ファイナル・カウントダウン(1980年アメリカ)
The Final Countdown
アメリカの原子力空母ミニッツ号が真珠湾攻撃の時代にタイムスリップしたら・・・という、
仮定のもとに描かれた、少々チープながらも名優カーク・ダグラス主演で映画化したSFアドベンチャー。
少々、大雑把な映画ではありますが...これはこれで面白いと思います。
歴史を描いた映画としても、戦争を描いた映画としても、タイムスリップを描いた映画としても中途半端な部分はある。
しかし、このスケールで第二次世界大戦を下地にした物語にタイムスリップを持ち込んじゃうあたりが、なんともスゴい。
映画は悪天候に見舞われた原子力空母ミニッツ号が、時空を超えたタイムスリップをしてしまい、
気付けば1941年の日本軍による真珠湾攻撃の前日にいることに気付いて、空母の乗員たちが歴史を
変えることに躊躇しつつも、苦悩する姿を描いています。そこに日本軍の“ゼロ戦”に襲撃された当時の政治家を助け、
より複雑な事情を抱え込んでしまい、更に捕虜にした日本軍兵士に銃を奪われ、トラブルになってしまう姿を描きます。
当時の製作費2000万ドルということなんで、当時としてはかなりの予算を要した作品でした。
おそらく戦闘機のシーンにほとんどを費やしたのではないかと思いますが、この発想はスゴい作品だなぁと思います。
そもそもが真珠湾攻撃の時期にタイムスリップするという発想自体がなかなか思い付かないので、
しかもそれをストレートに映画化したこともスゴいなぁと思うのですが、このミニッツ号の船長を演じたのが、
当時は既にハリウッドの重鎮スターであったカーク・ダグラスというのが、またチャレンジングな企画で面白いですね。
そこに立ち位置的に微妙ではありましたが、ミニッツ号に派遣された民間企業職員にマーチン・シーンというのも絶妙。
(それにしても、本作のマーチン・シーンは息子のチャーリー・シーンにソックリで驚かされる・・・)
よくよく考えたら、変な部分が目立つ映画ではあるんですよ。
映画のポイントとなるタイムスリップにしても、真珠湾攻撃の前日にタイムスリップしたという現象自体を
受け入れるにしても、普通に考えたら結構なことだと思うんですが、アッサリと全員が受け入れるというのも不自然。
そもそもタイムスリップしましたよと言われても、なかなか理解できないだろうし、パニックにもなるだろう。
そこを実に冷静に受け止めようとするのが、なんとも不思議ではありますけど、ここまで堂々と描いてしまうと、
観ているこちら側も「ああそうなんだ、そういうものなんだねぇ〜」と受け流してしまう面はあるかもしれません。
それだけではなく、チャールズ・ダーニング演じる1941年当時の議員とキャサリン・ロス演じる女性も、
いくらヴァカンスで真珠湾付近を訪れているとは言え、随分と現代的なファッションでクルージングを楽しんでいて、
なんだか時代に合わないような雰囲気で、チグハグに見える。これらはどうしても、強い違和感を残すところでした。
しかも、捕虜にした日本兵にしても、明らかに日本人ではない片言の日本語で、なんだか変だし(苦笑)。
こういうところが気になって仕方がない人には、正直言って本作は向かないと思うので、オススメできません。
それと、映画のクライマックスにしてもどうして置いて行かれた人が、どうやって生き延びることができたのか、
何一つ描かれも、語られもしないというのは、良くも悪くもハリウッドのご都合主義と言えるのかもしれない。
そもそもは重要任務にあたるマーチン・シーン演じる男も、指示を出している経営者と会ったことがなければ、
顔すら知らないというのも、なんだか変な話だし、細かいところにツッコミを入れていたらキリがない感じですね。
70年代のカルトSF映画のブームに乗れる時期に製作されていれば、もっと根強い人気を誇れたのでしょうが、
いかんせん本作は作られるのが遅過ぎましたね。80年代に入ってから、この内容ではさすがにキツかったでしょう。
映像表現としても、もっと先を行った映画は登場してましたし、特にタイムスリップの描写はここまでいくと安っぽい。
個人的には、もっとタイム・パラドックスに絡んだストーリー展開を期待したいところでしたね。
せっかくSF映画にシフトしたので、もっとタイム・パラドックスの面白さ・複雑さを表現できたと思うのですが、
思いのほか本作の登場するミニッツ号の乗組員たちは、任務を遂行することよりも歴史を変えることを恐れていて、
一人もイケイケ・ドンドンなキャラクターの乗組員がいないものだから、人間同士のせめぎ合いが無いのが寂しい。
これでは、映画がなかなか盛り上がらないですよね。ですので、僕が面白いと思ったのは、あくまで物語の骨格です。
とても常識的な判断をするクルーたちなので、そこは好感が持てるのですが、
個人的にはもっと映画をかき乱すキャラクターが描かれていて、しっかり波乱があった方が良かったと思うんだよなぁ。
映画の着想点はユニークで面白いだけに、ドラマがあまりに平坦な感じで描かれているのがあまりに勿体ない。
