ってしまった。
現代社会の悪しき部分にもなったような気はしますが、この「所有しない」という経営手法が通用した時代であり、
また、飲食業で実例が数少なく、かつマクドナルドという有望なバーガー・チェーンを手にしたことが大きかった。

現代的な感覚で見れば、レイ・クロックは別にマウドナルドのシステムを考え出したわけでも、
実際に商品開発や生産システムを作り上げた人というわけではなく、これらを全て拝借した立場なので、
ある意味ではマクドナルドのアイデアを盗み取った、嫌な奴に見える。彼に言わせると「勝てば官軍」なのかもしれない。

そういう意味では、本作自体もレイのことを少し突き放したような観点で描いているようにも観えるのですが、
52歳というサラリーマンとしては晩年に差し掛かり、決して経済的にも裕福ではなく、冴えないセールスマンで
将来も何も無いようなオッサンだったのが、地域に根差したバーガー・ショップで人気のあったマクドナルドを
出張先で知ったことで、それまでの経験と偶然出会った人々の助言をもらって、一気に全米に広めることに成功した。

そんな人物だからこそ、レイに人望や人徳は無かったのかもしれない。
しかし、それでも自分の力でやり遂げるという信念と行動力は、現代社会にはなかなか無いところに感じる。

但し、元々のマクドナルドのシステムを考案した兄弟の立場からすると、最悪な結末である。
苦心して作り上げたマクドナルドを根こそぎレイに奪い取られたようなもので、良質なハンバーガーを提供し、
地域に愛されるチェーンを目指して、それでいながら一切の無駄を省くというスタイルを確立して、
急速な拡大路線ではないにしろ、堅実な経営路線の軌道に乗り始めた矢先の出来事だったので、ショックも大きい。

当初のレイは、この兄弟の経営理念に共感し、当時としては目新しい発想を採り入れた
バーガー・チェーンであっただけに、カリフォルニア州から自分の暮らすイリノイ州へ持って帰りたいという想いでした。

しかし、冴えないセールスマンが52歳にして再起をかけた事業であったがために、
経済的に破産しては困るものの、利益を伸ばすために提案したアイデアがことごとく兄弟に却下されたために、
レイは次第にストレスを抱え、自ら考えるチェーンの拡大案の中の最大の邪魔者は、この兄弟であると考えます。

実のところ、この辺のレイの本音が読みにくい映画ではあるのですが、
当初、兄弟と結んでいたフランチャイズ契約も無視するようになったところからすると、レイに主導権を奪われる
可能性は最初っから高かったと言えば、そんな気もするし、レイを監視する役目を負う人材が必要だったのでしょう。

それにしても、この兄弟が古くから効率的な店舗オペレーションを追及することには余念がなかったという
エピソードは実に興味深いですね。現代の生産管理の原点とも言える姿勢ですが、この分野のパイオニアですね。
そして標準的な品質管理を重視していたという観点からしても、当時としてはかなり先進的な考え方だったと思う。
それゆえ、粉末から作るシェイクは一切認めず、アイスクリームから作るシェイクにこだわるという、頑固さもあった。

世の中、最近は「変化」とか「進化」というキーワードが流行っている感がありますけど、
食品に関しては革新的なイノベーションって、ほとんど起こりませんからね。最近では培養肉がやっと、
イノベーションに近い分野になりつつありますが、結局は“手を変え品を変え”みたいに目先を変えるビジネスです。
皆、最終的にはオーソドックスなものに落ち着くので、派生商品は次第に淘汰されていくのがセオリーです。
本作で描かれる兄弟の発想って、この不変的な良さを追い求めた結果であって、実に計算高いなぁと感じました。

一時的には変わり種のようなものが流行ったりもするのですが、結局は“プレーンタイプ”に戻ってくる。
本作でも店舗でたくさんのメニューを扱ったり、過剰なサービスに傾くことなく、品質と効率にこだわります。
それが当時の若者たちには、逆に丁度良い塩梅だったのでしょう。正しく、時代を捉えたビジネスだったのです。

