ザ・ファーム/法律事務所(1993年アメリカ)

The Firm

ジョン・グリシャムのベストセラー小説の映画化であり、劇場公開当時はそこそこヒットしました。

評価自体は芳しい評価を得られなかったのですが、僕はそこまで悪い出来ではないように思う。
僕の中での期待値が低すぎたのかもしれないが(苦笑)、シドニー・ポラックの監督作品としては上出来な部類。
60年代後半にアメリカン・ニューシネマの一派として、異色な映画を何本も手掛けるディレクターでしたが、
いつしかメロドラマや文芸路線をメインに活動の主軸を置くようになり、大作志向で才気を失った印象がありました。

まぁ、本作も当時のハリウッドでトップスターの仲間入りを果たし、マネーメイキング・スターとして
世界中で人気のあるスターとなったトム・クルーズを主演にキャストできたという時点で、ある程度のヒットを
約束された作品だったという感じですけど、それ相応に見せ場が作られていて、そこそこ楽しめる内容だと思う。

映画は経済的に恵まれずに苦学生としてハーバード大学のロースクールを首席で卒業したミッチが、
いくら優秀な若者とは言え、破格の好待遇でアメリカ南部の小都市メンフィスの弁護士事務所に採用され、
彼の教育係として任命されたベテランのエイヴァリーと共に、ケイマン島の金持ち相手に節税指南をしたりしてたところ、
この弁護士事務所で実は相次いで同僚弁護士が事故死するという不審な出来事に見舞われていることを知り、
ミッチに接触してきたFBI捜査官に言われ、証拠書類を集めていたところ、実はこの弁護士事務所はシカゴのマフィアと
内通していて、“警備担当”らが強硬な手段でミッチの工作活動を弁護士事務所が阻んでくる様子を描いています。

脚本も『チャイナタウン』などで知られるロバート・タウンが書いているし、
キャストとしても、エイヴァリー役にジーン・ハックマン、FBI捜査官にエド・ハリス、ミッチの兄にデビッド・ストラザーン、
ミッチに手を貸す怪しい探偵にゲーリー・ビジー、そのアシスタントにホリー・ハンターと地味にスゴい豪華キャストだ。

映画の序盤が、どこか説明的になり過ぎたこともあってか、全体にクドいなぁという印象なんだけど、
ミッチが弁護士事務所の謎の核心に迫り、事務所側も強硬手段にでてくる攻防が描かれる終盤に及ぶと、
なかなかスリリングな演出が続いて、しっかりと見せ場を作っている。それでも、2時間30分超えは長過ぎですけどね。

欲を言えば、主人公のミッチがハーバード大学のロースクールを首席で卒業するほど優秀だというなら、
もっと彼の能力の高さや頭脳明晰なところを象徴するシーンが欲しかったなぁというところで、それをケイマン島の
富豪に節税方法の正当性を主張し、彼を説得するシーンだけで彼の総てを表現できたかというと、それは疑問だ。

もっとも、苦学生だったのは分かるが、何一つ実社会では実績の無いミッチが
通常ではあり得ないほどの好待遇で、わざわざ大学の事務局にミッチへの他事務所からのオファー内容を調べ、
それらよりも割り増しして金額提示するというのは、どう考えても話しが上手過ぎで、ミッチにあまりに警戒心が無い。
むしろ、ミッチの妻アビーの方が怪しいと直感的に思っていたようで、彼女の方がこのオファーを警戒している。
ミッチは賢いのだろうけど、結局は社会人としては未熟だったということなのかもしれませんが、もっと考えて欲しかった。

ジョン・グリシャムの原作では、どのようにミッチが描かれていたのかは分かりませんが、
さすがにもっとしっかり描き込まれていたのではないかと思う。特に映画の前半のミッチの描き方は理解し難い。
結婚したばかりと思われる妻アビーとのラブラブな日々をクドクドと描いたクセに、ケイマン島への最初の出張で
いきなりミッチは弱みにつけ込まれたように、色仕掛けのトラップに実にアッサリを引っかかるというのがイージー過ぎる。

それならば、アビーとの結婚生活はほどほどに、ミッチにもう少し浮ついたところがあるように描くべき。
確かに浜辺に暴力振るわれた女性を見て、心の隙が生まれたのかもしれないが、急激過ぎる展開があまりに
どこからどう見ても、いわゆる“ハニトラ”感いっぱいの雰囲気で、賢いミッチがまんまと引っかかるはずがない(笑)。

結局、映画で描かれるのは、この“ハニトラ”にミッチがまんまと引っかかったことから大きく動き出すので、
映画全体通して考えると、これは結構大事なエピソードだったはずなのですが、納得性に欠けたのがとても残念。

これがキッカケで弱みを見せたミッチは、疑惑深まる弁護士事務所と接触してくるFBIとの狭間で揺れ動き、
同時に妻アビーとの関係もギクシャクしてくるなど、ドンドンと窮地に追いやられていき、緊張感が高揚してきます。
この辺から映画はグッと良くなっていくので、思わず「シドニー・ポラックもこんな映画が撮れるんだ!?」と偉そうに
感心してしまいましたが(笑)、正直言って、映画のエンジンがかかるまでがスローリーで、異様に長く感じられる。

