フィフス・エレメント(1997年フランス・アメリカ合作)

The Fifth Element

『ニキータ』、『レオン』と立て続けに世界的な大ヒット作を手掛けた、
フランス映画界きっての映像作家であったリュック・ベッソンが満を持して、ハリウッドの協力を得ながら撮影した、
新感覚のSF映画で、日本でも劇場公開当時、大きく話題になっていたことを今でも強く覚えています。

今になって思えば、ブルース・ウィリスとミラ・ジョボビッチのコンビというのも、
どこかアンバランスな感じもあるのですが、当時、ミラ・ジョボビッチはリュック・ベッソンと交際してましたからね。
やはり本編を観れば分かるのですが、作り手が如何に彼女を輝かせようとしているかが伝える内容になっている。

当時のリュック・ベッソンの狙いが当たり、ミラ・ジョボビッチは見事、
ハリウッド女優として大成するのですが、残念ながら彼らは本作のすぐ後に破局してしまいます(苦笑)。

結局、「愛が地球を救う」みたいな発想なのが玉に瑕ですが、
それでも当時は、このリュック・ベッソンの世界観を表現した、圧倒的な映像表現に驚かされたもので、
ハリウッドのプロダクションで作られた、他の幾多のSF映画と比較すると、かなり個性的な内容です。
やたらと騒がしいクリス・タッカーのような存在など、リュック・ベッソンならではの感覚と言えます。

ですから、普通のSF映画とは何かが違います。
どこかPOPでキッチュな世界観で、どちらかと言えば、85年の『未来世紀ブラジル』に近い感覚です。

空飛ぶ車が行き交う光景、妙なデザインが横行する家具類など、
独特な近未来のイメージだと思うのですが、リュック・ベッソンの個性が炸裂していますね。
そういう意味では、ゲイリー・オールドマンが演じた悪役キャラクターも秀逸で、愛すべきキャラクターだ。

今尚、この映画でのゲイリー・オールドマンの異彩を放った存在感のファンであるという話しは、よく聞きます。

それだけコアなファンを集めた、ある意味でカルトな映画なのかもしれませんが、
やはり何度観ても圧倒的なのは、独特な空間の表現、そして如何にも近未来を意識した色彩感覚だろう。
この辺はおそらくリュック・ベッソン自身もこだわりを持った部分だと思うし、かなり個性的なものです。

ただ、敢えて言わせてもらおう。僕はこの映画、もっと面白くできたと思う。

勿論、独特な映像表現などは素晴らしいと思うし、近未来を上手くデザインできていることに感心する。
特に宇宙に飛び出してからの描写などは、一見すると雑になりがちな部分ではあるのだけれども、
本作でのリュック・ベッソンは決して投げやりになることはなく、丁寧に描こうとする意志は感じられます。
ただ、僕にはどうしても魅力的なフィルムに映らない。これなら、『未来世紀ブラジル』の方も好感が持てる。

単に映画の好みの問題なのかもしれませんが、
リュック・ベッソンならもっとエキサイティングな映画にできたであろうし、どこかバランスが悪い。

映画の終盤に宇宙にある、ユートピア的なリゾート施設内でブルース・ウィリスが
『ダイ・ハード』ばりの銃撃戦を演じているシーンが最も強いインパクトがあるのですが、
確かにこのシーンは見応えがあったけれども、それ以外にスリルを煽るようなシーンが皆無だったのが残念。
どうせなら、ミラ・ジョボビッチ演じるリールーが天井に逃げ込むシーンにしても、もっと長く“引っ張って”欲しかったし、
ゲイリー・オールドマン演じる悪役の執拗さ、狂気を表現するためにも、もっと緊張感を出して欲しかった。

この辺は、ひょっとするとリュック・ベッソンはあくまでPOPに描きたかったのかもしれないけど、
せっかくリールーが最初に主人公のタクシーに“落下”してしまって、警察組織から逃げ回るチェイス・シーンの
出来が悪くなかっただけに、このシーンでのスピード感のまま最後まで突っ走って欲しかったし、
このスピードが落ちてしまった感覚が、映画の中で緩急がついていると言うより、失速してしまったという
感想の方が適切な気がして、映画全体としてはどこかバランスが悪いという印象が残ってしまったんですよね。

十分に楽しめる内容だとは思うし、今尚、多くの方々に愛されている作品なだけに、これは勿体ない。

映画の中では、やたらと喋るクリス・タッカーのような脇役キャラクターも個性的で引き立つ。
これはこれでリュック・ベッソンの趣味的な側面がよく出ているというか、やりたい放題な感じですが(笑)、
お姉キャラのように終盤の銃撃戦でも、とにかくうるさい(笑)。これは賛否両論でしょうが、僕個人としては、
こういうキャラクターこそが、映画のキッチュなイメージに貢献しているので許容してあげて欲しい。

おそらくリュック・ベッソンの狙い通りの芝居なのだろうと思います。

SF映画が好きな人というよりは、リュック・ベッソンのアート感覚が好きな人にはオススメしたいと思います。
SF映画としての醍醐味はTVシリーズ『スター・トレック』へのオマージュと解釈できる部分があるぐらいで、
正直言って、古くからの言い伝えという重要なファクターも、あまり上手く使えていないので魅力には欠ける。

本作はカンヌ国際映画祭でオープニング作品に選ばれたり、
劇場公開当時のこともよく覚えていますが、日本でも大きな話題となっていた作品だった記憶がありますが、
どうやらリュック・ベッソンも本作の製作にあたっては不完全燃焼だったらしく、まだSF映画にチャレンジしたいそうだ。
おそらく、これは映画の内容というよりも、あくまで技術的な問題で彼のヴィジョンはもっと先にあったということでしょう。

どうやら本作の脚本は、リュック・ベッソンが10代の頃に書き始めた内容だとのことで、
ひょっとしたら技術革新の中で、更に表現が可能になったことが多くあるだけに、リュック・ベッソンのイメージも
更に大きく広がり、彼が描きたいヴィジョンが先へと進んでいったからこそ、製作意欲が沸いているのかもしれません。

個人的には本作はもっと上手く描けたであろうと思えるだけに、
次のリュック・ベッソンが手掛けるSF映画には、期待したいと思いますね。

(上映時間126分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 リュック・ベッソン
製作 パトリス・ルドゥー
脚本 リュック・ベッソン
    ロバート・マーク・ケイメン
撮影 ティエリー・アルボガスト
美術 ダン・ヴェイル
衣裳 ジャン=ポール・ゴルチェ
編集 シルヴィ・ランドラ
音楽 エリック・セラ
出演 ブルース・ウィリス
    ミラ・ジョボビッチ
    イアン・ホルム
    ゲイリー・オールドマン
    クリス・タッカー
    ルーク・ペリー
    ブライオン・ジェームズ
    タイニー・リスターJr
    マチュー・カソビッツ

1997年度アカデミー音響効果編集賞 ノミネート
1997年度イギリス・アカデミー賞特殊視覚効果賞 受賞
1997年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演女優賞(ミラ・ジョボビッチ) ノミネート
1997年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト新人賞(クリス・タッカー) ノミネート