そんな地域の人々に愛され支持される店舗を見て、レイはこれが自分の理想だと確信します。

彼がイリノイ州でフランチャイズを展開し始めた頃は、純粋にマクドナルドのシステムと商品に心酔していたのでしょう。
だからこそ、店を清潔にすることの尊さ、適度に良い客層を獲得することに対して、レイはこだわっていました。
ところが、元々、移り気な性格であるレイは、冷凍庫のエネルギー・コストの負担が大きいとの分析結果を受けて、
アイスクリームではなく、粉末を水に溶かすことでシェイクが作れることを知り、徐々に初心を忘れていきます。

彼はマクドナルドというチェーンが持っていた、驚異的なシステムの“発見者”であるという自負があって、
それが大きな争いのタネとなってしまうわけですが、結局、レイは現代で言うと、「乗っ取り屋」になります。

レイの理屈から言えば、弱肉強食ということなのでしょうが、日本人的な感覚からいくと好感が持てないでしょう。
おそらく、創業者兄弟が始めたマクドナルドは行きたいと思う人はいるでしょうが、レイが広めたマクドナルドには
あまり良い印象は持てないでしょうから、逆にマクドナルドに行きたいとは思えないタイプの映画なのかもしれません。

レイも当初は圧倒されましたけど、ストップウォッチを持って厨房での動き方を計算して、
工数を如何に減らすかに注目して作業動線を作り、ベストコストで経営しようとするのは現代の生産管理の原点だ。
80年代くらいまでは、日本流の品質管理が国際的にも注目されていましたが、創業者兄弟が実践していたことは
これはこれで品質管理の王道を行くマネジメント手法をとっていて、正しくパイオニアとでも言うべきアプローチですね。

本作はどちらかと言えば、レイの生きざまについて賛美するわけでも強く否定する感じでもなく、
強いて言えば、客観的な視点でレイを描いている。奪われた兄弟に関しては、どこか同情的な描き方ではあるけど。

それでいながらレイを中心に映画を展開するので、レイの生き方の虚しさを感じる面もある。
経済的に困窮していたレイでしたが、マクドナルドの実権を手にして、次第に多額の富を築くようになり、
長年連れ添った妻と別れ、人妻を略奪する形で再婚という人生を過ごすわけですが、どこか冷めた視線で描きます。

だからと言って、強烈にレイの生きざまに否定的な描き方をしているかと言われると、そうでもない。
結局、これはレイのプロデュースがなければマクドナルドが世界的なバーガー・チェーンに成長することは
なかっただろうと、その功績のデカさを本作の作り手も認めざるをえないと思っている証拠なのかもしれません。

この辺の出し入れが、本作の監督だったジョン・リー・ハンコックはスゴく上手かったと思います。
残念ながら日本では拡大公開された作品というわけではなく、ヒッソリと劇場公開されてアッサリと終了したので、
なんだか勿体なかったですね。当時はマイケル・キートンもリバイバル的に人気を取り戻しつつあった時期でしたので、
もっと本作を上手くプロモートする術はあったと思うのですが、個人的には本作は不遇の扱いだったと思いますね。

少々、褒め過ぎなのかもしれませんが、これはとってもユニークで面白く、出来の良い伝記映画だと思います。

相変わらずマイケル・キートンはペーソス溢れる芝居から、映画の終盤では中年のギラギラした部分を垣間見せる。
彼はすっかりスターダムに返り咲いた感がありますが、このところ急激に大きな役の仕事が増えましたね(笑)。

単にマクドナルドの歴史を知るという意味でも貴重な作品だとは思いますけど、
如何に“出会い”が人生を変えるかを象徴させた作品でもあります。“出会い”はいつ、どこにあるかは分かりません。
そして、その“出会い”に気付けるか、ということもポイントです。人はどうしても先入観や経験則で考えがちです。

時にその先入観や経験則は有効ですが、時として“出会い”を消失させてしまこともあるのかもしれません。

(上映時間115分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 ジョン・リー・ハンコック
製作 アーロン・ライダー
   ドン・ハンドフィールド
   ジェレミー・レナー
脚本 ロバート・シーゲル
撮影 ジョン・シュワルツマン
編集 ロバート・フレイゼン
音楽 カーター・バーウェル
出演 マイケル・キートン
   ニック・オファーマン
   ジョン・キャロル・リンチ
   リンダ・カーデリーニ
   ローラ・ダーン
   パトリック・ウィルソン
   B・J・ノヴァク