小説で読むと、逆にこのヴォリューム感が良いのかもしれないけど、
色々とゴミゴミしたエピソードを詰め込んでいるせいか、一回観ただけで全体を把握するのは難しいかもしれない。
なので、僕はもう少し大胆に脚色して、省く部分は省いて構成した方が映画として引き締まったと思うんですよねぇ。

こういう言い方するのは申し訳ないんだけど・・・
こうやって無理に詰め込んで、必要以上に冗長な映画にするのはシドニー・ポラックの悪いクセに感じてしまう。

個人的には、エイヴァリー役のジ−ン・ハックマンがクセ者感満開で(笑)、見事な助演ぶりで嬉しかった。
悪どい弁護士事務所で長く働きながらも、実は事務所の経営がどうとかはあまり興味が無いようで
ただただケイマン島への出張を楽しみにしている。理由は大好きな女遊びに興じて、好き放題できるから(笑)。
そんなキャラクターだからこそ、映画の終盤ではミッチの妻アビーを口説き始めるという暴挙にでます(笑)。

まるでエイヴァリーなりの人生の大きな賭けであるかのようにアビーを口説こうとする爺の哀しい性(さが)、
そしてミッチの裏切りへの怒りもありながらも、ミッチが追い込まれた窮地を何とかしてあげたいという気持ちが
混在する中でエイヴァリーに接近するアビー。地味に危険な駆け引きをしようとする2人は、終盤のハイライトの一つ。

欲を言えば、ジーン・ハックマンとトム・クルーズはもっと直接的に対決するようなシーンが欲しかったところ。

この弁護士事務所は自宅や電話を盗聴するということで、ミッチの行動や発言を監視し続けるという、
手の込んだ工作活動をしてまで、ミッチをコントロールしようとしますが、具体的に何をやらせようとしていたのかは
ハッキリと描かれません。ただ、ミッチは過剰に時間報酬をクライアントに請求していることを証拠として掴み、
更に郵便詐欺を1通1通全て累積して告発しようという発想は面白い。これが、ミッチの賢さなのかな?(笑)

まぁ、日本円に直して初任給で1000万円超えの年収を約束されている給与条件で、
家もそれなりの一軒家を与えられ、車も“支給”される。ハーバードのロースクールを首席で卒業したとは言え、
これは確かに社会人一年目の契約として破格の条件であり、貧乏生活からの脱却を目指している人であれば、
この条件は一発サインしてしまうほど良い条件だろう。しかし、世間一般で言う、「甘い話しには裏がある」というやつ。

妻のアビーは弁護士事務所の「夫婦共働きが“許可”されている」とか、「出産することを“推奨”している」とか、
事務所側が使っている言葉に、どこか違和感があった。その不審性をミッチに伝えますが、ミッチは聞き入れません。
結局、ミッチは優秀な人間であっても、物事の“裏”までを見抜く力は無かったということだったのかもしれません。

興味深いことに、ミッチが就職した弁護士事務所は表向きは破格の条件で福利厚生も手厚くし、
事務所内のチームワークや一体感を意識させるような歓待を行って、如何にも従業員ファーストで還元するような
雰囲気を出して、それを事務所のキャッチコピーにしているような経営をしていることだ。少しだけ日本流にも見える。
しかし、この映画からはまるでこういった経営の終焉を告げているようなニュアンスもあって、肯定的には描いていない。

おそらく、違法行為スレスレのようなことをやって、収益を上げる法律事務所もあったとは思うのですが、
ここまでバブリーに振舞うことができて、異様なまでの組織力を発揮できたのは、バックにマフィアがいたからこそ。
やっぱり、「甘い話しには裏がある」ということです。だが、これくらいのカラクリなら事前に噂がありそうなものだが・・・。

アメリカでは本作で描かれたミッチの10年後を描いたTVドラマが製作されたくらいなので、
やはりこのジョン・グリシャムの原作は人気があるのでしょうね。90年代のハリウッドでは本作をはじめとして、
数多くの彼の原作小説が映画化されていましたので、映画向きの題材も多かったということなのでしょうね。

まぁ、それなりに終盤には見せ場のある映画だとは思うので、そこそこオススメできるが
意外に法律用語が飛び交う内容というわけでもないので、リーガル・サスペンスとしてはかなり物足りないだろう。
単にロースクール出身の若者がハマった落とし穴を描いたというだけなので、あまりその路線は期待しない方が良い。

こういったところが、どこまで原作のファンが許容できるのかも含めて、賛否は分かれるところだろう。

(上映時間154分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 シドニー・ポラック
製作 シドニー・ポラック
   スコット・ルーディン
   ジョン・デービス
原作 ジョン・グリシャム
脚本 ロバート・タウン
   デビッド・レイフィール
   デビッド・レーブ
撮影 ジョン・シール
編集 フレデリック・スタインカンプ
   ウィリアム・スタインカンプ
音楽 デイブ・グルージン
出演 トム・クルーズ
   ジーン・トリプルホーン
   ジーン・ハックマン
   エド・ハリス
   ホリー・ハンター
   デビッド・ストラザーン
   ハル・ホルブルック
   ウィルフォード・ブリムリー
   ゲーリー・ビジー
   カリーナ・ロンバード
   ポール・ソルビーノ
   ジョー・ヴィテレッリ

1993年度アカデミー助演女優賞(ホリー・ハンター) ノミネート
1993年度アカデミー作曲賞(デイブ・グルージン) ノミネート