監督のドン・テイラーは、正直、あまり知らないディレクターでしたけど、もともとは俳優出身の人で
晩年は78年に『オーメン2/ダミアン』を撮った人。残念ながら本作が遺作となってしまったようですね。
71年には『新・猿の惑星』を監督したりと、70年代のカルトSF映画ブームに乗っかっていた人なのかもしれません。
その中で本作は正攻法で撮ったSF映画なのかもしれません。映画に漂う、世紀末感もかなり薄いですしね。
どこまで実際に参考にしたのかは分かりませんが、本作は79年の日本映画『戦国自衛隊』と共通しているようだ。
とは言え、本作はあくまでオリジナル・ストーリーとのことですので、決してハリウッド版リメークというわけではない。
そういう意味で本作の大きな特徴は、やはり当時の最新鋭であった原子力空母ミニッツ号を
大々的に取り上げて、SF映画として成立させるのですから、とっても斬新ななかなか無いタイプの映画ですよね。
実際にミニッツ号で撮影されていて、任務で外洋に出ていた際も本作のスタッフは、とても大変だったようです。
ひょっとしたら本作の製作費って、実際のミニッツ号を使って撮影することに費やされていたのかもしれませんね。
なんせ、映画の前半とかは空母に着地したり、離陸したりするシーンをやたらと強調するように挿し込んでいますし。
本作の感想でよく言われているように、戦争を題材にした映画なのに戦闘シーンが少ないのは、
かなり物足りなさを感じる要因でしょう。真珠湾攻撃を真正面から描くというのはタブーだったのかもしれないけど、
これだけ米軍の協力を得られて、スケールをデカくして撮れる作品だっただけに、その割りに“小さく”見えてしまう。
それから、映画の序盤で会社の経営者が余計な茶々を入れたせいでミニッツ号の出航が2日遅れたことを
カーク・ダグラス演じる艦長が怒っていて、マーチン・シーン演じるその企業の職員に嫌味を言うシーンもありますけど、
これを見て、てっきりこの2人が対立するのかと思いきや、これもまったく映画の中盤以降で生かされず意味が無い。
こういうシーンを見ていると、結果として会話劇が主体の映画になっているのに、ドラマは全体に雑なんですよね。
たぶん、ドン・テイラーは悪い仕事をしたという評価にはなっていないと思うんだけど、
それはそれとしても、他のディレクターが撮っていたら、もっとポイントを押さえた良い映画になっていたのでは?と
思えてしまう作品になってしまっていて、なんだか勿体ない。なので、誰かがリメークしないかなぁと期待しちゃう(笑)。
どうでもいい話しかもしれませんが、本作のカーク・ダグラスは息子のマイケル・ダグラスとソックリですね。
(いや、違うか。マイケル・ダグラスが父親のカーク・ダグラスに似てきたのか・・・)
本作はカーク・ダグラスとマーチン・シーンが仲が良いのか悪いのかよく分からない関係性で共演しますが、
一方で息子のマイケル・ダグラスは本作の7年後である、87年に『ウォール街』で大富豪のゲッコーを演じて、
若き証券マンを利用していましたが、この若き証券マンにマーチン・シーンの息子チャーリー・シーンが演じ、
マーチン・シーン自身も『ウォール街』に出演して、ゲッコーを牽制する役柄でしたから、それ以前にこういう共演が
あったと思うと、なんとも本作のラストでカーク・ダグラスとマーチン・シーンが笑顔で握手する姿が因縁を感じさせる。
この映画で描かれたマーチン・シーン演じる企業の担当社員が垣間見たものを描いたわけですが、
本来であれば、米軍側から見ると悲劇として語られる真珠湾攻撃を事前に食い止めるか否かが焦点なのでしょうけど、
でも、見方を変えると、ミニッツを何故作ることになったのかを寓話的に語ることに焦点を当てた作品なのかもしれない。
そう考えると、米軍のプロパガンダのようにも感じられるのですが、
題材は真珠湾攻撃じゃなくてもいいことで、原子力空母ミニッツ号の宣伝映画だったのかなと邪推もしてしまいますね。
映画の出来自体は、そこまで悪いわけでもありませんが、特筆するものがあるわけでもありません。
前述したように70年代のカルトSF好きな人にはいいかもしれませんが、戦争映画好きな人には物足りないだろうし、
王道を行くSF映画が好きな人にも向かない作品のような気がします。というわけで、ニッチな映画という印象です。
ところで、具体的にどこがどう“ファイナル・カウントダウン”をしていたのだろうか・・・?
(上映時間102分)
私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点
監督 ドン・テイラー
製作 ピーター・ビンセント・ダグラス
脚本 デビッド・アンブローズ
ジュリー・デービス
トーマス・ハンター
ピーター・パウエル
撮影 ビクター・J・ケンパー
編集 ロバート・K・ランバート
音楽 ジョン・スコット
アラン・ハワース
出演 カーク・ダグラス
マーチン・シーン
ジェームズ・ファレンティノ
キャサリン・ロス
チャールズ・ダーニング
ロン・オニール
スーン=テック・オー